国王親子に迫られているんだが

クリム

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十五章 毒の腕

98 それぞれの場所で

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「貴族の屋敷を探ってから、必要なら潜入して確かめた方がいいだろうな。シーカー、映像を中継」

 僕の言葉に地図以外の現在の様子が空中に現れた。立体視映像は小さな屋敷を僕の目を通して可視化させたものだ。

「これが現在、問題の屋敷の様子。貴族の馬車が到着中。どうする?夜まで待って、『毒』の行方を探索する?それとも殲滅?」

 僕がそう言ったらセネカが首を横に振り、

「今回は殲滅も崩壊もなしだよ。スバルがいるからね、穏便にいこう」

と話す。するとスバルが

「俺がいるから?」

とぶんむくれて、

「別に俺だって戦闘くらい出来るもん」

と主張してきた。

「マナ充填型麻痺銃パラライズあるんだぜ?」

 うわ、やる気じゃん。僕は剣や銃にマナを乗せることが出来ないから学べなかったけれど、スバルは出来るようだ。でも、麻痺銃って、とことん平和を追求するパールバルト王国王子なんだなあと思ってしまった。

「グーちゃんからは不審な病の正体を掴むことだけ言われているんだよ。多分シーちゃんの誕生日アンド婚約式までは動かせないんだろうよ。だって密輸には多くの貴族が関わっているし、一本釣りしたらレーダー公が釣れちゃうよ。王家間戦争になるよ」

 旧ランカスター王家とレーダー家の戦いかあ。うん、ひっじょーにめんどくさい。

「オーちゃん、口から出てるって」

 あ、やば。

「あ、貴族の馬車が出ていったね。もう、解像度低いなあ。新しいグランドシーカーをジーンにねだっておくね。確か、サテライトシーカーを、開発していたから」

 僕らはひとまず貴族街の屋敷へ行くことに決めた。







 日が入らない地下牢に足音がして、アーネストは目を開いた。ヒール靴の音だが、女の履く靴よりは重い音がする。

「ご気分はいかがか?ランカスター君」

 地下牢の檻越しに見上げたのは、見知った顔だ。

「公、酷いですなあ。あなたの忠実な部下に対してこの扱いですか」

 老齢のレーダー公は乾いた笑いを見せた。屍蝋化したような硬い頬は、近づく世代交代に弛んでいるようにも見えた。

 青い弓形の眼差しは相変わらず表情を読ませない。銀髪を撫で付けた小さな頭と痩せた身体。純金の縫い取りある貴族ジャケットにキュロットという、レグルス王族スタイルなのは、母親がレグルス王族の四女だからだろう。

「そうだな。お前たちはわしの忠実な部下だ。だが、仲間内での揉め事は勘弁してほしいな、ランカスター君」

「何の話だ?」

「平民に嘘を言っては駄目だよ、ランカスター君。貴族は正しいことをしなくてはならない」

 そこには、ブレンダー子爵の愛人がいる。新しいリーダーとなったアズホーン男爵に腰を手を回しているが、全く似合っていない。というか。アズホーン男爵は逃げ腰だ。その他には無頼漢の男たちが数名。冒険者崩れの盗賊団として盗品をかき集めている。

「わしは君を気に入っているんだよ。ランカスター君」

「気に入ってもらえて光栄です。レーダー公」

 アーネストがガシャと後ろ手の鎖を鳴らした。

「だからね、見事な快楽殺戮っぷりをブレンダー君に見せなくても。確かにブレンダー君は取り分が多すぎて、わしは君に少し愚痴話したがね。殺すことはなかったんだよ」

 アーネストはにやりと笑ってみせた。それから恭しくまるで紳士としての作法であるかのように頭を下げる。

「ブレンダー子爵はやりすぎた。あれでは目をつけられるのも当たり前だ。それにレーダー公は願っていただろう?」

 レーダー公は曖昧な笑みを浮かべたまま、否定も肯定もしなかった。

「平民のお嬢さん、すまないね。うちのランカスター君はわしに忠実な犬でね。うちの犬にブレンダー君はうっかり噛み殺されてしまったようなんだよ」

 まるで当たり前のような平坦な抑揚に女はぶるりと震えてみせた。

「し、仕方ないわ、じいさんの依頼だったんなら。あたしはあたしが知らなかったのが嫌なだけなのよ。じゃ、じゃあ、これでーー」

 女が牢から上がっていこうとすると

「アズホーン君、女を始末してくれないかな」

と演技かかったような声でレーダー公がはっきりと宣言した。

「出来るよね、君なら」

 アズホーン男爵は胃に手をやってから、女の髪を掴んで引き倒して拳で顔を殴る。

「は、はい、はい!この安っぽい香水には嫌気が刺しておりました!」

「そうですか。殴るだけではだめだよ。ちゃんと刺して殺さないと。後ろの君、剣を貸しておやりなさい」

 剣を掴んだアズホーン男爵が女の胸に剣を刺した。女は呼吸するような悲鳴を放ち階段際で死んでそれっきりだ。

「よくやりました。さすがリーダーに相応しい」

 アズホーン男爵は肩で息をするように喘ぐと、男に剣を渡して女の始末をしてから、胃を押さえた。

「ランカスター君と話をしたい。二人きりにしてくれないか」

 レーダー公は乾いた声で人払いをすると、アーネストを牢越しに見下ろしてくる。

「アーネスト・ランカスター……。王座を剥奪された気分はどうだい?シャルス『仮国王陛下』の膝下は苦しかろう」

「ああ、搾取されるだけだ。つまらない生き方だ」

 レーダー公はアーネストが既に神から罰を受け、死を賜り、息子を生かすだけの存在であることも知っていた。そしてアーネストに裏切りを持ちかけ、『ランカスター男爵』の仮の地位を与えた。

「さてさて、ランカスターの亡霊は君ではないのか?」

「俺じゃない。離宮に来たパールバルト王国の奴らだ。スバル王子と御用伺いのセネカだ。密輸製品にパールバルトの魔道具があったらしい」

 それを聞いてレーダー公はひとしきり頷いた。

「成る程、パールバルト王の『演出』か。皆殺しの上焼き討ちとは、カモンと同じ歳の学生にさせたくないものだね。婚約式が終われば、パールバルトの王子は出て行くのだろうから、しばらく密輸は控えるとしよう。ランカスター君もそれでいいかい?君をここから出す手配をしてあげるが、王宮に戻るのか?」

 レーダー公がアーネストを見下ろす青い瞳には、光が灯る。

「久々に息子と向き合ってみようと思いますよ」

 答えたアーネストの言葉に愉快そうにレーダー公が笑いを浮かべた。

「二つとも壊れた心臓を止めてしまう気かね?まあ、そうすればわしのカモンが王座を貰いやすくなる。ランカスター君もそんな似合わない首輪から解き放たれて生きやすくなるだろう。存分に殺戮の機会を与えてあげよう」

「ありがとうございます。レーダー公」

「――レグルス王国は内戦中。我々南のレーダーが王家となり、レガリア連邦王国を統一していくのだよ」

「侵略されそうになっている国から攻めあげていくのですね。ああ、楽しみだ」

 そう告げると、レーダー公はそのままゆっくり踵を返して地下牢を出ていく。アーネストは深い溜息をついて、会いたくて会いたくて魂が震えそうなほどの相手を思う。

 ーー早く、来い。
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