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七章 ガルドバルド大陸の王子
42 出会って秒で叩かれた
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アズールは足早に政務室を出て、王宮のアーネストの部屋に行くべく歩き出す。
「やだやだ、だめだって。今度こそマジで抱き潰される」
アズールの腕の中でもがくと、また下に下がってくる感覚がして腹に力を込める。
アズールが
「それが狙いです」
としれっと言うから、僕はアズールの腕から飛び降りた。もう、いい。どっかのトイレで出せばいいんだから。
「坊ちゃん、待っ……」
「もう、ついてくんなよ!」
八つ当たりだ。僕はアーネストに雰囲気の似ているアズールに対して、アーネストへの苛立ちをぶつけてるにすぎない。アズールは少し迷っていたが、踵を返すとどこかに消えていってしまった。
歩くとまた下がってくるようで、立ち止まって廊下の奥を見上げた。廊下はいつも通り人はいない。王宮ってあれだ、城だろ?前はメリッサの屋敷から来ていたメイドもいて、すごく賑やかだった王族居住区は、今は閑散としている。
寂しいのは王宮を内から管理管轄する女主人がいないからなのかな、なんて思っているとどろりとした感覚が体内にやってきて、僕はしゃがみ込みそうになる。すると軽い足音が聞こえてきた。
「スバルーー!どこに行ったの。本当に君、勝手過ぎるんだから。こーらー、出てきなさーい!学舎には迎えが来てからって言ってるでしょーー!もう、スバルにかまけて、僕は動きが出来ないし、本末転倒じゃなーい!」
以前と全く変わっていない声に、僕は飛び上がりそうになってしまった。そして慌てて廊下の角に隠れてしまう。
王族居住区に差し掛かる廊下の先に、小気味良く長い細い足を蹴り、肩出しのショート丈ブラウスにミニの折り返しホットパンツ姿がこちらに歩いてくる。スカートやズボンなんて関係ない奴だった。今の僕より少し背丈があるかもしれない。王宮に迷子?スバルって呼んでいたよな?
水色がかる肩口で切り揃えられた銀髪が
「んう?」
と声を上げて、天井を見上げてから何かを探す仕草をする。
つい僕も天井を見上げてしまい、廊下に視線を戻すともういない。
「ーーあれ?」
僕は声を上げながら廊下の影から出て探した。スバルの関係者なら離宮の風呂が使えるはずだ。だったら今の状況に最適だ。だから意を決して廊下に出ると、
「何シカトしてんの、オーちゃん。僕ね、怒ってるんだから」
と目の前に降ってきた。瞬間的に移動したかのように、僕の上空から音もなくやってきて当たり前のように可愛く笑いながら、僕の片頬を軽くビンタする。
う、振動やばいって。
僕はへたりと座り込んだ。もうだめだ、身体の奥から熱くて……出て……漏れそう。
「え、あ、やだ!そんなに強く叩いてないよ。大丈夫?オーちゃんっ!」
「ーー離宮の風呂、貸してくれ」
そう言うのが精一杯だった。
まあ、端的に言えば、あ、あれだ。
「ーー坊ちゃん、お借りした下着はこちらですが……」
本当に十五年ぶりに浴びた散湯のあと、ジャグジー付き浴槽内にいたら、僕の影から出てきたアズールがタオルと下着を持ってくる。
アーネストの出した体液が漏れて下着についてしまったわけで、原因の一端(軽いビンタ)になったセネカは、慌てて転移陣を繰り出すと、僕を離宮の浴室にドンピシャ転移させたんだ。相変わらずの力技……さすが、師匠のひ孫としかいいようがない。
で、僕は僕の影からすかさず出てきたアズールにシャワーで音を消しながら掻き出され、恥ずかしくも身体に溜まっていた熱が再発してこっそり処理してもらい、身体は一件落着していたーーが、目の前に出てきた下着に目を見開いた。
「ーー女性の下着じゃないか」
