118 / 165
十八章 真実の夜と朝
117 いつものお茶を
しおりを挟む
「一階の部屋の生活魔道具の有能性と有効性を見ていて、何故我が国では導入しないのか不思議だったのです。我が国も文明化した方がよいと思っておりました」
そんな風にシャルスは感じていたんだな。
食後のドルチェが運ばれてくる。コンポートのゼリー寄せに端にチョコレートを掛けてある。ケーキとかじゃないのは、甘いものが不得意なアーネストへの配慮だろう。
シャルスの話を聞いたアーネストは
「レガリア連邦は基本的には『前例』に支配されている。『変化』を極端に嫌うのだが、それは分かる。今の暮らしを壊されたくないのは、皆一緒だ。しかし俺は『外』を知っている。だからこそレガリア連邦の一番南の我々から『文明』を受け入れたい。新王シャルスはどうだ?」
と尋ねてくる。
ドルチェが出されてお茶がないのに僕は気づいて扉を見ると、アーネストがアズールとレーンに手をひらひらとやり、入室を禁止する。シャルスに話させるためとはいえ、タイミング悪すぎだろうが。
しかもシャルスはぱくんと頬張った後で、もぐもぐして幸せそうな顔をしている時にアーネストが言うから、
「ふぁい?」
と可愛い声で首をアーネストに向けるから可愛くて仕方がない。『ふぁい』だよ、『ふぁい』。メリッサもたまに叱っていたりしたんだが、その時の涙を堪えた声と似ていてすごく可愛い。
が、真っ赤になってシャルスは咳き込んだ。
「ノリン、お茶を」
「あ、ああ」
アズールかレーンを呼べばいいのにと僕は不思議に思ったけど、聞かれたくない話だからかなあと、用意されているポットに入っている茶葉を確認した。魔の森の春の茶葉を冷蔵していたものだ。しっかりと蒸らす必要がある。
湯を入れるとポットにカバーをかけて全体を温めて、茶葉の様子を見てゆっくりと回して味を均一にした。
「ノリン様、お運びのお手伝いいたします」
ミカエルが僕の横に立ち、トレイにセネカとスバルのお茶を乗せて運んでくれる。
「ありがとう、ミカちゃん」
セネカがミカエルに声を掛けていた。次に僕がミカエルのトレイを待っていると、アーネストが
「手で構わん」
と持ってくるように催促する。僕は少し肩をすくめてアーネストにお茶を出したらなんとシャルスに譲り、ミカエルがアーネストと僕に出してくれる。
一口シャルスは飲むと、
「いつもより美味しいです」
と呟く。ふふ、そうだろう。僕はオーガスタ時代からお茶を入れるのには自信があるんだ。
シャルスは二口目を飲み、それからまだ怯えの残る瞳を上げてアーネストを見つめた。
「一階の部屋に生活魔道具があります。灯りを含めこんなに便利な道具があるのに、我が国は使えていない。貴族が反対するなら、平民の家庭で使えばいいと思います。そのためにはどうしたら良いものか考えあぐねますが……」
つまり、シャルスはアリシア王国の文明化に賛成で、アーネストが深く頷いた。
「それについては、オーちゃんのパパさんと話し済みだよ。ツェッペリン公爵領に『スラムチック工場』を作るんだ」
すらむちっく?なんだ、それは。
「スライムの核を壊してすぐにマナを流すの。マナ量は企業秘密。で、スライムチップを作るの。それを加工してガラスと同じものを作ることが出来るんだ。しかも原材料が魔の森に山のようにいるスライム。処分もスライムが食べてくれて、スラムチックを使えば、廉価版の生活魔道具が大量に作れるよ」
「凄いことになってる……」
父様、楽しそうかも。鉄道に工場なんて、いいなあ。見に行きたい。
「文明はツェッペリン公爵領からスタートするか。パールバルト王国はなんと言っている?」
アーネストが面白そうに肩を揺らす。
「パールバルト王国は特にね。だって魔の森は管轄外だし。父さんからは何も言われてない。うちはスズキランドで持っているような小さな国だから」
「砂糖と塩と魔石があるだろう」
「まあね、でも、魔石はガルドバルド大陸の方が品質いいし」
「品質の良いものは貴族が高値で買うだろう。廉価版にぴったりではないか」
さらっとアーネストがスバルのぼやきに返す。アーネストのこの考え方ってすごい庶民寄りだよな。
話が終わったとばかりにお茶を一口飲んだアーネストがふっと笑った。
「うん――本当に美味いな」
しみじみと味わうように呟く。そうだろう、お茶には自信があるからな。
「本当に美味しいよ。ノリン、お茶を入れる才能あるね。うちだとさ、母さんも父さんも、そういった才能がなくてーーむが!」
喋り始めたスバルの口にセネカがドルチェを突っ込み黙らせてから、進捗状況と商会との連携や販路の説明をした。
一番大切なのは国の事業ではなく、ツェッペリン公爵家単独の事業であることが大切なんだと。
表面上、子供を王家に送り出して得た爵位復権。その後事業を起こしたものの地味な工場であり、醜聞にしかならない程度だが、その実、ガルドバルド大陸からの鉄道の終着地であり、廉価版魔道具の製作のための製品工場がある。
「ノリン、機会を作ってツェッペリン公爵配殿と話がしたいですね」
シャルスが笑うから、僕も笑う。
「ーー良い晩餐であったな。ラメタル王国、パールバルト王国とは友好関係を築きたい。国王に連絡をしてくれ。そして、身体に沁みる良きお茶だった」
