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八章 ドラゴンブラッドの影
53 バルコニーの悲鳴
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あっという間にたどり着いたつもりだったんだが、テラスでは悲鳴が上がっていた。
「ほら、もっと近くにきて!」
セネカの声と剣の交わされる鈍い音がして、衛兵が倒れたのを目撃する。少なくとも敵は三人のようだ。黒衣の敵に一人が切り倒されて、僕はスバルとレーンをテラス前に待機させた。
「衛兵は!」
「オーちゃん、二人!でも動けるの、あと一人だけ!敵は三人!」
「分かった!」
おい、黒衣で黒い仮面って目立つだろ!その一人も肩傷を負っていた。セネカがテラスの上で貴族の子息令嬢を防衛陣に包み込み、ガードしてくれている。
芝生に倒れた衛兵も死んでいない。暗殺者っていうより、寄せ集めって感じだな。
三人のうちの一人が僕に狙いを定めたらしく、こちらに走ってくる。それを見てレーンが僕に倒れている衛兵の剣を投げて寄越した。
「坊ちゃん!」
僕は息を吸い込んで下腹の底へ貯めると、一気にその剣を投げた。それが向かってくる男の肩口に刺さり、僕は走り込みながら腰に引っかけた短剣で太腿を斬りつけ動きを止める。
「オーちゃん、横っ!」
隣の衛兵に斬りかかる男に対して斜めから、
「長剣!」
と魔剣ミスリルにマナを込めて長剣にして、敵の剣を構えた腕を瞬時に落とした。血煙が上がり僕は避けると、倒れている衛兵がぐっしょりと被るが、セネカの防護陣に斬りかかる黒服の敵に向かおうとした。
「ーー代わろう」
勢い駆けながらきたお付き騎士たちがやっと到着し、白く光る防護陣と敵の隙間に入り込み男を圧倒する。
「ぐっ!」
僕は
「殺すな!」
と大きな声で叫んだ。
重なる剣の金属音と、敵に押された騎士が防護陣に背中をぶつけてバウンドした。なんで苦戦してるんだよ。
「平和ってここまで腕が鈍るのか」
倒れた騎士に代わり、別の騎士が突撃して三人がかりで追い詰めた。やっとだなあ。
三人のうち軽症の男から所在を聞き出せばいい。それは衛兵……近衛隊の仕事だ。僕は剣を小さくすると腰に引っ掛け直し、セネカにアイコンタクトをする。セネカは防護陣を解除して息をついた。
「はーっ、怖かった。オーちゃん、スバル、大丈夫?」
スバルに振り向くと、スバルは少し顔色が悪かったが、レーンの横でしっかりと立っているから大丈夫だ。セネカがスバルに抱きついて、スバルが少し涙ぐんだのを見ていると、もう少し血飛沫を減らすほうが良かったかなと思ってしまうな、こちらも久々の実戦に余裕がなかったのが、本音だ。
だが、誰も殺していない。
「衛兵、拘束しろ。茶器を確保、鑑定に回せ。誰か、治癒魔法がでーー」
「オーちゃん、素に戻りすぎだよ」
セネカの声に僕は眉を顰める。
三人の黒ずくめはお付き騎士と衛兵に拘束され、騎士の一人はお付き騎士の一人から治癒魔法を受けていた。僕はオーガスタ時代のように、アーネストのサポートのごとく指示を出してしまっていた。
「ーーあ!いかん、いや、だめだよねー」
「もう、戦闘モードになっちゃうの、アーちゃんと変わらないじゃん」
魔の森冒険者ギルドでは、アーネストが前衛、オーガスタが案内係件知略中衛、セネカが後衛防護で暴れたものだ。役割は時折変わることもあるが、ザクザク斬って歩くのはアーネストとオーガスタだ。ちなみにアーネストのお付き騎士は荷物持ち件食事係の大役を任されていた。
「こちらにも治癒魔法を。早く生徒を学舎の中へ」
さすがに外にいた第四近衛隊が到着して、第三の遊撃騎馬隊の一部も合流しつつある。たった数分の派手な攻防戦だが、戻りも遅いな。
