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二十二章 黒ローブの謎
149 黒を追う
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「ノリン、私との実を望んでください」
「うん。神に願うよ」
週に一度の閨事は、今はシャルスにだけ許された奥を暴かれ、強烈な気持ちよさが続いていく交わりで、僕は乱れて悶えながらシャルスの背にしがみつく。
絶頂の波が揺らぎ弛緩していく中で、シャルスの背中がまた細くなってきたなあと思うが僕はそれを言わない。
シャルスは事後のお風呂より、僕と二人で話すことを好むようになった。
この間の僕の誕生日には二人きりで部屋で過ごし、なんとフェンリルのスパイスの効いた煮込みをアズールが用意してくれ、僕たちは食べて身体があったまったからか、食後にそんな気分になり、明るい光の中で抱き合った。
フェンリルの肉に催淫効果なんかあるのかな、なんて話していたら、晩餐も魔石焼きをしたフェンリル肉の薄切りステーキで、二人で笑ってしまった。そう、僕の誕生日はほとんどベッドの中って感じで、でも、幸せだと感じてしまう。
アーネストといえば、シャルスの取り巻き秘書たちと一緒にシャルスの仕事の代行?をして過ごしたらしい。この日ばかりは、僕に会いたいなんてわがままを言わなかったとレーンが話していたが、アーネストも中身おっさんだからな。いつもが変なんだよ。
「ノリン?」
シャルスとベッドの柔らかさに包まれて伸びをすると、シャルスが少し疲れた顔をして微笑んでくる。メイザースの口調だと、誕生日は越えられるそうだが、長くはないとのことだった。
王族は平民やマナを抑え込まれた母様と平民の子供の僕とは違う。早熟成人し長く長く治世をし平和を維持していくのだが……。悲しい顔をしてはダメだ。大好きなシャルスが気づかせないようにしているのに。
「ノリン、私の誕生日までに実を孕むといいのですが……」
「シャルスの誕生日?うーん、どうだろうね。シャルス、きっと大丈夫だよ。気晴らしにツェッペリン領にくればよかったのに。ポートがあるから、王宮からでも直接行けたよ」
僕の誕生日から数日、僕はアーネストを連れて『里帰り』をした。もちろんアーネストにせがまれてツェッペリン領に出来た鉄道の駅や街、それから獣族含むガルドバルド大陸の商人たちにも会った。護衛としてついてきていたザクセンとルーザーはいたく感動して、巨人族と友情すら結んでいた。
「そうですね。でも、気を遣わせてしまうかもしれませんし」
まあ確かに、母様のアーネスト可愛がりはヤバかったし、アーネストは分かっていてセーラー服なんか着ていて、母様は僕にもセーラー服をオーダーしたほどだ。
次に会う時は着る羽目になるぞ。レーンが採寸なしに仕立て始めていたしな。
「それにちょうど政務室のデバイス化の真っ最中に出かけるのはどうかと思いまして」
あ、うん、そうなんだよな。
巨大なデバイスは精霊石と魔石の融合魔法の賜物で、演算して可能性まで導き出すものだ。ジーンの言う『こんぴゅーた』というものらしいが、王宮では『コアデバイス』と呼び、手元にある板状のものを『デバイス』と呼び分けている。
遠目遠耳の陣を組み込んだ小型デバイスは、通話やその場を写すことが出来て便利だが、発動にマナを少しばかり使うので、シャルスは使わない。だから、僕も使っていない。多分、アーネストは使いたいだろうけれど、やはり持ち込んではいない。
僕らは取り止めのない話をしながら、眠りにつく。シャルスの規則正しい寝息に、寝癖になりそうなくらい枕に半分顔を埋めている姿が月明かりが照らしていて、安心する。そんな週末がひどく愛おしいのだ。
しばらくは平穏だったが、その日の午後はいつもと違っていた。
「マスター、こちらを」
「え、透け透けじゃない?肩のところ」
「シースルーと言うそうです」
アズールが持ってきた透け感のあるセーラー服を戸惑いながら試着していると、シーカーが捉えた通路に黒マントが現れ、奴が身を隠すように歩きだしてすぐ僕は
「転移陣、発動」
と部屋から飛んだ。アズールが僕の影に咄嗟に入り、レーンに連絡をしていた。レーンのいる場所は政務室。アーネストはシャルスの政務室にいるし、どうしてかすごく気になったのだ。
場所はやはりレーダー公の屋敷の近くで、黒いローブがふわりと揺れたのを僕は見逃したりはしなかった。
おいおい、貴族街に冒険者ローブとか目立ちすぎだ。
蘇った記憶にも鮮明な魔法陣塗布の冒険者ローブは、間違いなくオーガスタのローブ中身は実体もあるわけで……?
