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三章 王宮学舎控えの間
14 御用伺い見習いの問題児
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王都に行くには早朝から馬車に乗らなければならない。オーガスタ時代なら転移陣で簡単に王城に乗り込めたものだが、今の姿ではちょっとまずい。ツェッペリン男爵邸に馬車が来て、僕はリュトと反対側つまり進行方向に乗り込んだ。今日は従者はつけていない。僕はただの挨拶とリュトの付き添いだから。
リュトはうちに来た時点でガチガチに緊張していて、父様にも母様にも挨拶が出来ず、兄様は呆れて吹き出していた。
挨拶も出来ないのに父様は憐憫と慈愛のこもった瞳で
「気をつけて行っておいで。ノリンを頼むよ、リュトくんや」
と言葉を返した。いや、父様、頼まれたのは僕の方だから。
今回、僕とリュトと御者と馬丁が一人ずつ着いていて、道中護衛も特にはいない。アズールとレーンが着いて行きたそうだったが、やっと村の橋の目処がたったので、父様と村に行く手筈になっていたし、レーンは母様と買い出しだ。
「マスターならば大丈夫だと思いますが」
朝の九時から始まったリュトの勉強は王城の一番端の荷物舎で行われて、リュトは他の御用伺い見習いの二人にしどろもどろながら挨拶してた。
しかし先生に当たる貴族にすかさず焼き菓子を渡し、小さめの袋を二人にも渡して好印象だ。
先生である貴族はオーガスタ時代にはまだ小さかったんだろうなと思う近衛兵で、今年入学した貴族の話をしている。僕は少し離れたところで王宮メイドからお茶を頂いていた。
御用伺い二人はなかなかハキハキしていて、明らかにぽやんとしているリュトは負けている。
良くも悪くもリュトは平均点以下といったところであるが、リュトは顔と体格でまさっている。大型ワンコ好きな女性陣を虜にするんじゃないのかな。現に、僕に着いてくれている若いメイドもちらちらリュトを見ている。
「では、実際の貴族学舎を外から見学することにしよう。君も来ますか?」
同じ貴族で僕の家の方が爵位が低いはずだが、この指導者である近衛兵はしっかりしている。王城は知っているが、貴族学舎は初めてだし、なにより学長挨拶があるから僕は頷いた。
何も知らないリュトは、二人と並んで調度品や絵画を物珍しそうに眺めては
「うわ、すっげー」
と口を開けるぐらい早々にボロを出していた。
おい、リアンが泣くぞ、まじで。きっちりリアンに話してやろう、リュトのためだ。
「ノリン様、前に」
「いや、主役は君たちでしょ。僕はゆっくり後ろを行くよ」
リュトの前に明るい茶色の御用伺い二人が並ぶと、なかなかちゃんとした礼節を得ていて、リュトは危なかっしい感じでキョロキョロしている。
「リュトくん、こっちだよ」
「早く早く」
「うん、マートルくん、エギンくん」
気後れしていたリュトは同じ年頃の身分差のない新しい友人に話せるようになってきていて、庭の散策ついでの僕のサポートはいらないみたいだ。
「これは、僕居なくていいかな。あの、学長にご挨拶出来ますか?」
すると近衛騎士の一人が、最後列で同僚にぽそりと声をかけた。そういえば学長先生って誰だっけ?
