国王親子に迫られているんだが

クリム

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十七章 シャルスの誕生日と婚約式

111 舞踏会場の中

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 僕は緊張している顔のシャルスと壇上裏のカーテンの後ろにいる。

 シャルスが可愛い!どうしよう、めちゃくちゃ可愛い。

 シャルスの政務用の軍服は深い青だ。だからそれに祭礼用のマントを羽織るのかと思いきや、純白の軍服に金糸の肩飾り、そして袖の大きな折り返しには僕のドレスの裾にある模様が金絹で刺繍されている。

 これもレーンがやっだのだろうなあ。

「ノリン、すごく綺麗です」

 もう何回目だろう、その褒め言葉。僕は笑いながら、

「うん、ありがとう。シャルス、可愛いよ、すごく可愛い」

と再び答えた。

 いつもより露出の少ない服。首元にはキラキラする首飾り……が重い。耳飾りは小さめだけどセットみたいだ。

 それ以上に舞踏会場の部屋の様子が半端なかった。まずは部屋だ。壇上のレースのカーテン越しで見えるだけでも、蝋燭ではなく魔石によるライトがシャンデリアに使われていて部屋が明るい。この部屋は防犯上窓が小さいのだが、部屋はまるで太陽が照る青空の下みたいに明るかった。

 それから夏の空調だ。魔石による室内温度調整魔道具を壁に据え付けてあるから涼しいし、過ごしやすい空間を演出している。

 軽食ブースでは、一口大で食べられる食品を並べて、甘いものから、ワインに合う食材を温めながら保存して、取り分けをするように調理師がお仕着せの真っ白なキッチンコートを着で立っており、ディキャンターカウンターではパーラーメイドとバトラーが飲み物や食べ物を、数個あるボックス席や壁際の椅子に運んでいた。

 その中には赤毛の二人の姿も見える。こんなそんなを全て依頼したのはグレゴリーで、任されたのはセネカであり、メーテル商会だ。もちろん、シュトラウス商会、マギー商会も得意分野を活かしているようで、シュトラウス商会の香辛料やワイン、マギー商会のナプキンやテーブルクロスなど食品、繊維といい感じだ。

 グラミー商会はグラミーが逃亡した経緯もあり紹介としての権利は剥奪され、屋敷は売地となったらしい。

「皆さん、結構食べていますね」

 シャルスが呟くのを聞いて頷いた。

 色とりどりのドレスと貴族服に身を包んだ貴族たちの中には、屋敷を王都に持たない人たちもいるから、こうして昼食くらいのものも用意したほうがいいと枕語りで僕がうつらうつら話したのをシャルスが聞いていて、それをグレゴリーってば採用してくれたんだな。

 今、舞踏会室にいるのは、伯爵家までの中流下流貴族だ。名前も呼ばれない。ツェッペリン家も男爵家だから、もう会場にいるのが見えた。みんな服を新調していて本当によかったよ。

 だから、侯爵から入場を告げる内政省の声が響き渡る今からが、なんとなくスタートって感じなんだが、

「グレゴリウス侯爵夫妻、ご入場!」

ってグレゴリーだ。今日は侯爵の仕事のようだ。マティルダさんはオレンジのタイトなドレスで、巨人の血を引くしっかりとしたボディを魅力的に魅せていた。グレゴリーもいつもの長衣ではなく、貴族ジャケットを着ていて、なんだよ、格好いいじゃないか。

 ふと壇上を見ると、真ん中の玉座に濃赤の軍服のアーネストが座っている。髭もなく着崩してもなく、髪も整えられていて、昔の姿を彷彿とさせる。

「ノリン、大丈夫ですか?」

 やばい、あとそろそろで呼ばれる。主役のシャルスと一緒に進むんだよな。絶対変な顔で見られる。まずくないか、この格好は。だって白だよ?純白だよ?

「レーダー公爵御一同、ご入場!」

 その直後会場が、ざわめきと歓声に包まれた。

 カモン・レーダーが赤い貴族ジャケットを着ていた。袖の折り返しが金色の縫い取りで、アーネストと被してきていた。明らかに意識している。学舎の生徒の黄色い声が響いて腹が立つ。ここはシャルスの誕生祝いの場だぞ?

「怖いのですか、ノリン?」

「怖い?まさか。俄然やる気だ」

 庶民アンド底辺貴族の意地と気合いと泥の中根性を見せてやる。

 壇上のアーネストのやや後方には貴賓客のテーブルがあり、まあ、今関係している二人が居心地悪そうに座っている。

 ガルドバルド大陸タイタン王国及びパールバルト王国王子、スバル・パールバルトと、ラメタル王国王子セネカ・ラメタルである。軍服ではなくて、貴族ジャケットにリボンタイに魔石ブローチ、大きな袖の折り返しには各国の国旗の絵が縫い込まれている逸品だ。セネカはそれにバルーンキュロットをはいてあざと可愛いを引き出していた。

 僕らの背後には侍従騎士のミカエル・メルクがいる。父親から公爵を受け継いでいるが、僕らを護衛するため会場では呼ばれない。

「シャルス王太子殿下並びにご婚約者のノリン・ツェッペリン男爵子息、登壇!」

 僕はシャルスに寄り添い手を取り合って、カーテンの開かれた会場に一歩歩みを進めた。しっかりと手を握ってシャルスの少しだけ後を進む。

 あくまでもシャルスが前だ。

 僕らの白い服は、会場の誰もの目を引いた。今は白い僕らを奇異として捉えるか、潔しと捉えるか。そもそも『結婚式』って概念はガルドバルド大陸だけのもので、ユグドガルド大陸にはないんだ。

 シャルスも緊張しているのが分かる。

 やばい、可愛い。

 小さく震えている様子を感じて僕はふわりと笑みを浮かべた。アーネストは少し肩を竦めると苦笑と、複雑そうな親心みたいな噛み締めるかのような表情をした。

「集まってくれた皆には感謝する。成人の儀でも皆の前に立つことが出来なかった王太子がこうして会場に立てたことに感謝する。遅ばせながら我が国の王太子シャルスを紹介しよう」

 アーネストの奴、なかなかちゃんとしているじゃないか。シャルスが軽く王族式の礼をする。

 続いて各貴族がシャルスに寿ぎの言葉を送るのが通例だ。だが、アーネストが話し始めた。

「我が息子シャルスを公私に渡り支えてくれたノリン・ツェッペリンを紹介させてくれないか。そしてノリンを捥ぎ育んだツェッペリン男爵家の一同、段中へ」

 母様が先に、兄様と父様が続いた。平民の父様はあくまで母様の配偶者だからだ。

「シャルスの婚約式も兼ねている。婚約式の祝いに、男爵家に降格していたツェッペリン家の爵位を一段引き上げ伯爵家とする。俺の寿ぎは以上だ。婚約者の二人のダンスの披露のあと、今宵の宴を楽しんでくれ」

 母様たちが段下へ下がり、僕らはゆっくりとフロアに降りた。



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