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十七章 シャルスの誕生日と婚約式
113 カモンの父親?
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アストラが人混みに紛れて消えてしまい、今になって再び僕はピンチに戻る。やっぱり一人じゃないか。
「やっぱり母様と父様のところへ行こう。母様の新しいドレスも見たいし、大おばあさまのドレスを改造した経緯も聞きたい」
とりあえず一人でいるのはやばい。なんか、ちらちら視線がくるし、それからミカエルの横に行こう。どうせ、壇上の席に飽きてスバルもセネカも降りてくるからな。
よしと力強く頷き、僕は会場をくるりと一周するつもりで歩き出した。給仕をしているレーンと目が合うと微笑まれ、なんだろうと立ち止まった辺りで、不意に聞き覚えのある声で呼び止められた。
「ノリン君、俺と踊らないか?」
え、何故、ドヤ顔のカモンが……って、レーダー公の座っている場所じゃないか!カモンの後ろに椅子に座っているレーダー公と目が合った。
――こいつ、レーダー公に言われたんだな。
一番初めに学舎で声を掛けてきたのもカモンだ。あの時、お茶を出してくれていたな。激マズ茶ではないと思うんだけど。カモンはきっと悪い奴ではないと思うんだが、背後のレーダー公が嫌だ。
レーダー公の『寿ぎ』あれは『呪言』に近い。シャルスの無能を告げ、カモンの役に立てと僕を見据えた。あの目を、あの声を忘れられなくて、
「お前とは踊らない」
アーネストとすごく似ている顔で、首を傾げる。嫌な顔だ、なんでそんなに似ているんだ。ずっとそう思っていた。
僕の拒否発言に、カモンの後ろに控えていた子息令嬢が悲鳴だの不満だのを囁いている。
「あれ?だって今、君はひとりぼっちだろう?ノリン君が一人で可哀想だからきたんだ」
「……可哀想?」
「だって殿下はあんなに囲まれていて、君は一人じゃないか。閨係だったから選ばれた婚約者の一人だろう?そのうち誰か貴族令嬢をお祖父様がお与えになるからね。それまでの辛抱だ」
何言ってんだこいつ。だからもう一度言ってやった。
「『俺』はお前とは絶対に踊らない。シャルスが仲間と楽しそうで何よりじゃないか。シャルスが好きな奴が出来て、シャルスを好きになる奴がいるならそれでいい。お前は何を勘違いしているんだ?」
「でもさ、君は殿下の婚約者だろう?随分と余裕があるんだなあ」
不思議そうな表情をしたカモンの手が僕の肩に伸びてきて、僕は触られたくないなと身体をよじった時、カモンが手を引っ込めて、何故か身体を強ばらせる。
「ーー触るな、小僧」
ああ、アーネストの声だ。振り返るとアーネストが少し怖い顔をして立っている……って、おいおい、貴賓……はもう壇上にはいなかった。
スバルは見ると軽食をパクついているし、セネカはミカエルの横にいてシャルスの様子を見ていた。
「ーー『父上』」
カモンはまるで昔からそうであるかのように明るくアーネストに話す。するとアーネストが僕を引き離して後ろから軽く抱きしめる形になり、
「お前の父親になった覚えはない」
と言い放つ。
え、違うの?僕もカモンも目を丸くした。
「俺の父上は国王陛下だと、お祖父様も言っていたのに?」
アーネストが来てからカモンの取り巻きは散っていて、レーダー公の座っている場所からも少し離れているから会話は聞こえないだろう。
「お前の母は俺の親父が死んだ時に、国王の宿り木から切り離された。だからお前の母が万が一にも誰かと精によるマナの交換を果たし、『レーダー公爵家の宿り木』に成ったお前を捥いだとしてもレーダー公爵家の一人であり、王家の実にはあらずだ」
カモンはただ呆然としていた。
「俺は……母上と誰の実なのだ?」
そう呟いても、アーネストが否定するなら、いくら顔が似ていてもだよな。
「さあ、知らん。俺は義母を抱いた覚はないのでな。ーーああ、銀杯が解放された暁に、銀杯を見るがいい。そうすれば国王の実かどうか分かるだう。継承権第二位のお前にも権利がある」
とアーネストがこのように否定するなら、カモンはアーネストの子供ではなく、カモンの母親が一人で実を捥いだ私生児扱いになってしまう。
カモンは感情の伴わらない目を少し見開いてから、アーネストから視線を外し僕を真っ直ぐ見ていた。
「ーー少し混乱してしまった。ノリン君、またね。次は、ダンスを踊ろう。リングロンドには自信があるのだ」
とぎこちない笑いを浮かべ、踵を返してレーダー公の座っている場所へ戻っていく。
まぁ、またって言っていたがないだろうな、そんな機会は。
僕はそう思って、やれやれと小さく息を吐いた。そのままシャルスのところに行こうと歩み出すと、
「おい、待て待て」
と後ろから腕を掴まれた。
「お前助けてやったのにどこへ行く?」
なんだか、昔のアーネストみたいだな、えらく軽い口調だ。いつもの気怠い感じではないし、不機嫌な声でもない。だから素の口調のまま
「シャルスのところにいくつもりだ。ーーだめなのか?」
と尋ねた。
「だめだ。せっかくいいチャンスじゃないか。見てみろ、レーダー公がいながらそれを気にせずシャルスと語らう若い芽を。シャルスを慕い慈しんでくれる真の臣下の逢瀬を邪魔してはいかんだろう」
おい、僕はシャルスより若いんだが。
僕が目を上げた途端、アーネストの視線はシャルスを捉えていて、アーネストの目元の歪みを見た。
泣きそうで笑う?なんでだ?
