国王親子に迫られているんだが

クリム

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十九章 銀杯の系譜

123 シャルスの記憶

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 シャルスはなかなか目を覚ましてくれない『初夜』の朝、僕はレーンから目を冷やすように言われてタオルで腫れを取っていた。シャルスが起きたら、メイザース・ユング率いる医師団ややって来て『初夜回診』をする手筈になっている。

 昔は『初夜』拝見なんて制度が王族や上級貴族にあったらしいが、シャルスも僕も断固拒否した。

 だから朝の『初夜回診』は性的行為が適切に済まされていたか、実は成したかの確認であり、実を成せば自動的に王妃、僕の場合は王配扱いに変わるのだ。

「坊ちゃん、少し身を拭いますね」

 座っている僕の肌に、お湯を浸したタオルがやんわりと当てられる。レーンが僕を見ているのが分かった。レーンは僕との感覚器官を全て繋いでいるから知っている。でも、あえて何も言わないでいてくれた。拭いてくれた後、アズールが困り顔で扉から入ってくる。

「医師団が扉の前に座り込んでいて、特にメイザース医師長が入りたくで仕方なく、扉をカリカリ爪で掻いております」

 猫かよ、メイザースは!

 でも確かに眠りが深く長い。シャルスを起こした方がいいのかな。僕は躊躇いながらシャルスの肩を揺らした。

「ん……」

 ぽかんと深い青の瞳が開いて、まるで周囲を窺うような仕草をする。心ここに在らずという感じだが、僕に視線を向けるとふわりと微笑んだ。

「ああ、ノリン。おはようございます。朝ですか?」

「おはよう、シャルス。随分お寝坊だ。もうじきお昼の時間になる。心配したよ」

 王の配偶者となる僕としては、シャルスの深い眠りは少し心配だ。

 シャルスも僕も裸でシャルスは僕の頬に手をやり、

「心配をかけて泣かせてしまいましたか?」

と告げる。僕は首を横に振るが、泣いた後はバレたようで言い訳を考えいたが、メイザースが部屋に突入して引っ込んだ。

「陛下~~っ!ご診察を~~っ!」

 メイザース、マジ怖いよ、お前。

 メイザースの触診はねっちりとシャルスから始まり、僕はそのまま座っていた。嫌だなあ、体内触診とか。しかし不意にメイザースが僕を見て、見て、じいっと見てから、僕には触らずただ前に片膝を付く。

「国王陛下、及び王配殿下、腹実おめでとうございます!!」

 メイザースは滂沱の涙を流して、そのまま五体投地よろしく床に這いつくばった。医師団も両膝を付いて声を揃える。

「「「おめでとうございます!!」」」

 腹実は僕の中に息づいている。分かっている、分かっていた。アーネストの命と引き換えになる腹実なんだから。

「え、ええっ!ノリン!ノリン、本当に?」

「メイザース医師がそう言うなら……そうだよ。僕にはピンとこないけれどね」

 シャルスが飛び上がらんばかりに僕に抱きついたが、メイザースも後から入ってきたグレゴリーも知っているのかもしれない。腹実はアーネストの子だと。

「陛下の頑張りが神に通じたのでしょう。陛下の腹実は吾輩が、ええ、吾輩が取り上げますぞ」

「メイザース、国王陛下と王配殿下には湯浴みをしてもらおう」

 今さっき入って来たグレゴリーにしては気の利いた発言だ。

 そろそろ湯にとレーンが告げて、シャルスと僕は二階なのに、ガラス張りの岩風呂に入る。しかも掛け流しの温泉だ。どうやら離宮の源泉を分岐して引いたらしいけれど、お金かけ過ぎだろう、気持ちいいけれど。

 それからレーンは湯上がりマッサージをして、僕は磨き抜かれた。レーンは何故か幸せそうだ。

「坊ちゃん、綺麗ですよ」

 そんな僕の横では、シャルスがアズールに拭かれて、服を着てられていた。

「ノリン、私は思い出したことがあるのです。グレゴリーとメイザースにも話をしたいのです」

 遅い朝ご飯はパンとスープで済ませ、ソファにはグレゴリーとメイザース、ソファの後ろにミカエルが立って待機している。医師団は医局にて待機になり、メリッサ王妃の腹実出産の資料を探すように支持されていた。

 簡単な食事をすますと、お茶をソファに運んでもらい、ヘッドは天蓋を降ろされ、仕切りの裏でレーンがベッドメイクをし、アズールが僕とシャルスにお茶を出す。

「ミカエルも腰掛けてください」

とシャルスが言い、ミカエルの前にも香り高い魔の森茶が振る舞われる。

「ーー夢を見ました。小さな頃の夢です」

 えっ、と僕らは顔を見合わせた。

「そ、それは、『夢』なのですか?吾輩の見立てでは、陛下の……」

 メイザースが半分立ち上がり、それをシャルスが制した。

「私の『記憶』でしょう。今から、『あの日』私が見た真実を話します」

 シャルスは言葉を切ってお茶を一口飲み、それから語り始める。それは誰も知らない真実だった。

「あの惨劇の日、子供部屋に父上が遊びに来てくれてしばらく二人だけですごしていました。すると窓から黒い人影が入り込んできて、私に腕を伸ばしたのです。父上は私を庇い剣を抜いて人影に斬り付けたところに、第一近衛隊が部屋に、落ちた黒い腕から黒い霧が巻き上がり近衛隊の身体に入り込み、血を噴き出しました」

 それって……『ドラゴン・ブラッド』じゃないのか?

「人影に見覚えはないのか?」

 グレゴリーの言葉にシャルスは首を横に振る。

「目深にフードを被り全てが黒い感じで全く分りませんでした。再び僕に向かう人影から僕を引き剥がし、父上に人影が覆い被さり、父上も近衛隊のように血を吐きながら、剣をめちゃくちゃに振るい、その時に近衛隊も……。私は怖くてお守りの陣を発動させた時、父上が自分の腹に剣を当てようとしたのです。それをやめさせようとして、飛び込んだ瞬間にグレゴリーが入ってきましたね」

 グレゴリーが頷いた。シャルスはそれで傷を負い、グレゴリーも傷ついた訳だ。そこからはグレゴリーもメイザースも知っていたことだった。巨人と獣人を連れた小人が神下ろしをして、アーネストの罪に罰を与えた。

「グレゴリーが来た時には近衛隊は黒い霧により多分亡くなっていたと思います。そして黒い人影も消えていました」

 つまり、『ドラゴン・ブラッド』はその人影とやらが持っているってわけだ。そいつがアリシア王国にいて、アーネストはその切り落とした腕を手に入れ、毒を抜いて消滅させた。

 だが、人影は何故この王宮に入れたんだ。二重三重の防護魔法がかけられているはずだぞ。

「ミカエル、いえ、泣き虫のリンク、幼名を思い出しましたよ」

 ミカエルは真っ赤になって、

「あ、ありがとう、ございます」

と俯いた。

「父上はどこですか?会えますか?」
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