アーネストの一声で食事は終わり、こうしてシャルスの誕生日と婚約式は終わったんだ。
そんな風にシャルスは感じていたんだな。
食後のドルチェが運ばれてくる。コンポートのゼリー寄せに端にチョコレートを掛けてある。ケーキとかじゃないのは、甘いものが不得意なアーネストへの配慮だろう。
シャルスの話を聞いたアーネストは
「レガリア連邦は基本的には『前例』に支配されている。『変化』を極端に嫌うのだが、それは分かる。今の暮らしを壊されたくないのは、皆一緒だ。しかし俺は『外』を知っている。だからこそレガリア連邦の一番南の我々から『文明』を受け入れたい。新王シャルスはどうだ?」
と尋ねてくる。
ドルチェが出されてお茶がないのに僕は気づいて扉を見ると、アーネストがアズールとレーンに手をひらひらとやり、入室を禁止する。シャルスに話させるためとはいえ、タイミング悪すぎだろうが。
しかもシャルスはぱくんと頬張った後で、もぐもぐして幸せそうな顔をしている時にアーネストが言うから、
「ふぁい?」
と可愛い声で首をアーネストに向けるから可愛くて仕方がない。『ふぁい』だよ、『ふぁい』。メリッサもたまに叱っていたりしたんだが、その時の涙を堪えた声と似ていてすごく可愛い。
が、真っ赤になってシャルスは咳き込んだ。
「ノリン、お茶を」
「あ、ああ」
アズールかレーンを呼べばいいのにと僕は不思議に思ったけど、聞かれたくない話だからかなあと、用意されているポットに入っている茶葉を確認した。魔の森の春の茶葉を冷蔵していたものだ。しっかりと蒸らす必要がある。
湯を入れるとポットにカバーをかけて全体を温めて、茶葉の様子を見てゆっくりと回して味を均一にした。
「ノリン様、お運びのお手伝いいたします」
ミカエルが僕の横に立ち、トレイにセネカとスバルのお茶を乗せて運んでくれる。
「ありがとう、ミカちゃん」
セネカがミカエルに声を掛けていた。次に僕がミカエルのトレイを待っていると、アーネストが
「手で構わん」
と持ってくるように催促する。僕は少し肩をすくめてアーネストにお茶を出したらなんとシャルスに譲り、ミカエルがアーネストと僕に出してくれる。
一口シャルスは飲むと、
「いつもより美味しいです」
と呟く。ふふ、そうだろう。僕はオーガスタ時代からお茶を入れるのには自信があるんだ。
シャルスは二口目を飲み、それからまだ怯えの残る瞳を上げてアーネストを見つめた。
「一階の部屋に生活魔道具があります。灯りを含めこんなに便利な道具があるのに、我が国は使えていない。貴族が反対するなら、平民の家庭で使えばいいと思います。そのためにはどうしたら良いものか考えあぐねますが……」
つまり、シャルスはアリシア王国の文明化に賛成で、アーネストが深く頷いた。
「それについては、オーちゃんのパパさんと話し済みだよ。ツェッペリン公爵領に『スラムチック工場』を作るんだ」
すらむちっく?なんだ、それは。
「スライムの核を壊してすぐにマナを流すの。マナ量は企業秘密。で、スライムチップを作るの。それを加工してガラスと同じものを作ることが出来るんだ。しかも原材料が魔の森に山のようにいるスライム。処分もスライムが食べてくれて、スラムチックを使えば、廉価版の生活魔道具が大量に作れるよ」
「凄いことになってる……」
父様、楽しそうかも。鉄道に工場なんて、いいなあ。見に行きたい。
「文明はツェッペリン公爵領からスタートするか。パールバルト王国はなんと言っている?」
アーネストが面白そうに肩を揺らす。
「パールバルト王国は特にね。だって魔の森は管轄外だし。父さんからは何も言われてない。うちはスズキランドで持っているような小さな国だから」
「砂糖と塩と魔石があるだろう」
「まあね、でも、魔石はガルドバルド大陸の方が品質いいし」
「品質の良いものは貴族が高値で買うだろう。廉価版にぴったりではないか」
さらっとアーネストがスバルのぼやきに返す。アーネストのこの考え方ってすごい庶民寄りだよな。
話が終わったとばかりにお茶を一口飲んだアーネストがふっと笑った。
「うん――本当に美味いな」
しみじみと味わうように呟く。そうだろう、お茶には自信があるからな。
「本当に美味しいよ。ノリン、お茶を入れる才能あるね。うちだとさ、母さんも父さんも、そういった才能がなくてーーむが!」
喋り始めたスバルの口にセネカがドルチェを突っ込み黙らせてから、進捗状況と商会との連携や販路の説明をした。
一番大切なのは国の事業ではなく、ツェッペリン公爵家単独の事業であることが大切なんだと。
表面上、子供を王家に送り出して得た爵位復権。その後事業を起こしたものの地味な工場であり、醜聞にしかならない程度だが、その実、ガルドバルド大陸からの鉄道の終着地であり、廉価版魔道具の製作のための製品工場がある。
「ノリン、機会を作ってツェッペリン公爵配殿と話がしたいですね」
シャルスが笑うから、僕も笑う。
「ーー良い晩餐であったな。ラメタル王国、パールバルト王国とは友好関係を築きたい。国王に連絡をしてくれ。そして、身体に沁みる良きお茶だった」
アーネストの一声で食事は終わり、こうしてシャルスの誕生日と婚約式は終わったんだ。
2
お気に入りに追加
550
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる