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十五章 毒の腕
97 祈りは王太子殿下へ
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結界陣を解除したあと入ってきた人々、それからベッドや床に寝たり座ったりしている人で溢れかえった。
「苦しくない」
「痛くない」
「身体が動く!」
「「お母さん!」」
完治して抱き合ったあと、また一斉に土下座のような平伏は、神官もまた同じだった。ああ、看病で疲れているみんなにも神癒をかけたほうがいいかな。
「神癒陣、展開」
僕は今入ってきた家族や付き添い人や神官に金色に光る魔法陣を上から被せ光の粉のような癒しのマナを送った。
「オーちゃん、やりすぎだよぉ。視察の意味分かってる?」
ーーは?
そもそも、治癒目的だっけか?
正直、何をすればよかったんだ?毒があるなら取り除けばいいし、『ドラゴン・ブラッド』は微細でも回収だ。
セネカが両手を広げてきらきら美少年振りをアピールしながら、僕の横にくる。
「あー、あ、あのですね、目の前にいる王太子殿下の婚約者は『癒しの神子』ツェッペリン男爵の次男子息であるノリン様です」
うっ……と、僕はセネカを見上げた。神癒はやりすぎだったのか!けれどやってしまったものは仕方がない。
恭しくアズールとスバルが片膝をつき、事態の収束を合図してくる。目で訴えてくる!うん、大丈夫、だろう。
僕は小首を傾げて可愛くて定評がある笑みをふんわり浮かべた。
「みなさん、顔を上げてください。シャルスはこの原因不明の病いを憂いて僕を遣わせました。その王太子殿下を育んだこのアリシア王国と、比類なき殿下を王族たらしめたガルド神に祈りましょう」
胸元に手の平を重ねて合わせる僕の祈りの姿に一同が合わせ、
「王太子殿下、ありがとうございます」
「癒しの神子様、ありがとうございました」
と啜り泣きや声が交わされ、神官長も涙ぐんでいた。
「とりあえず、回復した者から聞き出してくれ。ーーなぜ調子が悪くなったのか」
ひそりとスバルとアズールに話すと、アズールが頷き治療院から出ていく人に話しかける。スバルは中で片付けを始めている神官に話しかけていた。すると僕のところに神官長がやってくる。あ、セネカは逃げたな?馬車の方にいる。
「本当にありがとうございました。ノリン・ツェッペリン男爵子息様。私はエルダー・キンダリーと申します」
「キンダリー子爵……ああ、イチイ市の隣でしたね、領地の甜菜から取れる砂糖は素晴らしいですね」
「おお、ご存知でしたか。私はキンダリーの三男でして、マナにいささか自信があり、家督も継げるわけではないので、神官に志願致しまして、王都の神官長に就任致しました。イチイ市のクレバスから話には聞いていましたが、王太子殿下の婚約者様がこんなに聡明で愛らしい方だったとは」
胸に手を合わせたエルダーが僕に頭を下げる。畜生、おばちゃん顔のクレバスめ、話しているじゃねーか。
「僕ではなく、シャルスに祈りと忠誠を捧げてください。シャルスは国民を絶対に見捨てません」
「確かに、癒しの神子様をお遣わしになられた先見の明、次期国王様に相応しいですな」
なるほど、グレゴリーのシナリオ通りか、ここまでは。
エルダーは聞きもしないのに、一ヶ月前から原因不明の体調不良者が増えたと話して、いかに自分が大変だったか話してくる。
患者の服装を見るに、農民と町民、つまり共通するものがある。僕はエルダーの話を聞いてから外に出て見渡すと、裏口に井戸があった。
「ノリン、食べたものに共通点はないよ。そもそも、農民と町民じゃん?接点ないし、しかも、神官も調子悪かったって話してたぜ?いや、一体何があってこんなになるんだろうなあ。それからねーー」
スバルはまだ喋っていたが、僕はシーカーを通して上空から見ていた。井戸がある。その直線上にまた井戸があり、水脈の上で掘るのが当たり前の井戸だ。それが農民が多い下町にもある。
「スバル、井戸の水に『毒』が『いる』か?」
治療院の井戸の水をアズールに組み上げてもらい、その水桶をスバルに見せたが、スバルは首を横に振った。
「正直、微量だけど『いる』よ。でも、大したことはない」
そう、スバルや僕やエルダーみたいにマナが多い貴族や王族には問題がない。エルダーも井戸の水を飲んでいたが、マナを多く持つから体内に『ドラゴン・ブラッド』が『いて』も、大したことはなかったが、マナの少ない平民には不調をもたらす。
セネカも呼び寄せて僕らは馬車の中に入り、
「シーカー固定、投影陣、発動」
とグランドシーカーが蓄積した立体地図を展開した。
「井戸が直線上に並んでいる。どうやら貴族街の一番端のあたりの井戸からスタートしているみたいだな」
スバルが
「すげえ!父さんのグランド・シーカーを使いこなしてるなんて。父さんは『マナ紡ぎのオーガスタ』しか使えないって話してたよ。セネカさんが試作品をあげたんだろ?ノリン、すごい!細く長くマナを出していけるなんてさ」
と感嘆する。それさ、前世の僕のことだから。でもセネカはにこやかに笑ってて、特には何も言わないでいた。
「貴族街の三番通路の後ろは森だよ。森の泉に入った『毒』が汚染源となって水脈に流れ込んで、マナが微弱な人たちに影響を与えたと考えるのが無難だよ。えーと、その屋敷は……」
ああ、知ってる。
僕は深くため息をついた。
ランカスター王属領地と呼ばれる森の入り口の屋敷で、アーネストの隠れ家的な小さな屋敷だった場所だ。
「苦しくない」
「痛くない」
「身体が動く!」
「「お母さん!」」
完治して抱き合ったあと、また一斉に土下座のような平伏は、神官もまた同じだった。ああ、看病で疲れているみんなにも神癒をかけたほうがいいかな。
「神癒陣、展開」
僕は今入ってきた家族や付き添い人や神官に金色に光る魔法陣を上から被せ光の粉のような癒しのマナを送った。
「オーちゃん、やりすぎだよぉ。視察の意味分かってる?」
ーーは?
