上 下
5 / 7

第5話 性の乱

しおりを挟む
 忙しいのか昼は1人で食事をし、アフタヌーンティーに招かれた殿下の部屋には、殿下以外にもう1人。殿下以上の高身長で、銀髪を肩口でぱつんと切ったボブカットの白衣の女の人がいた。

「ありがとうございます、来てくださって」

 殿下が私の手を取り、椅子に座らせる。クーちゃんは私の後ろに控えている。殿下は政務用の服だ。

「こちらはポーター・ジェイ。わたしの叔母方の従姉妹。ポーターがあなたを探し当てたのです」

 殿下の言葉に頷いて、

「皇家でもない医師一族の男爵家ですから、名前でお呼びください、殿下。詳しい事情を説明した方がいいと思いまして。私は治癒師で医者ですわ。食べながらの話してもよろしいかしら、殿下。毒味は銀のカトラリーで済みますわ。ーーそちら、下がってくださるかしら」

静かに告げる彼女はどちらかというと私より低い響く声で告げる。

 既にフルーツとシロップがかかるデザートクレープが用意されていて、お茶をポーター様が入れてくださる。私の方が上の地位になるから、殿下に一礼してから、

「こちらは皇太子殿下と私の性を知る者として、同席させます。殿下、ポーター様、この者はクー・チャン。アスター王家の、いえ、私の懐刀です」

と話すと肩をすくめたポーター様と、頷く殿下に安心した。2対1は割に合わない。

「ーーよろしいでしょう。さあ、殿下、少しは召し上がってください。悪阻は始まっているでしょうが」

 悪阻……妊娠初期か。そんな疑問を考えているうちに、もぐもぐタイムは終わる。

 男妊娠出産は、オメガバースで流行った案件だ。あの時は下世話にもどこから産むのか争論があった。肛門?やおい穴、さまざまな憶測の中でら決着は帝王切開で終了した。ちなみに前世の私は、2人とも逆子だから帝王切開だ。

 思い返せば獣人ボーイズ系もブレイクしていたし、おねショタやおにショタも流行りつつあった。血の繋がり系も読んだなあ。

 つまりは、殿下とポーター様が恋仲で、実はポーター様も両性か男ーー

「失礼ですが、顔に出ています。皇太子妃殿下。私は紛れもなく女です。殿下の性には驚かれたと思いますが、殿下は完全両性具有体です。双方の機能を持ち合わせています」

 おや、ばれていた。完全両性具有でも陰嚢……玉はないけど。

 殿下は少しもぐもぐとしながらえづいた。妊娠初期の悪阻だ。

「無理をしないで横になってください。水が飲めれば大丈夫ですよ」

 医者の前で失礼だったかなと思ったが、前世の私がそうだったのだから間違いはない。水が飲めなくなれば、間違いなく入院か点滴だが。

「治癒魔法で楽にしますね」

 背中に手を手を当てるポーター様を見て、『手当て』は実は治癒魔法で、私のように異世界へ降り立った者が行った施術ではなかろうか。この今世では錬金術もある。媒介物質は必要だが。そうなると、前世の錬金術も絵空事ではないかもしれないーーは、置いておくとして、では、殿下のお腹の子の父親は誰だろう。

「さて、殿下から下腹の痛みを訴えられ診察したところ、懐妊を知りました。殿下が両性だと知るのは、正王妃様と私と私の母のみ。王も側室妃もその子供である皇子様方も姫も私の母がしております。しかも、側仕えであり王宮医師でもあります。そこでお世継ぎ問題も解決をしていかなくなりました」

