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五章 国王降臨
26 午後の授業
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金曜日、前より地味な馬車にしてもらい、前の馬車は昼は母様に夜は父様に使ってもらうようにお願いしたらマギーが
「あの馬車にはツェッペリン家の旗をつけましたので是非ご自由に」
と言われてしまう。本当にどんだけマギーにお金を出したの、グレゴリーってば。
そしてお弁当にしてもらったのには訳がある。二限目の魔法実技で僕ら爵位が低い男爵家の人間は全く実技が出来ないから、実技場にいても意味がない。だから一限が終わったあと、アズールとレーンとリュトが外で少し早いランチを取る場所を作っていた。そうすればリュトも仕事ができるし。
半地下の実技場を見下ろす形で、パラソルとテーブルイスとまあ驚いたが、同じような男爵家もいた。意外にも公爵家の女子生徒も行っていて、そちらは順番が来るまでお取り巻きとお茶を楽しんでいる。
リュトも同席させて、アズールのお弁当を広げた。
「リュト、今、魔法を放ったのは?」
リュトは首を傾げ、それからハッと思い出して、
「リピドー伯爵家ユーリアス様」
と答える。そう、大正解。僕は一年生全員の名前と髪色目の色を覚えさせ、ここで復習することに決めていた。次々に当てていくリュトは覚えるのは遅いが覚えたら忘れない。御用伺い見習いの二人は子息令嬢の細かなところまで伝えてくれたみたいで、リュトには情報量が多すぎだったんだ。
「俺、分かる気がします。大丈夫かもです」
うん、大丈夫。リュトは御用伺い見習いの中で一番背が高く優しく落ち着いて見えるから、頼れるお兄さん的存在になれば、御用伺いになれる、はず。う、うん、大丈夫だと思う。
早めの食事を切り上げて、今日も公爵子息の独壇場の授業が終わるのを見下ろしていた。その公爵も早々に切り上げて半地下の実技室やっと午後の授業で剣技実践だ。この停戦したあとの歳月で、どんな剣技が出てくるかわくわくしている。
オーガスタ時代も剣技は好きだった。測量冒険者になったのだって、元々冒険者の案内人だったのを恩師に頼まれたってのがきっかけだ。当時はガルドバルド大陸と鉄道で繋がったばっかりでばたばたしていた。
『正確な地図があればいいのですけど』
元々虚弱で無理と苦労を重ねて、当時全く歩けなくなってしまった恩師に恩返しをしたくくなり、地図を作ったのがきっかけだ。初めは覚書のような魔の森の地図を。それから測量器を手に入れてラメタル国の地図を正確に写した。そんなこんなでいつのまにか測量冒険者になっていたなあ。
「坊ちゃん、人が引きました。実技場に降りられますか?私達は片付けをいたします。リュトさんは食堂へ」
そうアズールが声を掛けるとリュトは
「はい、頑張ってきますっ!で、でも、レーンさん、食堂までついてきてください~」
と前回より緊張少なめに肯いた。うん、頑張れ。レーンに目配せすると、レーンも頷いてリュトに頭を下げる。
アズールが片付けに行きレーンがリュトについて食堂に行くと、僕は下り坂になっている階段を降りて、ややすり鉢状になる実技場に入った。
実技場には刃を潰した剣が綺麗に並んでいる。オーガスタ時代にはこんな模擬戦用の剣なんて見たことはない。
「平和だなあ……」
間の抜けた声になったのは自覚している。でも、こんな訓練が出来るほど、平和になったんだ。
僕はそんな風に考えつつその一本を取ろうとして、不思議な感覚に襲われた。感じたことのある圧。戦いに慣れたオドの気配を感じる。
「ーーまさかね、うん」
と本来の出入り口である扉の方へ目を向けた。近衛兵を先にして教師が来るはずだ。意外にも元近衛隊長のグレゴリーが剣技の教師だったりして。そうしたら名門貴族の剣術が学べる、なんて僕は思った。
ばんっ、と左右の扉が同時に開いた。多分片方は開かないように下支えがあったけれどそれはぶっ飛んでいる。その木片か飛んできて、僕は頭に当たりそうだからしゃがんでみた。
片足が入り肩が入り、目が合った。もう分かっている、アーネストだ。アーネストの視線が、ゆっくりと僕を値踏みするように上から下まで絡む。アーネストの剣気が殺気になり、妖艶な笑みが浮かんだ。
あ、やばい。
僕がそう思った瞬間、魔剣ロータスが抜かれていて、
「ーーひょっ」
と僕は息を呑んだ。どうして魔剣ロータスは発動していない?アーネストは王族の血筋の中でもかなり高いマナを有している。だから国王の証魔剣ロータスを鞘から抜くことが出来た。そしてその呪われた血筋の中でも稀に見る戦闘狂、狂戦士だ。
僕は間合いを取って刃潰しでもいいから剣を手にしたくて動こうとしたが、動けないでいた。にやりとアーネストが男くさい笑いを見せた。
なにくそ!
