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八章 ドラゴンブラッドの影
52 お茶会に行こう
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意外に足が速いスバルは僕を小脇に抱えながら鼻歌でも歌うように走っている。その後ろを平然と走るレーンは腕を振るわけでもなく、手を前で合わせて足音すら聞き取れない。
「ちょっと前ぶりだなあ、ノリン」
そうだな~なんて答える前に、スバルが話し始めた。
「実は二限目が休みで茶会が早まったんだよ。しかしな、茶がまずくてまずくて、俺は耐えきれなくてノリンを呼びにいったわけだ」
「はぁ、まずい?なにそれ毒なの?」
「わっかんないよ。俺、毒耐性あるから、それがただまずいのかなんなのか。でもさ、本気でまずいんだよ。なんかさ、一年生のお茶会が偉い貴族の手で入れるっつー、よく分からない感じなんだけどさ。お茶を入れるのも公爵の息子で、菓子はまあうまいんだけど、それ食べながら飲みながら、うふふ、あははだから、もうノリンいないと無理、絶対無理っていうかで迎えにきた」
あーー、逃げてきたな、こいつ。
茶がまずいってなんなんだ?毒草茶を出したってわけないよな。第一、あれは王族の一部くらいしか飲まない。アーネストは基本的に味覚音痴だから大概なものを食べられる悪食だ。しかしオーガスタのベリーパイとメリッサのベリーパイを食べ分けられる舌を持っていたから、本当によく分からない。
それにスバルはケロリとしているし、毒を持ったのなら今日の主催者が罪を被ることになるーー
「シャルス様も呼ばれていたんだっけ」
僕は思わず呟いた。すると背後を走るレーンが
「はい、そうです。こちらで出されるものは全てお毒味は致しますが、貴族手ずからとなると不敬になるため、控えることになります」
と話した。アズールやレーンは淫魔だから毒は効かないんだろうけど、『毒』って分かるんだ。
「今のシャルス様が毒草茶を飲んだら間違いなく体調を崩す。ーーそれが狙いかな?」
毒草茶は大量に飲めば中毒死をするだろうが、一杯くらい大したことはない。せいぜい腹痛か眩暈がするって程度だ。
「なになに?激まず茶を飲むとシャルス殿下は体調崩すの?ああ、まあ、あのお茶はやばいよねー、ってか、シャルス殿下今日来ないんでしょ。ほんとよかったよね、まじで激まずなんだから。みんな顔顰めて飲んでたもん。誰だっけ、なんとかいう偉いらしい公爵の孫が入れたもんだから、断れなくてさあ。『さあ、殿下、どうぞ』なんて俺一番初めに飲んだんだよ。もう、参ったよって、聞いてる?」
うん、聞いてない。
しかし……不審死が王城近場の王都でも出ているってのに、お茶会とか貴族子息令嬢は呑気だな。
午前中って、確か第三近衛隊は王城近隣王都の警らに入り、第二近衛隊が分散して王城門の衛兵に加わる。第一近衛隊は王宮警備の入れ替えだ。一番警護が薄くなる。
王宮学舎は基本的に侍従やお付き騎士が貴族子弟子女を守るため、学舎に生徒がある間の北城門は衛兵一人で守る。有事の際は外を警らする第三近衛隊の者が来るらしいが、タイムロスは否めないだろう。
「ーーあれ?」
このパターンってーー
第一王子の卒業前のお茶会と同じじゃないのか?
