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二章 新しい使用人
7 あの頃の二人
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寝静まった深夜の町中を、影のように素早く過ぎてゆく者達があった。膝を抱えて仮眠を取っていたオーガスタは、複数の殺気が近づいて来る気配に気付いて、パチリと目を開けた。
全ての灯りが消えた町は沈黙していた。町からは一応全ての住人を移動した。月もない夜空の明かりを見上げ、お隣さんは欠伸を一つもらした。
待機していて余った時間が勿体ないから寝ようと言い出したのは、他ならぬ国王『見習い』のアーネストだ。レグルス兵の小隊が停戦協定をするのにも関わらず『何故か』下町に紛れ込んでいて、丁重におもてなしをした後に突き返して小遣い稼ぎをしようと、精鋭部隊目下二人で待ち構えている。
アーネストは奇襲は大好きだが、こうして待ち構える待機は少し面倒で苦手で飽きたのだ。
「お前さんね、冒険ギルドの猛者していた時と違うんだぜ。国王自らネズミ狩りってどうよ、普通やるかな?」
胡座で仮眠を取っていたアーネストが、同じように殺気に気付いて目を覚ましてすぐワクワクとした顔をしている。
二人の前方には、夜の陰りに沈む家屋があり、混み至った下町は窺い知ることができないが、オーガスタは手に開いた地図にマナを流した。生体反応は十人。それがこちらの方へ向かってきていた。
「国王『見習い』だ。俺が死んだら公爵・侯爵家辺りから扱いやすい凡人を王座につけるだろうさ」
アーネストのさらさらの金髪が暗闇に霞む。深い青い瞳がマナを帯びたオーガスタの地図を見下ろす。
「これが終わったら、オーガスタ、尻を貸せ」
頭の稼働が遅れオーガスタは
「は?」
寝呆け眼を擦った。
それを見たアーネストがニヤリと笑い、
「背後からめちゃくちゃ犯したい」
と片手で髪を前髪も横髪もまとめて掻き上げた。アーネストは唐突にオーガスタの手を掴むと、優しく握りこんで手の甲にキスをしてから立ち上がらせた。
「オーガスタは腹実だったな。俺の子を孕め。俺の子を産んでくれ。そうしたら好きにやりたい放題だぞ」
オーガスタはそれはどうだろうか、と心の中でぼやいた。
「いやー、無理無理。俺、いい年のおじさんだぜ?だいたいさ、国王の伴侶は女性って決まってるだろ?」
アーネストに何度か迫られてはいたものの、アーネストの周りには女性だらけだ。出会ってからの軽口の口調が染み付いてしまっている。
「俺が金髪碧眼の美人に生まれ変わったら、前からでも後ろからでも抱かせてやるって」
地図にマナを入れてオーガスタは十人分の生体がこちらへ近づいてくることを確認した。深夜まで働かせてもらいきっと手当がいいはずだ。
さっさと終わらせて、この働き者の王様を王宮で寝かせてやろう。
「数は十人。真面目に編隊を組んでいる」
「なるほど、オーガスタ。俺は峰打ちという残念な方法を取る。マナで不意打ち散らしてから、一気に攻めるから捕縛陣を展開してくれ」
「はいはい」
オーガスタが地図を畳むと、右手の指にマナを指に集めて乗せる。剣にマナを乗せられないがマナを操ることが得意のオーガスタが考案したものだ。
『オーガスタ、光礫ですか……それはまた』
『はい、師匠。殺傷能力はマナ量を変化すれば変えられます』
そんなやりとりを魔法学舎でしたことを思い出した。
人を見つけて走ってきた侵入者の影を見つめ、オーガスタが右手を挙げた。
「もう一度言っとくが殺すなよ、アーネスト」
「そんなの……分かってるって」
アリシア王国でアーネストほど俊敏に尚且つ適正に動ける軍人はいない。一人も逃がすなとアーネストに指示されているので、十人が袋小路に入り込むまで息を潜めていた。
レグルス王国の軍人全員黒い甲冑を着用し顔を隠していた。慣れたようにアーネストへ向かいまずは三、四、三に分かれて左右後方から向かってくる。
最後の人影が袋小路降り立った瞬間、オーガスタは光礫を振り撒いた。それは光の矢となり、甲冑の隙間から肉を貫き後方部隊が倒れ込む。
「よーし。アーネスト、遊んでこい」
「おうよ!」
