国王親子に迫られているんだが

十六章 婚約式の準備へ

102 婚約式の段取り中

　王太子殿下であるシャルスと、ツェッペリン男爵家の次男ノリンの婚約式及び披露パーティの日にちは、元々シャルスの誕生日と決まっている。その日が近づいていて、王宮の中でも内政省と宰相であるグレゴリーは、忙しくてたまらない。

　それでなくても、密輸盗品オークションの壊滅処理や、ツェッペリン男爵家の伯爵復位の書類など、宰相室は書類で山積みになっていて、宰相補佐などいないグレゴリーは護衛騎士であるミカエルとその『自称番いで婚約者』のセネカを捕まえると手伝わせていた。

　パーティの日時、貴族への招待状、段取りがうず高くなり、それはシャルスには見せられないものだ。発表はもうじきで、発送を迫られていた。

「婚約式が結婚式代わりなんだね、アリシア王国は」

「セネカ様のお国は違うのですか？」

　セネカがミカエルの横で書類の分別をしている。

　ミカエルの胸が溢れそうなのは驚いたが、平等神ガルドは男女の区別をも変えたかったのか、たまにそのような者もいる。ミカエルはひた隠しにしていたようだがセネカに言われてオープンになり、内向的だった性格まで明るくなったようだとグレゴリーは考えていた。

「婚約式は家族のみ、結婚式で貴族を呼んでお披露目をするんだよ。その後、姉上たちは、オープン馬車で王都の端から端まで走らせて、集まった平民にもお菓子を配っていたよ。色々で自由なんだよ。ねえ、ミカちゃんはどうしたい？ああ、もっと早く出会いたかったよ。もう、なんでミカちゃんを探せなかったんだろ」

「セネカ様が一緒ならなんでも……でも、そうですね。獣性は成人年齢に近づいた頃から私も強い方ですが」

　ミカエルの肢体での剣捌きは獣性のおかげなのだろうとグレゴリーは、手合わせでいきなり強くなっていた時を思い出していた。だからか二人の話に、うっかり国家機密を口滑らせた。

「王宮事変以来、情報を漏らさぬよう、国には魔法省総出で結界を張っていたからな。外国人もセネカとスバル殿下が初めてだぞ。殿下の婚約が決まって結界魔法は解除されたが」

「「ーーえ？ええーっ！」」
　
　グレゴリーは二人の驚きようにはたと止まったが、

「セネカはミカエルの伴侶としてアリシア王国に留まるのだろうが。話しても問題あるまい？」

と開き直った。そもそも、グレゴリーだって当時、知らなかったのだ。

　魔法省による結界魔法を進言し、実行させたのはレーダー公だ。

　国王の狂乱、瀕死の王太子、第一近衛隊消滅、大隊長であるグレゴリーも魔剣ロータスにより深傷を負い、グレゴリウス公爵家のお抱え魔法師による治癒を受け続けいた頃の話で、王太子シャルスが国王アーネストの手に掛かり死んだ、と思っていた他国もある。そもそもシャルスが王太子だと知らない国もあるのだ。

　この結界魔法が『王太子』を隠していると気付いたのは、カモン・レーダーが貴族学舎に入学にしてきた時の違和感からだ。

　余りにもアーネストに似ているのだ。

　学長のアーネスト自身は気にしていなかったが、グレゴリーは幼少期からアーネストを知っている。冒険者に憧れていたアーネストそっくりの明るさを持つカモンは、姿形もそっくりだ。

　一時期、アーネストの監禁部屋に、無聊を慰めるため女を寄越していたのはレーダー公だ。グレゴリーはしばらくの間屋敷から出られない程のダメージを負っていて知らず、当時の宰相はレーダー公の配下だった。

「死人の腹から子種を出して、別の者に移し替えても、宿り木につくのか？」

　アーネストの監禁部屋での死体についてふと、シャルスの定期検診の後、ふと思いついてメイザース医師に聞いてみたら、

「是」

とあっさりと答えた。

　ずっとそう思ってはいたが、誰にも言えないでいたことで、考えるのはとにかく苦手だ。

「前王妃は公の娘でマナは多い。死体からすぐに取り出した精を体内に取り入れてマナを混ぜ、互いに祈れば宿り木に実は成るのですよ、伯父上」

　ふむふむとそんなものかと聞いていたグレゴリーだが、

「前王妃が王宮を出ていったのは王宮事変の後です。前王が死に第二王子であった王太子が死んだ後も王太后は残っていました。それはレーダー公の指示でしょう。公の玉座へのこだわりは誰もが知っているが、公は直系ではないとなると……考えられるのではないですか？事変当時の陛下は王太子殿下を手に掛け神から死を賜り、自暴自棄になっておられたようですから。となると、結界魔法はカモン・レーダーを次期王とする布石ではないですか？長い間、魔法省を牛耳っていたレーダー公だから出来た力技ですが、現宰相として次期王選に対して対抗措置はありますか？」

と甥のメイザースに言われて、グレゴリーはガツンと一撃を喰らわされたような気分だった。

「次期王……選？だと？」

「全貴族が集まる婚約式の席で、レーダー公は問うでしょう。カモン・レーダーが現王の子でも子でなくても、『第三位継承権を持つ』優秀で華があるカモンでは駄目かと」

　地味で物静かなマナの少ない王太子と、華やかで明るくマナを持ち優秀な成績の公爵孫。

「あああ、婚約式……荒れるぞ」

　そんなこんなを思い出してしまい、思わず呟いてから、貴族招待状の確認を終えた。

「婚約式、サプライズしちゃおうよ、グーちゃん」

　セネカが出してきたリストに目を通す。

「なんじゃ、この金額は！」

「魔道具って高いものだよ？」

　グレゴリーは頭を悩ませた。