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二十二章 黒ローブの謎
145 知っているような黒
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僕は椅子の手すりに両手を置いてもたれかかり、二人が剣の前に来るのをじっと目を留めていた。
その途端。ぴりりと刺すような感覚がやってくる。この部屋の中に魔力で干渉しようとする奴がいる。落ち着いて確認すると、部屋の外の控えの間からのようだ。
魔力で何をする?
ふとカモンの左指を見ると、小指に指輪がはまっているのが見えた。
マナを貯めた魔石リングだが、マナリングとは違う。魔石にマナを貯めたもので、ただここまで出来るってことはかなり高価な代物で、ドワフ族とのやりとりがなければ作ることが出来ないと聞いた。それを手にしているレーダー公爵家はなんらかの繋がりがあるというわけだ。
またしてもレーダー公か……めんどくさい。この部屋の王座には防護陣と結界陣がすでに床や壁に転写されていて、王族が入れば反応して発動するようになっている。
だから僕は静観していた。レーダー公の配下の魔法師は再度マナを供給しようしているようだが、今頃、四苦八苦しているだろう。
「何か、問題でも?」
顔に出ていたらしく、僕の後ろに控えていたアズールが少し身を屈めて聞いてきた。レーンは扉のいて、いつでも連絡が取れる。
まぁ、問題ありありだが。
僕は小さく苦笑しながら、
「カモンの指輪」
と答えた。
「ーーああ、魔石リングですね」
アズールはフッと微笑み、
「この結界陣に入り込めますか?」
と僕にしか聞こえない声で呟いた。
「僕でなければ無理だよ」
何せ玉座の地下には魔石があり、僕自身が陣を焼き付けた。シャルスを確実に守る複数の陣がシャルス入場と共に稼働して、シャルスを守る絶対防壁になっているのだ。
僕の可愛いシャルスを絶対に寿命以外で害させはしない。誰よりも何よりも愛しみたい子なのだ。
「……ノリン、アーネストは大丈夫でしょうか?」
シャルスが僕にそう話してきた。
視線をそっとアーネストに向けると、どうやらカモンから抜くらしい。シャルスは
「抜いても抜かなくても、アーネストは王太子ですが、魔剣ロータスは父上を大層困らせたようです」
と息を吐く。
「ロータスは確かに気難しい魔剣だけれど、制御出来ないわけではないと思うよ」
「そうなのですか?抜いたけれども、その魔剣ロータスに精神汚染されて、戦闘狂になったとレーダー公から聞きました」
だから、カモンに抜かせろと?馬鹿め、ロータスは人を選ぶのだ。
満を持したって顔でカモンが、バルバロッサから剣を受け取り鞘に手をやると、横にスライドしようとする。しかし抜けず、力任せに振ってみたりしたが変化はない。
カモンは肩をすくめると剣をバルバロッサに返し、アーネストが少し前に出た。
魔剣ロータスは当然の持ち主であるかのようにするりと抜けてから、カチカチカチカチと鍔鳴りを始めた。
「い、いかん!先代のアーネストと同じだ。手を離しなさい、殿下!」
壇上やや下で全体の取りまとめをしていたグレゴリーが慌てふためいている。アーネストは剣を両手で持って天に切っ先を向けたまま、鍔鳴りに揺らされていたが、
「ーーロータス、ノリンが怒るぞ?」
アーネストの一声で、ロータスの鍔鳴りは収まった。
ーーえ?
なんなんだ?
ちょっと待て、魔剣ロータス、お前のプライドはどこだ、どこにある?
「俺はノリンに愛されているぞ、分かるだろう?ロータス」
ほんの少しの小さな声で、ロータスが止まったのだ。
アーネストの勝ち誇った顔が可愛いし、ホッとしたようなシャルスの顔もめちゃくちゃ可愛い。
壇下のグレゴリーのため息と、会場の安堵の声と吐く息に、魔剣ロータスのやんちゃ振りを理解したが、どうして僕の名前で黙るのだろう。
沈黙の中、レーダー公がパンパンと乾いた拍手をして、
「これはこれは見事。あっぱれです、王太子殿下」
とアーネストを呼んだ。アーネストを筆頭公爵位にいるレーダー公が『王太子』と認めたのだ。そこまではよかった。
「こうして見上げていると、我が孫カモンと王太子殿下はよく似ているではないか。まるで親子のように」
そう言い放ったのだ。おい、待て、僕は……
「嫌だなあ、お祖父様」
カモンはヒラヒラと手を添えて前置きすると、
「ノリン君は俺のことを嫌っているのだから、そんなことはありません。王太子殿下、おめでとうございます」
と話して段下に降りていく。まるで神殿の時のように空気を読まず、ばっさりだ。
それからゆっくりとレーダー公の横に行くと、諫言でももらったのか肩をすくめる。アーネストは魔剣ロータスを左手に下げ、シャルスは会の終わりを告げた。
春までは自治領で過ごす貴族も多い。今からは作物が多く取れる時期だ。兄様はその不正に目を光らせる仕事についていて、最近ではレーダー公爵領に行ったらしい。兄様に話を聞きたいな、と思いつつもあまり関わると兄様の命に関わるかもしれないな、諦めることにする。
さあ、布石は打った。レーダー公はどうでるか。
お披露目が終わり、控えの間から入って来る中に、魔法師のローブを見つけた。
レーダー公を囲むローブは黒に近いグレーに王国紋が透かし着色されている。僕の見たローブとは違う。
では、あの屋敷には誰がいたのだ?冒険者やそれ崩れにしては綺麗なローブだった。
「どうした?」
僕の横に来たアーネストに僕は頷いた。やはり話した方がいい。そう思った。
その途端。ぴりりと刺すような感覚がやってくる。この部屋の中に魔力で干渉しようとする奴がいる。落ち着いて確認すると、部屋の外の控えの間からのようだ。
魔力で何をする?
