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二十章 二人と一人の平和な日常
134 やっぱり乱闘になった
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僕はグレゴリーの横に来て、第一第二近衛隊総勢三十名を見渡した。
僕に対して向けられる視線は、痛々しいほどの気遣いだ。当たり前だろうな、王配殿下だものな。傷でもつけたらどうなるのか、そもそも守るためにいるのに、どうして木刀を持って立っているのだろうって顔をしている。
まあ、成人したての美少年が何をするんだ?って思うだろうな。
「グレゴリー、実践形式なら魔法も使って構わないのか?」
あ、呼び捨てしてしまった。ーーうん、大丈夫。そういえば、僕王配殿下だものな。今、演習場では立場上一番トップだもの。
するとグレゴリーが頷いて、
「実際の戦闘では魔法師や魔法剣士もいる。爆薬を使うものや剣だけではなく爆薬や魔法弩弓を使う者もいるのだ。第二近衛隊はそれらと戦える者を望む。わしも一緒に入って戦うこともあろうわい」
と既に戦争でも始まっているかのような口振りで言った。第二近衛隊の役割は戦争での突破口を作ることと、戦いの中心に居続けることだ。
「時には汚い仕事もしなくてはならないのを覚悟せよ。バルバロッサ、悪いな、わしはまだまだお前より上だ」
バルバロッサはふふんと笑いながら木刀を手にしている。どうやら既に第一第二と決めていた者まで参加させるようだった。
グレゴリーは
「アーネスト抜きだが、さて、ノリンよ。どうするかのう」
と聞いてきたから、
「うーん、アーネストいないからなあ」
と僕は呟いて、グレゴリーに振り返る。二人で戦ったことはあるが、基本的にはアーネストの適時運用がオーガスタ時代の僕の役割だ。
「前衛はグレゴリー、後衛は僕が入る。演習場に陣を張るから、木刀戦の途中合図するよ」
「わしが狙うはバルバロッサだが?」
「存分にやり合ってくれ、だな。僕に来た奴らは薙ぎ倒すから大丈夫」
グレゴリーが
「よし」
と木刀を振り回し準備完了とばかりに笑う。
こちらを振り向き見つめ返したバルバロッサが刈り上げた頭を傾け、後衛に下がった僕と仁王立ちのグレゴリーを見つめる。それから大太刀の振りかぶった型を見せてから切っ先を下げた。
「もういいのですかな?元大隊長」
「おお、胸を貸してやろう。お前たちも存分に来るが良い」
「若手の力を思い知った方がいいですよ」
おい、僕もかなり若手なんだがな。バルバロッサ、うん、倒す。僕はにっこりと笑う。緊張したピリリとした空気の中で、
「行くぞ!」
とバルバロッサがそう宣言した瞬間、グレゴリーが一気に踏み込んで、バルバロッサの前に飛び出していた。
近衛隊が長衣で駆け抜けるハゲマッチョを見て、
「速っ」
と目を見開き、バルバロッサを守るつもりなのか、慌てて前に立ち木刀を構えたが遅い。グレゴリーが力任せに木刀を絡めて身体ごと吹き飛ばす。
「うをを!」
バルバロッサがその勢いにたたらを踏みながらグレゴリーに木刀を振り下ろしたが、
「浅い、浅いのう」
とグレゴリーは笑いながら、振り降ろされた木刀を軽く払い避けると、左右から来る木刀を弾き飛ばす。
「木刀にマナをこめろ!」
単純な打撃技では無理だと気づいたバルバロッサが叫ぶ前に、僕は
「光礫っ!」
とマナを礫にして近衛隊に向けた。木刀にマナを込めさせてやらないよ。木刀を弾き飛ばすと、地面に手をついた。空中に陣を展開して、
「瓦解陣展開、雷撃陣展開、飛べっ、グレゴリー!」
と前で戦うグレゴリーに叫んだ。
「おおうっ!」
一瞬でグレゴリーが飛び上がると、地面が陣により崩れてそこにいる奴らは雷撃を浴びて崩れ落ちる。身体に痺れが残るため呻き声しか出ない。片膝をついているのはバルバロッサだ。
「戦場なら心臓が止まるまでマナを高めるが、今は痺れているだけだろうが?これが本当の戦いだ。剣術だけに溺れて防御も出来ないとは。ーー立ち上がれ、若造ども!」
