国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十三章 黒と過去と

150 アーネストの焦り

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 アーネストは政務に関わる男たちのいる政務宮の政務室でシャルスの横に座って、シャルスの仕事を手伝っていた。

 サインはシャルスがしなくてはならないが、決定していて御璽を押すだけのものはアーネストのマナでも代用できているからだ。ちなみに試してみたが、他の者では無理だったので、直系王族になせる技なのかと思っている。

 内務省と外務省、それからグレゴリーの諜報機関、並びに財政特殊監視官のチームからも集った彼らを見渡せるその席で、アーネストはシャルスと共に、レーダー公に組みした貴族の名前を次々告げられ、その不正が明らかになるに連れて怒りが込み上げてきた。

「アーネスト?」

「大丈夫です、父上」

 怒りのあまり手に口をあてて、その表情を隠した。

 法的措置について話し合われている中で、アーネストが封印されてから一気に浮き彫りになっていたが、実として産み直される前のアーネストの父王の時代から、レーダー公を中心とした不正、癒着、移譲が行われていたのだ。

 室内にはまだ幼年のアーネストに気圧された緊張感と、話し合いの最終確認か終わり、全てが終わると、シャルスが軽くため息を着いた。

「大丈夫ですか?アーネスト」

「あ、はい、大丈夫です。想像していたより、レーダー公爵様寄りの貴族が多くてびっくりしてしまいました」

「レーダー公はレガリア連邦王国を『一つの帝国』にしたいそうです。その王都をアリシアにして、皇帝として君臨することを目指していると……幼い頃聞かされていました」

 その幼い頃とはつまり、父であったアーネストが幽閉された頃だ。レーダー公がアーネストにも常々話していたレガリア統一だが、それは悪くない。だが、王弟でありアリシア王国の王位を継承出来なかった腹いせによるものだと思っていた。民草のことなど考えてはいない。だからこそ、新しい文化推奨を嫌がる。自分がトップに収まりたいだけなのだ。

「貴族の一斉取り締まりをするべきだろう。今から部屋に入れますぞ、陛下」

 グレゴリーの言葉に近衛隊長たちが入って来て、アーネストはグレゴリー含む軍服の話をソファに移動したシャルスと聞きながら、思い出した『過去』を考えていた。

 レーダー公の話より、こちらの方が個人的には重大だ。

 最近になって『黒マント』が浮上し、最愛のオーガスタ(今はノリン)が追跡しているというのだ。

 それは『レーダー公の屋敷から出てきた冒険者風の黒マント』であり、同時に過去『王宮に侵入した黒マント』である。

 王宮でそれを起こせる人間は後にも先にも『オーガスタのみ』であり、魔法でガチガチに固められている王宮にアーネストが穿った穴はアーネスト以上のマナを持つ者、そしてマナを固定し、オーガスタのための出入り口となっていた。

 その男は魔の森で行方不明になり、唯一の侵入者を許した王宮ーーその侵入者は魔法陣を塗布した黒いマントを目深に被り、子供部屋に現れた。気配はオーガスタなのに生命の息吹を感じられないでいた。

 『帰ったらキスを』を体現するべく幼いシャルスに伸ばした手を、アーネストは魔剣で切り落とした。

 魔剣ロータスは再生陣が発動した腕からマナを吸い取り、切り離された腕から『毒』が噴き出し、シャルスを守った第一近衛隊を襲った。次々とマナが枯渇して倒れていく真ん中で、シャルスが震えていた。

 なおも手を伸ばすその手を掴みそして引き寄せると、感情のない冷たいキスをアーネストの唇に被せてきた。オーガスタの唇から『毒』が体内に入り込み暴れて、アーネストの腹にあるカプセルに集約されたのを確かめてから、腹から出そうとした。

 それを泣きながら阻止した時、シャルスの首を切っ先が掠め、シャルスの目に映ったのは、きっとフードがずれたオーガスタの青白い顔。

 だから記憶を消した。

 大好きなオーガスタが襲ったなんて、シャルスには知られたくない。優しいオーガスタのまま、記憶にとどめてほしかった。

 しかしありがたいことに、シャルスは記憶を取り戻しても、侵入者の顔を覚えていなかった。

 毒を身体に持つオーガスタは行方不明のままだ。ノリンと会わせてしまえば、どうなるのか想像もつかなたったが、腕の再生陣を瓦解したということは、ノリンにマナの優先権があるということだ。

 そもそも、『オーガスタ』の肉体は何故動いている?マナもオドも抜けた抜け殻はどこにある?

 多分、魔法省とレーダー公の支配下であろう。オーガスタが生きている?いや、そんなはずはない。

 オーガスタはノリンだ。オドもマナもその通りだし、なによりも薄くはなったが、王族直系にだけ現れる獣族特有の『俺の番い』だ。そそられ沸き立ち抱き潰してしまいたい本能が勝つ。マナの交換が出来るのは後にも先にもオーガスタでありノリンだけなのだから。

 グレゴリーたちの話の中では、カモンの話も出ていた。カモンはレーダー公に組みしているのかどうなのか。

「カモン・レーダーは何も考えてはいないだろうさ」

 その小さな呟きを誰も聞くことはない。アーネストは子供らしくないため息をついた。それを疲れと勘違いされて、シャルスに休憩を命じられて部屋を出ると、ノリンの気配が再び王宮から消える。

「ーーまたか!一人で突っ込んでいくな!メイド、案内しろ」

 黒マントを追いかけているはずのノリン、そのメイドに命令すると、

「マスターのところにご案内しますね」

と影に取り込まれた。

            

 
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