国王親子に迫られているんだが

クリム

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十章 闇オークション潜入

62 ピクニックかよ

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 シャルスが午後から定期健康診察ということで、僕はシャルスに離宮でのご機嫌伺いの仕事を任された。茶会で不快な思いをさせたお詫びも兼ねているので、王宮料理人のトルテをレーンにお茶セットをアズールに持ってもらい来宮した。

 アズールとレーンを連れていくと、セネカが待ちかねたような顔をしていたし、スバルはワクワク顔だ。そして『ご機嫌伺い』とやらをスタートする。

「実はね、王都内の闇オークション市場に、『ドラゴン・ブラッド』が出るらしいって情報が流れてきたんだ」

 セネカがトルテの切り分けにフォークを入れて、一口食べてから話し始める。それからスバルが食べるなんて毒味もしっかりしている。こちらも想定済みの銀食器だが、こいつら毒くらい簡単に看破しそうなんだけど。

「ーー王都で闇オークションって、王宮の離宮で聞くキーワードじゃないような」

「本当に~~だよね。でね、今からさくっと潜入して回収しちゃおうかなって」

「あ、そうなんだ今からさくっーーえ?」

 僕はお茶を飲もうとして止まった。

「僕とオーちゃんの従魔くんたちと、スバルで」

 場所が分かってるんなら第三近衛隊に任せればいいのに。なんで五人で行くんだ?僕が考えていると唐突、セネカが吹き出した。

「アーちゃんがいれば更に楽勝だけど、でもね非戦闘民のスバルって役に立つよ?」

 そして僕が預けたカプセルを机に出した。

「作りは魔石クリスタル。小人族のドワーフ製。封印陣が塗布してあって、かなり高いマナの持ち主にしか解除出来ない。僕やスバルでもだめだったよ。オーちゃんはどう?解除陣ある?」

「……あるけど、マジかよ」

 僕の持つ陣は師匠と同等のマナを持つ僕が受け継いだ複写陣の賜物だ。

 スバルが

「いいよ」

と魔石クリスタルの瓶を手にした。つまり僕以上のマナを持つものが解除しない限り『ドラゴン・ブラッド』カプセルは破れないってことか。

「魔法陣展開ーー解除」

 僕は師匠から受け継いだ陣を展開する。小さなクリスタルカプセルは砕け消えて、『ドラゴン・ブラッド』はスバルのクリスタル瓶に吸収された。

「無事回収した。ーーすごい、ノリンってば、ばあちゃんレベルですごい。ばあちゃんってさーー」

 あ、長くなりそう。よし、話を切るか。

「ばあちゃん?」

「スバルは大ばあ様の孫だからねー。僕の伯父さんになるわけ」

「ーーまじか!セネカってすんごい年上なのに、スバルが伯父上って」

 スバルとセネカの世代間のギャップ。実はスバルはセネカの伯父上とか。かなり年の離れた逆転伯父と甥だなあと思った。

「じゃあ、闇オークションに『ご機嫌伺い』に行きますか」

「ちょ、待っ、今すぐ?」

「そうだよ。シャルス殿下が帰る夕方までに戻らなきゃね」

「え、あ、おい!」

「確か離宮にもあるでしょ、オーちゃん。か・く・し・通路」

「ーーあるよ!畜生」

 手ぶらで普段着のまま僕らは離宮から繋がる隠し通路を使い、王城外へ向かう。王宮にも当然あるが、王族のための隠し通路が無数に存在する。全てを知っているのは、僕とアーネストだけだ。アーネストに頼まれて王城内の地図を作成したオーガスタ時代から変わってはいないようだった。

 グレゴリーやシャルスは一部しか知らされていないだろう。複雑で入り組んでいるがルートが決まっていて、王族含むマナ登録者のみが開けられる扉やトラップがあり、僕が使う分には問題はない。

 そんな隠し通路を王様であるアーネストは無視し窓から出て、堂々と門から抜けてるけどな。マナが使える王族貴族の隠し通路は対敵用でもあるが、マナが少ない平民は使えない代物だ。平等神ガルド神の平等の采配たるや?と考えないでもない。

 僕はマナに反応して足元に灯りがつく地下道を先頭に立って歩き、隣でキョロキョロするスバルの手を掴んだ。

「お前は迷子になりそうだ」

「えっ、ノリン。なんか男前~」

「坊ちゃん、私も手を繋いでください。怖くて」

 レーン、暗闇怖かった?なんで僕、両手を繋いで歩くんだ?

「仲良しだなあ、オーちゃんとスバルは」

 アズールの前を歩いていたセネカが、本当に楽しそうに笑う。

 あの頃……ふと思い出す。

 いつも先に歩くのは案内役のオーガスタで、肩を組んだり絡んだりするのはアーネスト。その後ろを従者騎士の二人、そして後衛の索敵をしていたセネカだ。魔の森の冒険者登録をしたアーネストは率先してオーガスタに案内を頼んだ。冒険者ギルドの手伝いをしていたセネカは、毎回毎回何故か巻き込まれた形になってーー

「楽しいねぇ、オーちゃん」

 しみじみとした呟きに、オーガスタ時代の思い出に浸ってしまっていた僕は顔を上げた。

 ちらりと背後を見ると、澄ました顔のセネカと少し後を歩くアズールがいる。楽しいか?なんだか忙しいんだが?時間制限あるんだけど。

「前は地下じゃなかったけどね、こんな風に森の中を、歩いてはピクニックみたいにしてたんだよ。ああ、今、戻って来たなあって。ねぇ、君もそう思うよね」

「ーーええ、本当に、懐かしいです」

 僕はどきりとした。想像出来ない時間の喪失感を抱えるセネカとアズールとレーン。彼らに悪いような気がして俯いた。

「なになに?セネカさん。あ、俺のこと役に立たないとか思ってアズールさんに話してない?でもさ、俺がいなければ毒を回収できないってわけよ。ノリンはわかってくれるよね?」

「瓶開けられるのスバルだけだろ?」

「そうそう!あ、ノリンは俺の価値わかってくれてた!あーよかった、もう一つあるんだよね、俺のスキル。俺さあーー」

 おい、スバル、話し、なげーよ!!でも、なんとなく救われた気分になった。

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