「連絡をしてみますが、期待に添えなければすまないです」
「あ、はい」
近衛兵はたった二人。平和になったなあ。戦争が停止してもう十数年。オーガスタが多分死んでそれくらいだ。王城外周からゆっくり見たが平和しか感じない。
歩みを進めると可愛らしい少女の声と、元気な少年らしい声が聞こえてきた。
「貴族学舎は王城の敷地内にございます。独立した建物ですが、渡り廊下があり王城内図書館や呼ばれれば王宮に伺うことも出来ます」
そっと建物の角から覗きこんだテラス席には、僕と同じ年頃の貴族がいる。飛び級もあり在籍年齢で行けばかなり長い間まで学舎で学ぶことが出来るらしいが、伴侶が決まれば、仕事が決まれば退学することも多い。既に学んで来ている者も多いし、社交場に近いんだろう。
うわあ、きらきらしてる。
「……ッ!」
「おい、ここで叫ぶなよ。リュト、とりあえず声を出さないように」
リュトが咄嗟に口を押さえた。偉いぞ、リュト。マートルとレギンは冷静なもんだがな。
「ちょうど一年生がテラスの右端にいらっしゃるのはレードル侯爵子息、お隣はキグニス侯爵ーー」
ああ、世代が変わっているんだなあ、少しだけ接点のあったあいつらの子供か……似てるかもなあ、なんて僕はオーガスタ時代の思い出にぼんやりと浸っていたら、
「ノリン様、ノリン様ってこう見ていると、かなりの美少年ですよね。亡き公爵夫人譲りの柔らかな金髪に、大きくぱっちりとした空色の瞳。ちょっと年齢よりは幼いけど、美貌の美少女みたいなんだもん。絵姿売れますよ?」
何故に絵姿?美少女じゃくて美少年だろ。てか、先生の話を聞けよ、リュト。
僕はリュトについてきた理由がこれだよと理解して、先生の前にリュトを突き出した。
「一番前で話を聞け。意識を散らさない」
「ふぁい……すみません」
僕に脇腹をつねられたリュトは崩れ落ちそうになる足をどうにか踏ん張った。
もうこれ、御用伺い二人にしていいんじゃないか?リュトはなんかやらかしそうだし。リアンに言って辞退させてだ方が迷惑掛からないよな。
「ノリン様、全部口から本音が出ています。すみません、すみません。俺、ちゃんとします」
「え、あ、いやだなあ。あははは。でも、先生もそう思いませんか、面倒な御用伺い見習いが来たな、なんて。リュトは迷子にもなりますよ」
「いや、そこまでは思わなくもないが……出来たら三人まとめて初めから御用伺い初めをした方がいいかと思い始めているところだ」
テラスのすぐそばに立つメイドやスチュワートに目をやり、先生は複雑な表情で頭をかいた。あー、マートルとレギンに押し付ける気だ。
リュトはうちに来た時点でガチガチに緊張していて、父様にも母様にも挨拶が出来ず、兄様は呆れて吹き出していた。
挨拶も出来ないのに父様は憐憫と慈愛のこもった瞳で
「気をつけて行っておいで。ノリンを頼むよ、リュトくんや」
と言葉を返した。いや、父様、頼まれたのは僕の方だから。
今回、僕とリュトと御者と馬丁が一人ずつ着いていて、道中護衛も特にはいない。アズールとレーンが着いて行きたそうだったが、やっと村の橋の目処がたったので、父様と村に行く手筈になっていたし、レーンは母様と買い出しだ。
「マスターならば大丈夫だと思いますが」
朝の九時から始まったリュトの勉強は王城の一番端の荷物舎で行われて、リュトは他の御用伺い見習いの二人にしどろもどろながら挨拶してた。
しかし先生に当たる貴族にすかさず焼き菓子を渡し、小さめの袋を二人にも渡して好印象だ。
先生である貴族はオーガスタ時代にはまだ小さかったんだろうなと思う近衛兵で、今年入学した貴族の話をしている。僕は少し離れたところで王宮メイドからお茶を頂いていた。
御用伺い二人はなかなかハキハキしていて、明らかにぽやんとしているリュトは負けている。
良くも悪くもリュトは平均点以下といったところであるが、リュトは顔と体格でまさっている。大型ワンコ好きな女性陣を虜にするんじゃないのかな。現に、僕に着いてくれている若いメイドもちらちらリュトを見ている。
