国王親子に迫られているんだが

クリム

文字の大きさ
上 下
3 / 165
一章 男爵家の次男坊

2 マギー商会

しおりを挟む
 朝ごはんが終わり兄様と町へ出かける準備をして出かける。町の真ん中にある役場に向かう兄様と分かれた僕は、その近くにあるマギー商会の前を通った。マギー商会の受付には姉のリアンが座っていて、僕に頭を下げた。それから弟のリュトが店から出てくる。

 リュトは凛々しいくせに甘めの顔をした、焦げ茶のふわふわとした髪の成人年齢に半年前になった奴で、悔しいことだが僕よりかなり背が高い。茶髪はアリシア王国ではポピュラーな髪色で、自信がなさそうに垂れた眉頭とうるうるの茶色の瞳が大型犬を思い出させる。

 うん、相変わらずワンコだな。

「リュト、おはよう」

「ノリン様、おはようございます!今日は宿題もしっかりやりました!」

「そうなんだね、丸付け楽しみにしているよ。リアンも、おはよう」

「おはようございます、ノリン様。先に二階へどうぞ」

とリュト以上に背が高いリアンの誘導の元、午前中のリュトの家庭教師として部屋に入った。

 貴族の子供は大抵屋敷内に家庭教師を雇い読み書きを学ぶが、それが出来ない貴族の子供や町の裕福な家庭の子供たちは神殿学舎で読み書きを学ぶ。

 僕の兄様も神殿学舎で読み書きを習っていたが、僕はお金が払えなくていってはいない。が、オーガスタ時代の教育が魂に染み付いていて覚えている。僕がリュトに教えているのは算術で、しかもかつて魔の森で習っていた算盤だった。

「その前に父に会っていってください」

 リアンに言われてリュトに後で会う事を約束して、僕はマギー商会の社長の部屋へ向かい扉をノックした。

 部屋の中から

「空いているよ」

と声が上がったのを聞いて僕は

「マギー、失礼します」

と断ってから扉を開ける。そこには平民ながら洒落たスーツに身を包んだ壮年のマギーがいた。いくら僕が小さくても貴族と平民の違いは大きく、しかし僕は名前を呼び捨てにする代わりに敬語を用いて年長者に敬意を払っている。

 柔らかい茶髪を後ろへと撫でつけるような髪型をして、中肉中背でやや丸い顔には柔和な笑顔が浮かんでいる。マギーは座っていたが、僕を見るとソファから立ち上がり、一応貴族の僕に礼を取った。

「おはようございます、マギー」

「おはようございます、ノリン様。いつも愚息の算術指南をありがとうございます。実はリュトが今年の貴族学舎一年生の『御用伺い見習い』に抜擢されまして、ノリン様の家庭教師のおかげでございます。これから毎週金曜日の貴族サロンにてマギー商会の紹介が始まります。ノリン様は貴族学舎へは?」

「資格試験の順番はまだ来ていません。男爵だから一番最後になると思います。それに僕の屋敷には馬車がありませんし」

 万が一試験に合格したら、馬車を借りるお金の出処について話し合わなくてはならないし、めんどくさいと思いながら僕は小さく息を吐いた。

 マギー商会の主人マギーは王都の貴族の御用伺いの一人だ。何人かの貴族と契約し御用伺いをしていて王族も含まれているが、残念ながらツェッペリン男爵家は含まれていない。貴族の信頼も厚く御用伺い傍ら、使用人の教育もして貴族屋敷に派遣もしている優秀なやり手の人間だ。長女のリアンも同じ年頃の貴族の子女の御用伺いをしている。

 リアンが成人年齢になり貴族学舎のサロンに通い貴族の子弟子女の御用伺いになったように、リュトも貴族学舎の子弟子女の御用伺いになるべく努力しているのだ、現在進行形で。

「ノリン様が貴族学舎に行っていただければありがたいのですが」

 使用人に見られていない事を確認してから、マギーはぼそりと呟いた。こちらにリュトのフォローを押し付ける算段だろう。

「それはそうと愚息の祝いとして、お礼をしたいのですが」

「お肉、ください」

 きっぱり言った。それはもうきっぱりと言ったから控えていたリアンが、

「ぅふっ……」

と吹き出してしまったくらいだ。

「ーーグラミー商会から我が商会に御用伺いを変えられてはどうでしょうか」

 マギーの言い分はもっともで、元凶はそこであるが、僕は次男坊。僕が言い出せるわけもなく、僕は曖昧な笑いを浮かべて部屋を出た。

 



 一階の半地下の調理室の横がリュトの与えられた子供部屋で、扉を開けると窓ガラスを横にして黙々と計算をしているリュトがいた。貴族風のシャツと裾が窄まる半ズボンを履いているリュトは、自主勉強をしているようだった。案内のリアンがピンクのフレアドレスの脇を掴み軽く広げて礼をしてからいってしまう。看板娘は大変だなと見送った。

