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十二章 貴族学舎試験、終了
78 探るシャルス
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定期検診を終えたあと、シャルスは王宮の北の中庭に来ていた。
全身隈無く調べる医師団には毎回閉口している。特に精液を出しマナ量を測る測定では、マナ量が著しく上がっていていてメイザース・ユング医師が小躍りするくらいだった。測定水晶に触れた時も、マナ量が上がっていた。
その精を絞るのはメイザース・ユングの触診付きなのだが、ノリンのメイドから預かったものが役に立ち、ポケットの上から撫でるだけで吐精して、いつもは長引く触診も瞬殺で終わらせた。
「少し早くはありませんか?」
「気のせいでしょう」
歩いて帰るところ、ふと、中庭に行っていないことを思い出し、近衛を廊下で待たせて芝生の中を進む。墓標は沢山あった。亡くなった日は全て一緒だ。彼らはシャルスを守って死んだーーのだと聞かされていた。何故何も思い出せないのだろうと思わずポケットを撫でながらじっくり考えてみる。
「え、あれ?シャルスじゃーん。なになに?何かあったの?」
と何故か聖廟から出てきた明るい声に振り向いた。
「スバル殿下……何故聖廟から」
と驚いてスバルを見上げた。スバル・タイタン・パールバルトは、シャルスより背が高い。二メートルはある上背に痩せてはいるが筋肉質な身体をゆったりとした服に包んでいる。
シャルスはスバルの明るい砕けた口調が少し苦手だった。
「お世話になっているからお墓参りしたくてさ。シャルス、こっちはセネカ」
「ーーセネカ殿下とお呼びした方が?」
シャルスは無意識にポケットを撫でながら、ノリンよりは背の高いセネカを見下ろす。青銀の髪を肩口できっちりと切った髪型のセネカ・ラメタルは、見た目より歳を重ねている。グレゴリーよりも年上とは思えない可愛さで見てきた。
「ーー知っていたの?シャルス殿下。じゃあ、僕の職業のあれこれも知ってるわけだ」
「一応、政務に就いていますので、各国のことは知り及んでいます」
「そっか。なら、僕らは今日から友達だね、シャルスだから、シーちゃん」
「ーーシーちゃん?ですか。あの、今日はノリンは……」
スバルと一緒ではないのかと話そうとしてチクリと胸が痛む。
「ノリン?あのね……」
「ああ、オーちゃんは一緒じゃないよ。聖廟までは案内してくれたけど帰ったよ」
とスバルが口を挟む前に、セネカが話してきた。
「そうですか。ーーノリンはスバル殿下の憂いを晴らしていますか?」
「あ、うん。ノリンはすっごくいい奴だよ」
立ち話はどうかと思いガゼボに誘うと、ガゼボの石椅子に腰を落ち着けた。ノリンのメイドがすぐにお茶の支度をしてくれ、三人でお茶にすることになった。
「うわ、懐かしい味!ーーオーちゃんのメイドさんだね?とても味が似ている。美味しいよ」
レーンがお辞儀をすると、シャルスは頷いて話をした。
「はい、セネカ殿下。ノリンが教えたようです。ノリンはベリータルトも作るようで、とても美味しかったです」
「セネカでいいよ。ついでにスバルも殿下呼ばわりしなくてもいいよ。お互い王族だし、対等だから敬称をつけずにいようよ。僕は王位継承権を蹴っているから実質殿下っていう身分ではないんだけどね」
「はい。では、ス、スバル……はノリンに何故呼び捨てされているのですか?」
先日尋ねた時の口調では、ノリンはスバルを呼び捨てしているようだが、どうして呼び捨てなのか。シャルスは『様』をつけて呼ばれている。出来たら呼び捨てで呼んでほしい。その方がさらに距離が近づいた気がするのに……何故自分だけがと、悔しいという感情が胸の中で渦巻いている。
ノリンは父王が興味を示した貴族の子に過ぎなかった。会って話したら終わりにするつもりだった。周りに勘違いされて入浴しお互い準備された、下着も付けてないバスローブ姿で話した時、声をあげて笑った表情が誰か知っていた人によく似ているような気がした。
ノリンが可愛い、好きだ、愛おしい。
