国王親子に迫られているんだが

クリム

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六章 国王陛下代理の仕事

33 記憶がないってどうなんだ

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 アリシア王国の王子であるシャルスは、武闘派王であるアーネストとは違い、穏健派王になりそうだなと思いながら、僕はあれから着替えて政務室に入ったシャルスに付き添っている。レーンは王宮メイドに頼まれて、昼食の手伝いに行っていた。

 マナ文字でのサインを含め、月曜日は小さな謁見がいくつかあるが、それを今日はグレゴリーが行ったようだと思っていなら、

「午後に回してございます」

ってしれっと言った。あ、こいつ、やる気ないなと思ったが、シャルスは頷いていたから、そういった業務ってグレゴリーは苦手な部類なんだな、うん。

 そんなシャルスに計算機をプレゼントしたら、シャルスはめちゃくちゃ喜んで、あっという間にマスターした。左手でキーを叩き、右手でサインするなんて器用だな、おい。

 午前の仕事はあっという間に終わり、シャルスと少し遅い昼食を一緒に取ることになり、食堂からレーンがワゴンで運んでくる。どうやらグレゴリーとも一緒に取るらしい。レーンが手際良く皿を並べていく。魔法調理板にスープ鍋が乗っているからスープが温かい。

「グレゴリー、ノリンを私のお付きの護衛侍従にしたいと思うのですが、だめですか?」

 食事をしながらシャルスがまるで当たり前みたいな会話をしている。おいおい、リンクはどうしたよ。

「恐れながら、殿下。ノリンを侍従にするとなると、上下関係が生まれます。今、ノリンの立場は殿下の一応閨係です。つまりは殿下と対等の関係であります。それを壊すおつもりですか?」

 僕はパンを食べながら、グレゴリーの苦虫顔を見上げた。グレゴリーは、アーネストが僕を部屋に連れ込んでいるのを知っている。侍従にするとなるとアーネストとの諍いを生むと読んだに違いない。

「前はそんな話をしたのに、だめですか。侍従……上下関係、閨係……対等、ですか?それは思いつきませんでした。ノリンはどんな立場でもいい関係でいられると思っていました」

 シャルスは真剣に考えているようで、しばしば食事の手を止めてグレゴリーに声をかけられていた。そのグレゴリーはシャルスに声をかけついでに、レーンにおかわりを要求していて、なんとまあ貴族マナーのなっていない公爵様だなと僕は思った。

 結局今の状態がベストだということに落ち着いて、シャルスは午前中に行えていない謁見を行うため、服を着替えにいく。それにはレーンをつかせ、僕はグレゴリーと政務室に残った。グレゴリーは僕を見下ろしながら、

「不思議な子供だな。わしが怖くないのか」

と今更ながら聞いてきた。なんなんだ?見た目は怖いけれど、魔物じゃないし話しが通じるし?

「おい」

「あ、はい。アーネスト様を止められないグレゴリー宰相は僕の敵ではありません。それにお付きの護衛侍従でなくてもシャルス様は僕が守りますよ。でもその前に聞きたいのです。シャルス様の幼少期の記憶がないってどういうことですか?シャルス様を取り巻く第一近衛隊が、以前の第二近衛隊であり、それを全て第一に傘上げる理由は?」

「ーー驚いたな、ツェッペリン男爵はそこまで知って子供に伝えていたのか?」

 やっべぇ、突っ込みすぎた。

 しかしグレゴリーは気づかなかったらしく、

「魔の森の管理者、辺境の貴族と呼ばれる所以だな。末の息子までそこまで知らされているか。すでにあれは廃籍状態にある。ああ、いや、籍は残したか。ともかく、今あの悲劇を殿下に思い出させないことだ。わしらはあれと殿下の接点を極力減らしておる。あれはお前に興味があるようだからな、お前で止めてくれ。アリシア王国は存続させねばならん。血脈を失うわけにはいかんのだ」

と項垂れながら話してきた。

 おい、アーネスト、何をした。グレゴリーってアーネストの近衛でもあったのに、絶賛『あれ』呼ばわりだ。僕のことはアーネスト避けとして利用するつもりだな。

「シャルス様に他国からの姫君ってのはどうなんですか?」

 成人年齢とっくに過ぎた王太子殿下に婚約者がいないのは由々しき問題だぞ。レガリア連邦王国が無理なら、隣の砂漠地帯のパールバルト王国のレイ国王の娘がいるだろう。レムリカント王国だって確か姫君はたくさんいる。

「この国に来るものか。しばらくはお前だ、ノリン」

 へ?

「ツェッペリン男爵との話し合いを持たねばならんが、仮の婚約者として矢面になってもらうからな」

 なんだなんだそれは!

「拒否権は当然ないが、お前が了承し男爵との話が決まれば、爵位を伯爵家に格上げして婚約者として発表する。お前に負けたくない令嬢が出るのを待つ」

 グレゴリーの言い方には何やら含みを感じたが、シャルスの側でアーネストから守ると言った手前、僕には選択権がない。

 幼い頃の記憶がないなら、オーガスタ時代の話が出ることもないだろうし気が楽だ。うん、大丈夫。

 どうやらあの舞踏会場でのシャルスへの目通りも、全学舎生がいたわけではないらしく、シャルスが出て行ってから盛り上がりを見せたのはそのせいらしい。

 剣を振るえず、マナもオドも平凡な王太子殿下のシャルス。小さな頃はまんまるな目をして、抱きつきいつも話していたーー

『いつかえってくる?オーガスタ、かえったらーーーー』

ーーその後の言葉はいつも思い出せない。多分死ぬ前、アリシア王国で最後に会ったのがシャルスだった。シャルスはいつもなんて言っていたのかな、僕はそんな風に考えながら、入ってきたシャルスを迎え入れた。



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