国王親子に迫られているんだが

クリム

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四章 金曜日の貴族学舎

24 もやもやする気持ち

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「ーー殺されなかった……のか」

「は?」

「当たり前ですとも、我らが主人ですから」

 扉の影にいた人物になんとなく見覚えがあるようなないような、オーガスタ時代とは変わり果てた風貌にギョッとした。今目の前にいるのは毛根がない禿頭で、眉毛睫毛すらない。最後に会ったのはオーガスタ時代に死ぬ少しくらい前、もう少し前だったかも。公爵家の三男でありながら近衛大隊長を勤め、庶子とはいえ第三王子のアーネストを

『おい、小僧』

呼ばわりしたゴリゴリマッチョのグレゴリーだ。年月はこんなにも残酷なのかと、抱かれながら見上げると、頭にはあちこち傷跡がある。そのせいで髪が生えにくいのだと知る。顔も身体も筋肉だった男が痩せて平凡な壮年に見えるので僕は驚いた。

「この部屋に入って者で生きていたのはお前だけだ。無聊慰めの女共も死体になって出てきたのだ。今ではメイドすら近づかない」

 何で死ぬんだ?アーネストの絶倫に耐えられないからか?あれはやばいな、うん、身体が丈夫で助かったよ。ありがとう、父様、母様。

「それは物騒ですね」

 アズールが冷めた口調で言い放つと軍人服で無くなった長衣のグレゴリーが肩をすくめて深く息を吐いた。

 そしてやはりに気になるのはアーネスト自身の処遇だ。

「実際にこの部屋に一歩足を踏み入れた者は、何人たりとも死を賜るのだ」

「あの、僕も、僕のバトラーもメイドも無事ですが?」

 そんな風に僕は告げた。

 こっちは死ぬほど身体がだるいがな!抱き上げられている奥から濃厚な体液が熱さを伴って降りてきている感じがして本当に早く帰りたかった。

「それはそうだが、ありえない。お、お前は何者だ?」

 王の子種とやらがどろりと降りてくる。

「あ……」

 僕のぶるりと身体を震わせた様子を感じてアズールが歩き出し、レーンがグレゴリーを止めてスカートの端を持ち礼をする。

「我が主人は貴族学舎一年次に在籍中のノリン・ツェッペリンでございます。主人は高貴な業務の後のため疲労が蓄積しておりますので、失礼します。グレゴリー宰相閣下」

 へえ、近衛大隊長は辞めて宰相になったのかあ、おっさん。それにしても見事な禿げ散らかしっぷりだ。僕はオーガスタ時代の名残を見せつけられたようで少しだけ寂しくなった。

 馬車ではアズールの膝に抱えられての帰り道、リュトは僕の様子を見て慌てふためき、

「シャ、シャ、シャルス殿下は怖い方なんですね」

とトンチンカンな呟きを繰り返していて、僕にダメージを喰らわしたのは父親のアーネストだがなと言いたかったがもちろん黙っていた。

 軋みの少ない馬車でも、アーネストの体液が下がってるのが分かったし、下着がぬるつくのを感じてアズールにしがみつく。アズールやレーンの服は外皮が変形したものだ。万が一にも漏れても吸収してくれるが、それに身体が感じてしまっているのが恥ずかしい。

 リュトと別れた時にはアズールスラックスを滲みだらけにして、僕の服はぐしゃぐしゃ。抱き上げられて帰宅した僕に母様は驚いて、

「おかえりなさい、ノリン。あらあら、大丈夫?」

と帰宅するなり湯を使う僕に母様は何やら色めき立ったけれど、兄様は真っ青になって浴室のある部屋の前にいたのは少し変で笑った。

 晩御飯を部屋で取った僕は、僕より少し大きなレーンに添い寝されながら髪を梳かされていた。アズールは一日留守にした業務を優先して仕事をしているらしく、レーンは大満足した様子で僕を甘やかしている。

「すごい感じていましたね、マスター。僕らは満たされていますよ」

「アーネストの?あんな苦しくて……」

「でも気持ちよかったですよね、マスター」

「う、ぐぅ」

 確かにおかしくなるほど気持ち、だかな、ずっと封じられて出せない僕は、辛くて苦しくてーー

「気持ちよかったでしょう?」

 う、まあ、気持ちよかったよ。頭ん中が沸騰してしまうかと思う苦しさの中でギリギリの気持ちよさだったけど。

「結腸口が弛んで開きっぱなしで子種をいっぱい飲んでお腹パンパンになって、それが溢れて逆流する良さもありましたよね。マスター叫びながら中だけで何度もイッてましたもん。僕らは幸せでした」

 二人には全て分かってしまうから厄介だ。柔らかなネグリジェのレーンが甘やかしてくれるベッドの中で、僕はドレスシャツのまま横になってレーンの腕の中だ。

「あのさ、魔法実戦で使う……」

「マスターの測量器はダメです。僕のものですから」

 レーンがレーンでいられた唯一の証、僕はそれを取り上げられない。

「なんか適当な魔法具を探すかあ」

「マスターはそんなものがなくてもマナを自在に扱えます」

「レーン、それじゃあアリシア王国では目立ってしまう。オーガスタ時代ならともかく……」

 一瞬、もやりとした。

「ともかく?」

「無詠唱魔法陣を杖なしでぶっ放すわけにはいかないよ。みんなと同じにしなきゃ」

 どうしてもやもやするんだろう。

「ーーマスターはマスターなのに?」

 レーンの赤い瞳に僕が映る。金髪碧眼のノリン・ツェッペリンの眠そうな可愛い顔だ。

 アーネストはノリン・ツェッペリンを抱いた。オーガスタではなくて、ノリンとして。どうしてそこにもやもやするんだろうーーこの気持ちはなんだろう、この気持ちはなんなんだろう。ーーうん、考えるな、大丈夫。僕は、大丈夫。

 僕は考えるのをやめたくて、目を閉じてしまった。あとは眠りが訪れるだけだ。レーンが何故だか背中をトントンとリズミカルに撫でてくれた。






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