貴族学舎時代からさまざまな貴族を見てきた。ノリンは美人より可愛いの部類に入ると思う。曽祖母も相当な可愛い人だったらしい。公爵家から伯爵家へ嫁ぎ、魔の森を王族管理からツェッペリン伯爵家管理下に置いたのは、彼女の王家並のマナで封じていたからだ。
魔石水晶を充填して魔物封じをするのは、王宮魔法師でも骨が折れる。それを一人で成していた彼女とノリンはよく似ている。貴族名鑑に載っていた曽祖母の絵姿以上にノリンは可愛いくて、でも時折大人びた目線を配る。
出会ってそんなに時間も経過していないが、そんな可愛いノリンが呼び捨てをしているスバルを見ておきたかった。
「え?なんでって、親友だからじゃん」
「ーーはい?」
「一目で、『親友』って思ったんだよ。俺の話も嫌がらずに聞いてくれるし、かっこいいんだよね、ノリンって」
分かる!すごく分かる。
美少女みたいな可憐な顔と姿なのに、たまに表面に出てくる姿はかっこいい。
「それに、ノリンってば、強いんだよな。激まずお茶会の時も、すごいんだぜ?一撃って感じで倒しちゃうの。戦い慣れてるって感じだったしなあ」
意外にもスバルはノリンを可愛いとか思っていないようだったのに、シャルスは安心してしまう。
「魔の森で魔獣狩りをしていたそうですよ。バトラーやメイドも手練れだそうです」
実はシャルスはノリンが剣を振るっている姿を見たことがない。
だからか、つい最近は賊に捕まりそうになったシャルスの前に、ノリンが現れて敵を一撃で倒し、座り込むシャルスに手を差し出し
「もう、大丈夫だよ、シャルス」
と敬語もなく手を引かれ、ノリンからキスをされるという夢を見てしまった。起き抜けに胸がきゅんとした。
これは初恋だ。成人年齢はとっくに過ぎたのに、今更初恋にときめいて、ノリンに抱きついて甘えたくて仕方がない。
「――ねえねえ、ガゼボの横ってお墓?なんかめちゃくちゃあるんだけど、全部同じ日に死んじゃったの?」
思いを馳せていると、スバルが墓標の側から声をかけてきた。
「私を守って亡くなった騎士たちだそうです。私には小さな頃の記憶がなくて」
セネカがお茶の飲んでから立ち上がる。それからスバルを呼び寄せた。
「僕は他国に対して商会としてしか関わる気はないんだけれど、シーちゃんはオーちゃんの婚約者なんだし、教えてあげる。君、忘却陣を塗布されてるよ。だから強制的に忘れさせられているんだ。心当たりは?」
全身隈無く調べる医師団には毎回閉口している。特に精液を出しマナ量を測る測定では、マナ量が著しく上がっていていてメイザース・ユング医師が小躍りするくらいだった。測定水晶に触れた時も、マナ量が上がっていた。
その精を絞るのはメイザース・ユングの触診付きなのだが、ノリンのメイドから預かったものが役に立ち、ポケットの上から撫でるだけで吐精して、いつもは長引く触診も瞬殺で終わらせた。
「少し早くはありませんか?」
「気のせいでしょう」
歩いて帰るところ、ふと、中庭に行っていないことを思い出し、近衛を廊下で待たせて芝生の中を進む。墓標は沢山あった。亡くなった日は全て一緒だ。彼らはシャルスを守って死んだーーのだと聞かされていた。何故何も思い出せないのだろうと思わずポケットを撫でながらじっくり考えてみる。
「え、あれ?シャルスじゃーん。なになに?何かあったの?」
と何故か聖廟から出てきた明るい声に振り向いた。
「スバル殿下……何故聖廟から」
と驚いてスバルを見上げた。スバル・タイタン・パールバルトは、シャルスより背が高い。二メートルはある上背に痩せてはいるが筋肉質な身体をゆったりとした服に包んでいる。
シャルスはスバルの明るい砕けた口調が少し苦手だった。
「お世話になっているからお墓参りしたくてさ。シャルス、こっちはセネカ」
「ーーセネカ殿下とお呼びした方が?」
シャルスは無意識にポケットを撫でながら、ノリンよりは背の高いセネカを見下ろす。青銀の髪を肩口できっちりと切った髪型のセネカ・ラメタルは、見た目より歳を重ねている。グレゴリーよりも年上とは思えない可愛さで見てきた。
「ーー知っていたの?シャルス殿下。じゃあ、僕の職業のあれこれも知ってるわけだ」
「一応、政務に就いていますので、各国のことは知り及んでいます」
「そっか。なら、僕らは今日から友達だね、シャルスだから、シーちゃん」
「ーーシーちゃん?ですか。あの、今日はノリンは……」
スバルと一緒ではないのかと話そうとしてチクリと胸が痛む。
