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十一章 密輸組織殲滅部隊
71 なんでいるの?
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宰相室の隣は軍事詰所となっている。大抵は国王と近衛隊大隊長と近衛隊各隊長の軍議会議に使われていたらしいが、アーネストが国王見習いとして来たばかりの頃は、近衛隊各隊長は、庶子で第三王子に反目していて、グレゴリーとオーガスタとアーネストの三人で詰めることが多かった……なんてしみじみしながら、セネカが扉を開けた瞬間、
「ーーひょっ!」
現実が飛び込んできて、僕は息を吸い込み変な声を上げる。
軍事詰所に何故が、近衛兵の黒い軍服を着たグレゴリーがいて、ソファに腰かけて隣を見てから僕らを見た。
「よお、セネカ、ノリン」
昔のように二人がけのソファを一人で真ん中に座り、ただだらしなくって感じで黒い軍服の前を開いて座っている金髪の無精髭をまじまじと見つめた。
「アーちゃん、ノリンを連れてきたよ。ついでにサンドイッチの差し入れ」
セネカはアーネストに手を挙げて、パチンと手を合わせた後、アーネストの横にちょこんと座ってしまう。
「ノリンはこちらへ。ああ、軍服は初めてだな。小さなものを選んでおいたから、こちらに座りなさい」
「は、はあ」
僕はグレゴリー軍服をもらって困ってしまう。正直、僕は軍人じゃないし。僕にそれを手渡したグレゴリーを見上げると、グレゴリーも困っている顔をしている。アーネストがなんで前にいるんだ。
カップは四人分、すでに決められているかのようなお茶に口をつけたグレゴリーが、
「わしもセネカに聞かされた時はびっくりした」
と口にした。
「商人を馬鹿にするなんて許せないんだからね」
セネカは当たり前のように頷いてから、相変わらず座り心地のいい革張りのソファをバウンドさせた。
「今回の件は、ラメタル王国『メーテル商会』を含むアリシア王国のニ商会からの依頼でもあるんだ。僕らは密輸を許せない。奴隷制度なんて、もはや世界から撤廃したと思われてたのに」
「いや、まだ存在するぞ」
グレゴリーのその言葉を聞いてアーネストが
「ああ、レグルス王国には奴隷制度はあるし、隷属陣で縛りもする」
と相槌を打った。レグルス王国は北の一番大きな国だ。竜王族と呼ばれた赤髪の王と子孫は強いマナを持ち、軍事国家の長として支配している。
「今回の密輸オークションはマフィアによるものではなく、寄せ集めのごろつきやギルド追放者を集めた、低い爵位の貴族によるものだ。盗品もあるが、それに噛んでいるのがレーダー公ということが判明した」
グレゴリーの話によると、兄様が調べていることが結びついたらしい。
「密輸と盗品の大元はレグルス王国の貴族か王族に近しい誰かだろう。レーダー公はその特定の人物と取引を繰り返している。取引目録は割と安い美術品だの毛皮だのだが、多分違うだろうな。それが密輸オークションの中に紛れているようだ」
グレゴリーが長いローブみたいな服ではなくて、黒の軍服を着ている理由は分かっていた。セネカも袖を通しているが、ホットパンツはそのままでブーツは黒だった。僕の黒いショートブーツも用意されていた。
グレゴリーは僕らを見渡すと、足を組み言い放つ。そこにニヤリと笑うアーネストが付け足しのように話した。
「今回は見せしめのために、密輸倉庫にしている王都外れの古い屋敷にいる奴らを全殲滅する。殲滅後、盗品密輸品は一度別の場所に移して確保したのち、屋敷に火を放つ。王国で悪事を働くと酷い目に合うことを、理解してもらわなくてはな」
