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十章 闇オークション潜入
63 スバルのスキル
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王城を囲う林の中に出ると、そのまま王都の端で辻馬車を拾う。離宮の貴妃がお忍びで出られるように配慮してあるとアーネストに聞いたことがある。
「どこに行くんだ?」
辻馬車を依頼した時にセネカが御者に行き際を告げていたが、僕のオーガスタ時代の記憶だと、意外にも貴族の王都屋敷街じゃないか。
「闇っていうからもっと場末な場所かと思った」
僕の呟きにセネカが軽く笑う。
「今回の場所は、とある貴族の屋敷だからね。うーん、表向きは展示会。絵画や毛皮絨毯や家具まである。ガルドバルド大陸由来の物までね。だから初めは表側の業者として出入りするよ」
馬車はオーガスタ時代の記憶通りならブレンダー子爵の屋敷だ。かなり裕福なのか王都屋敷は広くて派手だ。僕ら貧乏貴族は王都屋敷なんか持てやしないから、王都に屋敷を構えられるってだけで金持ちだなあって感じる。
ツェッペリン家は王都のすぐ横に領地があり、そこから四時間かけて王都の端を抜けて王城に入るんだから、わりと立地がいいーーが、魔の森の管理をしているから結構大変だと思う。魔石水晶の設置など、父様は村からの依頼をしっかりとこなしている結構人のいい男爵だ。
「着いた?じゃあ、俺の出番ね」
馬車を停めさせるとスバルが一人で馬車を降りていく。セネカは軽く手を上げていて、済ました顔で座っていた。
え、おい、大丈夫なのか?お前、一応留学生で王子様……だけど、今日はアリシア王国では割とポピュラーなシャツに庶民的なベストにズボンだ。
スバルは同じ年ながら華奢だがしっかりとした筋肉がついていて、それなりに動けそうな身体をしている。筋肉のつきにくい腹実の僕とは全く違うし、小人族の血筋が強く出ているセネカとも違う。
「なんだ?スバルは何を……」
「とある貴族の子飼いの私兵に話しかけてるんだけど、どうかなあ?」
セネカが青銀髪を揺らして笑う。僕はスバルが身振り手振りを交えながら話をして、笑い声すらしているのを窓から見ていた。
「あれがスバルのスキル。すんなり相手の懐に入っちゃうの。怖いよね、あのマシンガントークとスキル」
マシンガンって、な、なんだ?
セネカの言葉を聞いて僕は驚きながらとりあえず頷いた。僕なら多分、アズールとレーンと一緒に力ずくでまかり通ってしまうところ、スバルはあの止まることないトークで割り開いている。
なんだっけ、師匠の言う『むけつかいじょー』かな。
「『表側』って話してだけど、セネカこのまま行くんじゃないのか?」
「まさか。オーちゃんと出掛けていた時は『裏側』だよ。ジーンの発明品や新しい魔道具なんかを違法に売りつけてたのはね。パールバルト王国の貴族に揺さぶりをかける闇の商人セネカくん」
僕が
「マジかよ」
と言葉を濁すとアズールとレーンが首を傾げて僕を見たので、黙ってしまった。
つまりオーガスタ時代にセネカに付き合ってパールバルト王国をあちこち渡り歩いたのは、闇取引による貴族崩しだったってことになる。ツェッペリン家を彩る便利家庭魔道具なんかはもう、骨抜きになるだろう。掃除魔道具なんて時間が来ると勝手に動いて埃や塵を吸い込み、拭き掃除までするんだ。リタがめちゃくちゃ喜んでいたよ。しかも一階と二階にいるんだ、そいつは。
「スバルから手招きがきたね。では僕も『表の顔』になるからね」
セネカが座ったまま
「変幻陣発動」
と馬車の中で陣を光らせた。陣を纏うっていう言葉がぴったりあう感じでセネカがにこりと笑う。
セネカの青銀髪から長金髪に変わり背中を覆う。瞳は深い青で、伏せ目がちの切長。真っ黒なドレスを着た一人の細身の女性が僕の横に座る。
「この姿は僕ら姉弟のもう一人の親っていっていいラメタル王国宮廷女官長『黒衣のメーテル』の姿。これが『表側』だよ。だからメーテル商会。聞いてる?オーちゃん」
「……確か、もういい年齢だろう?」
メーテルさんの姿になったセネカが首を少し傾けて笑う。拾われた初っ端に世話になった人だ。オーガスタ時代に全身丸洗いをされた。しかも隅々だ。
「五年前くらい前に亡くなったよ。母上の育ての親だからね、母上は泣いて泣いてしばらく立ち直れなくてね。僕らもお世話になったから、この姿を残したくて」
メーテルさんの姿のセネカがふわりと笑いながら、
「ーー似ているかしら?」
と口調を変えた。
おい、そっくりだよ。
スバルが手招きをして、メーテルさんの姿のセネカが立ち上がる。
「アズール、レーン」
僕が二人に声をかけると二人は先に馬車を降りた。アズールが馬車を降りるとステップを出してから手を添えて降ろす。それからレーンが僕に手を添えて降ろした。それを見て辻馬車が戻っていく。
「僕の存在は?」
「小さなボーイフレンドかしらね。愛人にしては若くてよ?」
ははは、そーだよなあ。
僕はメーテルさんの後ろについて、アズールとレーンがさらについた。
「メーテルさん、中に入れてくれるって」
「ええ、ありがとう。スバル」
