国王親子に迫られているんだが

クリム

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八章 ドラゴンブラッドの影

54 熱の行方

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 シャルスのベッドを覗き込むようにしていた女とシャルスの間に、転移陣を小さくして飛び込んだ。女がハッとして身を起こそうとすると、僕の影から躍り出たレーンが背後から腕を捻りあげる。

「ううっ!」

 うめいた瞬間、唇から小さなガラスのカプセルが落ちた。それはシャルスの柔らかな金髪の横に転がる。

「ーーお前は何をしようとした?いや、いい、舌を噛みそうだ、レーン、口にハンカチでも詰め込め」

「はい」

 片手で女の腕を捻り上げ、もう片方の手で布を押し込んだレーンを見てから、ハンカチに包んでカプセルをポケットにそっと入れた。

「衛兵さん、入ってください」

 扉の前にいる近衛兵に声をかけると、女の様子に驚いている。女の位置がベッドの横でしかも片膝が上がっているのを見て剣を構えた。

「シャルス様の寝込みを襲おうとしていました」

 僕はとりあえずガラスのカプセルのことは秘密にしてレーンを見るら。

「坊ちゃんと私は外を通りすがり、窓から入りました。この女は医師様に眠り薬を盛っています」

 レーンの淀みない言葉に、衛兵の一人が老医師を揺り動かすがぐうぐうと眠っているし、どうやらシャルスもこの喧騒で起きないところを見ると何か眠り薬が盛られているようだ。

「坊ちゃん、水差しの水です」

 手を離したレーンが水差しを手にして衛兵に渡す。別の衛兵が王宮医局に走っていくが、僕も驚いた。医師を連れてくるようだった。

「え、本当?」

 妖魔であり高位の淫魔であるレーンは、実に細かい変化に敏い。

「はい。多分、人害にはならない程度です」

 衛兵が唇を引き締めて水差しを受け取り、喋ることも舌を噛むことも出来ない女は引き摺られるように出ていき、それと入れ替わりにグレゴリーが老貴族を連れて入ってくる。

 グレゴリーはシャルスと老医師の様子に驚き、痩せたが大柄の身体を扉にぶつけるように入ってくる。シャルスも老医師も起きないのを見て、グレゴリーが青ざめていた。老医師も抱えられていき、グレゴリーが僕を見てひそりと聞いてきた。

「ノリン、先程の女の仕業か」

「多分……詳しくは、女の人と王宮医師に聞いてください」

 まだこのガラスカプセルは渡さないほうがいいような気がする。そして、グレゴリーの背後から入ってきた老貴族が気になった。

「殿下はどうなさっているのだね、グレゴリー宰相」

 癇に障る無機質で乾いた声がして、僕は顔を伏せてとりあえず、貴族令嬢のようにトレーンを摘んで礼をした。レーンも腰を屈めている。

「深くお眠りになっておられますな」

 チラッと見上げると、数年経ても余り変わらない屍蝋化したような硬い表情が見えた。青い弓形の眼差しに銀髪を撫で付けた小さな頭と痩せた身体。次期王の後見人である公爵にだけ許される純金の縫い取りある貴族ジャケット。中にはベスト。窄んだ膝丈キュロットと、リボンヒールはレグルス王宮式の貴族スタイルで、オーガスタ時代に見た時と、相変わらずの姿だった。

 シャルスの後見人でもあるつもりかよ。

「殿下のご機嫌伺いに来たのだが、大変なことになっていたものだ。女看護師を捕まえるなど、王宮近衛隊の手際の良さよ。素晴らしい」

 僕は顔を上げず声だけを聞いていた。この男はアーネストの長兄第一を毒殺したと噂されている。アーネストだって狙われていたのかもしれない。

 グレゴリーが向かい合うと、

「レーダー公、大変申し訳ないのだが、殿下もこの通りなのでな」

「いや、わしも思い立ってのことだからの。孫のカモンから今日の茶会を殿下が取りやめたと聞いて、心配して寄らせていただいただけで。幼少期よりお身体の弱い方だが、何より次期国王陛下におなりの方だ。王家を支える者として、心配は尽きぬよ」

