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二十章 二人と一人の平和な日常
132 お散歩デート
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セネカはそれを察していたかのように、
「シーちゃん、記憶が戻ってから王城を見てないでしょ。今からお散歩しない?きっとね、新しい目で見られると思うし、シーちゃんとオーちゃんが仲良く歩いているところを見るとね、使用人も喜ぶと思うんだ」
なんてシャルスに話し始めた。
「王宮使用人に嫌われていると思うのですが……大丈夫でしょうか?」
唐突の申し出にシャルスが困った顔をしてそう答える。
だよなあ。でもさ、嫌われていたのはアーネストなんじゃないの?
そう考えたところで、シャルスは政務宮と生活宮と医局しか行っていないことを思い出す。人に嫌われているとしても、やっぱり人の前に出る機会も今まで以上に多くなるから、いい機会じゃないか。よし、誘うか。
「今から『でえと』しよう、シャルス。セネカは今から追い返すし、僕も王宮内を色々見てみたい。ついでにメイザース医師に冊子を渡して、仲のいいところを見せつけようよ」
休憩時間の後の政務は少ないし、何よりシャルスは王宮内どころか国を知らない。体調不良で部屋に閉じこもっていた日々は確かにシャルスの命を長らえたのはいい。でも、少し、少しなら、自分が生きるこの世界を知った方がいい。
「でも……」
言葉が出ないシャルスは、視線を泳がせている。
「でいとじゃなくて、デートだってば。ミカちゃんと王都デートしたこと覚えていたんだ。うーん、デートなら仕方ないね。二人きり、あ、君、バトラー君も着いていくよね。騎士団演習場は面白いことになっているから必ず行くようにね」
と僕に言い、セネカがシャルスの反応を見ながら立ち上がり笑った。
「シーちゃん、気晴らしにはならないかもだけど、腹実のオーちゃんにはお散歩や太陽の光を浴びたりして自然のマナを吸収することも大事なんだよ。まだ形を伴わない腹実は沢山のマナを必要とするんだ」
「行きます」
「だからねーーえ、行くの?」
「ノリンのために行きます。私は腹実にマナを渡すことが出来ません。だから、ノリンと腹実に良いことは積極的にやりたいのです」
と、まあ、お散歩デートが決まってしまった。
医局から近衛官舎横の演習場までのデートで、医局にはメイザースが居なくて、メイザースの机の上に冊子を二冊置くように話しておいた。
王宮の廊下を近衛官舎までゆっくり歩いていると、シャルスの軍服を見てハッとして頭を下げる。
「普通に業務をしてください」
シャルスは剣を持っていないさ、アズールも持っていない。僕だけはジャケットの下に短剣状の魔剣ミスリルを下げているが、ぱっと見には手ぶらだ。
安心感からか若い僕らだからか、チラリと視線を寄越しては軽く会釈をしてすれ違っていく。
「意外と人々の視線は厳しくないようですね」
「そうだね。よかったよ、シャルスもいい顔してる。あ、ここ、次にね、アーネストとメリッサの成婚の頃の絵があるんだ」
僕らは王宮関係者や使用人が多く利用している移動用の廊下を歩いていた。ガラス窓のない柱だけの廊下は光りが入り込み、絵画の様相を呈した絵姿を映し出していた。
アズールとは顔馴染みなのか、一言二言話したバトラー服の男が通り過ぎた後、僕は二人の男使用人が通り過ぎた後で、絵画を見上げた。
「そういえば、父上の絵はいつも一人ではありません。母上や母上と私。それから父上一人なのに横に誰かいたような服の黒色などありますが」
僕はアーネストとメリッサと赤ちゃんのシャルスの絵画を見上げて、
『写真にすれば良いじゃねえか。ラメタル国にはそっくりそのままに残せる技術があるのだ。つまらないし動けない、一瞬で描き写せよ』
などと言っていたことを思い出した。着飾るメリッサと一瞬泣き止んだ三人で数分だけじっとしていた。それをオーガスタ時代に苦笑して見ていて、そんなこんなを思い出す。
すると何故か慌てたようにシャルスが僕に声を掛けてくる。
「――ノリン、大丈夫ですか?ノリンが、父上と剣談義をしていたのは知っていますが、そんなに……」
え、何言ってるんだ、シャルス。
成婚記念の絵姿には、確かにオーガスタはいた。アーネストの横にいて、瞬殺で逃げたんだが、黒いマントが描かれている。
涙がぽろぽろと溢れてどうしようもない。
腹実の時期は気分が変調するからだろう。
シャルスは僕を抱き締める。涙を止めないと、軍服が地味になるよ。僕は悲しくない、なんでもないのだから。
だけど次の絵姿はもう見られず、僕たちは少し足早に廊下を出た。だって、オーガスタ時代に出会ったアーネストの成人年齢の絵姿があるからだ。
だから目を伏せ気味で、近衛官舎の場所に入っていく。
ああ、ダメだ。まだ涙が……腹実ってのはこんなふうに気持ちの振れ幅があるんだなあ。
三月で腹実を出して、三月で離乳し歩行と片言が出るのは貴族も平民も同じだが、貴族の子供は成長が早いらしいけれど、僕はこんな調子で悲しかったり苦しかったりずっとなのかな。シャルスは我慢しているのにさ。
「ノリン、ノリンは剣術が好きでしたよね?ほら、何かやっているようですよ」
精神的におっさんなのに、慰められて気を遣ってもらってしまった。いかんいかん、ちゃんとしないと。僕がアーネストに代わり、シャルスを支えるって決めたのに。
「シーちゃん、記憶が戻ってから王城を見てないでしょ。今からお散歩しない?きっとね、新しい目で見られると思うし、シーちゃんとオーちゃんが仲良く歩いているところを見るとね、使用人も喜ぶと思うんだ」
なんてシャルスに話し始めた。
「王宮使用人に嫌われていると思うのですが……大丈夫でしょうか?」
唐突の申し出にシャルスが困った顔をしてそう答える。
だよなあ。でもさ、嫌われていたのはアーネストなんじゃないの?