アーネストはオーガスタの掛け声と共に音もない瞬発力で前方へ飛び出した。同時に、すかさず光礫を再開したオーガスタの不変則な光の矢が正確に撃ち抜き始める。
アーネストの黒い軍服は闇に溶けて、わざわざ接近戦を楽しむための短い剣が鈍く光る。アーネストは右手先頭の男の懐に入ると、その右腕を一瞬で落とした。崩れ落ちる男から馬鹿でかい剣を奪い取り、アーネストは背後から振り降ろされた剣先をそれで受け止める。
右手のナイフをもう一人の男の喉首をかき切ろうとして、
「あ、やば」
としょうがなく耳をそぎ落とし、背後から肩を刺した。その間にオーガスタは剣の塚を掴んで左側の先頭を引き倒し肩の関節を外す。
あっという間に一人になったレグルス兵が構えた剣を震わせながら、恐怖で完全に足を止めた。
小さく命乞いをしている声が聞こえたのでアーネストがその美貌を無駄に振りまき、手に持っていた剣をその場に落として、既に戦意喪失しているその男の背後に素早く回り込んだ。
「大丈夫だよ、君の動き……君は貴族だね。よい金の卵だ」
アーネストは首に手刀を入れると簡単に気絶させる。
「町への呑み食い代と、娼館以外への女の子への無体代金、それから宿泊料をレグルス王国から踏んだくってやろう」
捕縛陣で九人を拘束してからやって来たオーガスタが、転がっている最後の兵を確認し
「やれやれ、殺さずに済んだな」
と鮮やかな赤毛を無造作にかいた。
「いやあ、一瞬首をかきそうになった。やばい、やばい。接近戦はやめた方がいいな」
「何言ってんだか、戦闘狂が。だったら俺の剣を貸してやったのに」
アーネストが額に手を当て、くくっと笑った。
「こいつらを突き出したら、大臣の顔どうなると思う?半泣きだろうなあ。停戦協定でパンパンな仕事量に、身代金受け渡し。しばらく顔芸を見ながら楽しめそうだ」
「じゃあ、王宮に運ぶ。浮遊陣使うけど、行くか?」
「……やべ、オーガスタ、好きだわ。めっちゃ抱きたい。もう、先っちょだけでいいから」
「意味が分からん」
オーガスタは月明かりのない夜空を浮遊陣で飛びながら仰いだ。星空は好きだ。抜けるような青い空の次にだが。
地図を駆使した国王の右手とも言われた魔法剣士は、何故かこの世から消えた。行方不明になり、誰もその姿を死体すら見てはいない。
全ての灯りが消えた町は沈黙していた。町からは一応全ての住人を移動した。月もない夜空の明かりを見上げ、お隣さんは欠伸を一つもらした。
待機していて余った時間が勿体ないから寝ようと言い出したのは、他ならぬ国王『見習い』のアーネストだ。レグルス兵の小隊が停戦協定をするのにも関わらず『何故か』下町に紛れ込んでいて、丁重におもてなしをした後に突き返して小遣い稼ぎをしようと、精鋭部隊目下二人で待ち構えている。
アーネストは奇襲は大好きだが、こうして待ち構える待機は少し面倒で苦手で飽きたのだ。
「お前さんね、冒険ギルドの猛者していた時と違うんだぜ。国王自らネズミ狩りってどうよ、普通やるかな?」
胡座で仮眠を取っていたアーネストが、同じように殺気に気付いて目を覚ましてすぐワクワクとした顔をしている。
二人の前方には、夜の陰りに沈む家屋があり、混み至った下町は窺い知ることができないが、オーガスタは手に開いた地図にマナを流した。生体反応は十人。それがこちらの方へ向かってきていた。
「国王『見習い』だ。俺が死んだら公爵・侯爵家辺りから扱いやすい凡人を王座につけるだろうさ」
アーネストのさらさらの金髪が暗闇に霞む。深い青い瞳がマナを帯びたオーガスタの地図を見下ろす。
「これが終わったら、オーガスタ、尻を貸せ」
頭の稼働が遅れオーガスタは
「は?」
寝呆け眼を擦った。
それを見たアーネストがニヤリと笑い、
「背後からめちゃくちゃ犯したい」
と片手で髪を前髪も横髪もまとめて掻き上げた。アーネストは唐突にオーガスタの手を掴むと、優しく握りこんで手の甲にキスをしてから立ち上がらせた。
「オーガスタは腹実だったな。俺の子を孕め。俺の子を産んでくれ。そうしたら好きにやりたい放題だぞ」
オーガスタはそれはどうだろうか、と心の中でぼやいた。
「いやー、無理無理。俺、いい年のおじさんだぜ?だいたいさ、国王の伴侶は女性って決まってるだろ?」
