88 / 165
十三章 婚約期間準備と黒い影
87 鉄拳と口付け
しおりを挟む
「――ああ、お前は本当に嫌だった奴に似ている。お前の体液におけるマナは測定器を破壊した。過去にもお前と同様に測定器を破壊する馬鹿みたいなマナを叩き出した奴がいた。グラスについた唾液を取り出し測定器に乗せたのだが、同じように振り切り破壊した。お前は奴の血筋なのですか、それともーー」
泣いてる僕は混乱してその質問を理解できなかった。
扉が開き僕を抱き上げた腕にしがみついて、その知った香りに包まれて再び泣いてしまう。ただシャルスが可哀想すぎてたまらない。あの子の頑張りを無にしてほしくなかった。
「追い詰めすぎだ、メイザース」
僕は抱き上げられしがみついたまま泣き顔なんてこいつらに見せたくないのに、溢れ続ける涙が止められなくて言葉も出てこなかった。
僕は今オーガスタではないのに、小さなシャルスが浮かんできては今のシャルスに被り、苦しくて悲しかった。でもメイザースの言葉は終わらなかった。
「ああ、お前か。では一緒に聞くがいい。シャルス王太子殿下は国よりもノリン・ツェッペリンを選択した。それでよいのだと。だが、我々国民はどうする?我々は王太子殿下が国王陛下になり、その亡き後誰に縋ればよいのだ?誰に託せばよいのだ。少なくとも吾輩の王はシャルス・アリシアその人であり、それ以外誰でもないというのに。吾輩は殿下のーー」
低い声が鼻白んだ。
「王族に縋るな、自分で立って歩け、バカ国民が」
「お前が言える立場か?ーー子殺しが」
「は、未遂だ」
こいつら……何を言っているのか分からない。
僕はしがみついた腕が力強く腰に回されて、安心してしまっていた。だから、次の行動が読めなかったのだ。
「俺が嫌いなのは、こいつの泣き顔だ」
メイザースに向かった第二波の言葉には強い怒気が含まれ、場に威圧感が満たされた瞬間、
「強化陣、展開ーー殴らせろ、メイザース」
アーネストが自身に強化を塗布して、いきなり右拳をメイザースに振るう。その瞬間、メイザースの腹を思いっ切り殴り、扉をメイザースごとぶち抜いた。
ちょっと待てと止める暇もなし。
廊下を歩いていた医局員が驚き過ぎて腰を抜かし、廊下の壁にぶつかり止まったメイザースを見下ろしていた。
アーネストの魔法陣を込めた力一杯の拳を腹に受けたメイザースは、背中も強打してすぐには立ち上がれないでいる。
「死んではないはずだ。腰を抜かしている奴、治癒しろ」
アーネストが顎をしゃくると、腰を抜かして動けない医局の医師が慌てて
「ヒ、ヒール」
と詠唱をしながら声を出して、なんとか治癒魔法を始めていた。アーネストは国王の政務時の軍服ではなく、貴族ジャケットを羽織っているだけだが、報復が怖かったのだろう。かなり必死だった。
「酷い有り様だ。力技とは」
意識はあったらしいメイザースが咳をしながら、小さく呟いた。
「ノリン、泣き止んだか。お前が泣くと心が痛い。ひとまず涙を吸ってやる」
は?ーー吸う?
