92 / 165
十四章 侍従騎士ミカエル
91 運命の番い
しおりを挟む
と、その直後、カチと剣が厚手の絨毯床に落ちた。
「ーーえ?」
やっぱり拘束陣にしようって思っていた矢先だ。
「ーーオーガスタさん、その方は?」
ミカエルの目線はセネカに移っていた。やばい、セネカはそこそこに腕が立つが、基本は王族で防御だとかーー
「はぅん」
ーーはぅん?
ミカエルがセネカを見下ろしてへたへたと座り込んだ。顔が赤いし、息も乱している。調子悪いのか?
「オーちゃん……」
セネカに振り向いた時、僕はギョッとした。だって、セネカがぼろぼろ泣いているんだから。
「どうしたんだよ、セネカ。こいつが怖かったのか?やっぱりーー泣かす!」
リンクいや、ミカエルの頭蓋骨を本気で殴ってとりあえず謝らせようと、剣を腰に戻して足に力を入れた瞬間、
「「僕の「私の」番い!」」
二人が同時に叫ぶ。腰が抜けたようなミカエルにセネカが走り込んで、ためらいもなく、ミカエルの顔に触れてからぶちゅうっとキスをした。
ーーは?
二人がキスを交わすというか、唾液の交換をしているというか、抱き合っていちゃついているのを見て力が抜ける。
「――一体なんなんだ?お前ら」
「ほんと分かってないなあ、オーちゃんは。恋愛音痴過ぎ。一目惚れってあるんだよ。僕らの場合は『運命の番い』だけど」
「……は?」
「私、私の『お相手』に巡り会えました。ありがとうございます、オーガスタさん。あなたは、私の天使です!私の名前は今後ミカエルとお呼びください。オーガスタさんもノリンさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「いや、呼び捨てで頼む」
「じゃあ、僕のこともセネカでいいよ」
「だめですよ、セネカ様は王族です」
「もう、関係ないよぅ。番いの間に身分差なんてないんだから。セネカって呼んでくれなきゃ、僕、泣いちゃうぞ」
戸惑う僕はいちゃつく二人に、全くついていけなかった。
「だからぁ、シーちゃんの婚約式の後でいいから、僕らも婚約式をしたいなあって。そうそう、ラメタル王国では婚約式より結婚式の方が派手なんだよ。王族も結婚式をして、馬車で王都をパレードしたんだ。あ、姉上たちの結婚式なんだけど、フラワーシャワーを町中に降らして綺麗だったよ」
「まあ、それは素敵ですね。セネカ様」
僕はこの状況に閉口している。なんだ、このセネカとミカエルのデレデレ感は。
まぁ、リンク=ミカエルは、オーガスタ=ノリンである僕のことをシャルスには話さないと言ってくれたし、とりあえずよしとしておく。
入浴を済ませたシャルスが珍しくラフな膝丈のキュロットで、レーンがしたり顔だ。レーンもどうやらシャルスのことを可愛く思っているようだ。二人で何やらカタログを見ていることもあって少し心配だよ。なんの話をしているんだか。
「シーちゃん、僕ねミカちゃんと番いなんだ。だからね、認めて欲しいの。あ、僕、メルク公爵家に入るよ。んーーと、公配かなあ?」
国交や親とかを完全に無視したセネカに対し、シャルスはあっさりと承諾している。番いって獣族にあるあれだろ?離れがたい本能に左右される奴だ。
「ミカエルと伴侶ですね。私は良いと思いますよ」
それってさ、ラメタル王国とアシリア王国の筆頭公爵家の婚姻になって国際問題になると思うんだけど。
そう話している間にもなんだかセネカとミカエルはいちゃいちゃして、お茶は奴らの温度に反比例して冷えそれから夕食の話になる。
侍従騎士のミカエルの部屋はシャルスの部屋の廊下を挟んだ反対側にあるが、今日来たばかりで部屋は整っていない。ミカエルの使用人が頑張っているらしいが、今日の夜は厳しそうだとアズールに話しているのを聞いてしまった。
「ミカちゃん、離宮で夕食を食べてパジャマパーティーしようよ。オーちゃんもシーちゃんも一緒に」
意味わかんないよ、パジャマパーティーてなんなんだよ。
「離宮の温泉に四人で入って、食事して。寝室はめちゃくちゃ広いから四人でも寝られるよ。パジャマはうんっと可愛いのを着て、少し夜更かしするの。テーマは恋バナ」
「おん、せん」
「オーちゃん、好きだったよね。単純アルカリ性温泉だよー。お肌つるつる」
セネカがにっこりと笑って、僕らに話している。アズールとレーンがほぼ決定している事項に対して確認を始める。主に食材だろう。
うん、温泉か、いいな、それ。
オーガスタ時代も温泉好きの師匠の影響で温泉好きになった。ノリンとして生きている今は、まだ温泉に入ったことがない。
僕は顎に拳を当てて考える。
しかし離宮に温泉があったとは盲点だった、畜生め。どんな風になっているのかな。吹き出し式か掛け流し式か、どちらかというと掛け流し式がいい。でもさ、そもそも愛妾妃が入る離宮に温泉ってありか?ありなのか?そもそも疑問は離宮に温泉って必要なのか?
