国王親子に迫られているんだが

クリム

文字の大きさ
上 下
106 / 165
十六章 婚約式の準備へ

105 ダンスの練習の後で

しおりを挟む
 シャルスのベッドで目覚める日が増えた。レーンは帰ってこないし、そうしている間にも、日々は過ぎていく。

 ふふ、シャルスってば眉毛寄ってる。

 うつ伏せになって両肘で顎を支えてシャルスの顔を見ていると金色の眉が寄って眉間に皺があるから、可愛い顔が台無しとばかりに揉みほぐすと少し嫌な顔をした。

 アーネストよりメリッサ王妃寄りの顔は、ちょっと上鼻で唇が厚めだ。メリッサ王妃も少し少女寄りの顔をしていた。

『オーガスタさんはずるいですわ』

が口癖。

 なんでも一緒にやりたがり、いつも横で微笑んでいた。アーネストはそれを見て笑っていたし、時には煽ってもいた。そんなら負けん気がシャルスにもある。

 そんな負けん気のダンスの練習では、グレゴリーより巨躯の女性を見て二人して驚いた。

「マティルダ・グレゴリウスと申します」

 リーリアム王家の血筋を引くマティルダは物腰落ち着いたマダムで、優雅なゆったりとした女性だった。僕とシャルスは巨大な岩のような姿が滑らかに踊る様子に圧倒されながらも、ダンスの練習をしている。

 場所は舞踏会場ではなく客室の一部屋で行っていて、何故か多くの業者が入る舞踏会場を後ろ目に見つつ、婚約式の準備は本格的になっていた。なんだか忙しそうでせわしない感じだ。

「ーー坊ちゃん、お時間です」

 朝の起床時間があるから、僕は寝坊助のシャルスを起こす。夜にお風呂に入って寝ることができたらから、今日はお互いドレスシャツで、僕はちゅ、ちゅ、とシャルスの唇の横にキスをした。

「シャルス、朝だよ」

「ん……おはようございます、ノリン」

 ふふふ、寝癖、寝癖。

 さあ、一日が始まる、と僕らは起きて着替えた。






 ツェッペリン家からの母様の書状では、兄様がほとんど帰ってこないから礼服の準備が出来ないだとか、母様の服の話ばかりで何だか賑やかだった。レーンはたまに帰ってきては、僕をさくっと喰らい、またどこかに消えていく。アズールは何か知っているようだったけれど、

「秘密です」

とやんわり微笑むだけだ。うーん、気になる。

 とは言っても、僕らはオーガスタ時代の師匠のいうところの『まな板の鯉』という奴で、じたばたすることは出来ない。

 王宮勤めの下働きから貴族までなんだか妙に明るく活気付いていたし、あちこちが工事中だし、グレゴリーはめちゃくちゃ忙しそうだしで、僕らは少し取り残され気味になりつつ、ダンスの練習と政務をこなしていた。

 今日はダンスの練習後、シャルスはメイザース医師の定期検診だからミカエルとアズール一緒に医療宮に行き、僕はどうしようかと悩んでいた。

 メイザース医師には『絶対に』僕と来ないようにとの言伝があるそうで、ミカエルだってかなりの剣士だからと任せて置くことにした。万が一の場合のためアズールをつけていたし、シーカーは王宮の上空に飛ばしていた。

「うーん、どうしたらいいかなあ。政務室でシャルスを待つか……あれ?」

 政務宮に戻る間の渡り廊下を歩いていると、舞踏会場の入る主王宮から出てきたセネカを見つけ、セネカも僕に気付いて手を振ってきた。

「あれ、一人?シーちゃんは?」

 向こうからステップを踏むように、水色のショート丈のビスチェブラウスと短いキュロットを着たセネカが寄ってくる。

「シャルスは定期検診」

「そうなんだね。じゃあ、オーちゃんは時間が空いているんだ」

「あー、うん、そうなるな」

 セネカと話していると素がでるな、いかんいかん。

「じゃあ、離宮に来ない?久々にスバルもいるし、ダンスの後の休憩においでよ」

 当たり前みたいに手招きされて、僕はオーガスタ時代から頭が上がらない親友に頷き、後をゆっくりと歩き出す。

 アズールには僕の意思が伝わるから、離宮いることを意識下で伝えた。セネカが持つデバイスがあれば、シャルスに直接伝えられるんだろうな。そうしたらきっと安心するのにと思った。

 政務宮を通り過ぎて、居住宮の端にある監禁部屋をちらっと見たが、アーネストは帰れたのかな?地下牢から出たアーネストはへろへろだったから、移動陣で王宮に連れて帰ったけど、姿をみていないや。

 多分、大丈夫だろうさ、奴なら。

 離宮にはスバルがいて、甘いいい匂いがした。どうやらクッキーだかビスケットを焼いたらしい。はー、本当に得意なんだな。

「口から漏れてるぞ、ノリン~。クッキーでもメレンゲクッキーだよ。婚約式の帰りにラッピングして渡す奴。スズキランドでも出そうと思ってさあ。でも、まさかダンスがだめだったとはね。ノリンは何でも出来そうなんだもん」

 国の跡取り王子がクッキー作りかよ。本当に変わっている。

「ちなみに、俺は王太子だけど、国政には関わってないよ。多分、パールバルト王国の貴族の誰かが王国を継ぐんだろうな。父さんはそれを見据えているんだ。これ、試作品だよ、どうぞ」

と真っ白な絞り出しクッキーを出してくれ、お茶も出てきた。セネカは当たり前って顔をしてるから恐れ入る。

「うるっさいな、苦手ってより、あれしか知らなかったんだよ。あ、これ美味しい。純白のふわふわ」

 口の中でメレンゲクッキーが溶け出す。

「やった!じゃあ、セネカさん、これ、商品化ね!泡立て器を変えてよかった。魔石泡立て器を使って最後に自分の手で泡立てるんだよ」

「うん、いいよ。あとはラッピングも考えて」

「ラジャー!」

 答えてキッチンに引っ込んだスバルを見ていたセネカが、隣の僕を見下ろしながらお茶を飲んでいる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

処理中です...