アーネストは僕の頬に唇をつけると吸ったり舐めたりしていたが、剣を持たず無防備なメイザースに本気で殴りつけるアーネストのやり方へのショックに、呆然としていた僕は無抵抗で、気づいた時にはメイザースの治癒は終わって、医局員は逃げ出していた。
「メイザースはな、シャルスがお前と仲良しなのが、ほぞを噛むほど腹立たしいのだ。シャルスは幼い頃からメイザースが苦手だからな」
「みなまで言うな。それに基本的にはなんの解決もしていない」
メイザースの言葉に、アーネストはにやりと笑う。
「いいや、解決したさ。メイザースはシャルス派だ。それだけは間違いない。それに俺はあの日、ガルド神の依代から天啓を受けている。奇跡は何度でも繰り返す」
メイザースは起き上がり、アーネストの前に立ちはだかった。
「あの日?お前が罪を犯したあの日?あの日にガルド神から天啓を受けただと?お前の罪は深く濃いものだ。殿下をあのようなーー」
「ああ、そうだ。罪を償うためにノリン・ツェッペリンが必要なのだ。そしてシャルスのためにもノリン・ツェッペリンが必要だ。この国の鍵だと理解せよ」
僕はアーネストの顔を見上げた。すると不意にアーネストが僕の唇を唇で塞いでくる。メイザースが見ている前で、身動きの出来ない僕は唾液を啜られ、舌の根が痛くなるまで吸われた。その度にお腹の奥がきゅうっと締まり、ぞくぞくする。
「ーー色っぽい顔をするじゃないか、ノリン」
アーネストは壊れた扉を蹴って完全に破壊すると部屋から出て、廊下の先で待っていたアズールに僕を渡した。
「マナ切れから解放された。ーーじゃあな、ノリン」
「ア、アーネスト、レーダー公の……っん」
僕が言い出そうとするとちゅっとキスをされた。
「ここは往来だ。話せる場所は限られている」
つまりは誰が聞いているか分からないってことだ。僕は頷いてアズールの腕の中に収まっていた。どうしてかっていうと、アーネストの深いキスで腰が抜けたようになっていたからだ。正直、アズールに横抱きにされた指とかも、なんだかぞくぞくしてしまい、身体がおかしかった。
「坊ちゃん、四日目ですよ。待ち遠しく感じましたか?」
アズールが耳元で囁いてきてそれも、下腹に疼いてアズールに少し笑われた。
泣いてる僕は混乱してその質問を理解できなかった。
扉が開き僕を抱き上げた腕にしがみついて、その知った香りに包まれて再び泣いてしまう。ただシャルスが可哀想すぎてたまらない。あの子の頑張りを無にしてほしくなかった。
「追い詰めすぎだ、メイザース」
僕は抱き上げられしがみついたまま泣き顔なんてこいつらに見せたくないのに、溢れ続ける涙が止められなくて言葉も出てこなかった。
僕は今オーガスタではないのに、小さなシャルスが浮かんできては今のシャルスに被り、苦しくて悲しかった。でもメイザースの言葉は終わらなかった。
「ああ、お前か。では一緒に聞くがいい。シャルス王太子殿下は国よりもノリン・ツェッペリンを選択した。それでよいのだと。だが、我々国民はどうする?我々は王太子殿下が国王陛下になり、その亡き後誰に縋ればよいのだ?誰に託せばよいのだ。少なくとも吾輩の王はシャルス・アリシアその人であり、それ以外誰でもないというのに。吾輩は殿下のーー」
低い声が鼻白んだ。
「王族に縋るな、自分で立って歩け、バカ国民が」
「お前が言える立場か?ーー子殺しが」
「は、未遂だ」
こいつら……何を言っているのか分からない。
僕はしがみついた腕が力強く腰に回されて、安心してしまっていた。だから、次の行動が読めなかったのだ。
「俺が嫌いなのは、こいつの泣き顔だ」
メイザースに向かった第二波の言葉には強い怒気が含まれ、場に威圧感が満たされた瞬間、
「強化陣、展開ーー殴らせろ、メイザース」
アーネストが自身に強化を塗布して、いきなり右拳をメイザースに振るう。その瞬間、メイザースの腹を思いっ切り殴り、扉をメイザースごとぶち抜いた。
ちょっと待てと止める暇もなし。
廊下を歩いていた医局員が驚き過ぎて腰を抜かし、廊下の壁にぶつかり止まったメイザースを見下ろしていた。
アーネストの魔法陣を込めた力一杯の拳を腹に受けたメイザースは、背中も強打してすぐには立ち上がれないでいる。
「死んではないはずだ。腰を抜かしている奴、治癒しろ」
アーネストが顎をしゃくると、腰を抜かして動けない医局の医師が慌てて
「ヒ、ヒール」
と詠唱をしながら声を出して、なんとか治癒魔法を始めていた。アーネストは国王の政務時の軍服ではなく、貴族ジャケットを羽織っているだけだが、報復が怖かったのだろう。かなり必死だった。
「酷い有り様だ。力技とは」
意識はあったらしいメイザースが咳をしながら、小さく呟いた。
「ノリン、泣き止んだか。お前が泣くと心が痛い。ひとまず涙を吸ってやる」
は?ーー吸う?
