国王親子に迫られているんだが

クリム

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十六章 婚約式の準備へ

107 次期王の行方

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 転移陣はさすがにと思い、セネカと二人で小走りに走って、衛兵の許可もなく政務室に飛び込むと、

「ああ、ノリン。今、戻りました」

シャルスが立ったままそう笑顔で呼びかけてきた。

 あれ、緊急事態って?

 シャルスは僕に笑いかけてから、

「すみません、ノリンと二人だけにしてもらえますか」

と笑顔を無理に作り出しているような微妙な表情を見せて、僕だけを残してみんな部屋を退出する。すると、シャルスに抱き寄せられた、というか、抱きつかれた。

 まるで小さな頃のシャルスみたいで、ぎゅううっと抱きつかれ、肩口に額を押し付けてくる。

 あ、これ、泣きそうなやつだ。

「シャルス、どうしたの?定期検診でなにか?」

 本気で心配になって尋ねる。

 でもシャルスはただ抱きついていて、とりあえず僕はソファに誘導して二人で座る。抱きついたままだから、ソファの手すりに僕は背中をつけシャルスは肩に額をつけたまましがみついていた。

 何があったんだよ。

 アズールからの連絡はなし。さすがに昔みたいに泣きじゃくるってのはないみたいなんだが、すごく心配だ。

「お茶を淹れようか?そうだ、魔の森のお茶はどうだ?」

 ノリンの口調じゃない気がしたが、シャルスは首を横に振る。

 ソファにしばらく一緒に腰を下ろしていて、シャルスが少しだけ泣いているのが分かるのは肩口が湿る気がしたからだ。顔を離すつもりがないシャルスに対して、

「シャルス、メイザース医師に何かされたの?大丈夫?」

 メイザース、殴る。

 シャルスのマナ量と僕のマナ量の話しをしたのなら、やっぱり子は成せないってことになるのは、シャルスも知っていることだ。

「ノリン……」

 顔を上げたシャルスの瞳は潤んでいて、僕はシャルスの頭を撫でてから抱きしめる。

「ーーノリン!私はっ……ノリン以外はいらなっ……」

 言葉半ばに泣き声になり、泣くのを我慢しているシャルスをぎゅっと抱きしめていた。

「大丈夫、僕はここにいるから。落ち着くまで、ゆっくり息を吐いて吸ってはいて」

 嗚咽を堪えて言葉もうまく吐き出せないシャルスの背中に手を回り、ゆっくりとトントンと叩いてやる。それはメリッサがシャルスを落ち着かせて寝かせる仕草だった。

 メリッサとは彼女が生きていた間、忙しいアーネストに代わりシャルスを育てるのを一緒に行なった。乳母もいたが、それはメリッサの乳母で、なかなか歳を取っていたからかあまり手を出さず、二人で大慌てで育てていたものだ。

 しばらくして、シャルスがしがみつくのを止めて普通にソファに座り直した。顔はうつむき加減のままで、やがて声を出す。

「マナ値は上がりましたが、ノリンのそれとは比べものになりませんでした。メイザースからは、次の誕生日までに子が成せないなら、マナ値の近い者と宿り木で実を成せと言われました」

 実と呼ばれている子の成りようは一定の決まりがある。それはオーガスタ時代、師匠から聞いたことだ。

 腹実同士、宿り木同士の方が実は成りやすいのは、ガルド神の『理ーことわりー』なので仕方がない。あとは『マナ値』が近いものがよい。そしてガルドバルド大陸の獣人の血を受け継ぐ者に強く出る『魂番い』では、マナ値はぴたりと一致する。

 シャルスは静かに話し、それから一度言葉を切ったから、僕はゆっくり話しを聞くつもりで頷き、シャルスの言葉を繰り返した。

「次の誕生日までに……ですか。メイザース医師は他には?」

「はい……王家を繋げていくのが、王族の大きな役割の一つだと諭されました」

 メイザースあいつ、シャルスの子供が見たいだけなんじゃないのか?いやいや、確かにそうなんだ。理屈は通っている。王族の役割は子を成し政務を滞りなく進め、王国を荒れさせないことだ。

「そのあと廊下で、レーダーのおじいさま配下の人々と会いました」

 どうやら、そちらの方にも問題があったようで、頷いて話を聞くと、シャルスに対してかなりの暴言があったようだ。

 周りには文官武官を含めて、数人の貴族がいたが、レーダー公の配下と知ってか、誰も諌められず、シャルスは聞いていたのだと言う。

「私のことは仕方ありません。マナは少ない、オドも少ないため体調が優れないことの方が多いのは事実です」

 そして、それを傘にかけるような物言いをした貴族に対し、ミカエルが進み出て庇ったところ、ミカエルの長い白い髪を掴んでどかそうとした。

 虎の皮を被った小動物だな、それは。

「カモン・レーダーの名前を出されました」

「え?」

「貴族学舎の一年次にいるそうですね。レーダーおじいさまの孫で、王位継承権二位になるのだとか。彼の方が国王として相応しいから、辞退した方がいいといわれました。ノリンは同じ一年次ですね、彼のことを知っていますか?」

 知るも知らないも、僕はほとんど学舎に行っていないから……でも、カモン・レーダーを中心にして一年次はまとまっているのは確かだ。

「僕はあまり知りません」

 そう答えると、シャルスは何故だか少しホッとしたような表情を浮かべる。

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