アーネストから聞いたことがある。
第一王子は、貴族学舎卒業前日、ニ期生と一緒にテラス貴族学舎のラウンジで卒業記念茶会に誘われ、原因不明の突然死をした。今から相当前で戦前の話だが、その後すぐにレガリア連邦王国内レグルス王国が突然進軍を始めたから、覚えがある。第一次レグルス侵攻だ。
オーガスタは魔の森でガイドをしていたがアーネストと組んでいて成り行き、駆り出されたんだっけ。
「……再び戦争を起こす気か?」
「戦争?激まず茶が?それはないよ。だいたいね、茶葉は煮出すものじゃないよね」
「うん、観点が違う。スバル、セネカは近くにいるか?」
「ああ、うん。テラスに置き去りにしてきた。大丈夫だよ、セネカさんは激まず茶は飲んでないよ。あ、どうしたの?ノリン」
僕はスバルの腕から飛び降りると、自力で走りながらスバルに聞いた。
「セネカに内密で連絡取れるか?子息令嬢を守る防衛陣を出来るだけ展開できるようにしてくれ」
僕がスバルに言うとポケットから手の大きさくらいのデバイスを持って話し始める。どうやらこちらの言わんとしていることは理解してくれたようだが、
「ノリン、どうしたんだよ。激まず茶は破壊力満点だけどさ、命は大丈夫だって」
と、激まず茶から話題も視点も離れてくれない。そんなスバルがセネカと話しながら同じ速度でついてくる。いいな、あれ、デバイス。欲しいかも。
「ノリン、ノリン!セネカさんがなんだか雰囲気やばいかもって。貴族のお付き騎士たちは舞踏会場にいて、嫌な気配がするみたいんだけとさ」
テラスお茶会の毒草茶は囮で、本当の目的は襲撃か?シャルスの命を本気で狙っていたっていうのかよ。本気で第三次レグルス侵攻の布石にするつもりか。
「ちっ、加速するぞ。レーン、ついてこい」
「あっ、ノリン、待ってよ!じゃあ、セネカさん、一回デバイス切るね」
「スバル!繋げたままにしとけ!」
レーンがスバルを両手で抱き上げて僕の後ろを走る。
「横抱き?お、お、お姫様抱っこ~~っ!転移陣とかは無理なの?メイドさんに抱っことかやだよー」
「転移陣で敵の真ん中に入るつもりか?だめだろ、それは」
「端っこならいいだろーーっ!」
僕は加速陣を展開すると、レーンと抱っこされたスバルと一緒に貴族学舎に向かい走り込んでいった。
「ちょっと前ぶりだなあ、ノリン」
そうだな~なんて答える前に、スバルが話し始めた。
「実は二限目が休みで茶会が早まったんだよ。しかしな、茶がまずくてまずくて、俺は耐えきれなくてノリンを呼びにいったわけだ」
「はぁ、まずい?なにそれ毒なの?」
「わっかんないよ。俺、毒耐性あるから、それがただまずいのかなんなのか。でもさ、本気でまずいんだよ。なんかさ、一年生のお茶会が偉い貴族の手で入れるっつー、よく分からない感じなんだけどさ。お茶を入れるのも公爵の息子で、菓子はまあうまいんだけど、それ食べながら飲みながら、うふふ、あははだから、もうノリンいないと無理、絶対無理っていうかで迎えにきた」
あーー、逃げてきたな、こいつ。
茶がまずいってなんなんだ?毒草茶を出したってわけないよな。第一、あれは王族の一部くらいしか飲まない。アーネストは基本的に味覚音痴だから大概なものを食べられる悪食だ。しかしオーガスタのベリーパイとメリッサのベリーパイを食べ分けられる舌を持っていたから、本当によく分からない。
それにスバルはケロリとしているし、毒を持ったのなら今日の主催者が罪を被ることになるーー
「シャルス様も呼ばれていたんだっけ」
僕は思わず呟いた。すると背後を走るレーンが
「はい、そうです。こちらで出されるものは全てお毒味は致しますが、貴族手ずからとなると不敬になるため、控えることになります」
と話した。アズールやレーンは淫魔だから毒は効かないんだろうけど、『毒』って分かるんだ。