仁王立ちのグレゴリーと背後から上がってきた僕を見て、近衛兵が必死で立ち上がろうとしていた。
うん、がんばれ。僕はにっこりと笑いながら、背後から近衛兵がにじり寄り木刀を構えたのを感じた。
「ノリンッ!」
見ていたシャルスが声を上げた瞬間、僕はシャルスの可愛らしい顔を見てから、ニヤリと口端が歪む笑いに変えて振り返り様に木刀を横に薙ぎ、近衛兵を背後で庇った近衛ごと、シャルスのいる場所とは反対の低い壁にぶち当てた。
僕は木刀を軽く振ってしまい、あ、血糊を払う必要はないんだと苦笑する。
壁に背中からぶつかった二人は素晴らしい。倒れず膝をついて堪えて、その体勢で僕へ回り込んできたのだ。
二人ともなかなかのマッチョだ。貴族の子供らしく治癒魔法を受けているのは下敷きになった方だ。
「君たちは合格だよ。倒れなかったしね。しかも、この戦場では魔法師を潰すことが急務だからね」
二人は目をまん丸にしていたが、僕は項垂れる二人の前に立って、思わず頭を撫でた。
ミカエルくらいの年だろうなあ。
オーガスタ時代、士官学校の幼年校に幼名『リンク』であったミカエルを連れていっては遊んでやった奴らは、よく頭を撫でてくれとせがんだ。
だからついって感じで、ゴリゴリマッチョの二人の頭を片方ずつ撫でてしまったのだ。
「王配殿下っ」
あ、嫌だったか。
手をがしっと握られ、片膝をつく若い近衛兵は
「ザクセン・グレゴリウスと申します。俺が貴方様を狙ったのは、単に父上には叶わないからで、あとは王配殿下に少しでも近づきたい一心でしたっ。もとより第二近衛隊への志願でありますっ。また、今の戦闘で魅了されました。俺を殿下の手足としてお使いください」
と僕の手の指先を額をつける。横の近衛兵もぶんぶんと頭を縦に振っていた。
ん?
父上?
「ザクセン!ノリンから離れろ。陛下の顔が険しい!」
ドカドカと足を鳴らしながらやってきたグレゴリーに対して顔を上げると、
「父上?」
とザクセン……
「グレゴリウス?あ、ああ、グレゴリーの子供かっ!」
グレゴリーは頭を掻きながら
「わしの子、ザクセンと目付け役の侍従騎士ルーザーだ」
と僕に告げて、ザクセンを僕から引っぺがした。
僕に対して向けられる視線は、痛々しいほどの気遣いだ。当たり前だろうな、王配殿下だものな。傷でもつけたらどうなるのか、そもそも守るためにいるのに、どうして木刀を持って立っているのだろうって顔をしている。
まあ、成人したての美少年が何をするんだ?って思うだろうな。
「グレゴリー、実践形式なら魔法も使って構わないのか?」
あ、呼び捨てしてしまった。ーーうん、大丈夫。そういえば、僕王配殿下だものな。今、演習場では立場上一番トップだもの。
するとグレゴリーが頷いて、
「実際の戦闘では魔法師や魔法剣士もいる。爆薬を使うものや剣だけではなく爆薬や魔法弩弓を使う者もいるのだ。第二近衛隊はそれらと戦える者を望む。わしも一緒に入って戦うこともあろうわい」
と既に戦争でも始まっているかのような口振りで言った。第二近衛隊の役割は戦争での突破口を作ることと、戦いの中心に居続けることだ。
「時には汚い仕事もしなくてはならないのを覚悟せよ。バルバロッサ、悪いな、わしはまだまだお前より上だ」
バルバロッサはふふんと笑いながら木刀を手にしている。どうやら既に第一第二と決めていた者まで参加させるようだった。
グレゴリーは
「アーネスト抜きだが、さて、ノリンよ。どうするかのう」
と聞いてきたから、
「うーん、アーネストいないからなあ」
と僕は呟いて、グレゴリーに振り返る。二人で戦ったことはあるが、基本的にはアーネストの適時運用がオーガスタ時代の僕の役割だ。
「前衛はグレゴリー、後衛は僕が入る。演習場に陣を張るから、木刀戦の途中合図するよ」
「わしが狙うはバルバロッサだが?」
「存分にやり合ってくれ、だな。僕に来た奴らは薙ぎ倒すから大丈夫」
グレゴリーが
「よし」
と木刀を振り回し準備完了とばかりに笑う。
こちらを振り向き見つめ返したバルバロッサが刈り上げた頭を傾け、後衛に下がった僕と仁王立ちのグレゴリーを見つめる。それから大太刀の振りかぶった型を見せてから切っ先を下げた。