「オーちゃん、口から漏れてる、考えが……」
あ、ああ、いけない、いけない。
「ねえ……ミカエル、それ、大丈夫?」
ひとまず僕は尋ねてみた。
ソファの対面に座り話をしているわけだが、ミカエルの膝にはセネカがちょこんと乗っている。お膝抱っこ状態なのだ。ミカエルの手からクッキーをさくさく食べているセネカは左手を繋いでいるし、なんなんだこれ。
「ミカちゃんの胸板すごく気持ち良くて、あ、でも、軍服キツくない?僕ね、専用のクチュール持っているから、寸法測ってあげるよ。あと、オーちゃんのメイドさんもお針仕事できるからね」
ミカエルが慌てて首を横に振る。僕は確かに窮屈そうな服だなと思ったから、小首を傾けて話した。
「僕の服はお祖母様ドレスのリメイクなんです。レーンはお針子としても一流だと思うけど。やはり専属の人のがいいですか?」
「いえ、あの、違うのです。私、私は他の人と違うので」
違う?なんだろう?
考えていたその時、シャルスが僕の脇に手を入れると、ひょいと膝に乗せる。
「シャルス様っ?」
「これはなかなかいいものですね。ノリンが近くて嬉しいです」
いやいや、重くない?僕だって成人年齢男子だよ。クッキーさくさくまで一緒にやらせないでください。
これ、すごく恥ずかしいんだけど。
僕だけが真っ赤になっていて、アズールとレーンにクスリと笑われた。
「ーーえ?」
やっぱり拘束陣にしようって思っていた矢先だ。
「ーーオーガスタさん、その方は?」
ミカエルの目線はセネカに移っていた。やばい、セネカはそこそこに腕が立つが、基本は王族で防御だとかーー
「はぅん」
ーーはぅん?
ミカエルがセネカを見下ろしてへたへたと座り込んだ。顔が赤いし、息も乱している。調子悪いのか?
「オーちゃん……」
セネカに振り向いた時、僕はギョッとした。だって、セネカがぼろぼろ泣いているんだから。
「どうしたんだよ、セネカ。こいつが怖かったのか?やっぱりーー泣かす!」
リンクいや、ミカエルの頭蓋骨を本気で殴ってとりあえず謝らせようと、剣を腰に戻して足に力を入れた瞬間、
「「僕の「私の」番い!」」
二人が同時に叫ぶ。腰が抜けたようなミカエルにセネカが走り込んで、ためらいもなく、ミカエルの顔に触れてからぶちゅうっとキスをした。
ーーは?