そもそも、治癒目的だっけか?
正直、何をすればよかったんだ?毒があるなら取り除けばいいし、『ドラゴン・ブラッド』は微細でも回収だ。
セネカが両手を広げてきらきら美少年振りをアピールしながら、僕の横にくる。
「あー、あ、あのですね、目の前にいる王太子殿下の婚約者は『癒しの神子』ツェッペリン男爵の次男子息であるノリン様です」
うっ……と、僕はセネカを見上げた。神癒はやりすぎだったのか!けれどやってしまったものは仕方がない。
恭しくアズールとスバルが片膝をつき、事態の収束を合図してくる。目で訴えてくる!うん、大丈夫、だろう。
僕は小首を傾げて可愛くて定評がある笑みをふんわり浮かべた。
「みなさん、顔を上げてください。シャルスはこの原因不明の病いを憂いて僕を遣わせました。その王太子殿下を育んだこのアリシア王国と、比類なき殿下を王族たらしめたガルド神に祈りましょう」
胸元に手の平を重ねて合わせる僕の祈りの姿に一同が合わせ、
「王太子殿下、ありがとうございます」
「癒しの神子様、ありがとうございました」
と啜り泣きや声が交わされ、神官長も涙ぐんでいた。
「とりあえず、回復した者から聞き出してくれ。ーーなぜ調子が悪くなったのか」
ひそりとスバルとアズールに話すと、アズールが頷き治療院から出ていく人に話しかける。スバルは中で片付けを始めている神官に話しかけていた。すると僕のところに神官長がやってくる。あ、セネカは逃げたな?馬車の方にいる。
「本当にありがとうございました。ノリン・ツェッペリン男爵子息様。私はエルダー・キンダリーと申します」
「キンダリー子爵……ああ、イチイ市の隣でしたね、領地の甜菜から取れる砂糖は素晴らしいですね」
「おお、ご存知でしたか。私はキンダリーの三男でして、マナにいささか自信があり、家督も継げるわけではないので、神官に志願致しまして、王都の神官長に就任致しました。イチイ市のクレバスから話には聞いていましたが、王太子殿下の婚約者様がこんなに聡明で愛らしい方だったとは」
胸に手を合わせたエルダーが僕に頭を下げる。畜生、おばちゃん顔のクレバスめ、話しているじゃねーか。
「僕ではなく、シャルスに祈りと忠誠を捧げてください。シャルスは国民を絶対に見捨てません」
「確かに、癒しの神子様をお遣わしになられた先見の明、次期国王様に相応しいですな」
なるほど、グレゴリーのシナリオ通りか、ここまでは。
エルダーは聞きもしないのに、一ヶ月前から原因不明の体調不良者が増えたと話して、いかに自分が大変だったか話してくる。
患者の服装を見るに、農民と町民、つまり共通するものがある。僕はエルダーの話を聞いてから外に出て見渡すと、裏口に井戸があった。
「ノリン、食べたものに共通点はないよ。そもそも、農民と町民じゃん?接点ないし、しかも、神官も調子悪かったって話してたぜ?いや、一体何があってこんなになるんだろうなあ。それからねーー」
スバルはまだ喋っていたが、僕はシーカーを通して上空から見ていた。井戸がある。その直線上にまた井戸があり、水脈の上で掘るのが当たり前の井戸だ。それが農民が多い下町にもある。
「スバル、井戸の水に『毒』が『いる』か?」
治療院の井戸の水をアズールに組み上げてもらい、その水桶をスバルに見せたが、スバルは首を横に振った。
「正直、微量だけど『いる』よ。でも、大したことはない」
そう、スバルや僕やエルダーみたいにマナが多い貴族や王族には問題がない。エルダーも井戸の水を飲んでいたが、マナを多く持つから体内に『ドラゴン・ブラッド』が『いて』も、大したことはなかったが、マナの少ない平民には不調をもたらす。
セネカも呼び寄せて僕らは馬車の中に入り、
「シーカー固定、投影陣、発動」
とグランドシーカーが蓄積した立体地図を展開した。
「井戸が直線上に並んでいる。どうやら貴族街の一番端のあたりの井戸からスタートしているみたいだな」
スバルが
「すげえ!父さんのグランド・シーカーを使いこなしてるなんて。父さんは『マナ紡ぎのオーガスタ』しか使えないって話してたよ。セネカさんが試作品をあげたんだろ?ノリン、すごい!細く長くマナを出していけるなんてさ」
と感嘆する。それさ、前世の僕のことだから。でもセネカはにこやかに笑ってて、特には何も言わないでいた。
「貴族街の三番通路の後ろは森だよ。森の泉に入った『毒』が汚染源となって水脈に流れ込んで、マナが微弱な人たちに影響を与えたと考えるのが無難だよ。えーと、その屋敷は……」
ああ、知ってる。
僕は深くため息をついた。
ランカスター王属領地と呼ばれる森の入り口の屋敷で、アーネストの隠れ家的な小さな屋敷だった場所だ。
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