国王親子に迫られているんだが

クリム

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二十章 二人と一人の平和な日常

133 第一第二近衛選抜戦

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 近衛官舎の真ん中にあるそこそこ広い演習場には軍服を着ていない近衛隊員が、襟立シャツに黒いズボンにブーツという出立ちで木刀を持っている。

 周りには煉瓦で作られた低い塀があり、そこに腰掛けている者もいて、その中にはグレゴリー率いる宰相チームがいた。

「お、陛下」

 宰相正装用のマントと長衣のグレゴリーが立ち上がると、

「「陛下!」」

と同時に声を上げる。どうやらシャルスの誕生日の日に重用したシャルスの『友』らしい。そいつらがシャルスに近寄って膝をつくから、僕は少し後ろに下がって見ていた。なるほど、多くはないが宰相の下で働くようだ。文官服とは違う色味の政務服だ。

「では、これより第二近衛隊選抜戦を行う」

 マントを付けた金の短髪男の胸元には、大隊長である事を示すバッジが輝いていた。太い眉毛とムッキムキの筋肉をピッチピチの軍服に包んでいる。

 見たことがあるぞ、こいつ。金髪に緑瞳がほのぼのとした感じで、魔の森でも基本荷物持ちだったーー

「バロー……か?」

うっかり息と共に出てしまった。

「誰がバローだ、俺にはバルバロッサ・バッキンガムという名前ーーーーあ、れ?」

 冒険者名バローこと、アーネストの侍従騎士バルバロッサは金髪緑眼のムキムキマッチョな男である。

 左右を刈り上げ、前髪だけを長めに流した髪型は、冒険者の流行りの髪型で、冒険者アーネストの荷物持ちの冒険者バローという役割はかなり気に入った様子だったが、実のところ相当の気に入っていたらしい。

 アーネストの世話係、もう一人の侍従騎士のイシスはサラサラの金茶髪を一纏めにしていただけなのに、まるっきり冒険者野郎の風態で、しかもそのままだから笑えてしまう。

「こ、こ、こ、く、王陛下!王配殿下までっ!」

 バルバロッサが先に、それに続きざあっと騎士が片膝を付いた礼をして、シャルスは周囲を見渡して頷く。僕はやっぱり居心地が悪くてたまらない。

「演習ですか?」

「は、はい!映えある騎士団のーー」

 そこからバルバロッサの脳筋トークが長かった。こいつ、昔からお説教が長かったよなあ。冒険者時代、アーネストなんか無の境地で聞いていたような気がする。だが、シャルスはすごいのだ。笑顔を崩さずに聞いていて、僕は小さな欠伸をしてしまった。

「坊ちゃん」

 アズールに嗜められたが、正直バルバロッサの話って的を得ていないんだよ。

「ーーでありますから、第一第二近衛兵の改変のための試験を行っています」

「そうですか。ありがとうございます。第二はノリンを守る隊ですね」

とシャルスが話すと、グレゴリーが首を横に振った。

「第二は王配陛下と後々の殿下と共に戦う兵で構成する。であるから腕自慢であることが必要だわい」

 僕が眼差しでそれを伝えると、なんとなく察したシャルスが

「第二が『剣』ですか」

と、少し困ったように眉を顰めた。

「ノリンもしくは私の子が指揮して、戦場に立つ近衛隊ですか?」

「……北侵攻があれば第四近衛隊とメルツ公の貴族騎士を率いて戦う中心の兵団を作り上げます。もちろん、王国内におきましては、第三と爵騎士を率いることになります」

 バルバロッサに代わりグレゴリーがそう告げる。僕もそのつもりだ。だから王宮を守りシャルスを守る砦、第一近衛隊は守りに特化した者でいい。もちろん腕前があってこそだが。

「ノリンが前線に立つのは反対です」

 シャルスが青ざめた顔でそう言ってから僕を見下ろし

「ノリンは私の盾であり剣であると言っていたではありませんか。側にいてもらいたいのです」

と話す。

 これに一斉に視線が向かうのが分かる。

「陛下。ノリンは強いですよ。多分、わしより強いかもしれません」

とグレゴリーが謙遜すると、

「宰相閣下、それはまことですか?こんな小さな、いえ、王配殿下が、その」

とバルバロッサが僕を見下ろす。

 あ、ちょっと、カッチーンときた。

「アーネストにも勝つくらいだぞ、ノリンは。しかし、さすが魔の森の管理者ツェッペリン家の子供だな。魔の森冒険者ギルドの古きメンバーまで知っているとは」

 いやいや、脳筋グレゴリー、考えてくれよ。魔の森冒険者ギルドは、どちらかというとラメタル王国の方に近い。そもそも、魔の森の管理だって今まではアリシア王国の砂漠前までで、砂漠からパールバルト王国まではメリッサの親父さんが治めていただろうが。

「王配殿下が魔の森に?ははははは、ご冗談を。グレゴリー元大隊長ともあろう方が、耄碌されましたな」

「なんだと、若造が!」

 あ、グレゴリーがキレた。若造って、バルバロッサだってもういい年だ。アーネストより年上だったのだから。しかしお互いに脳筋だからか、言葉選びをする脳がないらしい。

 シャルスが仲裁に入る前に、こいつをボコろうと思う。うん、そうしよう。何せ僕は腹実だから、気分変調ってやつです。

「シャルス、僕が戦いやすいような近衛兵が欲しいな。僕が見定めてもいいかな?」

 絶対に可愛いはずの角度で首を傾げて、上目遣いにお願いする。

 シャルスは耳まで真っ赤になってから、

「そんなおねだりは初めてで困ります」

と俯いてしまう。可愛いなあ、もう。

「そうだよ、僕の初めての『おねだり』は、いや?」

 公衆の面前だが、こちとら国王陛下と王配殿下だ。構うもんか。シャルスは困って困った挙句、僕のおねだりに頷いた。

「ーーいいですよ。グレゴリーも横についているなら」

 それに対して何故か先に声を上げたのは、なんとグレゴリーだった。

「陛下からの許可も出たわい。思い上がった貴様をぶっ飛ばしてくれよう。陛下の許可を得たからわしも参戦する。よいか!バルバロッサ含め、第二近衛隊組織作りのため、わしとノリンとで、木刀による戦闘稽古をつけてやろう!」

 一際響く怒号のようなグレゴリーの声に、何故か叫声のような煩い声が響き渡り、シャルスをアズールにお願いして端に座らせた。

「ノリン……」

「心配ないよ。多分、僕よりグレゴリーが暴れそうだね」

 あの長衣で暴れるのは迫力があるなあ。

「じゃあ、行ってきます、シャルス」

 僕はシャルスの頬にキスをすると、演習場のグレゴリーの所へ歩いていった。
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