「もういいのですかな?元大隊長」
「おお、胸を貸してやろう。お前たちも存分に来るが良い」
「若手の力を思い知った方がいいですよ」
おい、僕もかなり若手なんだがな。バルバロッサ、うん、倒す。僕はにっこりと笑う。緊張したピリリとした空気の中で、
「行くぞ!」
とバルバロッサがそう宣言した瞬間、グレゴリーが一気に踏み込んで、バルバロッサの前に飛び出していた。
近衛隊が長衣で駆け抜けるハゲマッチョを見て、
「速っ」
と目を見開き、バルバロッサを守るつもりなのか、慌てて前に立ち木刀を構えたが遅い。グレゴリーが力任せに木刀を絡めて身体ごと吹き飛ばす。
「うをを!」
バルバロッサがその勢いにたたらを踏みながらグレゴリーに木刀を振り下ろしたが、
「浅い、浅いのう」
とグレゴリーは笑いながら、振り降ろされた木刀を軽く払い避けると、左右から来る木刀を弾き飛ばす。
「木刀にマナをこめろ!」
単純な打撃技では無理だと気づいたバルバロッサが叫ぶ前に、僕は
「光礫っ!」
とマナを礫にして近衛隊に向けた。木刀にマナを込めさせてやらないよ。木刀を弾き飛ばすと、地面に手をついた。空中に陣を展開して、
「瓦解陣展開、雷撃陣展開、飛べっ、グレゴリー!」
と前で戦うグレゴリーに叫んだ。
「おおうっ!」
一瞬でグレゴリーが飛び上がると、地面が陣により崩れてそこにいる奴らは雷撃を浴びて崩れ落ちる。身体に痺れが残るため呻き声しか出ない。片膝をついているのはバルバロッサだ。
「戦場なら心臓が止まるまでマナを高めるが、今は痺れているだけだろうが?これが本当の戦いだ。剣術だけに溺れて防御も出来ないとは。ーー立ち上がれ、若造ども!」
仁王立ちのグレゴリーと背後から上がってきた僕を見て、近衛兵が必死で立ち上がろうとしていた。
うん、がんばれ。僕はにっこりと笑いながら、背後から近衛兵がにじり寄り木刀を構えたのを感じた。
「ノリンッ!」
見ていたシャルスが声を上げた瞬間、僕はシャルスの可愛らしい顔を見てから、ニヤリと口端が歪む笑いに変えて振り返り様に木刀を横に薙ぎ、近衛兵を背後で庇った近衛ごと、シャルスのいる場所とは反対の低い壁にぶち当てた。
僕は木刀を軽く振ってしまい、あ、血糊を払う必要はないんだと苦笑する。
壁に背中からぶつかった二人は素晴らしい。倒れず膝をついて堪えて、その体勢で僕へ回り込んできたのだ。
二人ともなかなかのマッチョだ。貴族の子供らしく治癒魔法を受けているのは下敷きになった方だ。
「君たちは合格だよ。倒れなかったしね。しかも、この戦場では魔法師を潰すことが急務だからね」
二人は目をまん丸にしていたが、僕は項垂れる二人の前に立って、思わず頭を撫でた。
ミカエルくらいの年だろうなあ。
オーガスタ時代、士官学校の幼年校に幼名『リンク』であったミカエルを連れていっては遊んでやった奴らは、よく頭を撫でてくれとせがんだ。
だからついって感じで、ゴリゴリマッチョの二人の頭を片方ずつ撫でてしまったのだ。
「王配殿下っ」
あ、嫌だったか。
手をがしっと握られ、片膝をつく若い近衛兵は
「ザクセン・グレゴリウスと申します。俺が貴方様を狙ったのは、単に父上には叶わないからで、あとは王配殿下に少しでも近づきたい一心でしたっ。もとより第二近衛隊への志願でありますっ。また、今の戦闘で魅了されました。俺を殿下の手足としてお使いください」
と僕の手の指先を額をつける。横の近衛兵もぶんぶんと頭を縦に振っていた。
ん?
父上?
「ザクセン!ノリンから離れろ。陛下の顔が険しい!」
ドカドカと足を鳴らしながらやってきたグレゴリーに対して顔を上げると、
「父上?」
とザクセン……
「グレゴリウス?あ、ああ、グレゴリーの子供かっ!」
グレゴリーは頭を掻きながら
「わしの子、ザクセンと目付け役の侍従騎士ルーザーだ」
と僕に告げて、ザクセンを僕から引っぺがした。
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