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十章 闇オークション潜入
66 断罪の隙間で
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ゆっくりと立ち上がったつもりだが、金貨を拾うブレンダー子爵は腰を屈めて曖昧な微笑みを浮かべた。それに応えるように笑ってやると、ブレンダー子爵は逃げ腰になる。作り笑いすぎたかと反省をした。
ブレンダー子爵が恐怖で震え上がり、
「と、取引は終わりだ。ランカスター男爵。大金貨十枚は貰い受けた。さっさと『毒』を持って出ていきたまえ」
と急に自身の保身について考えたかブレンダー子爵は叫ぶ。ブレンダー子爵は考えなさすぎたのだ。
「ああ、貴様は勘違いしている」
着古した貴族ジャケットをだらしなく着て、髭も髪も残念ながら手入れもしていない『ランカスター男爵』は楽しそうに言った。
「俺は俺の中に獣を飼っていてな、そいつが国王を殺せと囁いてくるのだ。仕方あるまい?」
話しながら、ふとこんな時どんな顔をしたら良いか分からず、感情が抜け落ちる。
ーー笑っとけ
親友の言葉を思い出した。だから髭面で笑ってやった。
それは全てで、嘘偽りがない。
ブレンダー子爵は震えながら周りを見渡したが、逃げ道は陣で全て塞いである。ここは無音の空間だった。
「……ラ、ランカスター男爵。お前、いやらあんたは私と『同じ』だろう?『魔石カプセル』を飲んだだろう?あんたの腹の中には『魔石カプセル』が存在する。あれは盟約で制約だ。裏切れば確実に死ぬ。そうだろう?」
ああーーと、ポケットから無造作に取り出して、二つテーブルに置いた。身体の中がざわつく。あの『毒』だ。今ならわかる。王も妾妃も、多分長兄もこれで死んだのだと。
「魔石カプセルーー勝手に出せば暴発してしまうはず」
「腹に陣をかけまくって出してみた。大分のたうちまわったがな。なんせ胃に張り付いているんだ。血を吐いて暴れ狂ったよ」
「ふ、二つ?ランカスター男爵家、あんたは……」
「俺は国王が大嫌いだ。それはお前たちと同じだ、安心しろ。だがな、『殿下』を害するものは許せない。『殿下』は弱く儚い。どうとでもなるだろうに、何故だ?」
何故だと言われてブレンダー子爵はガタガタと震えながら首を捻っている。同じ仲間であるはずの男が何を言っているのか何も浮かばない様子だった。
「わ、私が一体……」
「ユングの老害に女を贈ったのはお前だな、ブレンダー。豊満な胸のやけに色気付いた女だ」
その言葉を聞いて、ブレンダー子爵が目を見開く。
「ユング老医師はうちの直営娼館をご利用頂いているが……」
ランカスター男爵は、疲れたように皺の寄る瞼の中青い瞳をやや細めると、言葉を紡ぐ。
「俺は他人の趣味をどうこう言うつもりはない。老害が女好きだろうが勤務中に愛人を侍らせるのも抱くのも構わん。だがな、貴様は『殿下』に害そうとした、女を使ってな。『殿下』を殺す指示は奴から出ていないだろう?だったら俺の中の獣がお前を殺してもよかろう?」
「ーーお、女が勝手にやったまでだ。だから、私はーー」
関係がないと言い切りたいようだが、魔石カプセルは召喚の女ごときが手入れらるものではないのは明らかだ。
「女が喋ったぞ。数時間後には『毒』で死んだがな。お前はマナもオドも弱い何の力もない『殿下』に飲ませるよう伝えただろう。これまた魔石カプセルの中身を知らない女に渡して『媚薬カプセル』と嘯き、『殿下』に跨り『子種』をもらって来いと囁いたそうだな。そりゃあ、成人しているとはいえ寝込みを襲わせるなんざ、閨入りをしていない何も知らない『お子様殿下』への性的虐待をさせようとした挙句、成せば老害を起こして子種を見せつけようとした。あいつが気づかなかったら、『殿下』は腹に時限式『毒』カプセルを仕込まれて日々を過ごすことになる」