「魔法陣展開、身体強化」
不意に殺気が刺さるような感じがして、僕は小さく短縮詠唱をすると掌に乗せた魔法陣を自分の胸に当てた。鼓動が跳ね上がり、横に瞬時に飛び出して、飾り棚にある一振りを手にした。その瞬間、アーネストの剣の振りかざした一撃を両手で持つ剣で受け止める。
手がビリビリするよ、このっ!
あちらは片手でこちらは両手かよ。振り下ろしてアーネストがにやりと再び笑う。
「受け止めたな、ノリン・ツェッペリン」
「当たり前ですーー死にたくないですから」
アーネストは再びにやりと笑い、
「やっぱりお前はいい、ノリン・ツェッペリン。探し回った甲斐があった。一度戦ってからどれだけ探したか」
探し回った?探した?
「前にもクラスメイトに聞きまくったーーとか?」
「当たり前だが?」
だから僕避けられてたんじゃないのか?あ、なんか腹立った、腹立ってきた。
両手で受けた剣を流れるようにつゆ払いしてから、下から斜めに突き上げる。案の定受け止められ、切っ先を瞬時に引くと間合いを取って下がった。
「あの馬車にはツェッペリン家の旗をつけましたので是非ご自由に」
と言われてしまう。本当にどんだけマギーにお金を出したの、グレゴリーってば。
そしてお弁当にしてもらったのには訳がある。二限目の魔法実技で僕ら爵位が低い男爵家の人間は全く実技が出来ないから、実技場にいても意味がない。だから一限が終わったあと、アズールとレーンとリュトが外で少し早いランチを取る場所を作っていた。そうすればリュトも仕事ができるし。
半地下の実技場を見下ろす形で、パラソルとテーブルイスとまあ驚いたが、同じような男爵家もいた。意外にも公爵家の女子生徒も行っていて、そちらは順番が来るまでお取り巻きとお茶を楽しんでいる。
リュトも同席させて、アズールのお弁当を広げた。
「リュト、今、魔法を放ったのは?」
リュトは首を傾げ、それからハッと思い出して、
「リピドー伯爵家ユーリアス様」
と答える。そう、大正解。僕は一年生全員の名前と髪色目の色を覚えさせ、ここで復習することに決めていた。次々に当てていくリュトは覚えるのは遅いが覚えたら忘れない。御用伺い見習いの二人は子息令嬢の細かなところまで伝えてくれたみたいで、リュトには情報量が多すぎだったんだ。
「俺、分かる気がします。大丈夫かもです」
うん、大丈夫。リュトは御用伺い見習いの中で一番背が高く優しく落ち着いて見えるから、頼れるお兄さん的存在になれば、御用伺いになれる、はず。う、うん、大丈夫だと思う。
早めの食事を切り上げて、今日も公爵子息の独壇場の授業が終わるのを見下ろしていた。その公爵も早々に切り上げて半地下の実技室やっと午後の授業で剣技実践だ。この停戦したあとの歳月で、どんな剣技が出てくるかわくわくしている。
オーガスタ時代も剣技は好きだった。測量冒険者になったのだって、元々冒険者の案内人だったのを恩師に頼まれたってのがきっかけだ。当時はガルドバルド大陸と鉄道で繋がったばっかりでばたばたしていた。
『正確な地図があればいいのですけど』
元々虚弱で無理と苦労を重ねて、当時全く歩けなくなってしまった恩師に恩返しをしたくくなり、地図を作ったのがきっかけだ。初めは覚書のような魔の森の地図を。それから測量器を手に入れてラメタル国の地図を正確に写した。そんなこんなでいつのまにか測量冒険者になっていたなあ。
