国王親子に迫られているんだが

クリム

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十七章 シャルスの誕生日と婚約式

115 国王譲位

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 曲が止み静かになった会場にアーネストの声が響く。

「俺は本当に良き時間を過ごした。シャルス、および、シャルスの婚約者に礼を尽くしたい。ノリンを慈しみ育てたツェッペリン伯爵家、前へ」

 ざわざわと声が聞こえる中、母様が檀下にやってきて礼をする。改めて綺麗な新しいドレスだなあと思った。母様もすごく綺麗になられた。

「二代に渡る爵位に見合わぬ婚姻による呪縛を今解こう。グレゴリー」

「はっ」

 グレゴリー?

 グレゴリーが長い金の錫杖を手にしていた。真ん中には人の拳大の魔石水晶が付いている。

「エルサ・ツェッペリンに魔の森を守護する魔石水晶杖を返す。それにより公爵への復権をし、魔の森の統治権を伸ばす。ラメタル王国との境までの魔の森全域を領地とし、南での地政を固めよ」

 錫杖を手にした母様はくすんだ髪色が僕と同じ金髪になり、マナが一気に跳ね上がっているのが、僕にだって分かるほどだ。

「ーーありがとうございます。お役目、謹んでお受けします」

 大お祖母様の婚姻で一度伯爵家に堕ちたツェッペリン家は母様の代で男爵に堕とされた。それが公爵家となり、南の地域全体を管理する立場となったのだ。破格の待遇である。

「頼んだぞ。これで南の守りは安泰した。北はメルクとレーダーの二枚板で盤石だ。これにより俺は王太子シャルスに本日をもって王座を譲る。これは生前譲位である」

 ーーーーは?

 僕はアーネストを見上げてから、横のシャルスを見上げた。シャルスも硬い表情をしてアーネストを見ている。アーネストの背後のグレゴリーは知っている顔だろうな、あれは。表情を変えていない。

「それに伴い、先程シャルスの周りに集まった若者を積極的に政務宮へ登用する。グレゴリー宰相からの勅書により登城してシャルス新国王を支えてくれ。異論のあるものは?」

 文句の一つでもレーダー公が言いそうなのに、訳がわからないって表情のカモンはともかく、レーダー公は薄い笑みを浮かべたまま軽く頷いていた。

 つまり、是だ。

 レーダー公は認めている。

 この数年の間アリシア王国を支えていたのはシャルスだ。だからか?

 いや、違うだろう。僕にあんなことを言ったレーダー公だ。

 何かをしでかしてシャルスを疲弊させるつもりか?

 今のままではカモンの王位第二位は揺るがない。

 それならば、アーネストと僕らが『ランカスターの亡霊』として暗躍して助けた方がいい。

 アーネストは裏に周り、国を支えることにしたんだな。レーダー公の動きを裏で阻止する。うん、僕もやるよ。

「ーー謹んで、生前譲位をお受けします」

 シャルスがアーネストの膝下に片膝を付いた。僕も慌てて片膝を付いてシャルスに従う。

 グレゴリーから王冠を受け取ったアーネストが、金の彫りがあるレリーフ調の王冠をシャルスの頭にかぶせ、メリッサの頭を飾った細身の王冠を僕の頭に載せる。

「頭が小さい、手で支えろ。ーーいいか、必ず来いよ」

 シャルスにも分からないくらい小さな声で僕に告げたアーネストは、僕らを立たせると芝居がかった声で、

「俺は新しい王シャルスの即位に対して、ガルド神に祈りを捧げよう。ガルド神が許すのならば、銀杯系譜が書き換えられているはずだ。明日の良き時に、王位継承権のあるものは共に神殿へ集まってくれ。時は神官長がガルド神へ伺い立て神託のち、グレゴリーから書簡にて伝えられるだろう」

 明日?

 今、継承権を持つのは、カモン・レーダーだけだ。レーダー公の手前、全ての人が継承権を破棄した。レーダー公の息子もだ。カモンとカモンの後見人のレーダー公一派が明日、神殿にやってくるんだな。

「我々は親子での語らいと客人との顔見せがある。みなはゆるりとご歓談を。俺の話は終わりだ。宴を楽しんでくれ」

 晩餐用の食事が追加されて、場内は酒と料理で賑わい始めていた。






 ノリンと国王陛下のダンスはそれは見事なものだった。フロアの端にいるのに目を引いて目が離せない。アッシュ・ツェッペリンは父母の横でずっと見ていた。

 相性がいいのか、体躯が違い体高差もあるのにぴったりと合うステップやターンなどは、ノリンの兄であるアッシュに教えた時よりうまいし、自然だった。

 王太子殿下とはノリンが少し気を遣っている感じがしたが、国王陛下にはそれがない。

「婚約者殿は怖いもの知らずだな、陛下と踊るなんて」

「ああ、数年前に悋気で侍従騎士から第一近衛隊含め周りの人を皆殺しにしたんだろう?」

 見ている貴族の者の中からそんな声がして、アッシュはぎょっとして振り向いた。

 話しているのは年嵩の貴族たちで話の方向はすぐに切り替わり、

「それにしても、あの華奢な小さな身体で成人済みかよ。腰なんて折れてしまいそうだな」

「いい腰つきだ。閨係からの引き上げらしいが、殿下が正妃を娶れば用済みだろう。さてさて、わしが引き受けてやるとするか」

「いやいや、私が貰い受けますぞ。寝台に繋いで置くのも一興ですな。たまにはお貸ししますぞ」

と密やかに艶めいたものになり、アッシュは怒りに手を握り締めた。

 色恋に塗れた貴族たちをも魅了する姿で踊るノリンに焦がれているのは自分も同じではないか、とアッシュは再びノリンを見つめる。

 ノリンと国王陛下がターンして、片手を合わせる。ああ、息がぴったりだ。

「『皆殺し陛下』が笑っているぞ、珍しいな」

 誰かの声がして、国王陛下を見ると、陛下が何やら話しながら笑いかけて、ノリンが破顔した。それがやけに可愛くて悔しかった。

 何故同じ宿り木の兄弟だからこそ諦めた。覇気のない王太子殿下にやるくらいなら、ノリンを連れて逃げようと考えた時もある。

 だか、国王陛下にも気に入られていて、よく部屋に遊びに行くと聞いて諦めた。そして今突きつけられた。ノリンの笑顔は、間違いなく国王陛下に向けられている。

 アッシュは何度目かの気持ちを整理した。

 諦めるのだ、弟のノリンを。そして幸せをガルド神に祈ろうと、気持ちを封じ込めた。

 

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