テーブルの上の魔石で覆われた箱を撫でて、後退ったブレンダー子爵見つめる。
「なんとも可哀そうじゃないか。国王に斬りつけられマナとオドを抜かれ、国王たる資格を失いかけた子供の腹に『毒』を仕込むなんて。あいつと会って俺も楽しくなってきたのにーー邪魔をするな」
「な、何の話だ?」
ランカスター男爵は、
「貴様がその『毒』を預かるのも腹立たしかったが、金で権利を譲り受ければ気も晴れると思ったが」
と吐き続けて、ブレンダー子爵に歩み寄った。語りながら、また一歩足を進める。
「お前は功を焦り、王の息子を意のままにしようとした。あんな可哀想な子供に『毒』を仕込もうとした」
茶会で『毒』を仕込むのかと思ったが、茶会に出ないから計画が早まったか、そもそも茶会はレーダー公爵側の手配だ。レーダー公爵は殿下が狙われていると吹聴し、心から疲弊させていく程度しか考えていないだろう。
「この『毒』は他国の『毒』だ。それを王族に使うなど度し難い」
「私がいなくなったら、レーダー公爵がーー。それにあんたも疑われるぞ」
「レーダーは俺が何者か知ったこっちゃないだろうよ。それにレーダーとあの女、王太后が結託して、レグルス王国を揺さぶるのもどうでもいい。俺は『毒』を全て俺のものにしたいだけだ」
「あんた、何者だ……」
「ーー喋りすぎたな。時間切れだ」
呟いたランカスター男爵の手が腰の逆蓮花の紋を持つ剣を引き抜き、素早く動いた瞬間ブレンダー子爵の両足は床に落ちていた。悲鳴すら上げられず、そのまま床にかしいでのたうち回るブレンダー子爵の腹を裂き、胃から魔石カプセルを出した。
「汚ねえ胃袋だな。金貨は掃除代だ」
まずは、ブレンダー子爵。
絶命したブレンダー子爵の血を一振りで振り払うと、ブレンダー子爵に呟いた。
「ああ、そうだ。ランカスター男爵家は俺の生母の家だ。王を毒殺した罪で全員断首された、もう滅亡した家名だ。ーー聞いちゃいないな」
ランカスター男爵は箱を手にして、部屋から消えた。
ブレンダー子爵が恐怖で震え上がり、
「と、取引は終わりだ。ランカスター男爵。大金貨十枚は貰い受けた。さっさと『毒』を持って出ていきたまえ」
と急に自身の保身について考えたかブレンダー子爵は叫ぶ。ブレンダー子爵は考えなさすぎたのだ。
「ああ、貴様は勘違いしている」
着古した貴族ジャケットをだらしなく着て、髭も髪も残念ながら手入れもしていない『ランカスター男爵』は楽しそうに言った。
「俺は俺の中に獣を飼っていてな、そいつが国王を殺せと囁いてくるのだ。仕方あるまい?」
話しながら、ふとこんな時どんな顔をしたら良いか分からず、感情が抜け落ちる。
ーー笑っとけ
親友の言葉を思い出した。だから髭面で笑ってやった。
それは全てで、嘘偽りがない。
ブレンダー子爵は震えながら周りを見渡したが、逃げ道は陣で全て塞いである。ここは無音の空間だった。
「……ラ、ランカスター男爵。お前、いやらあんたは私と『同じ』だろう?『魔石カプセル』を飲んだだろう?あんたの腹の中には『魔石カプセル』が存在する。あれは盟約で制約だ。裏切れば確実に死ぬ。そうだろう?」
ああーーと、ポケットから無造作に取り出して、二つテーブルに置いた。身体の中がざわつく。あの『毒』だ。今ならわかる。王も妾妃も、多分長兄もこれで死んだのだと。
「魔石カプセルーー勝手に出せば暴発してしまうはず」
「腹に陣をかけまくって出してみた。大分のたうちまわったがな。なんせ胃に張り付いているんだ。血を吐いて暴れ狂ったよ」
「ふ、二つ?ランカスター男爵家、あんたは……」
「俺は国王が大嫌いだ。それはお前たちと同じだ、安心しろ。だがな、『殿下』を害するものは許せない。『殿下』は弱く儚い。どうとでもなるだろうに、何故だ?」
