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二十二章 黒ローブの謎
148 息子で父で
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最初から分かっていた。自分が死んで切り離されてしまえば、シャルスの老化が加速することは。腹実として生まれたシャルスは、王族のマナと平凡な貴族のオドを持ち合わせるバランスの悪さから器が脆い。小さなうちはよかったがよく熱を出す子供になった。
グレゴリウスが宰相に就いたのは、前王アーネストのーー自分自身だがーーアーネストの愚行の後、宰相以下多くの者が『毒』による親族の死にあったからだ。アーネストのせいではないが、王宮に入る『穴』をわざと開けたのがアーネスト自身だから、弁明はしなかった。
そのグレゴリウスも友や子を失っていたにも関わらず、それを一通り聞かされた後
「宰相として働こうではないか」
と、自分自身で剣を置き、シャルスのいる子供部屋で宣言した。そのグレゴリウスとシャルスの秘書のような数人が雑談しながら、仕事をこなしていた。
アーネストはシャルスの膝の上で数年前は眺めていた書類を見つめている。
先程、オーガスタ改めノリンの兄アッシュ・ツェッペリンの来訪を受けた。ようやく国庫の採算と、不正のあった貴族の一覧を提出にきた。
アッシュは自らの足で各領地を周り、取れ高を村人から話を聞くなりして計算し、貴族が不作だと話して貯蓄し売りに出していることを突き止めていた。
グレゴリウスは
「それは確かか?」
と慌てた顔をしていたが、アッシュの提出した書類を見て青ざめると、アッシュを伴い内政省に向かってしまった。
とことん地味な男だなと見上げていると、はにかむように笑った表情だけ何故がノリンに似ていて、少し切なくなった。それをシャルスに気づかれて、
「母上のところに帰りますか?」
と言われてしまい、
「大丈夫です。お役に立てます」
と気を引き締める。
「父上、文字が違います」
羊皮紙と植物紙とでは、内容の重さが違う。羊皮紙のスペルミスを見つけて、思わず口にした。
「よく気付きましたね」
頭を撫でられて子供らしく肩をすくめる。その手はかさついていて、見上げたひょろりと高いだけの上背に痩せた身体には張りがない。王族は実を捥いでからすぐに成年に近い姿になっていく。国を治めるものがいつまでも幼いのは許されないのだろう。
平民とは違う急速な成長を遂げた後は、老化は死の直前にまた一気に訪れる。アーネストも見た目はさほど変わらなかったが、シャルスにマナを受け渡し続け、オドすらも変換して渡していたからか、身体は飢えた感じがし続けていた。
神から選ばれた王族は、神に近い存在だという。統治、繁栄、促進と人を導かなくてはならない。アーネストはそれを怠ったわけではないが、恋に溺れ隙を作ってしまった。そして剣の切っ先が掠め、ただでさえ身体の拮抗の脆いシャルスは更に衰えていく。
「アーネスト、ラメタル王国やパールバルト王国では手書きではなく、デバイスに打ち込み文字化して複写する物があるそうです。友のセネカが話してくれました。省に導入できれば手書きのミスなど減ると思うのですが」
「父上、神に関わることは捧げ物として羊皮紙とマナ文字やマナ印がいると思うのです。でも、そのほかは植物紙で大丈夫でしょう?思い切って、国庫に余裕があるうちにデバイスを入れましょう」
シャルスが嬉しそうに笑いながら、
「アーネストは父上の性質をよく引き継いでいますね。新しいものを積極的に受け入れ、市政を知り、平民の友を作り……そうそう、魔の森の冒険者だった頃もあるのですよ。私も魔の森が見たかったです」
と言って空咳をした。
どうやら体内から老化が始まっていたようで、見た目がはっきりしたのは初めてだった。オーガスタであるノリンはどう思うだろうか。泣くだろうか。
シャルスを可愛がっていたし、アーネストよりも長い時間をシャルスとメリッサと過ごしていた。メリッサを看取ったのは、シャルスとオーガスタだった。メリッサはオーガスタに心底惚れていた。なるべく二人きりにしてやりたくて、仕事ばかりしていた。少しはメリッサの心に届いてくれていただろうか。
シャルスは父よりもオーガスタに懐いて、シャルスもオーガスタに惚れたようだった。
「父上、僕も一緒に魔の森へ行きたいです。母上に頼めば簡単に行けますよ」
死出の言葉のような口調のシャルスにせがむようにして抱きついて見せた。シャルスを支える友たちが苦笑しているのが分かる。
「少し考えてみましょう。デバイスも魔の森も。さあ、もう一仕事ですね、アーネスト」
羊皮紙にサインする金色の文字が浮き出るたびに、シャルスのマナは消えていく。どうやってもマナは使われていく。
シャルスは蒼白な表情にいっそ変わってやりたくなる。だが、それは今は父王であるシャルスを侮辱することに繋がるだろう。