「坊ちゃん、人が引きました。実技場に降りられますか?私達は片付けをいたします。リュトさんは食堂へ」
そうアズールが声を掛けるとリュトは
「はい、頑張ってきますっ!で、でも、レーンさん、食堂までついてきてください~」
と前回より緊張少なめに肯いた。うん、頑張れ。レーンに目配せすると、レーンも頷いてリュトに頭を下げる。
アズールが片付けに行きレーンがリュトについて食堂に行くと、僕は下り坂になっている階段を降りて、ややすり鉢状になる実技場に入った。
実技場には刃を潰した剣が綺麗に並んでいる。オーガスタ時代にはこんな模擬戦用の剣なんて見たことはない。
「平和だなあ……」
間の抜けた声になったのは自覚している。でも、こんな訓練が出来るほど、平和になったんだ。
僕はそんな風に考えつつその一本を取ろうとして、不思議な感覚に襲われた。感じたことのある圧。戦いに慣れたオドの気配を感じる。
「ーーまさかね、うん」
と本来の出入り口である扉の方へ目を向けた。近衛兵を先にして教師が来るはずだ。意外にも元近衛隊長のグレゴリーが剣技の教師だったりして。そうしたら名門貴族の剣術が学べる、なんて僕は思った。
ばんっ、と左右の扉が同時に開いた。多分片方は開かないように下支えがあったけれどそれはぶっ飛んでいる。その木片か飛んできて、僕は頭に当たりそうだからしゃがんでみた。
片足が入り肩が入り、目が合った。もう分かっている、アーネストだ。アーネストの視線が、ゆっくりと僕を値踏みするように上から下まで絡む。アーネストの剣気が殺気になり、妖艶な笑みが浮かんだ。
あ、やばい。
僕がそう思った瞬間、魔剣ロータスが抜かれていて、
「ーーひょっ」
と僕は息を呑んだ。どうして魔剣ロータスは発動していない?アーネストは王族の血筋の中でもかなり高いマナを有している。だから国王の証魔剣ロータスを鞘から抜くことが出来た。そしてその呪われた血筋の中でも稀に見る戦闘狂、狂戦士だ。
僕は間合いを取って刃潰しでもいいから剣を手にしたくて動こうとしたが、動けないでいた。にやりとアーネストが男くさい笑いを見せた。
なにくそ!
「魔法陣展開、身体強化」
不意に殺気が刺さるような感じがして、僕は小さく短縮詠唱をすると掌に乗せた魔法陣を自分の胸に当てた。鼓動が跳ね上がり、横に瞬時に飛び出して、飾り棚にある一振りを手にした。その瞬間、アーネストの剣の振りかざした一撃を両手で持つ剣で受け止める。
手がビリビリするよ、このっ!
あちらは片手でこちらは両手かよ。振り下ろしてアーネストがにやりと再び笑う。
「受け止めたな、ノリン・ツェッペリン」
「当たり前ですーー死にたくないですから」
アーネストは再びにやりと笑い、
「やっぱりお前はいい、ノリン・ツェッペリン。探し回った甲斐があった。一度戦ってからどれだけ探したか」
探し回った?探した?
「前にもクラスメイトに聞きまくったーーとか?」
「当たり前だが?」
だから僕避けられてたんじゃないのか?あ、なんか腹立った、腹立ってきた。
両手で受けた剣を流れるようにつゆ払いしてから、下から斜めに突き上げる。案の定受け止められ、切っ先を瞬時に引くと間合いを取って下がった。
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