拘束された男たちは止血され、簡単な治癒魔法を受けていた。血飛沫を浴びた衛兵が黒仮面を剥ぐと、レガリア連邦王国では平凡な茶髪に茶目の色白の男の顔が出てくる。三人とも農夫のようなゴツさはなくて、どちらかというと場末の冒険者のようだった。そんな奴から
「えぶっ」「えぐっ」「ぐぅっ」
と奇妙な声が聞こえた。
男たちはえずいたような声を出して震えている。三人ともが同時に奇妙な声を出したのを聞いて、僕はそちらに振り向いた。
周りは泣きながら侍従やばあやに縋る令嬢や、騎士に話を聞く令息がざわついていて避難が始まっていた。とりあえず舞踏会場に退避することになり、スバルも連れていかないととスバルの方へ近寄った時、
「うげぇっ」
と一人の口の中でカチリと何かが割れた音がした。そして矢継ぎ早に音が二つ。目をやった瞬間、見えたのは鮮血の赤。口から滴る赤い帯が、力ない吐血となって芝生に溢れた。
それは瞬時に血溜まりとなり男たちを絶命に至らしめ、その中に黒いシミみたいな物体な浮かび上がり、不意にスバルがしゃがみ込んでいる方向へ動き出した。
「スバル!」
スバルは胸元のポケットからガラスの化粧瓶みたいなものを取り出し、勢いよく飛び散りスバルを目掛けたそれを吸い込むようにして確保すると蓋を閉めた。
「ふーっ、やばかったね」
ただ怖くてしゃがみ込んでいただけではなかったらしいが、なんなんだ、今のは。
でも、何か引っかかる。
あの赤、見たことがあるのだ。地面の赤い血ーーオーガスタ時代、最後の記憶ではなかったか……。
「坊ちゃん!」
レーンに抱きつかれ僕はオーガスタ時代の記憶から抜け出た。だめだ、僕はノリン・ツェッペリンだ。
「オーちゃん、良かった。怪我はない?」
セネカとスバルと合流し、僕は小さく頷く。そこでセネカが小さく耳打ちした。
「ごめんだけど、オーちゃん。襲撃の派手さに比べて被害が少ないよね。なんか、やな、予感ーー」
セネカの予感は当たる。敵はもう全員死んでいた。
「ーー転移陣。シャルスの所に飛ぶ。レーンは影へ」
「はい」
子息令嬢の背後で僕は消えた。
「ほら、もっと近くにきて!」
セネカの声と剣の交わされる鈍い音がして、衛兵が倒れたのを目撃する。少なくとも敵は三人のようだ。黒衣の敵に一人が切り倒されて、僕はスバルとレーンをテラス前に待機させた。
「衛兵は!」
「オーちゃん、二人!でも動けるの、あと一人だけ!敵は三人!」
「分かった!」
おい、黒衣で黒い仮面って目立つだろ!その一人も肩傷を負っていた。セネカがテラスの上で貴族の子息令嬢を防衛陣に包み込み、ガードしてくれている。
芝生に倒れた衛兵も死んでいない。暗殺者っていうより、寄せ集めって感じだな。
三人のうちの一人が僕に狙いを定めたらしく、こちらに走ってくる。それを見てレーンが僕に倒れている衛兵の剣を投げて寄越した。
「坊ちゃん!」
僕は息を吸い込んで下腹の底へ貯めると、一気にその剣を投げた。それが向かってくる男の肩口に刺さり、僕は走り込みながら腰に引っかけた短剣で太腿を斬りつけ動きを止める。
「オーちゃん、横っ!」
隣の衛兵に斬りかかる男に対して斜めから、
「長剣!」
と魔剣ミスリルにマナを込めて長剣にして、敵の剣を構えた腕を瞬時に落とした。血煙が上がり僕は避けると、倒れている衛兵がぐっしょりと被るが、セネカの防護陣に斬りかかる黒服の敵に向かおうとした。
「ーー代わろう」
勢い駆けながらきたお付き騎士たちがやっと到着し、白く光る防護陣と敵の隙間に入り込み男を圧倒する。
「ぐっ!」
僕は
「殺すな!」
と大きな声で叫んだ。
重なる剣の金属音と、敵に押された騎士が防護陣に背中をぶつけてバウンドした。なんで苦戦してるんだよ。
「平和ってここまで腕が鈍るのか」
倒れた騎士に代わり、別の騎士が突撃して三人がかりで追い詰めた。やっとだなあ。
