国王親子に迫られているんだが

クリム

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十章 闇オークション潜入

64 表の裏で

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 ブレンダー子爵の屋敷で行われるオークションとやらは、王都の貴族屋敷路の比較的端の閑静な場所で開催されていた。

 商業を生業とする町からも近く、門で行き来しやすいからだろう。オークションでは門の権利を一日中子爵が買い取り、いつもなら通過税を払わなくてはならない平民も自由に貴族門を通って子爵の屋敷に出入りしていく。

 磨き石造りのエントランスには人がひしめき合っていて思わず

「密だな」

と呟いてしまう。

「ふふふ、そうね。人が多いわね」

 メーテルさんの姿で対して気にしていないように笑う。慣れているんだな、セネカは。

 オークションはまだ始まっていないようで、商品が飾らせてそれを売りたい商人が説明をしている。絵画や毛皮がメインであり、壺や魔道具なんかも置かれている。ガルドバルド大陸で取れる魔石や香辛料もあった。

 貴族には領地を直轄する者と、領地を持たない者がいて、国から貰う『貴族して身を立てる禄』以外は自身で稼ぐ必要がある。それが『商売する場を作る』だった。もちろん、場を作り荒れないように警備を雇い酒や軽食を振る舞い、売り上げの一部を上納させる。貴族への宣伝効果か、貴族や豪商が多くいた。

「スバル、よろしくお願いします」

「任せといてよ」

 スバルは多くの着族たちで華やいだ輪の中に入っていき、まるで昔からの友人や知り合いのように話をしている。

 その手薄になった人垣をゆっくり眺めながら人の配置や流れを見ていく。すると使用人が立つ背後、一つの飾り扉がたまに開くのを見つけた。

「おい、隠し通路だ」

と声を掛けた。

「そうですわね。何か合言葉でもあるのかもしれなくてよ」

 そう言ってメーテルさんがパチンと口元を覆う羽根扇子を閉じる。するとスバルがまた別の人の波に入り込み、話をしながら目配せをする。耳をトントンノックしてメーテルさんが耳に指を置いた。

「分かりましてよ。お戻りなさい」

と呟く。それからすぐスバルがやってくる。スバルを惜しんだ声が後ろから聞こえてきたが、なんの話題で盛り上がっていたのやら。

「お疲れ様。スバルのお陰で中に入れそうだわ」

「え、もしかして、あの会話から?」

「当たり前じゃん」

 アズールとレーンを先頭にメーテルさんがゆっくり壁に近づくと、壁の前にいた使用人が一瞬警戒する。

 アズールとレーンが横に別れ、メーテルさんが使用人の前に立ち、

「『よい魔石かあるので鑑定して』いただけないかしら」

と話した。

「ーー喜んで。よい魔石をお持ちのようですね」

と、扉の前から退いた。それが合図のように金の装飾がされた扉が開き、扉から中へ誘導される。

「このまま真っ直ぐお進みください。闇のオークション会場です」 

「ありがとう。とっておきなさいな」

「ーーありがとうございます、レディ」

 メーテルさんが小さな皮袋を使用人に渡し、僕らは中へ入った。







 廊下を歩くとすぐにフロアに出て、どうやら外からは分からない別室に設けられた展示台が数多く置かれていて、そこには明らかに首輪をはめたさまざまな姿の奴隷や、違法魔道具と違法薬物が並び説明書きと相場価格が記されたメモが置かれている。

「巨人も小人も奴隷として出荷されてるよ、メーテルさん」

「ガルドバルド大陸での密輸ですね」

 館内に入ってすぐスバルが淡々と話していて、案内人もいないフロアは人の数も多くなりひしめき合う程ではないものの、あちこちで小さな集団が出来ていて、密やかな話し合いが繰り返されていた。

「意外にも淡々としているな。スバルなら違法だろって怒り出すと思っていたのに」

と、僕は小さな声で行った。

「今日は目的が違うからねえ。それに俺には大した力はないじゃん。なら、父さん……は無理か、他国だもん。ああ、例えばじいちゃんたちにチクッて、さくさくっと主催者子爵を潰してもらった方がお得なんだよね。それにこの会場って貴族の護衛も多いし、違法ってブツはたくさんあるけど、肝心のモノは別の場所にあるみたいだし、俺がまた話題で惹きつける?」

 慣れてるな、スバルのやつ。

「フロアで目立つ行為をしてはいけないわ。スバル、瓶は貴方しか開けられないもの」

「あ、はいはい、そうだった。つまり今、今日は俺が主役ね」

 全く知らない曲調の鼻歌を歌いながら商談の様子を眺めているスバルに対して、メーテルさんは違法商品を見つめつつ小さくため息を着いた。

「それにしても、やはりさらに奥ですわね。何が必要かしら」

 少し歩いたところでメーテルさんが、羽根扇子をパチンと閉じて鳴らした。スバルがメーテルさんの横に行く。すごいな、手懐けてるよ。

 目線の先には優美な曲線を持つガルド神の彫刻がある。ガルド神は平等神であり、女性のような胸の膨らみと男性のような性器を持つように作られることが多いんだが、ガルド神殿にあることの多い彫刻がどうしてこんなサロンにあるんだろうと不思議になった。

 そこに一人の痩せた小柄な男が触れる。

「屋敷の主人か?」

 派手な貴族ジャケットを纏う男が一瞬にして消えた。

「ーー転移陣を組み込んであるみたいね。ノリンどうかしら」

 転移陣は転移先が決まっている。多分ガルド神の台座に組み込まれているようだ。マナに反応して転移する仕組みだろうが、僕には同調陣がある。マナの質力を上下させればいけるはずだ。ただ三人がいきなり消えるのは問題がある。

「アズール、レーンと二人で少し注目を引きつけてくれないかな?」

 それに答えようとしたアズールが周りを見渡した瞬間、甲高い女性の悲鳴と騒ぎが起こった。

 そちらを見てみると、フロアの端で一人の女が持つ商品を、別の男が掴んで何やら揉めていた。どうやら物の取り合いのようだが、相手は男の男が懐から刃物を取り出し、さらに悲鳴があがる。

「あれを使います。どうぞお気をつけて」

「失礼します、坊ちゃん」

と二人とも表情を変えることなく、人々をすり抜けるようにして走り込む。

 アズールとレーンは無言のままレーンが女を、アズールが刃物を出した男に向かい、

「「おやめください」」

と二人の間に入り、レーンが女の前に立ち、アズールが男の刃物を手刀で叩き落とすと、男をふわりと体落としで投げ落とした。

 スバルが

「すげ」

と声を上げた時、僕は小さな声で

「同調陣、展開」

とガルド神の台座に触れた。

 人々は赤髪少女メイドと赤髪の青年バトラーの素早い連携に、口を開けて見惚れている。一瞬のことで、通りが静まり返った。

「大丈夫ですか、お嬢様」

「え、ええ、ありがとう」

 こんな裏にいるんだから、いいとこの令嬢なわけはないだろうな。

「警備の使用人を呼んでください」

 アズールの静かな口調を聞きながら、
僕は陣で同調させて二人を連れて消えた。
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