国王親子に迫られているんだが

クリム

文字の大きさ
上 下
45 / 165
七章 ガルドバルド大陸の王子

44 数年振りの邂逅

しおりを挟む
 お互いに言葉を出せずにいた。

「ーーは?オーちゃん、分からないの?」

 久方振りに会った親友に答えられることは少ない。僕は頷きながら話した。

「地図が完成したから、魔の森を出てラメタル国の待ち合わせ場所に行こうとしたんだーーそれは覚えている」

 安全なはずだった。だから剣をアズールに預けて出かけた。

「あのね、魔法測量器の出所はパールバルト王国の骨董屋。ラメタル製は番号が振られているから、すぐに分かったよ。だから僕はそれを手に入れ、それから壊れかけたレーンを探し出して渡したんだ。ああ、この離宮は僕とスバルだけしかいないから大丈夫。秘密はばれっこないよ」

 僕はセネカが言うようにアズールに影から出るように告げると、アズールが出てきて片膝を着き礼を取る。左手を膝に置いているから臣下の礼ではないのだけれど、アズールもレーンも僕以外にこんな風に最敬礼を取るのは初めてだった。

「お久しぶりでございます、殿下」

「うん、あれ、君だけ?」

「はい、今は」

 妖魔にとってマスターにもらった名前は縛りであるが喜びだ。それを知っているからセネカもアズールの名前を呼ばない。

「その節はありがとうございました。我々はマスターに無事に会うことができました」

 するとセネカがアズールに

「よかったよ。でね、お茶淹れ直してくれない?」

とにっこりと笑いかけ、アズールはすっと部屋の奥野湯沸かし魔道具に歩み寄る。音もなく優雅なのはさすがアズールだなって思った。

「オーちゃんはオーちゃんらしくしてよ、少なくとも僕の前では」

「と、言われてもなあ……」

 僕は頭をぽりぽりと掻く。平民の言葉をこの姿で話すなんてなんか慣れない。

「もう素が出ているよ」

と言われて、

「え、あ、そうなんだ?」

と抜けた返事をしてしまい、お茶を持ってきたアズールにクスリと笑われた。僕はお茶のカップを手にして、セネカはゆっくりと温かな香りの良いお茶を飲むのを見ていた。

「多分、オーガスタは『死んだ』。だって僕の目の前にノリン・ツェッペリンとして『居る』んだから。でも死体は『ない』んだ。オーガスタの身体を誰も目撃していない」

 まるで自身に言い聞かせるようにセネカが話す。

「死体がない?アズールも見ていないのか?」

 僕が声を掛けると、ソファの後ろにいたアズールが答えた。

「はい。マスターの痕跡を辿りましたが、マスターを見ていません。私たちはマスターを探しつつ魔の森で生き、あの貴族学舎試験のマナを感知し、マスターを追いました」

 ああ、ツェッペリン家の庭でマナを天空にぶっ放して、測定水晶を割ってしまった時のことだ。それで知ったアズールとレーンが押しかけてくれて今がある。
 
「現状確認をしよっか。久方振りだし」

 セネカに言われて僕は話しはじめた。僕がオーガスタの記憶を持ちツェッペリン男爵家の次男として生まれたこと。四歳の発熱で記憶を取り戻したことや、今シャルスの政務の手伝いをしていることを手短かに話した。

 セネカの方はオーガスタ時代と大して一変わりなく、異世界型製品を売っている闇の商人をしながら、魂の番いと言われる伴侶を探している。今はスバルの御用伺いとしてここにいる。ただ違うのは末の弟が獅子獣面で生まれ、ガルドバルド大陸のセリアン王国に行ったことだった。

「末っ子のシノワのことは寂しいけど、デバイスもあるしどこでもドアでちょこちょこ帰ってくるから。それにしても可愛いね、オーちゃん。金髪碧眼の美少年って感じじゃない。しかもその華奢な身体で成人って可愛すぎる。ーーね、覚えてる?」

 ーーは?

「ジーンの服から逃げるときに言った言葉をね。確か『金髪碧眼の美人だったらなんでも着てやるよ』だったよねえ……今なら、なんでも着てくれるよねぇ?」

 にじり寄ってくるセネカに僕は本気で怯えた。顔が笑ってるけど、目が怖い。

「か、可愛いって自覚するなら、セネカがやればいいだろーが!」

「もちろん、売り込みに行くときには着ていくよ。でもカタログも僕じゃインパクトないんだよね。今のオーちゃんなら王族みたいな容姿だし。あ、大丈夫、お化粧して、分からないように写真撮るから」

「ま、まあ、以前言ったことだしな。男に二言はないって」

 ジーンといえばセーラー服だ。何色のセーラー服でもフリルでも今なら大丈夫だろう。しかし鞄から出してきたのは下着の山だった。

「は、はあああ?し、下着かよ!聞いてねーぞ!無理無理無理無理」

 ひらひらフリルだが、服じゃない!

「だって言ってないもん。オーちゃん、男に二言はないんだよね」

「ーーひょっ!」

 アズールが逃げ出そうとする僕をひょいっと抱きかかえる。

「アズール!」

「殿下には恩がありますので。何から着ますか、マスター」

 アズールの目が愉快そうに笑っていた。




 めっちゃ恥ずかしいポーズとか取らされた。窓枠とかベッドとか椅子とか、アズールの手とか……僕の人権とかとか、もう大丈夫なんだろうか。

「ノリノリでしたね、マスター」

 うるさい、アズール!早く終わるためだって!

「いやあ、いい感じいい感じ。メンズランジェリーの販路拡大するよねー」

 やっと服を着せてもらえて深く僕は息を吐いた。

「セネカ、頼むからツェッペリン家の人々の目には晒さないでくれよ」

「大丈夫だって。あ、でも、マギー君には渡すかも」

「えっ!」

「オーちゃんだって気づく目利きなんてそういないよ」

 とか言っても、なんとなくリアンあたりが気付きそうで怖いんだが。

「あ、そうだ。アーちゃんには話したの?僕と同じ親友でしょ?」

「話すか、バカタレ。生まれ変わりましたなんて、ふつー信じられないだろーが」

「あははは、更に素が出てる」

「今のアーネストはだめだ。王宮で知り合いなのは宰相になったグレゴリーとシャルスくらいだから黙っていても大丈夫だろうな」

 アーネストは僕をノリン・ツェッペリンとして抱いている。アーネストにとってはオーガスタは過去だ。だったら言わなくてもいい。

「そうかなあ。アーちゃんに話してお願いしたら、見つからない死体くらい見つけてくれそうだけど」

 ーー死体で思い出した。

「セネカ、足がつかない毒って知らないか?」

 シャルスのところに行くのに昼過ぎになってしまって、昼食を食いっぱぐれて仕方ないなあと思いながら、山のようにもらった『撮影済み下着』と共に政務室に向かおうとした僕はセネカに聞いてみる。師匠のひ孫にあたるなら、なにか知っているのかなと軽い気持ちだった。

「あるよ」

「ああ、あるよーーあるの?」

「うん、『ドラゴンブラッド』」

 ーー何だ、そのきっぱり感は。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

処理中です...