その目が、こちらへと戻された。
「俺と踊れ、ノリン」
「え、わあっ!」
僕は唐突に腕を掴まれて、ダンスの輪に踊り出た。
「やっぱり母様と父様のところへ行こう。母様の新しいドレスも見たいし、大おばあさまのドレスを改造した経緯も聞きたい」
とりあえず一人でいるのはやばい。なんか、ちらちら視線がくるし、それからミカエルの横に行こう。どうせ、壇上の席に飽きてスバルもセネカも降りてくるからな。
よしと力強く頷き、僕は会場をくるりと一周するつもりで歩き出した。給仕をしているレーンと目が合うと微笑まれ、なんだろうと立ち止まった辺りで、不意に聞き覚えのある声で呼び止められた。
「ノリン君、俺と踊らないか?」
え、何故、ドヤ顔のカモンが……って、レーダー公の座っている場所じゃないか!カモンの後ろに椅子に座っているレーダー公と目が合った。
――こいつ、レーダー公に言われたんだな。
一番初めに学舎で声を掛けてきたのもカモンだ。あの時、お茶を出してくれていたな。激マズ茶ではないと思うんだけど。カモンはきっと悪い奴ではないと思うんだが、背後のレーダー公が嫌だ。
レーダー公の『寿ぎ』あれは『呪言』に近い。シャルスの無能を告げ、カモンの役に立てと僕を見据えた。あの目を、あの声を忘れられなくて、
「お前とは踊らない」
アーネストとすごく似ている顔で、首を傾げる。嫌な顔だ、なんでそんなに似ているんだ。ずっとそう思っていた。
僕の拒否発言に、カモンの後ろに控えていた子息令嬢が悲鳴だの不満だのを囁いている。
「あれ?だって今、君はひとりぼっちだろう?ノリン君が一人で可哀想だからきたんだ」
「……可哀想?」
「だって殿下はあんなに囲まれていて、君は一人じゃないか。閨係だったから選ばれた婚約者の一人だろう?そのうち誰か貴族令嬢をお祖父様がお与えになるからね。それまでの辛抱だ」
何言ってんだこいつ。だからもう一度言ってやった。
「『俺』はお前とは絶対に踊らない。シャルスが仲間と楽しそうで何よりじゃないか。シャルスが好きな奴が出来て、シャルスを好きになる奴がいるならそれでいい。お前は何を勘違いしているんだ?」
「でもさ、君は殿下の婚約者だろう?随分と余裕があるんだなあ」
不思議そうな表情をしたカモンの手が僕の肩に伸びてきて、僕は触られたくないなと身体をよじった時、カモンが手を引っ込めて、何故か身体を強ばらせる。
「ーー触るな、小僧」
ああ、アーネストの声だ。振り返るとアーネストが少し怖い顔をして立っている……って、おいおい、貴賓……はもう壇上にはいなかった。
スバルは見ると軽食をパクついているし、セネカはミカエルの横にいてシャルスの様子を見ていた。
「ーー『父上』」
カモンはまるで昔からそうであるかのように明るくアーネストに話す。するとアーネストが僕を引き離して後ろから軽く抱きしめる形になり、
「お前の父親になった覚えはない」
と言い放つ。
え、違うの?僕もカモンも目を丸くした。
「俺の父上は国王陛下だと、お祖父様も言っていたのに?」
アーネストが来てからカモンの取り巻きは散っていて、レーダー公の座っている場所からも少し離れているから会話は聞こえないだろう。
「お前の母は俺の親父が死んだ時に、国王の宿り木から切り離された。だからお前の母が万が一にも誰かと精によるマナの交換を果たし、『レーダー公爵家の宿り木』に成ったお前を捥いだとしてもレーダー公爵家の一人であり、王家の実にはあらずだ」
カモンはただ呆然としていた。
「俺は……母上と誰の実なのだ?」
そう呟いても、アーネストが否定するなら、いくら顔が似ていてもだよな。
「さあ、知らん。俺は義母を抱いた覚はないのでな。ーーああ、銀杯が解放された暁に、銀杯を見るがいい。そうすれば国王の実かどうか分かるだう。継承権第二位のお前にも権利がある」
とアーネストがこのように否定するなら、カモンはアーネストの子供ではなく、カモンの母親が一人で実を捥いだ私生児扱いになってしまう。
カモンは感情の伴わらない目を少し見開いてから、アーネストから視線を外し僕を真っ直ぐ見ていた。
「ーー少し混乱してしまった。ノリン君、またね。次は、ダンスを踊ろう。リングロンドには自信があるのだ」
とぎこちない笑いを浮かべ、踵を返してレーダー公の座っている場所へ戻っていく。
まぁ、またって言っていたがないだろうな、そんな機会は。
僕はそう思って、やれやれと小さく息を吐いた。そのままシャルスのところに行こうと歩み出すと、
「おい、待て待て」
と後ろから腕を掴まれた。
「お前助けてやったのにどこへ行く?」
なんだか、昔のアーネストみたいだな、えらく軽い口調だ。いつもの気怠い感じではないし、不機嫌な声でもない。だから素の口調のまま
「シャルスのところにいくつもりだ。ーーだめなのか?」
と尋ねた。
「だめだ。せっかくいいチャンスじゃないか。見てみろ、レーダー公がいながらそれを気にせずシャルスと語らう若い芽を。シャルスを慕い慈しんでくれる真の臣下の逢瀬を邪魔してはいかんだろう」
おい、僕はシャルスより若いんだが。
僕が目を上げた途端、アーネストの視線はシャルスを捉えていて、アーネストの目元の歪みを見た。
泣きそうで笑う?なんでだ?
その目が、こちらへと戻された。
「俺と踊れ、ノリン」
「え、わあっ!」
僕は唐突に腕を掴まれて、ダンスの輪に踊り出た。
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