アーネストは僕の頬に唇をつけると吸ったり舐めたりしていたが、剣を持たず無防備なメイザースに本気で殴りつけるアーネストのやり方へのショックに、呆然としていた僕は無抵抗で、気づいた時にはメイザースの治癒は終わって、医局員は逃げ出していた。
「メイザースはな、シャルスがお前と仲良しなのが、ほぞを噛むほど腹立たしいのだ。シャルスは幼い頃からメイザースが苦手だからな」
「みなまで言うな。それに基本的にはなんの解決もしていない」
メイザースの言葉に、アーネストはにやりと笑う。
「いいや、解決したさ。メイザースはシャルス派だ。それだけは間違いない。それに俺はあの日、ガルド神の依代から天啓を受けている。奇跡は何度でも繰り返す」
メイザースは起き上がり、アーネストの前に立ちはだかった。
「あの日?お前が罪を犯したあの日?あの日にガルド神から天啓を受けただと?お前の罪は深く濃いものだ。殿下をあのようなーー」
「ああ、そうだ。罪を償うためにノリン・ツェッペリンが必要なのだ。そしてシャルスのためにもノリン・ツェッペリンが必要だ。この国の鍵だと理解せよ」
僕はアーネストの顔を見上げた。すると不意にアーネストが僕の唇を唇で塞いでくる。メイザースが見ている前で、身動きの出来ない僕は唾液を啜られ、舌の根が痛くなるまで吸われた。その度にお腹の奥がきゅうっと締まり、ぞくぞくする。
「ーー色っぽい顔をするじゃないか、ノリン」
アーネストは壊れた扉を蹴って完全に破壊すると部屋から出て、廊下の先で待っていたアズールに僕を渡した。
「マナ切れから解放された。ーーじゃあな、ノリン」
「ア、アーネスト、レーダー公の……っん」
僕が言い出そうとするとちゅっとキスをされた。
「ここは往来だ。話せる場所は限られている」
つまりは誰が聞いているか分からないってことだ。僕は頷いてアズールの腕の中に収まっていた。どうしてかっていうと、アーネストの深いキスで腰が抜けたようになっていたからだ。正直、アズールに横抱きにされた指とかも、なんだかぞくぞくしてしまい、身体がおかしかった。
「坊ちゃん、四日目ですよ。待ち遠しく感じましたか?」
アズールが耳元で囁いてきてそれも、下腹に疼いてアズールに少し笑われた。
2
お気に入りに追加
550
あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺が総受けって何かの間違いですよね?
彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。
17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。
ここで俺は青春と愛情を感じてみたい!
ひっそりと平和な日常を送ります。
待って!俺ってモブだよね…??
女神様が言ってた話では…
このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!?
俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!!
平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣)
女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね?
モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、
たけど…思いのほか全然上手くいきません!
ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません?
案外、悪役ポジも悪くない…かもです?
※ゆるゆる更新
※素人なので文章おかしいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について
白鳩 唯斗
BL
前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。
サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。
どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。
ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。
世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。
どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!
主人公が老若男女問わず好かれる話です。
登場キャラは全員闇を抱えています。
精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。
BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。
恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

男子高校に入学したらハーレムでした!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
ゆっくり書いていきます。
毎日19時更新です。
よろしくお願い致します。
2022.04.28
お気に入り、栞ありがとうございます。
とても励みになります。
引き続き宜しくお願いします。
2022.05.01
近々番外編SSをあげます。
よければ覗いてみてください。
2022.05.10
お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。
精一杯書いていきます。
2022.05.15
閲覧、お気に入り、ありがとうございます。
読んでいただけてとても嬉しいです。
近々番外編をあげます。
良ければ覗いてみてください。
2022.05.28
今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。
次作も頑張って書きます。
よろしくおねがいします。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい
拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。
途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。
他サイトにも投稿しています。

王道学園なのに、王道じゃない!!
主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。
レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる