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十一章 密輸組織殲滅部隊
72 名前で呼び捨て
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オーガスタ時代に作った地図をベースにした、植物紙の地図がテーブルに出された。それを見ながらグレゴリーが説明をし始める。
「場所は旧ランカスター男爵邸。屋敷は二階建てで、まあまあでかい。警備と盗品管理で全員で三十名程度。今日の午後、亡ブレンダー子爵邸のオークションの品が全て到着するから、全員集まることになるはずだから、そこを叩く。夜は別の会場でオークションだからな、それを阻止したい」
ああ、あの時と同じだ。レグルス王国の貴族を生かして、身代金を取りまくったなあ。
グレゴリーは僕たちに話すと、
「ただし」
と言って目を細めた。
「一人くらいは残しておいてくれ、見て感じた恐怖を吹聴してもらわなくてはなるまい」
「グレゴリー宰相、一人でいいんですか?」
僕が聞くと、グレゴリーは頷いた。
「出来るなら貴族崩れかリーダー格の奴がいい。そいつを最後まで残して少し刻んで放り出してくれ。二人はいらない」
「俺はやらんぞ。んなめんどくさい仕事」
アーネストが言い切った。
「おー……ノリン、『今の地図』出せる?旧ランカスター男爵邸に向かえた?」
セネカに言われて、僕は意識してシーカーたちが集めた情報を整理する。旧ランカスター男爵邸……林の中の古い屋敷だ。僕の屋敷に近い素朴な作りだが、入ると広間がある。
「ーー映像、展開」
とテーブルにシーカーが見ている映像を立体的に表す。
「うお!なんじゃこれは」
グレゴリーよ、説明はあとだ。
シーカーは屋敷の上からの映像を映し出している。部屋数は下が一つ。どうやら部屋をぶち抜いたらしい。外に警備が数人。二階の部屋に奴隷が監禁されているようだ。ぐるりとスコープを展開すると、中の様子まで見える。
「ノリンに渡した試作測量器だよ。作戦、立ててくれる?グーちゃん」
セネカから『グーちゃん』呼ばわりされたグレゴリーは
「誰が『グーちゃん』だ」
とまずぼやき呟いた。
「あ、『グレちゃん』のがよかった?僕はねぇ、こう見えても結構年上なんだよねー。商人を敵に回すと怖いよー」
とセネカがにこにこしていると、
「ーーぐっ、えっほん!この入口だが……」
と、僕の地図を指差した。逃げたな、グレゴリー。
「移動はノリンの転移陣。手前の森で待機する。正面突破をしようと思う。それからわしらの役割分担だな」
グレゴリーの作戦は割と力任せのことが多い。そもそも誰が貴族らしい奴を追い詰めて逃すかって話だ。このメンバーなら間違いなく僕しかいない気がする。ああ、もう、しょうがないなあ。
「短時間殲滅ですよね?」
本当なら殺したくないのになあ。レーダー公への見せしめなら、レーダー公子飼いを二、三人絞めればいい話だろうに。最悪な任務だなあ全く。
「ーー全くその通りだが、みんな分かってんだから口に出すな、ノリン」
アーネストが僕の口にサンドイッチを突っ込んだ。
「もが?」
「オーちゃん、全部口から漏れていたよー」
厚みのあるサンドイッチを食べながら、僕は眉を顰めた。また、やっちゃったよ。
「嫌な仕事だが、やらなきゃならないのは仕方あるまい?とりあえず俺とグレゴリーで一階の戦力を削りつつ、ノリンは二階に上がり貴族らしい奴を捕獲に行け。今日のテストで貴族名簿の穴埋めが出ただろう?力を発揮しろ。玄関から外をグレゴリーにやらせる。耄碌したジジイだが身体がでかいから一番目立つ」
ひでえ言い方だな、アーネスト。
「ーー分かった。わしが玄関と外の奴らを殲滅する」
意外にもグレゴリーがそう告げた。このメンバーならそうなるな。
「足りないなら、僕のバトラーのアズールを追加しますが?」
アーネストは首を横に振り、
「奴らにはシャルスについていてほしい」
と言うから頷いた。
セネカがサンドイッチを食べてお茶を飲んでから、
「僕が爆裂陣で扉を開くよ」
と言うと、グレゴリーが
「お任せする、殿下」
頭を下げてセネカに依頼し、突破口は見えた。アーネストもサンドイッチを口にしてから、
「ノリンでもセネカでもいい、マナを用いた陣で風穴を開けたら、二階までのフロアは俺が殲滅する。ロータスは起動しないから大丈夫だ。ぶった斬るだけでいいなら楽勝だな。セネカは盗品奴隷を全て掻っ攫って転移陣で持っていけ。ーー場所に当てがあるのか?」
口、くちゃくちゃすんなよな、アーネスト、音!