「ノリン?あのね……」
「ああ、オーちゃんは一緒じゃないよ。聖廟までは案内してくれたけど帰ったよ」
とスバルが口を挟む前に、セネカが話してきた。
「そうですか。ーーノリンはスバル殿下の憂いを晴らしていますか?」
「あ、うん。ノリンはすっごくいい奴だよ」
立ち話はどうかと思いガゼボに誘うと、ガゼボの石椅子に腰を落ち着けた。ノリンのメイドがすぐにお茶の支度をしてくれ、三人でお茶にすることになった。
「うわ、懐かしい味!ーーオーちゃんのメイドさんだね?とても味が似ている。美味しいよ」
レーンがお辞儀をすると、シャルスは頷いて話をした。
「はい、セネカ殿下。ノリンが教えたようです。ノリンはベリータルトも作るようで、とても美味しかったです」
「セネカでいいよ。ついでにスバルも殿下呼ばわりしなくてもいいよ。お互い王族だし、対等だから敬称をつけずにいようよ。僕は王位継承権を蹴っているから実質殿下っていう身分ではないんだけどね」
「はい。では、ス、スバル……はノリンに何故呼び捨てされているのですか?」
先日尋ねた時の口調では、ノリンはスバルを呼び捨てしているようだが、どうして呼び捨てなのか。シャルスは『様』をつけて呼ばれている。出来たら呼び捨てで呼んでほしい。その方がさらに距離が近づいた気がするのに……何故自分だけがと、悔しいという感情が胸の中で渦巻いている。
ノリンは父王が興味を示した貴族の子に過ぎなかった。会って話したら終わりにするつもりだった。周りに勘違いされて入浴しお互い準備された、下着も付けてないバスローブ姿で話した時、声をあげて笑った表情が誰か知っていた人によく似ているような気がした。
ノリンが可愛い、好きだ、愛おしい。
貴族学舎時代からさまざまな貴族を見てきた。ノリンは美人より可愛いの部類に入ると思う。曽祖母も相当な可愛い人だったらしい。公爵家から伯爵家へ嫁ぎ、魔の森を王族管理からツェッペリン伯爵家管理下に置いたのは、彼女の王家並のマナで封じていたからだ。
魔石水晶を充填して魔物封じをするのは、王宮魔法師でも骨が折れる。それを一人で成していた彼女とノリンはよく似ている。貴族名鑑に載っていた曽祖母の絵姿以上にノリンは可愛いくて、でも時折大人びた目線を配る。
出会ってそんなに時間も経過していないが、そんな可愛いノリンが呼び捨てをしているスバルを見ておきたかった。
「え?なんでって、親友だからじゃん」
「ーーはい?」
「一目で、『親友』って思ったんだよ。俺の話も嫌がらずに聞いてくれるし、かっこいいんだよね、ノリンって」
分かる!すごく分かる。
美少女みたいな可憐な顔と姿なのに、たまに表面に出てくる姿はかっこいい。
「それに、ノリンってば、強いんだよな。激まずお茶会の時も、すごいんだぜ?一撃って感じで倒しちゃうの。戦い慣れてるって感じだったしなあ」
意外にもスバルはノリンを可愛いとか思っていないようだったのに、シャルスは安心してしまう。
「魔の森で魔獣狩りをしていたそうですよ。バトラーやメイドも手練れだそうです」
実はシャルスはノリンが剣を振るっている姿を見たことがない。
だからか、つい最近は賊に捕まりそうになったシャルスの前に、ノリンが現れて敵を一撃で倒し、座り込むシャルスに手を差し出し
「もう、大丈夫だよ、シャルス」
と敬語もなく手を引かれ、ノリンからキスをされるという夢を見てしまった。起き抜けに胸がきゅんとした。
これは初恋だ。成人年齢はとっくに過ぎたのに、今更初恋にときめいて、ノリンに抱きついて甘えたくて仕方がない。
「――ねえねえ、ガゼボの横ってお墓?なんかめちゃくちゃあるんだけど、全部同じ日に死んじゃったの?」
思いを馳せていると、スバルが墓標の側から声をかけてきた。
「私を守って亡くなった騎士たちだそうです。私には小さな頃の記憶がなくて」
セネカがお茶の飲んでから立ち上がる。それからスバルを呼び寄せた。
「僕は他国に対して商会としてしか関わる気はないんだけれど、シーちゃんはオーちゃんの婚約者なんだし、教えてあげる。君、忘却陣を塗布されてるよ。だから強制的に忘れさせられているんだ。心当たりは?」
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