父であり子である自分との葛藤。
それがアーネストの目下の悩みであることは言うまでもないが、聞こえはしない王の私室の閨事。週に一度ひと夜と決められたその日に、胸の奥がざわざわとする伴侶のさがにも悩まされていた。
グレゴリウスが宰相に就いたのは、前王アーネストのーー自分自身だがーーアーネストの愚行の後、宰相以下多くの者が『毒』による親族の死にあったからだ。アーネストのせいではないが、王宮に入る『穴』をわざと開けたのがアーネスト自身だから、弁明はしなかった。
そのグレゴリウスも友や子を失っていたにも関わらず、それを一通り聞かされた後
「宰相として働こうではないか」
と、自分自身で剣を置き、シャルスのいる子供部屋で宣言した。そのグレゴリウスとシャルスの秘書のような数人が雑談しながら、仕事をこなしていた。
アーネストはシャルスの膝の上で数年前は眺めていた書類を見つめている。
先程、オーガスタ改めノリンの兄アッシュ・ツェッペリンの来訪を受けた。ようやく国庫の採算と、不正のあった貴族の一覧を提出にきた。
アッシュは自らの足で各領地を周り、取れ高を村人から話を聞くなりして計算し、貴族が不作だと話して貯蓄し売りに出していることを突き止めていた。
グレゴリウスは
「それは確かか?」
と慌てた顔をしていたが、アッシュの提出した書類を見て青ざめると、アッシュを伴い内政省に向かってしまった。
とことん地味な男だなと見上げていると、はにかむように笑った表情だけ何故がノリンに似ていて、少し切なくなった。それをシャルスに気づかれて、
「母上のところに帰りますか?」
と言われてしまい、
「大丈夫です。お役に立てます」
と気を引き締める。
「父上、文字が違います」
羊皮紙と植物紙とでは、内容の重さが違う。羊皮紙のスペルミスを見つけて、思わず口にした。
「よく気付きましたね」
頭を撫でられて子供らしく肩をすくめる。その手はかさついていて、見上げたひょろりと高いだけの上背に痩せた身体には張りがない。王族は実を捥いでからすぐに成年に近い姿になっていく。国を治めるものがいつまでも幼いのは許されないのだろう。
平民とは違う急速な成長を遂げた後は、老化は死の直前にまた一気に訪れる。アーネストも見た目はさほど変わらなかったが、シャルスにマナを受け渡し続け、オドすらも変換して渡していたからか、身体は飢えた感じがし続けていた。
神から選ばれた王族は、神に近い存在だという。統治、繁栄、促進と人を導かなくてはならない。アーネストはそれを怠ったわけではないが、恋に溺れ隙を作ってしまった。そして剣の切っ先が掠め、ただでさえ身体の拮抗の脆いシャルスは更に衰えていく。
「アーネスト、ラメタル王国やパールバルト王国では手書きではなく、デバイスに打ち込み文字化して複写する物があるそうです。友のセネカが話してくれました。省に導入できれば手書きのミスなど減ると思うのですが」
「父上、神に関わることは捧げ物として羊皮紙とマナ文字やマナ印がいると思うのです。でも、そのほかは植物紙で大丈夫でしょう?思い切って、国庫に余裕があるうちにデバイスを入れましょう」
シャルスが嬉しそうに笑いながら、
「アーネストは父上の性質をよく引き継いでいますね。新しいものを積極的に受け入れ、市政を知り、平民の友を作り……そうそう、魔の森の冒険者だった頃もあるのですよ。私も魔の森が見たかったです」
と言って空咳をした。
どうやら体内から老化が始まっていたようで、見た目がはっきりしたのは初めてだった。オーガスタであるノリンはどう思うだろうか。泣くだろうか。
シャルスを可愛がっていたし、アーネストよりも長い時間をシャルスとメリッサと過ごしていた。メリッサを看取ったのは、シャルスとオーガスタだった。メリッサはオーガスタに心底惚れていた。なるべく二人きりにしてやりたくて、仕事ばかりしていた。少しはメリッサの心に届いてくれていただろうか。
シャルスは父よりもオーガスタに懐いて、シャルスもオーガスタに惚れたようだった。
「父上、僕も一緒に魔の森へ行きたいです。母上に頼めば簡単に行けますよ」
死出の言葉のような口調のシャルスにせがむようにして抱きついて見せた。シャルスを支える友たちが苦笑しているのが分かる。
「少し考えてみましょう。デバイスも魔の森も。さあ、もう一仕事ですね、アーネスト」
羊皮紙にサインする金色の文字が浮き出るたびに、シャルスのマナは消えていく。どうやってもマナは使われていく。
シャルスは蒼白な表情にいっそ変わってやりたくなる。だが、それは今は父王であるシャルスを侮辱することに繋がるだろう。
父であり子である自分との葛藤。
それがアーネストの目下の悩みであることは言うまでもないが、聞こえはしない王の私室の閨事。週に一度ひと夜と決められたその日に、胸の奥がざわざわとする伴侶のさがにも悩まされていた。
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