スバルがセネカでメーテルさん、ああもうメーテルさんでいいや、メーテルさんに話す。絶世の黒衣の美女メーテルに門番の私兵が口を開けている。もちろん多くの貴族や商人がひしめき合う中に、メーテルさんと僕らは怪しまれることなく入っていった。
ザルな警備で助かったよ。
「どこに行くんだ?」
辻馬車を依頼した時にセネカが御者に行き際を告げていたが、僕のオーガスタ時代の記憶だと、意外にも貴族の王都屋敷街じゃないか。
「闇っていうからもっと場末な場所かと思った」
僕の呟きにセネカが軽く笑う。
「今回の場所は、とある貴族の屋敷だからね。うーん、表向きは展示会。絵画や毛皮絨毯や家具まである。ガルドバルド大陸由来の物までね。だから初めは表側の業者として出入りするよ」
馬車はオーガスタ時代の記憶通りならブレンダー子爵の屋敷だ。かなり裕福なのか王都屋敷は広くて派手だ。僕ら貧乏貴族は王都屋敷なんか持てやしないから、王都に屋敷を構えられるってだけで金持ちだなあって感じる。
ツェッペリン家は王都のすぐ横に領地があり、そこから四時間かけて王都の端を抜けて王城に入るんだから、わりと立地がいいーーが、魔の森の管理をしているから結構大変だと思う。魔石水晶の設置など、父様は村からの依頼をしっかりとこなしている結構人のいい男爵だ。
「着いた?じゃあ、俺の出番ね」
馬車を停めさせるとスバルが一人で馬車を降りていく。セネカは軽く手を上げていて、済ました顔で座っていた。
え、おい、大丈夫なのか?お前、一応留学生で王子様……だけど、今日はアリシア王国では割とポピュラーなシャツに庶民的なベストにズボンだ。
スバルは同じ年ながら華奢だがしっかりとした筋肉がついていて、それなりに動けそうな身体をしている。筋肉のつきにくい腹実の僕とは全く違うし、小人族の血筋が強く出ているセネカとも違う。
「なんだ?スバルは何を……」
「とある貴族の子飼いの私兵に話しかけてるんだけど、どうかなあ?」
セネカが青銀髪を揺らして笑う。僕はスバルが身振り手振りを交えながら話をして、笑い声すらしているのを窓から見ていた。
「あれがスバルのスキル。すんなり相手の懐に入っちゃうの。怖いよね、あのマシンガントークとスキル」
マシンガンって、な、なんだ?
セネカの言葉を聞いて僕は驚きながらとりあえず頷いた。僕なら多分、アズールとレーンと一緒に力ずくでまかり通ってしまうところ、スバルはあの止まることないトークで割り開いている。
なんだっけ、師匠の言う『むけつかいじょー』かな。
「『表側』って話してだけど、セネカこのまま行くんじゃないのか?」
「まさか。オーちゃんと出掛けていた時は『裏側』だよ。ジーンの発明品や新しい魔道具なんかを違法に売りつけてたのはね。パールバルト王国の貴族に揺さぶりをかける闇の商人セネカくん」
僕が
「マジかよ」
と言葉を濁すとアズールとレーンが首を傾げて僕を見たので、黙ってしまった。
つまりオーガスタ時代にセネカに付き合ってパールバルト王国をあちこち渡り歩いたのは、闇取引による貴族崩しだったってことになる。ツェッペリン家を彩る便利家庭魔道具なんかはもう、骨抜きになるだろう。掃除魔道具なんて時間が来ると勝手に動いて埃や塵を吸い込み、拭き掃除までするんだ。リタがめちゃくちゃ喜んでいたよ。しかも一階と二階にいるんだ、そいつは。
「スバルから手招きがきたね。では僕も『表の顔』になるからね」
セネカが座ったまま
「変幻陣発動」
と馬車の中で陣を光らせた。陣を纏うっていう言葉がぴったりあう感じでセネカがにこりと笑う。
セネカの青銀髪から長金髪に変わり背中を覆う。瞳は深い青で、伏せ目がちの切長。真っ黒なドレスを着た一人の細身の女性が僕の横に座る。
「この姿は僕ら姉弟のもう一人の親っていっていいラメタル王国宮廷女官長『黒衣のメーテル』の姿。これが『表側』だよ。だからメーテル商会。聞いてる?オーちゃん」
「……確か、もういい年齢だろう?」
メーテルさんの姿になったセネカが首を少し傾けて笑う。拾われた初っ端に世話になった人だ。オーガスタ時代に全身丸洗いをされた。しかも隅々だ。
「五年前くらい前に亡くなったよ。母上の育ての親だからね、母上は泣いて泣いてしばらく立ち直れなくてね。僕らもお世話になったから、この姿を残したくて」
メーテルさんの姿のセネカがふわりと笑いながら、
「ーー似ているかしら?」
と口調を変えた。
おい、そっくりだよ。
スバルが手招きをして、メーテルさんの姿のセネカが立ち上がる。
「アズール、レーン」
僕が二人に声をかけると二人は先に馬車を降りた。アズールが馬車を降りるとステップを出してから手を添えて降ろす。それからレーンが僕に手を添えて降ろした。それを見て辻馬車が戻っていく。
「僕の存在は?」
「小さなボーイフレンドかしらね。愛人にしては若くてよ?」
ははは、そーだよなあ。
僕はメーテルさんの後ろについて、アズールとレーンがさらについた。
「メーテルさん、中に入れてくれるって」
「ええ、ありがとう。スバル」
スバルがセネカでメーテルさん、ああもうメーテルさんでいいや、メーテルさんに話す。絶世の黒衣の美女メーテルに門番の私兵が口を開けている。もちろん多くの貴族や商人がひしめき合う中に、メーテルさんと僕らは怪しまれることなく入っていった。
ザルな警備で助かったよ。
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