「では、実際の貴族学舎を外から見学することにしよう。君も来ますか?」
同じ貴族で僕の家の方が爵位が低いはずだが、この指導者である近衛兵はしっかりしている。王城は知っているが、貴族学舎は初めてだし、なにより学長挨拶があるから僕は頷いた。
何も知らないリュトは、二人と並んで調度品や絵画を物珍しそうに眺めては
「うわ、すっげー」
と口を開けるぐらい早々にボロを出していた。
おい、リアンが泣くぞ、まじで。きっちりリアンに話してやろう、リュトのためだ。
「ノリン様、前に」
「いや、主役は君たちでしょ。僕はゆっくり後ろを行くよ」
リュトの前に明るい茶色の御用伺い二人が並ぶと、なかなかちゃんとした礼節を得ていて、リュトは危なかっしい感じでキョロキョロしている。
「リュトくん、こっちだよ」
「早く早く」
「うん、マートルくん、エギンくん」
気後れしていたリュトは同じ年頃の身分差のない新しい友人に話せるようになってきていて、庭の散策ついでの僕のサポートはいらないみたいだ。
「これは、僕居なくていいかな。あの、学長にご挨拶出来ますか?」
すると近衛騎士の一人が、最後列で同僚にぽそりと声をかけた。そういえば学長先生って誰だっけ?
「連絡をしてみますが、期待に添えなければすまないです」
「あ、はい」
近衛兵はたった二人。平和になったなあ。戦争が停止してもう十数年。オーガスタが多分死んでそれくらいだ。王城外周からゆっくり見たが平和しか感じない。
歩みを進めると可愛らしい少女の声と、元気な少年らしい声が聞こえてきた。
「貴族学舎は王城の敷地内にございます。独立した建物ですが、渡り廊下があり王城内図書館や呼ばれれば王宮に伺うことも出来ます」
そっと建物の角から覗きこんだテラス席には、僕と同じ年頃の貴族がいる。飛び級もあり在籍年齢で行けばかなり長い間まで学舎で学ぶことが出来るらしいが、伴侶が決まれば、仕事が決まれば退学することも多い。既に学んで来ている者も多いし、社交場に近いんだろう。
うわあ、きらきらしてる。
「……ッ!」
「おい、ここで叫ぶなよ。リュト、とりあえず声を出さないように」
リュトが咄嗟に口を押さえた。偉いぞ、リュト。マートルとレギンは冷静なもんだがな。
「ちょうど一年生がテラスの右端にいらっしゃるのはレードル侯爵子息、お隣はキグニス侯爵ーー」
ああ、世代が変わっているんだなあ、少しだけ接点のあったあいつらの子供か……似てるかもなあ、なんて僕はオーガスタ時代の思い出にぼんやりと浸っていたら、
「ノリン様、ノリン様ってこう見ていると、かなりの美少年ですよね。亡き公爵夫人譲りの柔らかな金髪に、大きくぱっちりとした空色の瞳。ちょっと年齢よりは幼いけど、美貌の美少女みたいなんだもん。絵姿売れますよ?」
何故に絵姿?美少女じゃくて美少年だろ。てか、先生の話を聞けよ、リュト。
僕はリュトについてきた理由がこれだよと理解して、先生の前にリュトを突き出した。
「一番前で話を聞け。意識を散らさない」
「ふぁい……すみません」
僕に脇腹をつねられたリュトは崩れ落ちそうになる足をどうにか踏ん張った。
もうこれ、御用伺い二人にしていいんじゃないか?リュトはなんかやらかしそうだし。リアンに言って辞退させてだ方が迷惑掛からないよな。
「ノリン様、全部口から本音が出ています。すみません、すみません。俺、ちゃんとします」
「え、あ、いやだなあ。あははは。でも、先生もそう思いませんか、面倒な御用伺い見習いが来たな、なんて。リュトは迷子にもなりますよ」
「いや、そこまでは思わなくもないが……出来たら三人まとめて初めから御用伺い初めをした方がいいかと思い始めているところだ」
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