「ノリン様、丸付けお願いします」

「ああ、うん。ーーあれ、これ違う。これも。九九忘れた?」

「う……。ええと、七の段が苦手で、でも他はできるんです。積み上げ算とか、ほら全問正解でーーだめですか?」

「だめだよ。御用伺いは品数に対して費用がいくらになるか、お付きの者にすぐに話さなきゃ。御用伺い見習いはリュトだけじゃないんだよね?」

「あ、はい。三人抜擢されたと聞いています。別枠で留学してくる王族の御用伺いもくるそうです」

「そんなベテランは眼中に入れなくていいよ、リュト」

「ですよねー。正直、俺がなんで御用伺い見習いになったのか理解不能なんですよ。父ちゃんが金積んだのかとか。俺は頭が悪いし、姉ちゃんのあとをついていくのかやっとなのに、どうしようノリン様」

 多分……やればできる子だ、うん、だ、大丈夫。マギー商会は新進気鋭上り調子の商会で、長女に次いで長男までが御用伺い見習いに抜擢されて注目を浴びている。

 商会で取り扱う商品な食料品から魔具までだが、王立貴族学舎で令息と令嬢についているそれぞれのお付きのメイドやスチュアートや護衛と渡り合い、主の都合によって柔軟に御用伺いとして話し合いをし決めていくのだから、リュトが及び腰では困る。

「リュト、僕は行けないかもから、頑張って」

「えええ、む~り~!でも、頑張ります」

 リュトが涙目で笑ったので、僕もにっこりと微笑み返した。僕は今の生活が好きだし、家族や商会の姉弟も暖かくて大好きだ。だから優しく笑い返せるし、ノリンとして生きる人生はきっと楽しいと思う。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

俺が総受けって何かの間違いですよね?

彩ノ華
BL
生まれた時から体が弱く病院生活を送っていた俺。 17歳で死んだ俺だが女神様のおかげで男同志が恋愛をするのが普通だという世界に転生した。 ここで俺は青春と愛情を感じてみたい! ひっそりと平和な日常を送ります。 待って!俺ってモブだよね…?? 女神様が言ってた話では… このゲームってヒロインが総受けにされるんでしょっ!? 俺ヒロインじゃないから!ヒロインあっちだよ!俺モブだから…!! 平和に日常を過ごさせて〜〜〜!!!(泣) 女神様…俺が総受けって何かの間違いですよね? モブ(無自覚ヒロイン)がみんなから総愛されるお話です。

案外、悪役ポジも悪くない…かもです?

彩ノ華
BL
BLゲームの悪役として転生した僕はBADエンドを回避しようと日々励んでいます、、 たけど…思いのほか全然上手くいきません! ていうか主人公も攻略対象者たちも僕に甘すぎません? 案外、悪役ポジも悪くない…かもです? ※ゆるゆる更新 ※素人なので文章おかしいです!

メインキャラ達の様子がおかしい件について

白鳩 唯斗
BL
 前世で遊んでいた乙女ゲームの世界に転生した。  サポートキャラとして、攻略対象キャラたちと過ごしていたフィンレーだが・・・・・・。  どうも攻略対象キャラ達の様子がおかしい。  ヒロインが登場しても、興味を示されないのだ。  世界を救うためにも、僕としては皆さん仲良くされて欲しいのですが・・・。  どうして僕の周りにメインキャラ達が集まるんですかっ!!  主人公が老若男女問わず好かれる話です。  登場キャラは全員闇を抱えています。  精神的に重めの描写、残酷な描写などがあります。  BL作品ですが、舞台が乙女ゲームなので、女性キャラも登場します。  恋愛というよりも、執着や依存といった重めの感情を主人公が向けられる作品となっております。

男子高校に入学したらハーレムでした!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 ゆっくり書いていきます。 毎日19時更新です。 よろしくお願い致します。 2022.04.28 お気に入り、栞ありがとうございます。 とても励みになります。 引き続き宜しくお願いします。 2022.05.01 近々番外編SSをあげます。 よければ覗いてみてください。 2022.05.10 お気に入りしてくれてる方、閲覧くださってる方、ありがとうございます。 精一杯書いていきます。 2022.05.15 閲覧、お気に入り、ありがとうございます。 読んでいただけてとても嬉しいです。 近々番外編をあげます。 良ければ覗いてみてください。 2022.05.28 今日で完結です。閲覧、お気に入り本当にありがとうございました。 次作も頑張って書きます。 よろしくおねがいします。

せっかく美少年に転生したのに女神の祝福がおかしい

拓海のり
BL
前世の記憶を取り戻した途端、海に放り込まれたレニー。【腐女神の祝福】は気になるけれど、裕福な商人の三男に転生したので、まったり気ままに異世界の醍醐味を満喫したいです。神様は出て来ません。ご都合主義、ゆるふわ設定。 途中までしか書いていないので、一話のみ三万字位の短編になります。 他サイトにも投稿しています。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

王道学園なのに、王道じゃない!!

主食は、blです。
BL
今作品の主人公、レイは6歳の時に自身の前世が、陰キャの腐男子だったことを思い出す。 レイは、自身のいる世界が前世、ハマりにハマっていた『転校生は愛され優等生.ᐟ‪‪.ᐟ』の世界だと気付き、腐男子として、美形×転校生のBのLを見て楽しもうと思っていたが…

処理中です...