アーネストに何度か迫られてはいたものの、アーネストの周りには女性だらけだ。出会ってからの軽口の口調が染み付いてしまっている。
「俺が金髪碧眼の美人に生まれ変わったら、前からでも後ろからでも抱かせてやるって」
地図にマナを入れてオーガスタは十人分の生体がこちらへ近づいてくることを確認した。深夜まで働かせてもらいきっと手当がいいはずだ。
さっさと終わらせて、この働き者の王様を王宮で寝かせてやろう。
「数は十人。真面目に編隊を組んでいる」
「なるほど、オーガスタ。俺は峰打ちという残念な方法を取る。マナで不意打ち散らしてから、一気に攻めるから捕縛陣を展開してくれ」
「はいはい」
オーガスタが地図を畳むと、右手の指にマナを指に集めて乗せる。剣にマナを乗せられないがマナを操ることが得意のオーガスタが考案したものだ。
『オーガスタ、光礫ですか……それはまた』
『はい、師匠。殺傷能力はマナ量を変化すれば変えられます』
そんなやりとりを魔法学舎でしたことを思い出した。
人を見つけて走ってきた侵入者の影を見つめ、オーガスタが右手を挙げた。
「もう一度言っとくが殺すなよ、アーネスト」
「そんなの……分かってるって」
アリシア王国でアーネストほど俊敏に尚且つ適正に動ける軍人はいない。一人も逃がすなとアーネストに指示されているので、十人が袋小路に入り込むまで息を潜めていた。
レグルス王国の軍人全員黒い甲冑を着用し顔を隠していた。慣れたようにアーネストへ向かいまずは三、四、三に分かれて左右後方から向かってくる。
最後の人影が袋小路降り立った瞬間、オーガスタは光礫を振り撒いた。それは光の矢となり、甲冑の隙間から肉を貫き後方部隊が倒れ込む。
「よーし。アーネスト、遊んでこい」
「おうよ!」
アーネストはオーガスタの掛け声と共に音もない瞬発力で前方へ飛び出した。同時に、すかさず光礫を再開したオーガスタの不変則な光の矢が正確に撃ち抜き始める。
アーネストの黒い軍服は闇に溶けて、わざわざ接近戦を楽しむための短い剣が鈍く光る。アーネストは右手先頭の男の懐に入ると、その右腕を一瞬で落とした。崩れ落ちる男から馬鹿でかい剣を奪い取り、アーネストは背後から振り降ろされた剣先をそれで受け止める。
右手のナイフをもう一人の男の喉首をかき切ろうとして、
「あ、やば」
としょうがなく耳をそぎ落とし、背後から肩を刺した。その間にオーガスタは剣の塚を掴んで左側の先頭を引き倒し肩の関節を外す。
あっという間に一人になったレグルス兵が構えた剣を震わせながら、恐怖で完全に足を止めた。
小さく命乞いをしている声が聞こえたのでアーネストがその美貌を無駄に振りまき、手に持っていた剣をその場に落として、既に戦意喪失しているその男の背後に素早く回り込んだ。
「大丈夫だよ、君の動き……君は貴族だね。よい金の卵だ」
アーネストは首に手刀を入れると簡単に気絶させる。
「町への呑み食い代と、娼館以外への女の子への無体代金、それから宿泊料をレグルス王国から踏んだくってやろう」
捕縛陣で九人を拘束してからやって来たオーガスタが、転がっている最後の兵を確認し
「やれやれ、殺さずに済んだな」
と鮮やかな赤毛を無造作にかいた。
「いやあ、一瞬首をかきそうになった。やばい、やばい。接近戦はやめた方がいいな」
「何言ってんだか、戦闘狂が。だったら俺の剣を貸してやったのに」
アーネストが額に手を当て、くくっと笑った。
「こいつらを突き出したら、大臣の顔どうなると思う?半泣きだろうなあ。停戦協定でパンパンな仕事量に、身代金受け渡し。しばらく顔芸を見ながら楽しめそうだ」
「じゃあ、王宮に運ぶ。浮遊陣使うけど、行くか?」
「……やべ、オーガスタ、好きだわ。めっちゃ抱きたい。もう、先っちょだけでいいから」
「意味が分からん」
オーガスタは月明かりのない夜空を浮遊陣で飛びながら仰いだ。星空は好きだ。抜けるような青い空の次にだが。
地図を駆使した国王の右手とも言われた魔法剣士は、何故かこの世から消えた。行方不明になり、誰もその姿を死体すら見てはいない。
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