薄桃のひらひらした下着は薄くて透けている。こ、これを身につけろとーーつまり、セネカは僕を『オーちゃん』という女の子と勘違いしているんだ。なあんだ、そういうことかよ。でも、まあ、男であることは正さないとだめだよな。
下着をつけないで服を着るってのもなんだから、ショート丈のバスローブを羽織ってから、紐で結んで前を閉じると部屋に入る。アズールは影に消えて、僕は畳まれた服の上に下着を乗せていた。ちなみに僕の下着は洗ってあるが、まだ乾いていない。
居間には紅茶を入れていたセネカが
「あれ?」
と声を出した。
「オーちゃん、服も汚れちゃったの?気づかなくてごめんねー」
「あ、いえ。服は大丈夫ですが、下着が……僕、こんななりですが男でして」
下着を返そうとしたが、
「大丈夫、大丈夫。それ、男の子の下着だから、間違ってないよー。ラメタル国では今ランジェリーも凝っていてね。ジーンがテレサと開発しているんだよー。もちろんアキラがモデルにしていてね。あそこはずーっと仲が良くて羨ましいよ。僕も魂の番いを見つけたいなーーって、聞いてる?オーちゃん」
アキラ……か。確か異世界からジーンが連れてきた不死の子供だったっけ。パールバルト王国の地図を作成した時、国王陛下の御前の後にチラッと姿をみたが、なんとも小さなお子様姿でジーンは少年趣味かと驚いたが、成人していて尚且つジーンの着せ替えに付き合ってくれていたとは。異世界人って懐が深いんだなあ。
オーガスタ時代、小さい頃はジーン作画テレサお針子のセーラー服とやらを着せられたことがあるが、
「ーーまあまあ似合う」
と少し笑顔をされ、いつも無表情の大柄なジーンのそれが怖くて、二度と着るまいと逃げ回ったもんだ。
「あ!はい、聞いています。では、お、お借りします」
オーガスタ時代の思い出が巡り、目の前にセネカの青銀髪が流れて慌てて後退り浴室で着替えた。意外にもぴたりとしている。
「これが男性用下着ですか、慧眼です」
なんてアズールの言葉が影から響いた。頼むから、これからヒラヒラした薄い下着にしないでくれよ、と僕は心の中で呟いた。
「やだやだ、だめだって。今度こそマジで抱き潰される」
アズールの腕の中でもがくと、また下に下がってくる感覚がして腹に力を込める。
アズールが
「それが狙いです」
としれっと言うから、僕はアズールの腕から飛び降りた。もう、いい。どっかのトイレで出せばいいんだから。
「坊ちゃん、待っ……」
「もう、ついてくんなよ!」
八つ当たりだ。僕はアーネストに雰囲気の似ているアズールに対して、アーネストへの苛立ちをぶつけてるにすぎない。アズールは少し迷っていたが、踵を返すとどこかに消えていってしまった。
歩くとまた下がってくるようで、立ち止まって廊下の奥を見上げた。廊下はいつも通り人はいない。王宮ってあれだ、城だろ?前はメリッサの屋敷から来ていたメイドもいて、すごく賑やかだった王族居住区は、今は閑散としている。
寂しいのは王宮を内から管理管轄する女主人がいないからなのかな、なんて思っているとどろりとした感覚が体内にやってきて、僕はしゃがみ込みそうになる。すると軽い足音が聞こえてきた。
「スバルーー!どこに行ったの。本当に君、勝手過ぎるんだから。こーらー、出てきなさーい!学舎には迎えが来てからって言ってるでしょーー!もう、スバルにかまけて、僕は動きが出来ないし、本末転倒じゃなーい!」
以前と全く変わっていない声に、僕は飛び上がりそうになってしまった。そして慌てて廊下の角に隠れてしまう。
王族居住区に差し掛かる廊下の先に、小気味良く長い細い足を蹴り、肩出しのショート丈ブラウスにミニの折り返しホットパンツ姿がこちらに歩いてくる。スカートやズボンなんて関係ない奴だった。今の僕より少し背丈があるかもしれない。王宮に迷子?スバルって呼んでいたよな?