分かった、分かっている。黒い軍服は血飛沫を浴びても目立たない軍服の色。以前にもオーガスタ時代にそんな汚れ仕事は何度か請け負った。まだ、戦争時代のことだ。
「戦後の近衛兵たちは無差別の殺しを知らない。だから、我々が請け負う」
そうグレゴリーが僕に告げるのを聞きましたよ、はい、確かに聞きました。セネカは密輸による自分の売り上げについて怒っているし、グレゴリーは宰相としてシャルスに害なすレーダー公の牙を折りたいのは分かる。
「アーネスト様は……シャルス様を思ってのことですか?」
と訊ねると、アーネスが
「ーーは?そりゃあ、暴れられるからだ」
とにやりと笑い顔をした。だよなあ、らしいよ、アーネスト。だがな、お前ら、なんか忘れてないか?僕はノリン・ツェッペリンなんだけど。
「あのーー、僕は戦後生まれで戦争を知りませんし、無差別の殺しを体験していませんが、何で呼ばれているんですか?」
おずおずと左手を挙げた。
「「「ーーーーあ?」」」
間があったな、しかも、三人とも同時とか。
グレゴリー、お前もかよ、脳筋!こちらは成人年齢を越えても、可愛くてたまらない雰囲気を持つ姿なんだ。ちょっとは理解してーー
「あ、あーー、ノリン『は』そうだよねー。じゃあ、陣の解除で参加かなー」
忘れていたな、セネカ。
「太刀筋からもうかなりの人数を斬っていると思っていたのだがな、ふむ」
グレゴリーよ、それは間違いないがオーガスタ時代の話だ。
「僕は魔獣は斬りましたが、人はーー」
「ふふん、ノリン。カマトト振りやがって、俺たちの役に立て。シャルスの進む道に憂いをもたらすな。殲滅に協力しろ」
アーネストの言いようにムッと来た。ああ、そうかよ、ガッテンだ。シャルスの為ならば、滅殺抹消霧散も厭わない。僕が小さくこくりと頷いたら、グレゴリーが安心したように作戦の話をし始める。ちょい待て、そこまで信用できますか?
「グレゴリー宰相、どうしてアーネスト様がここにいるのです?」
一番聞きたかったのはそれだ。
「汚れ役を引き受ける奴が、これしかいない」
あーー国王自ら汚れ役かよ。
だが、納得した。うん、大丈夫。
「ーーひょっ!」
現実が飛び込んできて、僕は息を吸い込み変な声を上げる。
軍事詰所に何故が、近衛兵の黒い軍服を着たグレゴリーがいて、ソファに腰かけて隣を見てから僕らを見た。
「よお、セネカ、ノリン」
昔のように二人がけのソファを一人で真ん中に座り、ただだらしなくって感じで黒い軍服の前を開いて座っている金髪の無精髭をまじまじと見つめた。
「アーちゃん、ノリンを連れてきたよ。ついでにサンドイッチの差し入れ」
セネカはアーネストに手を挙げて、パチンと手を合わせた後、アーネストの横にちょこんと座ってしまう。
「ノリンはこちらへ。ああ、軍服は初めてだな。小さなものを選んでおいたから、こちらに座りなさい」
「は、はあ」
僕はグレゴリー軍服をもらって困ってしまう。正直、僕は軍人じゃないし。僕にそれを手渡したグレゴリーを見上げると、グレゴリーも困っている顔をしている。アーネストがなんで前にいるんだ。
カップは四人分、すでに決められているかのようなお茶に口をつけたグレゴリーが、
「わしもセネカに聞かされた時はびっくりした」
と口にした。
「商人を馬鹿にするなんて許せないんだからね」
セネカは当たり前のように頷いてから、相変わらず座り心地のいい革張りのソファをバウンドさせた。
「今回の件は、ラメタル王国『メーテル商会』を含むアリシア王国のニ商会からの依頼でもあるんだ。僕らは密輸を許せない。奴隷制度なんて、もはや世界から撤廃したと思われてたのに」
「いや、まだ存在するぞ」
グレゴリーのその言葉を聞いてアーネストが
「ああ、レグルス王国には奴隷制度はあるし、隷属陣で縛りもする」
と相槌を打った。レグルス王国は北の一番大きな国だ。竜王族と呼ばれた赤髪の王と子孫は強いマナを持ち、軍事国家の長として支配している。
「今回の密輸オークションはマフィアによるものではなく、寄せ集めのごろつきやギルド追放者を集めた、低い爵位の貴族によるものだ。盗品もあるが、それに噛んでいるのがレーダー公ということが判明した」
グレゴリーの話によると、兄様が調べていることが結びついたらしい。
「密輸と盗品の大元はレグルス王国の貴族か王族に近しい誰かだろう。レーダー公はその特定の人物と取引を繰り返している。取引目録は割と安い美術品だの毛皮だのだが、多分違うだろうな。それが密輸オークションの中に紛れているようだ」
グレゴリーが長いローブみたいな服ではなくて、黒の軍服を着ている理由は分かっていた。セネカも袖を通しているが、ホットパンツはそのままでブーツは黒だった。僕の黒いショートブーツも用意されていた。
グレゴリーは僕らを見渡すと、足を組み言い放つ。そこにニヤリと笑うアーネストが付け足しのように話した。
「今回は見せしめのために、密輸倉庫にしている王都外れの古い屋敷にいる奴らを全殲滅する。殲滅後、盗品密輸品は一度別の場所に移して確保したのち、屋敷に火を放つ。王国で悪事を働くと酷い目に合うことを、理解してもらわなくてはな」
分かった、分かっている。黒い軍服は血飛沫を浴びても目立たない軍服の色。以前にもオーガスタ時代にそんな汚れ仕事は何度か請け負った。まだ、戦争時代のことだ。
「戦後の近衛兵たちは無差別の殺しを知らない。だから、我々が請け負う」
そうグレゴリーが僕に告げるのを聞きましたよ、はい、確かに聞きました。セネカは密輸による自分の売り上げについて怒っているし、グレゴリーは宰相としてシャルスに害なすレーダー公の牙を折りたいのは分かる。
「アーネスト様は……シャルス様を思ってのことですか?」
と訊ねると、アーネスが
「ーーは?そりゃあ、暴れられるからだ」
とにやりと笑い顔をした。だよなあ、らしいよ、アーネスト。だがな、お前ら、なんか忘れてないか?僕はノリン・ツェッペリンなんだけど。
「あのーー、僕は戦後生まれで戦争を知りませんし、無差別の殺しを体験していませんが、何で呼ばれているんですか?」
おずおずと左手を挙げた。
「「「ーーーーあ?」」」
間があったな、しかも、三人とも同時とか。
グレゴリー、お前もかよ、脳筋!こちらは成人年齢を越えても、可愛くてたまらない雰囲気を持つ姿なんだ。ちょっとは理解してーー
「あ、あーー、ノリン『は』そうだよねー。じゃあ、陣の解除で参加かなー」
忘れていたな、セネカ。
「太刀筋からもうかなりの人数を斬っていると思っていたのだがな、ふむ」
グレゴリーよ、それは間違いないがオーガスタ時代の話だ。
「僕は魔獣は斬りましたが、人はーー」
「ふふん、ノリン。カマトト振りやがって、俺たちの役に立て。シャルスの進む道に憂いをもたらすな。殲滅に協力しろ」
アーネストの言いようにムッと来た。ああ、そうかよ、ガッテンだ。シャルスの為ならば、滅殺抹消霧散も厭わない。僕が小さくこくりと頷いたら、グレゴリーが安心したように作戦の話をし始める。ちょい待て、そこまで信用できますか?
「グレゴリー宰相、どうしてアーネスト様がここにいるのです?」
一番聞きたかったのはそれだ。
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あーー国王自ら汚れ役かよ。
だが、納得した。うん、大丈夫。
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