三人のうち軽症の男から所在を聞き出せばいい。それは衛兵……近衛隊の仕事だ。僕は剣を小さくすると腰に引っ掛け直し、セネカにアイコンタクトをする。セネカは防護陣を解除して息をついた。
「はーっ、怖かった。オーちゃん、スバル、大丈夫?」
スバルに振り向くと、スバルは少し顔色が悪かったが、レーンの横でしっかりと立っているから大丈夫だ。セネカがスバルに抱きついて、スバルが少し涙ぐんだのを見ていると、もう少し血飛沫を減らすほうが良かったかなと思ってしまうな、こちらも久々の実戦に余裕がなかったのが、本音だ。
だが、誰も殺していない。
「衛兵、拘束しろ。茶器を確保、鑑定に回せ。誰か、治癒魔法がでーー」
「オーちゃん、素に戻りすぎだよ」
セネカの声に僕は眉を顰める。
三人の黒ずくめはお付き騎士と衛兵に拘束され、騎士の一人はお付き騎士の一人から治癒魔法を受けていた。僕はオーガスタ時代のように、アーネストのサポートのごとく指示を出してしまっていた。
「ーーあ!いかん、いや、だめだよねー」
「もう、戦闘モードになっちゃうの、アーちゃんと変わらないじゃん」
魔の森冒険者ギルドでは、アーネストが前衛、オーガスタが案内係件知略中衛、セネカが後衛防護で暴れたものだ。役割は時折変わることもあるが、ザクザク斬って歩くのはアーネストとオーガスタだ。ちなみにアーネストのお付き騎士は荷物持ち件食事係の大役を任されていた。
「こちらにも治癒魔法を。早く生徒を学舎の中へ」
さすがに外にいた第四近衛隊が到着して、第三の遊撃騎馬隊の一部も合流しつつある。たった数分の派手な攻防戦だが、戻りも遅いな。
拘束された男たちは止血され、簡単な治癒魔法を受けていた。血飛沫を浴びた衛兵が黒仮面を剥ぐと、レガリア連邦王国では平凡な茶髪に茶目の色白の男の顔が出てくる。三人とも農夫のようなゴツさはなくて、どちらかというと場末の冒険者のようだった。そんな奴から
「えぶっ」「えぐっ」「ぐぅっ」
と奇妙な声が聞こえた。
男たちはえずいたような声を出して震えている。三人ともが同時に奇妙な声を出したのを聞いて、僕はそちらに振り向いた。
周りは泣きながら侍従やばあやに縋る令嬢や、騎士に話を聞く令息がざわついていて避難が始まっていた。とりあえず舞踏会場に退避することになり、スバルも連れていかないととスバルの方へ近寄った時、
「うげぇっ」
と一人の口の中でカチリと何かが割れた音がした。そして矢継ぎ早に音が二つ。目をやった瞬間、見えたのは鮮血の赤。口から滴る赤い帯が、力ない吐血となって芝生に溢れた。
それは瞬時に血溜まりとなり男たちを絶命に至らしめ、その中に黒いシミみたいな物体な浮かび上がり、不意にスバルがしゃがみ込んでいる方向へ動き出した。
「スバル!」
スバルは胸元のポケットからガラスの化粧瓶みたいなものを取り出し、勢いよく飛び散りスバルを目掛けたそれを吸い込むようにして確保すると蓋を閉めた。
「ふーっ、やばかったね」
ただ怖くてしゃがみ込んでいただけではなかったらしいが、なんなんだ、今のは。
でも、何か引っかかる。
あの赤、見たことがあるのだ。地面の赤い血ーーオーガスタ時代、最後の記憶ではなかったか……。
「坊ちゃん!」
レーンに抱きつかれ僕はオーガスタ時代の記憶から抜け出た。だめだ、僕はノリン・ツェッペリンだ。
「オーちゃん、良かった。怪我はない?」
セネカとスバルと合流し、僕は小さく頷く。そこでセネカが小さく耳打ちした。
「ごめんだけど、オーちゃん。襲撃の派手さに比べて被害が少ないよね。なんか、やな、予感ーー」
セネカの予感は当たる。敵はもう全員死んでいた。
「ーー転移陣。シャルスの所に飛ぶ。レーンは影へ」
「はい」
子息令嬢の背後で僕は消えた。
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