国王親子に迫られているんだが

クリム

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七章 ガルドバルド大陸の王子

41 嫌な腹痛

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 アズールに身綺麗にされたがお腹の奥は熱くて、アーネストの子種がこびりついている感じがする。僕はベッドに転がり寝息を立てたアーネストを置いて部屋を出た。出るときに食事が置かれたワゴンがあったから引き入れて扉を閉じると、複数の陣が展開して完全に閉じた。

「間違いなく陛下の力を封じるための陣ですが、マナが一定数溜まれば解錠出来る仕組みですね」

 アズールはアーネストの首飾りを位置して指差した。アズールにはアーネストを探らせていたから、マナの道筋を調べてくれている。

「罰則のためのマナの吸収は、王族に行われる死の次に辛い罰則です」

 王であるアーネストがマナを吸われ続ける、あんな陣を展開される程の罰則ってなんだろう、と僕は考えながら廊下を歩いた。

「一体何やったんだ、あの野郎」

 僕はもやもやのまま呟く。その後ろのアズールは何も答えないでいる。いつも通り王宮には人が少ないから、少し油断した口調になってしまって、僕はハッとして首を横に振った。

 いけない、いけない。オーガスタ時代の記憶に引っ張られている。

 だが、アーネストも不審死を知っていて何か探っているのだとしたら、アーネストにもっと近づいたほうがいいのではないか。そのほうがシャルスのためになるかもしれない。

 そもそもオーガスタ時代知り合った頃のアーネストはモテてはいたが、無節操に手を出すタイプではなかった。

 遊んではいたが王族の端くれであることは理解していて、誰これ構わずベッドに引き入れることはなかったし、メリッサ以外の女性の姿を見たことがない。メリッサは確か同学年のはずだ。貴族学舎で出会いそのまま婚約したと話していたから、今のアーネストのありようが異様だった。

「『そのうち孕みますから、全て話してください』で伝わるかなあ」

 独り言を呟きながら僕は歩いていた。

「ーー無理かと」

 すぐ後ろで絶対に含み笑いをしているアズールが囁いてくる。アズールは満たされてご機嫌なんだろうけどさ。

「ああ、もう、クソったれ」

 オーガスタ時代は全くモテない童貞処女だっただけに、こう言った駆け引き的なものは苦手だ。むしゃくしゃするし、なんだろう、感情がこんがらがっていらいらする。

 こういう複雑なのは似合わないし、オーガスタ時代では大抵友人がぱぱっと解決してくれた。魔の森で守護の巨人に拾われ住み込み学舎で出会った友人は、ずいぶん年上だったが気が合う友人だった。

「あいつ、どうしてるかな?」

 ふと思い出すとキリがない。

 僕は僕をノリン・ツェッペリンとして認識している。だが、オーガスタの記憶を持って生まれてきてしまった以上、意識せざる得ないのだ。しかも魔の森を出た後が思い出せないでいる。

 どうして、どうやって、オーガスタは死んだんだ?

 思考の端をたぐり寄せてもぷつりと切れて、やめた。




                 

 王宮政務室に着くと、シャルスとグレゴリーが既にいて、書類が積まれ始めていた。金曜日はさまざまな決算の日で、計算が適切かを再確認するのが僕の仕事の一つだが、なんと巨躯のグレゴリーが

「合っているではないか」

と小さな計算機を駆使していた。

「おはようございます。遅れてすみません。グレゴリー宰相閣下、計算機を使われているのですか?」

「うむ。ノリンが来るのが遅いからだろうが。殿下ばかりに計算させてはならないからな」 

 グレゴリーはむっすりとした顔をして、計算機を叩き始める。しかし打ち込む姿な口元がによによと歪み嬉しそうだ。まるで新しいおもちゃを得たみたいだな、おい。

「おはようございます、ノリン。少し遅かったですね。何かありましたか?」

 シャルスがにっこりと笑いかけてきた。

「すみませんーー腹痛で」

「腹痛?休めばよかったのに、大丈夫ですか?」

 シャルス、待て待て。この腹痛は嘘も方便ってやつで。めちゃくちゃ心配されてしまい、逆に焦った。

「ゆっくり座っていれば大丈夫です、シャルス様」

 僕は小首を傾げながら微笑んでみた。まあまあ効果があるはずで、シャルスが真っ赤になってから頷いた。アズールがお茶を淹れてくれ、僕らはお茶をしながら書類を見る。

「計算機のおかげか、アッシュ・ツェッペリンが最終チェックをしているからか、計算違いはなくなったようですね。しかし税率が爵によって違いすぎます。グレゴリー、これは当たり前なのですか?」

 一旦手を止めてお茶を飲みながら、シャルスがそう言った。

「ああ、はい。国に入れる税は一律ですが、領地での税には決まりがないのが現状です。しかし領民から搾取し過ぎれば領民はその地から逃げ出します。取らなさすぎれば領民は肥え太り堕落しますし、その手綱さばきは爵の力量次第となります」

「そうなんですか?ツェッペリン家とレーダー家では税率が」

「あ、それはですね。父様が領民と話し合って決めているんですよ。毎年税率が変わってしまうし、あまり取り立てもしたくないって。だから僕の家より村長の家のが立派だったりしますよ?」

 シャルスがすごく驚いた顔をし、グレゴリーが気の毒そうな表情をしていた。グレゴリーは僕の屋敷の様子を知っているからな。でも、素朴で味があると思うんだよ。

「グレゴリー、ツェッペリン家の禄を増やせませんか?」

「今は閨係代を上乗せしているが……アッシュ・ツェッペリンの給与は決まっているから……」

 グレゴリーがうんうん悩んでいたが、今の僕の家は今はそんなに貧乏ではない。魔獣を売り収入はあるし、魔の森管理費をもらっている分、他の男爵家よりは禄が高いはず。

「仮の婚約者にしてしまってはいけませんか?婚約者なら王家から禄が出ます」

 ーーは?待て待て待て!

「シャルス様、待ってください!僕は腹実で男でして、王家の妃には、いや、伴侶にはなり得ません」

「仮にですよ、仮。イチイ市長にも話したではありませんか。そうすれば視察にノリンを連れていくのも気が楽ですし」

 あ、そこ?確かにそうだ。アーネストはシャルスを囮にするみたいなことを言っていたし、そうなると近くに侍る護衛が必要だ。周囲警戒をする第一近衛兵だけでは足りない気もするし、僕はにっこりと笑うシャルスに渋々頷いた。

「よかった。支度金を毎月で割り出して用意するようにします。財務局にはグレゴリーから話してください。これは勅命です」

 シャルスの真面目な言葉に、グレゴリーが片手で顔を覆って苦笑いをしている。

「殿下のはじめての『わがまま』を聞きましょう。ーーノリン使い方を考えるように」

 全国に公表はしないらしいけど僕に禄がつくようになり、毎月父様の禄高に加えられることになったようで、父様にどう話したらいいやら。グレゴリーがまた話しにいくのかな?

 不意にお臍の下あたりからじわりとした痛みがやってきて、僕はお腹を押さえた。

「坊ちゃん」

「ーーんっ……」

 扉の前に立っていたアズールが、音もなくやってきてソファから僕を抱き上げた。

「ノリン!」

 アーネストの出した子種が下がってきているのを感じる。

「ふ、腹痛です。医局で薬をもらいます」

 やばいって、服汚してしまいそうだ。アーネストの奴、僕が戻らなければならないことを分かっていて言ったな。
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