え、僕は何だ?
オーガスタじゃないのか?
待て待て、そんなはずは。
では、盗まれたのか?それ、結構高い……
そんな事を考えている余裕はすぐになくなった。黒ローブが移動を始め、細かい思考は頭から飛んでしまい、とりあえず追って走り出していた。
影の中からアズールが
「追跡陣を使われたら?」
と囁いたが、焦りの中で僕は街角の突き当たりを素早く曲がり、ローブ姿の奴の前に出たと思ったら忽然と消えるのに息を吐く。
「ーー畜生っ!」
「ですから追跡陣を使った方がと申しました、マスター」
その声を聞いて僕は、影から現れたアズールへ振り返った。
細身の長身のバトラーは、
「本当に昔と変わらず抜けていて」
と若い頃の王様アーネスト似の顔で赤髪を払った。
「うるさい、王宮から初めて出たんだ。調子も狂う」
「マスター時代、ここいらは『庭』みたいなものでしたよね?」
「当たり前だ……あ、そうか!ここなら……」
僕はアーネストから巻き上げた地図の存在を思い出した。それを広げるとマナを流す。すると意中の人物がマントに塗布した陣を使い、気配を消して移動しているのに気づく。
少し冷静になれば追跡なんて簡単なものだ。
「マスターが宰相閣下と一緒に入っていた酒場に入りましたが、どうしますか」
路地裏でざっと地図を見ていた僕とアズールは、点滅する光を見ている。
「奴のマナは理解した。次は追い詰める。――時間切れだ」
追い回したが、意外にも時間が掛かっていたようだ。それに透け感のあるセーラー服は悪目立ちする。僕は地図をしまうとため息を付いた。
「マスター?」
アズールが心配そうに呟くのを聞きながら、僕は路地裏の焼きレンガの敷き詰められた道路を見つめた。マナに覚えがある。
「……アズール、『黒マント』は誰だ?」
アズールは何も言わずに口端に笑いを貼り付けるだけだった。
「うん。神に願うよ」
週に一度の閨事は、今はシャルスにだけ許された奥を暴かれ、強烈な気持ちよさが続いていく交わりで、僕は乱れて悶えながらシャルスの背にしがみつく。
絶頂の波が揺らぎ弛緩していく中で、シャルスの背中がまた細くなってきたなあと思うが僕はそれを言わない。
シャルスは事後のお風呂より、僕と二人で話すことを好むようになった。
この間の僕の誕生日には二人きりで部屋で過ごし、なんとフェンリルのスパイスの効いた煮込みをアズールが用意してくれ、僕たちは食べて身体があったまったからか、食後にそんな気分になり、明るい光の中で抱き合った。
フェンリルの肉に催淫効果なんかあるのかな、なんて話していたら、晩餐も魔石焼きをしたフェンリル肉の薄切りステーキで、二人で笑ってしまった。そう、僕の誕生日はほとんどベッドの中って感じで、でも、幸せだと感じてしまう。
アーネストといえば、シャルスの取り巻き秘書たちと一緒にシャルスの仕事の代行?をして過ごしたらしい。この日ばかりは、僕に会いたいなんてわがままを言わなかったとレーンが話していたが、アーネストも中身おっさんだからな。いつもが変なんだよ。
「ノリン?」
シャルスとベッドの柔らかさに包まれて伸びをすると、シャルスが少し疲れた顔をして微笑んでくる。メイザースの口調だと、誕生日は越えられるそうだが、長くはないとのことだった。
王族は平民やマナを抑え込まれた母様と平民の子供の僕とは違う。早熟成人し長く長く治世をし平和を維持していくのだが……。悲しい顔をしてはダメだ。大好きなシャルスが気づかせないようにしているのに。
「ノリン、私の誕生日までに実を孕むといいのですが……」
「シャルスの誕生日?うーん、どうだろうね。シャルス、きっと大丈夫だよ。気晴らしにツェッペリン領にくればよかったのに。ポートがあるから、王宮からでも直接行けたよ」
僕の誕生日から数日、僕はアーネストを連れて『里帰り』をした。もちろんアーネストにせがまれてツェッペリン領に出来た鉄道の駅や街、それから獣族含むガルドバルド大陸の商人たちにも会った。護衛としてついてきていたザクセンとルーザーはいたく感動して、巨人族と友情すら結んでいた。
