国王親子に迫られているんだが

クリム

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十章 闇オークション潜入

67 毒と知ったような香り

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 僕はスンと鼻を鳴らした。血の匂いがする。
 
 匂いだけじゃない。魔法陣の圧力を感じて僕はカーテンが引かれた中に飛び込んで、息を止めてから周りを見た。

 誰もいないが、明らかに剣士か騎士の太刀筋の切り口と散らばる足、胃と腸がはみ出した腐敗臭に、

「ちょっと待て」

と続いて入ろうとしたスバルを止める。

「バラバラ死体に慣れているか?スバル」

「俺、平和の国の出身なんだけど」

 だがしかし、テーブルの上には明らかに魔石カプセルがある。なるべく床を見ないでもらいないものだな。

「スバルが絶対にお目にかかりたくないレベルの死体が床にある。それでも入るか?」

 全身の血が一瞬で引くような顔をして涙目のスバルは、メーテルさんを見下ろした。

「男には覚悟を決める時があるわ」

 って、ここでもメーテルさんでいる必要がある?

「う、うん。何でノリンはそんなに冷静なのさ」

 オーガスタ時代に山ほど見てきたからとは言えず、

「魔の森の番人だよ。悪質な密猟者を殺す権限があるからね」

と冷静に話した。

 スバルの目隠し代わりにでメーテルさんが横を歩き、テーブルの上の魔石カプセルを見つめる。一つは血だらけ、二つは綺麗なものだ。

 どうして三つここに転がっているのだろうか。

「ノリン、大丈夫だよ」

 蒼白な顔をしたスバルが魔石瓶を出した。

「じゃあ、行くよ。ーー解除陣展開」

 魔石カプセルが揺らいで粉になるように霧散する前に、『ドラゴン・ブラッド』の黒い細粒がスバルに向かうが、魔石瓶に吸い込まれると、スバルが蓋をした。

「よし」

 その時、気配と香りがして僕は顔を上げた。毒草茶の香り?血のむせかえるこの部屋で?

「この顔はブレンダー子爵だな」

 僕はスバルとメーテルさんを出して警戒をしてもらう。隠し部屋だが外に続く道は廊下にあるが、多分見張りはいないだろう。この部屋は秘密の商談の場だ。カーテンには陣が貼ってあり外部から見えないようになっている。

 そこにブレンダー子爵の死体と血溜まりに大金貨十枚ーー商談は不成立で殺されたのか。

「メーテルさん、帰ろう。多分僕らの前の商談者に目当ての『毒』を持っていかれた。ここにあるのはほんの一部、しかもブレンダー子爵の腹を掻っ捌いて出したみたいだな。全く趣味が悪い」

「血の匂いで吐きそう」

 スバルがそう言うから、まあ、そうだと思う。胃や腸は斬ったら臭いんだ。なるべく斬らないでほしいんだけど。靴も内容物で汚れるし。

「血は踏んでない?メーテルさん、言い訳は考えた?」

 一瞬遅れでメーテルさんが頷き、

「先客がいて会えませんでした。残念なことだわ」

と小声で言うから、僕は吹き出した。やっぱり僕らが走った廊下の突き当たりの扉は封印陣がしてあるが、僕はそれを解除して屋敷を出る。

 門のところで私兵がスバルに挨拶代わりに手を振る。辻馬車に数人が乗り込み、僕らも馬車の中に滑り込む。

 スバルが

「あ、メイドさんとバトラーさん、どうして馬車にいるの?」

と口を開けた。

 僕の影に滑り込んでいたアズールとレーンが僕らが馬車に乗る時に出現してちゃっかり座っていた。メーテル姿のセネカがやっと陣を解きながら、

「陽動役お疲れ様、二人とも」

と労う。アズールもレーンも軽くお辞儀をし、

「ブレンダー子爵はレーダー公爵子飼いの貴族のようです。屋敷の使用人がブレンダー子爵のゲスでクズっぷりを話してくれました」

とアズールが告げた。

「主なゲスクズっぷりは未成人者への強淫で、愛らしい坊ちゃんの姿を一眼見て、必ず呼び出すよう、使用人に話をしたとのこと」

 うげ!こっちは成人してるっていうの。まあ、死んでノーカンだよな。世の中のゴミクズカス野郎が一人減ってよかったよ。

「坊ちゃん、お口から言葉か漏れています」

 レーンから指摘を受けて、

「あ」

と口を閉じた。セネカが

「オーちゃん、相変わらずだねー。考えていることが無意識に口から出ちゃうの」

と笑い転げる中で、スバルが、

「ーーなんか、酔った」

と真っ青な顔をしている。

「え、吐くの?ちょっと待ってよ!オーちゃん、何かない?」

「何もない!」

「辻馬車には吐き桶が用意されています」

 レーンが足元から桶を出すと、スバルが

「ごめ、ちょっ……おえええ~」

 見ぬふりをするのが親切だろうなと思いながら、酸っぱい匂いに苦笑する。多分血と内臓の匂いとサスの悪いガタガタ馬車でやられたんだろう。

 辻馬車が王都の端で辻馬車を降りると、ふらふらのスバルを配慮して転移陣で離宮に入ると、結構いい時間だった。

 シャルスが部屋でひとりぼっちじゃないか心配でそわそわしている中で、アズールとレーンはスバルの口を濯ぎ寝室に連れていった。

「オーちゃん、殿下のところに行くんでしょ。僕も行くよ。主人的スバルの代わりお礼を言わなくっちゃね」

 離宮から政務室ではなくシャルスの部屋に戻ると、シャルスがやや疲れた顔をしてソファに座って書類を見ている。

「シャルス様、お疲れですか?」

「少しだけです。新しく主治医に就任したメイザースが念入りに検査をするから」

 念入りに、検査、だと?あいつめ……

「坊ちゃん、お口から漏れています」

 アズールにピシャッと言われた。

「ノリン、お連れの方は?」

 あ、忘れていた。セネカが付いてきていたんだ。

「自由に話して構いません。ここには気難しい人はいないので」

 セネカは貴族お抱え商人らしく片膝を引いて、

「主人に代わりお礼を申し上げます。ノリン様には我が主人の憂いを晴らしくださいましたこと、お礼申し上げます」

と頭を下げた。

「留学生活に憂いがあるのですか?」

 シャルスが驚いた顔をして聞くと、

「主人は王族ではありますが、その生活には馴染みません。ノリン様は気安く接してくださり、心休まりました。今後もお許しをいただければ、お招きしたいと主人が申しております」

と今後の布石をぶちかましたセネカにシャルスは快諾して、

「いつでもとは言えませんが、無聊を晴らすのも我々の役目です。ノリンを寄越します。また、私ともお茶をとお伝えください」

と告げた。

「ありがとうございます。王太子殿下」

 セネカは僕に目配せをしてから部屋を出ていき、僕はシャルスの横に座るように手招きされだけれど、

「お見送りします」

と一度外に出た。

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