「今のシャルス様が毒草茶を飲んだら間違いなく体調を崩す。ーーそれが狙いかな?」
毒草茶は大量に飲めば中毒死をするだろうが、一杯くらい大したことはない。せいぜい腹痛か眩暈がするって程度だ。
「なになに?激まず茶を飲むとシャルス殿下は体調崩すの?ああ、まあ、あのお茶はやばいよねー、ってか、シャルス殿下今日来ないんでしょ。ほんとよかったよね、まじで激まずなんだから。みんな顔顰めて飲んでたもん。誰だっけ、なんとかいう偉いらしい公爵の孫が入れたもんだから、断れなくてさあ。『さあ、殿下、どうぞ』なんて俺一番初めに飲んだんだよ。もう、参ったよって、聞いてる?」
うん、聞いてない。
しかし……不審死が王城近場の王都でも出ているってのに、お茶会とか貴族子息令嬢は呑気だな。
午前中って、確か第三近衛隊は王城近隣王都の警らに入り、第二近衛隊が分散して王城門の衛兵に加わる。第一近衛隊は王宮警備の入れ替えだ。一番警護が薄くなる。
王宮学舎は基本的に侍従やお付き騎士が貴族子弟子女を守るため、学舎に生徒がある間の北城門は衛兵一人で守る。有事の際は外を警らする第三近衛隊の者が来るらしいが、タイムロスは否めないだろう。
「ーーあれ?」
このパターンってーー
第一王子の卒業前のお茶会と同じじゃないのか?
アーネストから聞いたことがある。
第一王子は、貴族学舎卒業前日、ニ期生と一緒にテラス貴族学舎のラウンジで卒業記念茶会に誘われ、原因不明の突然死をした。今から相当前で戦前の話だが、その後すぐにレガリア連邦王国内レグルス王国が突然進軍を始めたから、覚えがある。第一次レグルス侵攻だ。
オーガスタは魔の森でガイドをしていたがアーネストと組んでいて成り行き、駆り出されたんだっけ。
「……再び戦争を起こす気か?」
「戦争?激まず茶が?それはないよ。だいたいね、茶葉は煮出すものじゃないよね」
「うん、観点が違う。スバル、セネカは近くにいるか?」
「ああ、うん。テラスに置き去りにしてきた。大丈夫だよ、セネカさんは激まず茶は飲んでないよ。あ、どうしたの?ノリン」
僕はスバルの腕から飛び降りると、自力で走りながらスバルに聞いた。
「セネカに内密で連絡取れるか?子息令嬢を守る防衛陣を出来るだけ展開できるようにしてくれ」
僕がスバルに言うとポケットから手の大きさくらいのデバイスを持って話し始める。どうやらこちらの言わんとしていることは理解してくれたようだが、
「ノリン、どうしたんだよ。激まず茶は破壊力満点だけどさ、命は大丈夫だって」
と、激まず茶から話題も視点も離れてくれない。そんなスバルがセネカと話しながら同じ速度でついてくる。いいな、あれ、デバイス。欲しいかも。
「ノリン、ノリン!セネカさんがなんだか雰囲気やばいかもって。貴族のお付き騎士たちは舞踏会場にいて、嫌な気配がするみたいんだけとさ」
テラスお茶会の毒草茶は囮で、本当の目的は襲撃か?シャルスの命を本気で狙っていたっていうのかよ。本気で第三次レグルス侵攻の布石にするつもりか。
「ちっ、加速するぞ。レーン、ついてこい」
「あっ、ノリン、待ってよ!じゃあ、セネカさん、一回デバイス切るね」
「スバル!繋げたままにしとけ!」
レーンがスバルを両手で抱き上げて僕の後ろを走る。
「横抱き?お、お、お姫様抱っこ~~っ!転移陣とかは無理なの?メイドさんに抱っことかやだよー」
「転移陣で敵の真ん中に入るつもりか?だめだろ、それは」
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僕は加速陣を展開すると、レーンと抱っこされたスバルと一緒に貴族学舎に向かい走り込んでいった。
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