「マギー商会の倉庫だよ。リアン嬢から二つ返事ですでに手配済み。もちろん滅殺には参加するよ。小人がずいぶん奴隷にされているみたいだからね」
うわ、リアンすげえ、んで、セネカ怖い。
「オーちゃん、また、声に出てるよ。ね、オーちゃんはこの作戦で大丈夫なの?」
オーちゃん、呼ぶな、セネカ。バレるだーが!
僕は少し立体地図を見ながら、奥にある部屋を指差した。
「一番奥の部屋に奴隷っていうのは、多分『お楽しみ用』なんだろうな。だったらここに貴族らしい奴がいるはずだ。マナを少しこめると、ほら、下っ端貴族のマナの色が出るだろ。あとは誰も持っていないから、当たりだな。真っ最中かも知れない。違うマナも同室で感知した。中央階段を上がって、左に折れた突き当たりまで、『俺』が殲滅しながら移動する。背後はアーネストに任せる。完全に沈黙するまで殲滅しろ。グレゴリーは溢れた敵を殲滅後、玄関先で待機。二階の奴隷をセネカが回収した後に、この部屋から『俺』が火炎陣を展開する。逃げ遅れるなよ、アーネスト。お前は夢中になる……と……こ」
顔を上げた瞬間、僕は真っ白になった。みんなが僕をガン見している。僕はノリンでオーガスタじゃない!やばい、バレる。血の気が引いた。ど、どうやって誤魔化す?セネカ、サンドイッチをもぐもぐしている場合じゃないだろ!
「ーーさすがは魔の森の狩人ツェッペリン男爵家の息子だな。魔獣狩りの作戦立案と同じなんだろうな。実に見事なものだ。そうだ、いいな、呼び捨てがいい。しっくりくるぞ」
こちらを覗きこんできたグレゴリーが、僕の頭にぽんぽんと手を置いた。
脳筋で良かったよ、グレゴリーが。アーネストも普通にお茶を飲んでいて、気にしていないようだった。セネカは済ました顔をして、サンドイッチを食べ切ったが、お前何個目?
「ーーだから、お前も名前で呼ぶことにする『アーネスト』。この作戦期間中だけだ」
アーネストが顔をくしゃりと片手で押さえて
「ーー久々に人間扱いをされたな」
とこぼして苦笑いする。その笑顔が印象的でやけに哀しく見える。
「タイムリミットはシャルスのお茶休憩までだな。ーーノリン、転移陣を発動しろ」
僕はアーネストに言われて、黒いジャケットを着て立ちがった。
「場所は旧ランカスター男爵邸。屋敷は二階建てで、まあまあでかい。警備と盗品管理で全員で三十名程度。今日の午後、亡ブレンダー子爵邸のオークションの品が全て到着するから、全員集まることになるはずだから、そこを叩く。夜は別の会場でオークションだからな、それを阻止したい」
ああ、あの時と同じだ。レグルス王国の貴族を生かして、身代金を取りまくったなあ。
グレゴリーは僕たちに話すと、
「ただし」
と言って目を細めた。
「一人くらいは残しておいてくれ、見て感じた恐怖を吹聴してもらわなくてはなるまい」
「グレゴリー宰相、一人でいいんですか?」
僕が聞くと、グレゴリーは頷いた。
「出来るなら貴族崩れかリーダー格の奴がいい。そいつを最後まで残して少し刻んで放り出してくれ。二人はいらない」
「俺はやらんぞ。んなめんどくさい仕事」
アーネストが言い切った。
「おー……ノリン、『今の地図』出せる?旧ランカスター男爵邸に向かえた?」
セネカに言われて、僕は意識してシーカーたちが集めた情報を整理する。旧ランカスター男爵邸……林の中の古い屋敷だ。僕の屋敷に近い素朴な作りだが、入ると広間がある。
「ーー映像、展開」
とテーブルにシーカーが見ている映像を立体的に表す。
「うお!なんじゃこれは」
グレゴリーよ、説明はあとだ。
シーカーは屋敷の上からの映像を映し出している。部屋数は下が一つ。どうやら部屋をぶち抜いたらしい。外に警備が数人。二階の部屋に奴隷が監禁されているようだ。ぐるりとスコープを展開すると、中の様子まで見える。
「ノリンに渡した試作測量器だよ。作戦、立ててくれる?グーちゃん」
セネカから『グーちゃん』呼ばわりされたグレゴリーは
「誰が『グーちゃん』だ」
とまずぼやき呟いた。
「あ、『グレちゃん』のがよかった?僕はねぇ、こう見えても結構年上なんだよねー。商人を敵に回すと怖いよー」
とセネカがにこにこしていると、
「ーーぐっ、えっほん!この入口だが……」
と、僕の地図を指差した。逃げたな、グレゴリー。
「移動はノリンの転移陣。手前の森で待機する。正面突破をしようと思う。それからわしらの役割分担だな」
