国王親子に迫られているんだが

クリム

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二章 新しい使用人

10 淫魔で執事ですから

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 オーガスタ時代の従獣ティムした淫魔アズールとレーンは、僕が考えている以上に有能だった。

 庭に入り込んだホーンラビットは一匹狩ると危険匂をつけるため、その場所は鼠算式に増える。僕は面倒で蹴散らすだけだったが、それを二人で楽しそうに狩り上げ、柵の裏で血抜きして、キッチンは肉で潤いすぎ。上等なホーンラビットの肉と毛皮と角を、グラミー商会ではなくマギー商会に売りつけた。

 しばらくは肉祭りだなあと思っていると、アズールが父様に帳簿を見せてほしいと話した。

「グラミー商会から支出帳簿が来ているはずですが、旦那様」

 父様は男爵家は母様のものだと言い、母様はグラミー商会から帳簿だとか領収書などをもらっていないと言う。

「旦那様、奥様、ツェッペリン男爵家の俸禄は魔の森管理もあり他の男爵領より多いはずですから、グラミー商会にお話しに行って参ります」

 アズールが一人で行くのはなんかまずいと思い、僕は母様から許可をもらってグラミー商会について行った。

「隣町は距離がありますし、マスター抱き上げますね。変な筋肉が着くとおしとねの際に抱き心地が悪くなります」

 あ、閨指南を見たな。

「んなもん、なるわけないだろ。そもそもシャルスなんて昔はガキだったんだぜ?」

 まだ森の中だからオーガスタ時代の言葉で話してしまう。

「今はもいいい年齢になられました。ーーそれに今も昔もマスターの魅力は変わりませんよ。きっと選ばれます」

「お前らにヤられたのに、王族が手を出すはずないだろーが」

「妖魔はノーカンです。人ではありませんから。私どもの行為は『美味しい食事』です」

 う、まあな。性器変幻自在だもんなあ。

「私たちのマスターが選ばれない理由はありません。ですが婚姻となれば別ですよ」

 アズールにお姫様抱っこされた僕はアズールを見上げた。

「私たちが納得出来る方でなければ、邪魔をします」

「はーー?」

 森の出口でよかった……素っ頓狂の声が出た。どんな邪魔だよ。嫌がらせかな?

 アズールが魔の森の近道を選んでくれて、思った以上に早くついたグラミー商会の馬鹿でかい屋敷の前に立った僕は、執事服のアズールの下男みたいに扱われながら、アズールと屋敷の中に入る。

 メイドが何人もいて僕の屋敷より広くで豪奢だ。

「ツェッペリン男爵家の使いだとか。誰だお前?」

 だれたお前って?グラミー商会から来たんじゃないのか、アズール?アズールはこそっと耳打ちする。

「マスター、商会のほうは『方向』からという意味です。別に商会にいたわけではありませんよ。詐欺の方便です、方便」

 あーー、騙された。家族中で!

 奥に通された部屋には貴族式の縫い取りジャケットとズボンに丸い体躯を包んだ壮年の男がいて、それがグラミーだと理解した。

「新しくツェッペリン男爵家の家令となりました。奥様から半年分の俸禄の使い道明細を貰ってくるように言いつかりました」

 アズールが冷静に話すのを背後で聞いていると、

「ああ、壁紙の件でごねておられるのか。分かった分かった、早急に手配しよう。わがままな小娘だな、こりゃあ」

とひらひらと手で追い返そうとする。

「いえ、報告書的な物を頂きたいと」

 アズールの言葉にグラミーのこめかみがひくりと動いた。

「は、貴様、何かね?ツェッペリン男爵ともあろうものが、胡椒や塩の値段まで記載した物をご入用か?」

「はい。そちらに預けた男爵俸禄半年分の使い道全てです」

 アズールが引き下がらないから、グラミーは鼻を含まらせて息を吐く。

「そんなものはない。そもそもわしがいなければ暮していけないツェッペリンなどクズ貴族同然だ。わしには沢山の爵位邸との繋がりがあるだからーー」

 まあ確かに、そうなんだけれどね。沈黙がしばらく続いて、僕を真っ直ぐ見降ろすグラミーと目が合い見つめ合ったまま、数秒ほど身動きが取れずにいた。なんで知らない奴がここにいるのかとかぐるぐる考えてるんだろうなあ。

 そういえばこいつと会ったことなかったなあ。

「……では、ツェッペリン男爵家の執事を降りても構わないと?」

「ああ、構わない」

「では坊ちゃんが貴族学舎で新しい御用伺いを得ても、旦那様と奥様がその御用伺いを重用しても構いませんね」

 不審がるグラミーの直視に耐え切れず、僕は緊張を紛らわせるため小さく咳払いした。

 しばらくして考えあぐねたグラミーがようやく

「構わないがね。あんな貧乏男爵家の執事をやりたい物好きがいるならばだが」

と頷いた。

「はあ……」

 お前、大丈夫か?頭悪いなあ。

 僕は心の声を抑えるべくにっこりと笑い、表情筋を引き締めた。その横でアズールがグラミーに最後通告を行う。

「では、私がグラミーさんから執事を交代致しましょう。俸禄は返していただかなくても結構です。次回からの俸禄は執事である私が管理いたします」

「お前が?……まあいい。あんな男爵家の使用人になるとはな。マナ持ちの娘はマナのない平民と婚姻し、息子もマナ無しで、貴族とは名ばかり。魔の森からは人を守るための魔水晶すらまともに買えぬやからだぞ?」

「狩ればいいではありませんか」

 おいおい、アズール……。

「狩る?誰が?」

「ああ、元執事のあなたには関係ございませんでしたね。今から、淫魔が執事ですから。では坊ちゃん参りましょう。お見苦しいさまを晒しました」

「…………坊ちゃん?そ、それは使用人見習いではないのか?着古したシャツにキュロット……はて……?」

 グラミーには父様と母様に二人目の子が宿り木に成ったとは思わないらしい。いつから放っておいて搾取しているんだか。

「では、失礼します」

 くそ、最後までツェッペリン家の次男坊って理解してくれなかったな。
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