ふとカモンの左指を見ると、小指に指輪がはまっているのが見えた。
マナを貯めた魔石リングだが、マナリングとは違う。魔石にマナを貯めたもので、ただここまで出来るってことはかなり高価な代物で、ドワフ族とのやりとりがなければ作ることが出来ないと聞いた。それを手にしているレーダー公爵家はなんらかの繋がりがあるというわけだ。
またしてもレーダー公か……めんどくさい。この部屋の王座には防護陣と結界陣がすでに床や壁に転写されていて、王族が入れば反応して発動するようになっている。
だから僕は静観していた。レーダー公の配下の魔法師は再度マナを供給しようしているようだが、今頃、四苦八苦しているだろう。
「何か、問題でも?」
顔に出ていたらしく、僕の後ろに控えていたアズールが少し身を屈めて聞いてきた。レーンは扉のいて、いつでも連絡が取れる。
まぁ、問題ありありだが。
僕は小さく苦笑しながら、
「カモンの指輪」
と答えた。
「ーーああ、魔石リングですね」
アズールはフッと微笑み、
「この結界陣に入り込めますか?」
と僕にしか聞こえない声で呟いた。
「僕でなければ無理だよ」
何せ玉座の地下には魔石があり、僕自身が陣を焼き付けた。シャルスを確実に守る複数の陣がシャルス入場と共に稼働して、シャルスを守る絶対防壁になっているのだ。
僕の可愛いシャルスを絶対に寿命以外で害させはしない。誰よりも何よりも愛しみたい子なのだ。
「……ノリン、アーネストは大丈夫でしょうか?」
シャルスが僕にそう話してきた。
視線をそっとアーネストに向けると、どうやらカモンから抜くらしい。シャルスは
「抜いても抜かなくても、アーネストは王太子ですが、魔剣ロータスは父上を大層困らせたようです」
と息を吐く。
「ロータスは確かに気難しい魔剣だけれど、制御出来ないわけではないと思うよ」
「そうなのですか?抜いたけれども、その魔剣ロータスに精神汚染されて、戦闘狂になったとレーダー公から聞きました」
だから、カモンに抜かせろと?馬鹿め、ロータスは人を選ぶのだ。
満を持したって顔でカモンが、バルバロッサから剣を受け取り鞘に手をやると、横にスライドしようとする。しかし抜けず、力任せに振ってみたりしたが変化はない。
カモンは肩をすくめると剣をバルバロッサに返し、アーネストが少し前に出た。
魔剣ロータスは当然の持ち主であるかのようにするりと抜けてから、カチカチカチカチと鍔鳴りを始めた。
「い、いかん!先代のアーネストと同じだ。手を離しなさい、殿下!」
壇上やや下で全体の取りまとめをしていたグレゴリーが慌てふためいている。アーネストは剣を両手で持って天に切っ先を向けたまま、鍔鳴りに揺らされていたが、
「ーーロータス、ノリンが怒るぞ?」
アーネストの一声で、ロータスの鍔鳴りは収まった。
ーーえ?
なんなんだ?
ちょっと待て、魔剣ロータス、お前のプライドはどこだ、どこにある?
「俺はノリンに愛されているぞ、分かるだろう?ロータス」
ほんの少しの小さな声で、ロータスが止まったのだ。
アーネストの勝ち誇った顔が可愛いし、ホッとしたようなシャルスの顔もめちゃくちゃ可愛い。
壇下のグレゴリーのため息と、会場の安堵の声と吐く息に、魔剣ロータスのやんちゃ振りを理解したが、どうして僕の名前で黙るのだろう。
沈黙の中、レーダー公がパンパンと乾いた拍手をして、
「これはこれは見事。あっぱれです、王太子殿下」
とアーネストを呼んだ。アーネストを筆頭公爵位にいるレーダー公が『王太子』と認めたのだ。そこまではよかった。
「こうして見上げていると、我が孫カモンと王太子殿下はよく似ているではないか。まるで親子のように」
そう言い放ったのだ。おい、待て、僕は……
「嫌だなあ、お祖父様」
カモンはヒラヒラと手を添えて前置きすると、
「ノリン君は俺のことを嫌っているのだから、そんなことはありません。王太子殿下、おめでとうございます」
と話して段下に降りていく。まるで神殿の時のように空気を読まず、ばっさりだ。
それからゆっくりとレーダー公の横に行くと、諫言でももらったのか肩をすくめる。アーネストは魔剣ロータスを左手に下げ、シャルスは会の終わりを告げた。
春までは自治領で過ごす貴族も多い。今からは作物が多く取れる時期だ。兄様はその不正に目を光らせる仕事についていて、最近ではレーダー公爵領に行ったらしい。兄様に話を聞きたいな、と思いつつもあまり関わると兄様の命に関わるかもしれないな、諦めることにする。
さあ、布石は打った。レーダー公はどうでるか。
お披露目が終わり、控えの間から入って来る中に、魔法師のローブを見つけた。
レーダー公を囲むローブは黒に近いグレーに王国紋が透かし着色されている。僕の見たローブとは違う。
では、あの屋敷には誰がいたのだ?冒険者やそれ崩れにしては綺麗なローブだった。
「どうした?」
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