水色がかる肩口で切り揃えられた銀髪が
「んう?」
と声を上げて、天井を見上げてから何かを探す仕草をする。
つい僕も天井を見上げてしまい、廊下に視線を戻すともういない。
「ーーあれ?」
僕は声を上げながら廊下の影から出て探した。スバルの関係者なら離宮の風呂が使えるはずだ。だったら今の状況に最適だ。だから意を決して廊下に出ると、
「何シカトしてんの、オーちゃん。僕ね、怒ってるんだから」
と目の前に降ってきた。瞬間的に移動したかのように、僕の上空から音もなくやってきて当たり前のように可愛く笑いながら、僕の片頬を軽くビンタする。
う、振動やばいって。
僕はへたりと座り込んだ。もうだめだ、身体の奥から熱くて……出て……漏れそう。
「え、あ、やだ!そんなに強く叩いてないよ。大丈夫?オーちゃんっ!」
「ーー離宮の風呂、貸してくれ」
そう言うのが精一杯だった。
まあ、端的に言えば、あ、あれだ。
「ーー坊ちゃん、お借りした下着はこちらですが……」
本当に十五年ぶりに浴びた散湯のあと、ジャグジー付き浴槽内にいたら、僕の影から出てきたアズールがタオルと下着を持ってくる。
アーネストの出した体液が漏れて下着についてしまったわけで、原因の一端(軽いビンタ)になったセネカは、慌てて転移陣を繰り出すと、僕を離宮の浴室にドンピシャ転移させたんだ。相変わらずの力技……さすが、師匠のひ孫としかいいようがない。
で、僕は僕の影からすかさず出てきたアズールにシャワーで音を消しながら掻き出され、恥ずかしくも身体に溜まっていた熱が再発してこっそり処理してもらい、身体は一件落着していたーーが、目の前に出てきた下着に目を見開いた。
「ーー女性の下着じゃないか」
薄桃のひらひらした下着は薄くて透けている。こ、これを身につけろとーーつまり、セネカは僕を『オーちゃん』という女の子と勘違いしているんだ。なあんだ、そういうことかよ。でも、まあ、男であることは正さないとだめだよな。
下着をつけないで服を着るってのもなんだから、ショート丈のバスローブを羽織ってから、紐で結んで前を閉じると部屋に入る。アズールは影に消えて、僕は畳まれた服の上に下着を乗せていた。ちなみに僕の下着は洗ってあるが、まだ乾いていない。
居間には紅茶を入れていたセネカが
「あれ?」
と声を出した。
「オーちゃん、服も汚れちゃったの?気づかなくてごめんねー」
「あ、いえ。服は大丈夫ですが、下着が……僕、こんななりですが男でして」
下着を返そうとしたが、
「大丈夫、大丈夫。それ、男の子の下着だから、間違ってないよー。ラメタル国では今ランジェリーも凝っていてね。ジーンがテレサと開発しているんだよー。もちろんアキラがモデルにしていてね。あそこはずーっと仲が良くて羨ましいよ。僕も魂の番いを見つけたいなーーって、聞いてる?オーちゃん」
アキラ……か。確か異世界からジーンが連れてきた不死の子供だったっけ。パールバルト王国の地図を作成した時、国王陛下の御前の後にチラッと姿をみたが、なんとも小さなお子様姿でジーンは少年趣味かと驚いたが、成人していて尚且つジーンの着せ替えに付き合ってくれていたとは。異世界人って懐が深いんだなあ。
オーガスタ時代、小さい頃はジーン作画テレサお針子のセーラー服とやらを着せられたことがあるが、
「ーーまあまあ似合う」
と少し笑顔をされ、いつも無表情の大柄なジーンのそれが怖くて、二度と着るまいと逃げ回ったもんだ。
「あ!はい、聞いています。では、お、お借りします」
オーガスタ時代の思い出が巡り、目の前にセネカの青銀髪が流れて慌てて後退り浴室で着替えた。意外にもぴたりとしている。
「これが男性用下着ですか、慧眼です」
なんてアズールの言葉が影から響いた。頼むから、これからヒラヒラした薄い下着にしないでくれよ、と僕は心の中で呟いた。
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