「そうですね。でも、気を遣わせてしまうかもしれませんし」
まあ確かに、母様のアーネスト可愛がりはヤバかったし、アーネストは分かっていてセーラー服なんか着ていて、母様は僕にもセーラー服をオーダーしたほどだ。
次に会う時は着る羽目になるぞ。レーンが採寸なしに仕立て始めていたしな。
「それにちょうど政務室のデバイス化の真っ最中に出かけるのはどうかと思いまして」
あ、うん、そうなんだよな。
巨大なデバイスは精霊石と魔石の融合魔法の賜物で、演算して可能性まで導き出すものだ。ジーンの言う『こんぴゅーた』というものらしいが、王宮では『コアデバイス』と呼び、手元にある板状のものを『デバイス』と呼び分けている。
遠目遠耳の陣を組み込んだ小型デバイスは、通話やその場を写すことが出来て便利だが、発動にマナを少しばかり使うので、シャルスは使わない。だから、僕も使っていない。多分、アーネストは使いたいだろうけれど、やはり持ち込んではいない。
僕らは取り止めのない話をしながら、眠りにつく。シャルスの規則正しい寝息に、寝癖になりそうなくらい枕に半分顔を埋めている姿が月明かりが照らしていて、安心する。そんな週末がひどく愛おしいのだ。
しばらくは平穏だったが、その日の午後はいつもと違っていた。
「マスター、こちらを」
「え、透け透けじゃない?肩のところ」
「シースルーと言うそうです」
アズールが持ってきた透け感のあるセーラー服を戸惑いながら試着していると、シーカーが捉えた通路に黒マントが現れ、奴が身を隠すように歩きだしてすぐ僕は
「転移陣、発動」
と部屋から飛んだ。アズールが僕の影に咄嗟に入り、レーンに連絡をしていた。レーンのいる場所は政務室。アーネストはシャルスの政務室にいるし、どうしてかすごく気になったのだ。
場所はやはりレーダー公の屋敷の近くで、黒いローブがふわりと揺れたのを僕は見逃したりはしなかった。
おいおい、貴族街に冒険者ローブとか目立ちすぎだ。
蘇った記憶にも鮮明な魔法陣塗布の冒険者ローブは、間違いなくオーガスタのローブ中身は実体もあるわけで……?
え、僕は何だ?
オーガスタじゃないのか?
待て待て、そんなはずは。
では、盗まれたのか?それ、結構高い……
そんな事を考えている余裕はすぐになくなった。黒ローブが移動を始め、細かい思考は頭から飛んでしまい、とりあえず追って走り出していた。
影の中からアズールが
「追跡陣を使われたら?」
と囁いたが、焦りの中で僕は街角の突き当たりを素早く曲がり、ローブ姿の奴の前に出たと思ったら忽然と消えるのに息を吐く。
「ーー畜生っ!」
「ですから追跡陣を使った方がと申しました、マスター」
その声を聞いて僕は、影から現れたアズールへ振り返った。
細身の長身のバトラーは、
「本当に昔と変わらず抜けていて」
と若い頃の王様アーネスト似の顔で赤髪を払った。
「うるさい、王宮から初めて出たんだ。調子も狂う」
「マスター時代、ここいらは『庭』みたいなものでしたよね?」
「当たり前だ……あ、そうか!ここなら……」
僕はアーネストから巻き上げた地図の存在を思い出した。それを広げるとマナを流す。すると意中の人物がマントに塗布した陣を使い、気配を消して移動しているのに気づく。
少し冷静になれば追跡なんて簡単なものだ。
「マスターが宰相閣下と一緒に入っていた酒場に入りましたが、どうしますか」
路地裏でざっと地図を見ていた僕とアズールは、点滅する光を見ている。
「奴のマナは理解した。次は追い詰める。――時間切れだ」
追い回したが、意外にも時間が掛かっていたようだ。それに透け感のあるセーラー服は悪目立ちする。僕は地図をしまうとため息を付いた。
「マスター?」
アズールが心配そうに呟くのを聞きながら、僕は路地裏の焼きレンガの敷き詰められた道路を見つめた。マナに覚えがある。
「……アズール、『黒マント』は誰だ?」
アズールは何も言わずに口端に笑いを貼り付けるだけだった。
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