そう考えたところで、シャルスは政務宮と生活宮と医局しか行っていないことを思い出す。人に嫌われているとしても、やっぱり人の前に出る機会も今まで以上に多くなるから、いい機会じゃないか。よし、誘うか。
「今から『でえと』しよう、シャルス。セネカは今から追い返すし、僕も王宮内を色々見てみたい。ついでにメイザース医師に冊子を渡して、仲のいいところを見せつけようよ」
休憩時間の後の政務は少ないし、何よりシャルスは王宮内どころか国を知らない。体調不良で部屋に閉じこもっていた日々は確かにシャルスの命を長らえたのはいい。でも、少し、少しなら、自分が生きるこの世界を知った方がいい。
「でも……」
言葉が出ないシャルスは、視線を泳がせている。
「でいとじゃなくて、デートだってば。ミカちゃんと王都デートしたこと覚えていたんだ。うーん、デートなら仕方ないね。二人きり、あ、君、バトラー君も着いていくよね。騎士団演習場は面白いことになっているから必ず行くようにね」
と僕に言い、セネカがシャルスの反応を見ながら立ち上がり笑った。
「シーちゃん、気晴らしにはならないかもだけど、腹実のオーちゃんにはお散歩や太陽の光を浴びたりして自然のマナを吸収することも大事なんだよ。まだ形を伴わない腹実は沢山のマナを必要とするんだ」
「行きます」
「だからねーーえ、行くの?」
「ノリンのために行きます。私は腹実にマナを渡すことが出来ません。だから、ノリンと腹実に良いことは積極的にやりたいのです」
と、まあ、お散歩デートが決まってしまった。
医局から近衛官舎横の演習場までのデートで、医局にはメイザースが居なくて、メイザースの机の上に冊子を二冊置くように話しておいた。
王宮の廊下を近衛官舎までゆっくり歩いていると、シャルスの軍服を見てハッとして頭を下げる。
「普通に業務をしてください」
シャルスは剣を持っていないさ、アズールも持っていない。僕だけはジャケットの下に短剣状の魔剣ミスリルを下げているが、ぱっと見には手ぶらだ。
安心感からか若い僕らだからか、チラリと視線を寄越しては軽く会釈をしてすれ違っていく。
「意外と人々の視線は厳しくないようですね」
「そうだね。よかったよ、シャルスもいい顔してる。あ、ここ、次にね、アーネストとメリッサの成婚の頃の絵があるんだ」
僕らは王宮関係者や使用人が多く利用している移動用の廊下を歩いていた。ガラス窓のない柱だけの廊下は光りが入り込み、絵画の様相を呈した絵姿を映し出していた。
アズールとは顔馴染みなのか、一言二言話したバトラー服の男が通り過ぎた後、僕は二人の男使用人が通り過ぎた後で、絵画を見上げた。
「そういえば、父上の絵はいつも一人ではありません。母上や母上と私。それから父上一人なのに横に誰かいたような服の黒色などありますが」
僕はアーネストとメリッサと赤ちゃんのシャルスの絵画を見上げて、
『写真にすれば良いじゃねえか。ラメタル国にはそっくりそのままに残せる技術があるのだ。つまらないし動けない、一瞬で描き写せよ』
などと言っていたことを思い出した。着飾るメリッサと一瞬泣き止んだ三人で数分だけじっとしていた。それをオーガスタ時代に苦笑して見ていて、そんなこんなを思い出す。
すると何故か慌てたようにシャルスが僕に声を掛けてくる。
「――ノリン、大丈夫ですか?ノリンが、父上と剣談義をしていたのは知っていますが、そんなに……」
え、何言ってるんだ、シャルス。
成婚記念の絵姿には、確かにオーガスタはいた。アーネストの横にいて、瞬殺で逃げたんだが、黒いマントが描かれている。
涙がぽろぽろと溢れてどうしようもない。
腹実の時期は気分が変調するからだろう。
シャルスは僕を抱き締める。涙を止めないと、軍服が地味になるよ。僕は悲しくない、なんでもないのだから。
だけど次の絵姿はもう見られず、僕たちは少し足早に廊下を出た。だって、オーガスタ時代に出会ったアーネストの成人年齢の絵姿があるからだ。
だから目を伏せ気味で、近衛官舎の場所に入っていく。
ああ、ダメだ。まだ涙が……腹実ってのはこんなふうに気持ちの振れ幅があるんだなあ。
三月で腹実を出して、三月で離乳し歩行と片言が出るのは貴族も平民も同じだが、貴族の子供は成長が早いらしいけれど、僕はこんな調子で悲しかったり苦しかったりずっとなのかな。シャルスは我慢しているのにさ。
「ノリン、ノリンは剣術が好きでしたよね?ほら、何かやっているようですよ」
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