二人がキスを交わすというか、唾液の交換をしているというか、抱き合っていちゃついているのを見て力が抜ける。
「――一体なんなんだ?お前ら」
「ほんと分かってないなあ、オーちゃんは。恋愛音痴過ぎ。一目惚れってあるんだよ。僕らの場合は『運命の番い』だけど」
「……は?」
「私、私の『お相手』に巡り会えました。ありがとうございます、オーガスタさん。あなたは、私の天使です!私の名前は今後ミカエルとお呼びください。オーガスタさんもノリンさんとお呼びしてもよろしいですか?」
「いや、呼び捨てで頼む」
「じゃあ、僕のこともセネカでいいよ」
「だめですよ、セネカ様は王族です」
「もう、関係ないよぅ。番いの間に身分差なんてないんだから。セネカって呼んでくれなきゃ、僕、泣いちゃうぞ」
戸惑う僕はいちゃつく二人に、全くついていけなかった。
「だからぁ、シーちゃんの婚約式の後でいいから、僕らも婚約式をしたいなあって。そうそう、ラメタル王国では婚約式より結婚式の方が派手なんだよ。王族も結婚式をして、馬車で王都をパレードしたんだ。あ、姉上たちの結婚式なんだけど、フラワーシャワーを町中に降らして綺麗だったよ」
「まあ、それは素敵ですね。セネカ様」
僕はこの状況に閉口している。なんだ、このセネカとミカエルのデレデレ感は。
まぁ、リンク=ミカエルは、オーガスタ=ノリンである僕のことをシャルスには話さないと言ってくれたし、とりあえずよしとしておく。
入浴を済ませたシャルスが珍しくラフな膝丈のキュロットで、レーンがしたり顔だ。レーンもどうやらシャルスのことを可愛く思っているようだ。二人で何やらカタログを見ていることもあって少し心配だよ。なんの話をしているんだか。
「シーちゃん、僕ねミカちゃんと番いなんだ。だからね、認めて欲しいの。あ、僕、メルク公爵家に入るよ。んーーと、公配かなあ?」
国交や親とかを完全に無視したセネカに対し、シャルスはあっさりと承諾している。番いって獣族にあるあれだろ?離れがたい本能に左右される奴だ。
「ミカエルと伴侶ですね。私は良いと思いますよ」
それってさ、ラメタル王国とアシリア王国の筆頭公爵家の婚姻になって国際問題になると思うんだけど。
そう話している間にもなんだかセネカとミカエルはいちゃいちゃして、お茶は奴らの温度に反比例して冷えそれから夕食の話になる。
侍従騎士のミカエルの部屋はシャルスの部屋の廊下を挟んだ反対側にあるが、今日来たばかりで部屋は整っていない。ミカエルの使用人が頑張っているらしいが、今日の夜は厳しそうだとアズールに話しているのを聞いてしまった。
「ミカちゃん、離宮で夕食を食べてパジャマパーティーしようよ。オーちゃんもシーちゃんも一緒に」
意味わかんないよ、パジャマパーティーてなんなんだよ。
「離宮の温泉に四人で入って、食事して。寝室はめちゃくちゃ広いから四人でも寝られるよ。パジャマはうんっと可愛いのを着て、少し夜更かしするの。テーマは恋バナ」
「おん、せん」
「オーちゃん、好きだったよね。単純アルカリ性温泉だよー。お肌つるつる」
セネカがにっこりと笑って、僕らに話している。アズールとレーンがほぼ決定している事項に対して確認を始める。主に食材だろう。
うん、温泉か、いいな、それ。
オーガスタ時代も温泉好きの師匠の影響で温泉好きになった。ノリンとして生きている今は、まだ温泉に入ったことがない。
僕は顎に拳を当てて考える。
しかし離宮に温泉があったとは盲点だった、畜生め。どんな風になっているのかな。吹き出し式か掛け流し式か、どちらかというと掛け流し式がいい。でもさ、そもそも愛妾妃が入る離宮に温泉ってありか?ありなのか?そもそも疑問は離宮に温泉って必要なのか?
「オーちゃん、口から漏れてる、考えが……」
あ、ああ、いけない、いけない。
「ねえ……ミカエル、それ、大丈夫?」
ひとまず僕は尋ねてみた。
ソファの対面に座り話をしているわけだが、ミカエルの膝にはセネカがちょこんと乗っている。お膝抱っこ状態なのだ。ミカエルの手からクッキーをさくさく食べているセネカは左手を繋いでいるし、なんなんだこれ。
「ミカちゃんの胸板すごく気持ち良くて、あ、でも、軍服キツくない?僕ね、専用のクチュール持っているから、寸法測ってあげるよ。あと、オーちゃんのメイドさんもお針仕事できるからね」
ミカエルが慌てて首を横に振る。僕は確かに窮屈そうな服だなと思ったから、小首を傾けて話した。
「僕の服はお祖母様ドレスのリメイクなんです。レーンはお針子としても一流だと思うけど。やはり専属の人のがいいですか?」
「いえ、あの、違うのです。私、私は他の人と違うので」
違う?なんだろう?
考えていたその時、シャルスが僕の脇に手を入れると、ひょいと膝に乗せる。
「シャルス様っ?」
「これはなかなかいいものですね。ノリンが近くて嬉しいです」
いやいや、重くない?僕だって成人年齢男子だよ。クッキーさくさくまで一緒にやらせないでください。
これ、すごく恥ずかしいんだけど。
僕だけが真っ赤になっていて、アズールとレーンにクスリと笑われた。
2
お気に入りに追加
550
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる