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十一章 密輸組織殲滅部隊
70 セネカからの贈り物
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貴族学舎から呼び出しを食らった僕は、いきなり前期テストをする羽目になり、学舎に着くと全教科のテストが置かれた机に座らされた。全て解いた者から退出していい仕組みらしく、僕は一応クラスメイトの一期生と一緒にテストを受ける。
一番の難関は国政史と王族貴族系譜だったが、シャルスの手伝いをしていたからか、意外にあっさり解けた。一時間ほどしてクラスの半分くらいが終わり席を立つ頃、僕も全てを書き終わりルマンド先生に頭を下げると、廊下で僕を待っていたらしいセネカと会った。
僕らは学舎を離れて軽い口調になる。
「オーちゃ……ノリン、久しぶり。僕が送った家庭用魔具セット役に立っているかな?」
「アズールもレーンも喜んでいるよ。ありがとう、正直びっくりした」
「僕が同居を勧めたようなものだからね。まあ、実際、彼の扱われている状況が分かってよかった。王太子殿下であれはお気の毒でしょ」
シャルスは王太子なんだからそれなりの待遇を受けていると思い込んでいた僕が浅はかだったんだ。畜生、なんだってこんな……!
セネカと貴族学舎を離れて歩いていると、離宮とは反対側へ一緒に歩いていく。政務宮の方へ僕と進んでいて、僕は足を止めた。
「スバルはどうしたの?テストで見なかったんだけど」
「スバルは遊学生で聴講生扱いだからやらないよ。それに今、日中は離宮にいないんだ」
「はい?」
「例の激まずお茶会事件の後、主催者のレーダー公爵お孫様のカモン君から、夜討ち朝駆けの謝罪とお気遣いの品アンドお取り巻きとの毎日来宮にうんざりしてね。かと言ってパールバルト王国の実家には帰れずだからさ、『どこでもドア』で、しばらく昼間はスズキランドパークに行ったっきりで、キャストとして働いて夕方帰宅って感じで。一応、金曜日は行かせるようにしているよ。舞踏会場の交遊的な奴を含めて。あ、でも『毒』の回収には参加するからって、『ノリンによろしく』だってさ」
「なんで自由な……」
「異世界の若者風だよね、つまみ食い人生。まあ、スバルのこだわらないとこが、僕も羨ましかったりもするんだけどね」
「じゃあ、お前は離宮でどうしてんの?」
僕は思わず聞いた。
「オーちゃんは見つけたし、暇になっちゃったから、別の働き口を見つけたわけ。でね、オーちゃんも、ちょっと、うん、ちょっとだけ、付き合ってくれないかなあ」
テストが終わったらそのままシャルスのいる政務室に行って、シャルスの政務を手伝うつもりだったのに、セネカの口調が途端にもやっとした感じになり肩をすくめるのを見て、僕は首を傾げた。
「あれ?御用伺いとして入って、貴族にあちらの物を献上する作戦は辞めたの?パールバルト王国での貴族骨抜き作戦は?」
「あははは、王族に渡しちゃってるんだからいいかなって。でも、その王族がとんでもないことになってるんなら、どうにかしたいじゃん。だからね、オーちゃんにこれ」
政務宮の前で衛兵が軽く挨拶をしてくるから、僕は頭を下げて中へ入る。
政務宮の柱の横で幼児の握り拳大の白い卵みたいな玉を、セネカから二つ手渡された。
「なにこれ?」
「マナを込めてみてよ」
僕がマナを込めると卵から羽が生えて僕の手のひらから少し飛び上がる。
「ーーは?」
「うん、飛んだね。マナをコントロールして。これは『グランドシーカー』って言って新しい魔法測量器だよ。単にシーカーって言ってもいいかも。ジーンの試作器なんだけど、マナのコントロールが難しくて。ジーンは短時間しかコントロール出来なくてね。僕らの一族は一気に放出する方が得意だからさ」
セネカは廊下の窓を開けるとシーカーを放り出す。するとシーカー達は一気に飛んでいき、僕の目前には王城の上空が広がった。
「うわ……っ」
「獣人族の王族の一部が使える遠目、遠耳と一緒だよ。でも、違うところがある。展開を開いて」
僕は目の前を巡る空中だの鳥だのを見ながら両手を開いて、
「展開」
とまるで地図を開くときのようにした。すると手を開いた中に絵よりリアリティのある動く絵が現れた。
「映像って言うんだ。シーカーが見てオーちゃんが感じ取る全てが、手元で分かり展開しているの」
王宮のてっぺんにある見張り台の鐘が見える。僕が見たい位置を出してくれ、今誰がどこにいるかも分かる。アズールとレーンが、僕のマナを纏うシーカーに気づいて口許が緩ませるのが分かった。シャルスはお茶を飲んでいる。
〈ノリンはまだですか?〉
〈まだ、学舎ではないでしょうか〉
〈殿下、お茶のおかわりをどうぞ〉
シャルスがレーンに聞いている。アズールはおかわりのお茶を入れていた。
さらに上空へ上空へーー
空の果てが暗く感じて頭が眩み、下を見た。青い世界に浮かぶ瓢箪型の大陸ーーこれが、ガルドバルド大陸とユグドガルド大陸……。
「ーーちゃん、オーちゃん!!飛ばし過ぎ!!」
僕は思わず止めていた息を吐いて、
「シーカー、王都上空で情報を拾え」
とシーカーを宙から呼び戻した。左右に広がってシーカー達は監視するように僕の頭の端っこに映像を流しているが、それを意識的に塞ぐ。
なるほど、地図を作ることも出来るし、今現在を知ることも出来る。細く長くマナを繋げる必要があるが、なかなか良いアイテムだ。
「オーちゃんなら使いこなせるとは思ったけど、一発でコントロールしちゃうんだもん」
そりゃあ、昔取った杵柄だよな。魔法測量器は糸のように張り巡らせて立体を紡いでいたんだから、こちらの方がより良い。
「多分、すごく役に立つからね。ーー行こう」
セネカがさらに奥に向かい、グレゴリーの政務室のもう一つ奥の扉まで行くとノックをした。
一番の難関は国政史と王族貴族系譜だったが、シャルスの手伝いをしていたからか、意外にあっさり解けた。一時間ほどしてクラスの半分くらいが終わり席を立つ頃、僕も全てを書き終わりルマンド先生に頭を下げると、廊下で僕を待っていたらしいセネカと会った。
僕らは学舎を離れて軽い口調になる。
「オーちゃ……ノリン、久しぶり。僕が送った家庭用魔具セット役に立っているかな?」
「アズールもレーンも喜んでいるよ。ありがとう、正直びっくりした」
「僕が同居を勧めたようなものだからね。まあ、実際、彼の扱われている状況が分かってよかった。王太子殿下であれはお気の毒でしょ」
シャルスは王太子なんだからそれなりの待遇を受けていると思い込んでいた僕が浅はかだったんだ。畜生、なんだってこんな……!
セネカと貴族学舎を離れて歩いていると、離宮とは反対側へ一緒に歩いていく。政務宮の方へ僕と進んでいて、僕は足を止めた。
「スバルはどうしたの?テストで見なかったんだけど」
「スバルは遊学生で聴講生扱いだからやらないよ。それに今、日中は離宮にいないんだ」
「はい?」
「例の激まずお茶会事件の後、主催者のレーダー公爵お孫様のカモン君から、夜討ち朝駆けの謝罪とお気遣いの品アンドお取り巻きとの毎日来宮にうんざりしてね。かと言ってパールバルト王国の実家には帰れずだからさ、『どこでもドア』で、しばらく昼間はスズキランドパークに行ったっきりで、キャストとして働いて夕方帰宅って感じで。一応、金曜日は行かせるようにしているよ。舞踏会場の交遊的な奴を含めて。あ、でも『毒』の回収には参加するからって、『ノリンによろしく』だってさ」
「なんで自由な……」
「異世界の若者風だよね、つまみ食い人生。まあ、スバルのこだわらないとこが、僕も羨ましかったりもするんだけどね」
「じゃあ、お前は離宮でどうしてんの?」
僕は思わず聞いた。
「オーちゃんは見つけたし、暇になっちゃったから、別の働き口を見つけたわけ。でね、オーちゃんも、ちょっと、うん、ちょっとだけ、付き合ってくれないかなあ」
テストが終わったらそのままシャルスのいる政務室に行って、シャルスの政務を手伝うつもりだったのに、セネカの口調が途端にもやっとした感じになり肩をすくめるのを見て、僕は首を傾げた。
「あれ?御用伺いとして入って、貴族にあちらの物を献上する作戦は辞めたの?パールバルト王国での貴族骨抜き作戦は?」
「あははは、王族に渡しちゃってるんだからいいかなって。でも、その王族がとんでもないことになってるんなら、どうにかしたいじゃん。だからね、オーちゃんにこれ」
政務宮の前で衛兵が軽く挨拶をしてくるから、僕は頭を下げて中へ入る。
政務宮の柱の横で幼児の握り拳大の白い卵みたいな玉を、セネカから二つ手渡された。
「なにこれ?」
「マナを込めてみてよ」
僕がマナを込めると卵から羽が生えて僕の手のひらから少し飛び上がる。
「ーーは?」
「うん、飛んだね。マナをコントロールして。これは『グランドシーカー』って言って新しい魔法測量器だよ。単にシーカーって言ってもいいかも。ジーンの試作器なんだけど、マナのコントロールが難しくて。ジーンは短時間しかコントロール出来なくてね。僕らの一族は一気に放出する方が得意だからさ」
セネカは廊下の窓を開けるとシーカーを放り出す。するとシーカー達は一気に飛んでいき、僕の目前には王城の上空が広がった。
「うわ……っ」
「獣人族の王族の一部が使える遠目、遠耳と一緒だよ。でも、違うところがある。展開を開いて」
僕は目の前を巡る空中だの鳥だのを見ながら両手を開いて、
「展開」
とまるで地図を開くときのようにした。すると手を開いた中に絵よりリアリティのある動く絵が現れた。
「映像って言うんだ。シーカーが見てオーちゃんが感じ取る全てが、手元で分かり展開しているの」
王宮のてっぺんにある見張り台の鐘が見える。僕が見たい位置を出してくれ、今誰がどこにいるかも分かる。アズールとレーンが、僕のマナを纏うシーカーに気づいて口許が緩ませるのが分かった。シャルスはお茶を飲んでいる。
〈ノリンはまだですか?〉
〈まだ、学舎ではないでしょうか〉
〈殿下、お茶のおかわりをどうぞ〉
シャルスがレーンに聞いている。アズールはおかわりのお茶を入れていた。
さらに上空へ上空へーー
空の果てが暗く感じて頭が眩み、下を見た。青い世界に浮かぶ瓢箪型の大陸ーーこれが、ガルドバルド大陸とユグドガルド大陸……。
「ーーちゃん、オーちゃん!!飛ばし過ぎ!!」
僕は思わず止めていた息を吐いて、
「シーカー、王都上空で情報を拾え」
とシーカーを宙から呼び戻した。左右に広がってシーカー達は監視するように僕の頭の端っこに映像を流しているが、それを意識的に塞ぐ。
なるほど、地図を作ることも出来るし、今現在を知ることも出来る。細く長くマナを繋げる必要があるが、なかなか良いアイテムだ。
「オーちゃんなら使いこなせるとは思ったけど、一発でコントロールしちゃうんだもん」
そりゃあ、昔取った杵柄だよな。魔法測量器は糸のように張り巡らせて立体を紡いでいたんだから、こちらの方がより良い。
「多分、すごく役に立つからね。ーー行こう」
セネカがさらに奥に向かい、グレゴリーの政務室のもう一つ奥の扉まで行くとノックをした。
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