グレゴリーの作戦は割と力任せのことが多い。そもそも誰が貴族らしい奴を追い詰めて逃すかって話だ。このメンバーなら間違いなく僕しかいない気がする。ああ、もう、しょうがないなあ。
「短時間殲滅ですよね?」
本当なら殺したくないのになあ。レーダー公への見せしめなら、レーダー公子飼いを二、三人絞めればいい話だろうに。最悪な任務だなあ全く。
「ーー全くその通りだが、みんな分かってんだから口に出すな、ノリン」
アーネストが僕の口にサンドイッチを突っ込んだ。
「もが?」
「オーちゃん、全部口から漏れていたよー」
厚みのあるサンドイッチを食べながら、僕は眉を顰めた。また、やっちゃったよ。
「嫌な仕事だが、やらなきゃならないのは仕方あるまい?とりあえず俺とグレゴリーで一階の戦力を削りつつ、ノリンは二階に上がり貴族らしい奴を捕獲に行け。今日のテストで貴族名簿の穴埋めが出ただろう?力を発揮しろ。玄関から外をグレゴリーにやらせる。耄碌したジジイだが身体がでかいから一番目立つ」
ひでえ言い方だな、アーネスト。
「ーー分かった。わしが玄関と外の奴らを殲滅する」
意外にもグレゴリーがそう告げた。このメンバーならそうなるな。
「足りないなら、僕のバトラーのアズールを追加しますが?」
アーネストは首を横に振り、
「奴らにはシャルスについていてほしい」
と言うから頷いた。
セネカがサンドイッチを食べてお茶を飲んでから、
「僕が爆裂陣で扉を開くよ」
と言うと、グレゴリーが
「お任せする、殿下」
頭を下げてセネカに依頼し、突破口は見えた。アーネストもサンドイッチを口にしてから、
「ノリンでもセネカでもいい、マナを用いた陣で風穴を開けたら、二階までのフロアは俺が殲滅する。ロータスは起動しないから大丈夫だ。ぶった斬るだけでいいなら楽勝だな。セネカは盗品奴隷を全て掻っ攫って転移陣で持っていけ。ーー場所に当てがあるのか?」
口、くちゃくちゃすんなよな、アーネスト、音!
「マギー商会の倉庫だよ。リアン嬢から二つ返事ですでに手配済み。もちろん滅殺には参加するよ。小人がずいぶん奴隷にされているみたいだからね」
うわ、リアンすげえ、んで、セネカ怖い。
「オーちゃん、また、声に出てるよ。ね、オーちゃんはこの作戦で大丈夫なの?」
オーちゃん、呼ぶな、セネカ。バレるだーが!
僕は少し立体地図を見ながら、奥にある部屋を指差した。
「一番奥の部屋に奴隷っていうのは、多分『お楽しみ用』なんだろうな。だったらここに貴族らしい奴がいるはずだ。マナを少しこめると、ほら、下っ端貴族のマナの色が出るだろ。あとは誰も持っていないから、当たりだな。真っ最中かも知れない。違うマナも同室で感知した。中央階段を上がって、左に折れた突き当たりまで、『俺』が殲滅しながら移動する。背後はアーネストに任せる。完全に沈黙するまで殲滅しろ。グレゴリーは溢れた敵を殲滅後、玄関先で待機。二階の奴隷をセネカが回収した後に、この部屋から『俺』が火炎陣を展開する。逃げ遅れるなよ、アーネスト。お前は夢中になる……と……こ」
顔を上げた瞬間、僕は真っ白になった。みんなが僕をガン見している。僕はノリンでオーガスタじゃない!やばい、バレる。血の気が引いた。ど、どうやって誤魔化す?セネカ、サンドイッチをもぐもぐしている場合じゃないだろ!
「ーーさすがは魔の森の狩人ツェッペリン男爵家の息子だな。魔獣狩りの作戦立案と同じなんだろうな。実に見事なものだ。そうだ、いいな、呼び捨てがいい。しっくりくるぞ」
こちらを覗きこんできたグレゴリーが、僕の頭にぽんぽんと手を置いた。
脳筋で良かったよ、グレゴリーが。アーネストも普通にお茶を飲んでいて、気にしていないようだった。セネカは済ました顔をして、サンドイッチを食べ切ったが、お前何個目?
「ーーだから、お前も名前で呼ぶことにする『アーネスト』。この作戦期間中だけだ」
アーネストが顔をくしゃりと片手で押さえて
「ーー久々に人間扱いをされたな」
とこぼして苦笑いする。その笑顔が印象的でやけに哀しく見える。
「タイムリミットはシャルスのお茶休憩までだな。ーーノリン、転移陣を発動しろ」
僕はアーネストに言われて、黒いジャケットを着て立ちがった。
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