何故だと言われてブレンダー子爵はガタガタと震えながら首を捻っている。同じ仲間であるはずの男が何を言っているのか何も浮かばない様子だった。
「わ、私が一体……」
「ユングの老害に女を贈ったのはお前だな、ブレンダー。豊満な胸のやけに色気付いた女だ」
その言葉を聞いて、ブレンダー子爵が目を見開く。
「ユング老医師はうちの直営娼館をご利用頂いているが……」
ランカスター男爵は、疲れたように皺の寄る瞼の中青い瞳をやや細めると、言葉を紡ぐ。
「俺は他人の趣味をどうこう言うつもりはない。老害が女好きだろうが勤務中に愛人を侍らせるのも抱くのも構わん。だがな、貴様は『殿下』に害そうとした、女を使ってな。『殿下』を殺す指示は奴から出ていないだろう?だったら俺の中の獣がお前を殺してもよかろう?」
「ーーお、女が勝手にやったまでだ。だから、私はーー」
関係がないと言い切りたいようだが、魔石カプセルは召喚の女ごときが手入れらるものではないのは明らかだ。
「女が喋ったぞ。数時間後には『毒』で死んだがな。お前はマナもオドも弱い何の力もない『殿下』に飲ませるよう伝えただろう。これまた魔石カプセルの中身を知らない女に渡して『媚薬カプセル』と嘯き、『殿下』に跨り『子種』をもらって来いと囁いたそうだな。そりゃあ、成人しているとはいえ寝込みを襲わせるなんざ、閨入りをしていない何も知らない『お子様殿下』への性的虐待をさせようとした挙句、成せば老害を起こして子種を見せつけようとした。あいつが気づかなかったら、『殿下』は腹に時限式『毒』カプセルを仕込まれて日々を過ごすことになる」
テーブルの上の魔石で覆われた箱を撫でて、後退ったブレンダー子爵見つめる。
「なんとも可哀そうじゃないか。国王に斬りつけられマナとオドを抜かれ、国王たる資格を失いかけた子供の腹に『毒』を仕込むなんて。あいつと会って俺も楽しくなってきたのにーー邪魔をするな」
「な、何の話だ?」
ランカスター男爵は、
「貴様がその『毒』を預かるのも腹立たしかったが、金で権利を譲り受ければ気も晴れると思ったが」
と吐き続けて、ブレンダー子爵に歩み寄った。語りながら、また一歩足を進める。
「お前は功を焦り、王の息子を意のままにしようとした。あんな可哀想な子供に『毒』を仕込もうとした」
茶会で『毒』を仕込むのかと思ったが、茶会に出ないから計画が早まったか、そもそも茶会はレーダー公爵側の手配だ。レーダー公爵は殿下が狙われていると吹聴し、心から疲弊させていく程度しか考えていないだろう。
「この『毒』は他国の『毒』だ。それを王族に使うなど度し難い」
「私がいなくなったら、レーダー公爵がーー。それにあんたも疑われるぞ」
「レーダーは俺が何者か知ったこっちゃないだろうよ。それにレーダーとあの女、王太后が結託して、レグルス王国を揺さぶるのもどうでもいい。俺は『毒』を全て俺のものにしたいだけだ」
「あんた、何者だ……」
「ーー喋りすぎたな。時間切れだ」
呟いたランカスター男爵の手が腰の逆蓮花の紋を持つ剣を引き抜き、素早く動いた瞬間ブレンダー子爵の両足は床に落ちていた。悲鳴すら上げられず、そのまま床にかしいでのたうち回るブレンダー子爵の腹を裂き、胃から魔石カプセルを出した。
「汚ねえ胃袋だな。金貨は掃除代だ」
まずは、ブレンダー子爵。
絶命したブレンダー子爵の血を一振りで振り払うと、ブレンダー子爵に呟いた。
「ああ、そうだ。ランカスター男爵家は俺の生母の家だ。王を毒殺した罪で全員断首された、もう滅亡した家名だ。ーー聞いちゃいないな」
ランカスター男爵は箱を手にして、部屋から消えた。
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