 軽くため息をつく口調はどこにも感情はなく、かなり薄っぺらいもんだ。

「殿下にはしっかりとしたお付きメイド
を何人かつけなくてはいけないね。陛下には親切心で何度か送ったが、皆、癇癪で殺されたがね」

 アーネストの奴……。

 グレゴリーの言っていたことが本当だって分かり不安な顔をしていた僕は、アーネストのことを思い、少し身じろぎし震えてしまった。

「ああ、王宮のメイド服ではないな……誰か?」

「一年生の生徒だ。殿下のご病気を知らず、呼びに来て、偶然、な?メイドよ」

「はい、閣下」

 レーンがグレゴリーに合わせて頷いた。僕に声を出さないように、グレゴリーが目配せをしてくる。

「こんな小さな子が可哀想に。嫌なところに出くわしたものだ。王宮も管理が甘い。国王陛下には早く退位をしていただき、強固な新体制を築かないといけないのう」

 部屋を出ていく足音が誰もいない廊下に響く。王家の廊下を出れば、護衛騎士に囲まれるだろうレーダーに腹が立ってきた。そしてこのポケットの中身は、多分、男たちを殺したものに違いない。シャルスは殺されるところだったのかもしれないと思うと、怒りで煮えたぎりそうになる。

「レーン、兄様とリュトに今日は先に帰るように伝えてくれる?」

「はい」

 シャルスが起きるまで待っていたいと思ったからだ。どれくらい掛かるか、先程来た代理の若い王宮医師は治癒陣を少しばかり展開させると

「ーー分かりません」

とだけ告げた。





「ノリン……?」

 熱からか子供らしい表情のシャルスが僕に笑いかけた。あれから一時間程、昼過ぎにシャルスはぽかりと目を覚ました。 

 よかった、目を覚まして。

 僕のポケットにあるカプセルは封印陣を塗布してあり、レーンに預けている。外部破壊は絶対に出来ない。

 シャルスは僕の髪に手を伸ばし、ベッドの中から僕を抱きしめた。親友と同じ瞳をしたシャルスが唇を合わせてくる。

 ああ、そうなんだな、と僕は思う。

 僕からもキスをした。レーンが控えの間に行く。そうか、僕はシャルスに今から抱かれるのかな、そう考えられたのはほんの少し。

 シャルスの手は優しかったし、気持ち良くておかしくなりそうだった。身体は蕩けるように開き、背後からシャルスのもので刺され、腹に手を這わされて外から押される形になると中でイきっぱなしになり、信じられないくらいあっさり奥が開いた。

 シャルスが二度三度と結腸に精を放った後には、僕はシャルスの腕にしがみついて射精しながら身体中の良さに泣いていた。

 多分、シャルスが生きていてくれていたからだろう。嬉しかった。嬉しくて涙が出た。アーネストとメリッサの大切な一粒種で、オーガスタ時代に慕ってくれた。

 シャルスは僕を抱いてから体熱が治り、平熱に変わると僕は背後のシャルスからやっと離され、ベッドの中で疲れて眠るシャルスの顔を座って眺めていた。

 可愛いなあ……顔に髪が掛かってる。

 僕はシャルスに抱かれたんだ。身体の奥底にシャルスの形が残っているようで、シャルスの精で満たされているのを感じた。

「坊ちゃん、あの方が離宮でお待ちです」

 扉の向こうに待機しているレーンが、シャルスに聞こえないほどの小さな声で告げてきた。

「湯に入るから、着替えを手伝ってくれ」

「はい、喜んで」

 僕のオドを扉越しに吸い込んで満足したレーンがにこやかに扉を開いた。
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