 楽に横たわった殿下がこちらを向いて頷く。なるほど、そこは理解。皇太子殿下が出産なんてねえ。何しろ皇太子殿下は見目麗しくとも男性なんだから。

「私は『行き遅れている公爵以上の姫』を片っ端から調べました。国内では散々たるものでしたが、諜報専門の冒険者に探らせると、国外にあなた様がいました」

「冒険者……それは盲点でしたね、主様」

「クーちゃん、畳みかけるように言わないで」

「ええ、10も数えない年頃の王子が魔物の間引きを冒険者としていたなんて。でもそれがある時からぷつりと途絶え、第2王子が台頭し始めました」

 王宮では気をつけていたつもりだったが、国に出る魔物退治に第1王子の責務とし出ていたけど、楽しすぎて油断していた。

「病気だとかなんとかで理由はともあれ王宮に引きこもり、そのあとは分からずじまい。間諜に調べさせると、第2王子が王太子になり婚約式まで行われている。そこに姫が静養先から帰ってきて離宮に移るなんて、おかしいでしょう?そこで姫殿下は第1王子ではないかって思い、アスター王国に揺さぶりをかけました」

 間諜ってスパイだ、王宮にスパイがいたなんてすごいな。確かに、私の変わり身なんて、とりかへばや物語ではなく、有明の別れ的な1人2役だ。

 しかし実際、実感すると難しいものだった。今まで男として生きていて、帝王学を学び剣を嗜み、しかも、そこそこに強かったし楽しかった。でも、胸が膨らみ始め体付きがなだらかなラインを作り出すと、姫として生きろと言われて。

 私は今前世覚醒して、50代のおばちゃんとして生きていた記憶を元に自覚できているけれど、ハルシオンとしての感情と記憶があるから、悔しくて堪らない。

「それで、表向き『姫』の私が殿下の子を生んだことにすれば良いのですね。分かりました。次は、やはり『誰が父親』なのか、です」

 まさか、近衛とか、まあ、王族警護近衛ってそういう役割も果たすらしいし、成人した皇太子だからねえ。

 その子供問題を早急に、明らかにする必要があるのだ。

 ――そんなことを考えながら温いお茶に口をつけた時だった。

「わ……わたしです」

 わたし?

 ソファの側に誰かいた?ソファ廊下の向こうから小さな声で告げるのは殿下。

 引き攣った笑顔で笑うポーター様が、腕組みをして長い足を組んだ。

「この馬鹿は、自分の男性器を女性器に入れて自慰をしていたのよ、この馬鹿はっ!」

「馬鹿って2回も言わないでぇ……」

 性が暴走してる。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

浮気三昧の屑彼氏を捨てて後宮に入り、はや1ヶ月が経ちました

Q.➽
BL
浮気性の恋人(ベータ)の度重なる裏切りに愛想を尽かして別れを告げ、彼の手の届かない場所で就職したオメガのユウリン。 しかしそこは、この国の皇帝の後宮だった。 後宮は高給、などと呑気に3食昼寝付き+珍しいオヤツ付きという、楽しくダラケた日々を送るユウリンだったが…。 ◆ユウリン(夕凛)・男性オメガ 20歳 長めの黒髪 金茶の瞳 東洋系の美形 容姿は結構いい線いってる自覚あり ◆エリアス ・ユウリンの元彼・男性ベータ 22歳 赤っぽい金髪に緑の瞳 典型的イケメン 女好き ユウリンの熱心さとオメガへの物珍しさで付き合った。惚れた方が負けなんだから俺が何しても許されるだろ、と本気で思っている ※異世界ですがナーロッパではありません。 ※この作品は『爺ちゃん陛下の23番目の側室になった俺の話』のスピンオフです。 ですが、時代はもう少し後になります。

回顧

papiko
BL
若き天才∶宰相閣下 (第一王子の親友)    ×  監禁されていた第一王子 (自己犠牲という名のスキル持ち) その日は、唐突に訪れた。王国ルーチェントローズの王子三人が実の父親である国王に対して謀反を起こしたのだ。 国王を探して、開かずの間の北の最奥の部屋にいたのは―――――――― そこから思い出される記憶たち。 ※完結済み ※番外編でR18予定 【登場人物】 宰相   ∶ハルトノエル  元第一王子∶イノフィエミス 第一王子 ∶リノスフェル 第二王子 ∶アリスロメオ 第三王子 ∶ロルフヘイズ

君と秘密の部屋

325号室の住人
BL
☆全3話 完結致しました。 「いつから知っていたの?」 今、廊下の突き当りにある第3書庫準備室で僕を壁ドンしてる1歳年上の先輩は、乙女ゲームの攻略対象者の1人だ。 対して僕はただのモブ。 この世界があのゲームの舞台であると知ってしまった僕は、この第3書庫準備室の片隅でこっそりと2次創作のBLを書いていた。 それが、この目の前の人に、主人公のモデルが彼であるとバレてしまったのだ。 筆頭攻略対象者第2王子✕モブヲタ腐男子

溺愛お義兄様を卒業しようと思ったら、、、

ShoTaro
BL
僕・テオドールは、6歳の時にロックス公爵家に引き取られた。 そこから始まった兄・レオナルドの溺愛。 元々貴族ではなく、ただの庶子であるテオドールは、15歳となり、成人まで残すところ一年。独り立ちする計画を立てていた。 兄からの卒業。 レオナルドはそんなことを許すはずもなく、、 全4話で1日1話更新します。 R-18も多少入りますが、最後の1話のみです。

悪役なので大人しく断罪を受け入れたら何故か主人公に公開プロポーズされた。

柴傘
BL
侯爵令息であるシエル・クリステアは第二王子の婚約者。然し彼は、前世の記憶を持つ転生者だった。 シエルは王立学園の卒業パーティーで自身が断罪される事を知っていた。今生きるこの世界は、前世でプレイしていたBLゲームの世界と瓜二つだったから。 幼い頃からシナリオに足掻き続けていたものの、大した成果は得られない。 然しある日、婚約者である第二王子が主人公へ告白している現場を見てしまった。 その日からシナリオに背く事をやめ、屋敷へと引き篭もる。もうどうにでもなれ、やり投げになりながら。 「シエル・クリステア、貴様との婚約を破棄する!」 そう高らかに告げた第二王子に、シエルは恭しく礼をして婚約破棄を受け入れた。 「じゃあ、俺がシエル様を貰ってもいいですよね」 そう言いだしたのは、この物語の主人公であるノヴァ・サスティア侯爵令息で…。 主人公×悪役令息、腹黒溺愛攻め×無気力不憫受け。 誰でも妊娠できる世界。頭よわよわハピエン。

転生貧乏貴族は王子様のお気に入り!実はフリだったってわかったのでもう放してください!

音無野ウサギ
BL
ある日僕は前世を思い出した。下級貴族とはいえ王子様のお気に入りとして毎日楽しく過ごしてたのに。前世の記憶が僕のことを駄目だしする。わがまま駄目貴族だなんて気づきたくなかった。王子様が優しくしてくれてたのも実は裏があったなんて気づきたくなかった。品行方正になるぞって思ったのに! え?王子様なんでそんなに優しくしてくるんですか?ちょっとパーソナルスペース!! 調子に乗ってた貧乏貴族の主人公が慎ましくても確実な幸せを手に入れようとジタバタするお話です。

気付いたら囲われていたという話

空兎
BL
文武両道、才色兼備な俺の兄は意地悪だ。小さい頃から色んな物を取られたし最近だと好きな女の子まで取られるようになった。おかげで俺はぼっちですよ、ちくしょう。だけども俺は諦めないからな!俺のこと好きになってくれる可愛い女の子見つけて絶対に幸せになってやる! ※無自覚囲い込み系兄×恋に恋する弟の話です。

もう一度、貴方に出会えたなら。今度こそ、共に生きてもらえませんか。

天海みつき
BL
 何気なく母が買ってきた、安物のペットボトルの紅茶。何故か湧き上がる嫌悪感に疑問を持ちつつもグラスに注がれる琥珀色の液体を眺め、安っぽい香りに違和感を覚えて、それでも抑えきれない好奇心に負けて口に含んで人工的な甘みを感じた瞬間。大量に流れ込んできた、人ひとり分の短くも壮絶な人生の記憶に押しつぶされて意識を失うなんて、思いもしなかった――。  自作「貴方の事を心から愛していました。ありがとう。」のIFストーリー、もしも二人が生まれ変わったらという設定。平和になった世界で、戸惑う僕と、それでも僕を求める彼の出会いから手を取り合うまでの穏やかなお話。

処理中です...