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第4話 どうする、ハルシオン
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寝る前に考えたことが、寝ている最中ずっと考え続けるのだという。夢は脳内再生の繰り返しであり、起きた時の気分は、寝る直前の考えの延長線だと聞いたことがある。
それで睡眠薬入りワインを飲んだわけではない。目の前の殿下に対して、自分の考えを放棄しただけだ。ごめんね、クーちゃん。
朝の光が眩しいーー
「きゃ、いやぁーーー」
絹を引き裂くような男の低い悲鳴……朝からなんだ?
「で、殿下……お気を確かに」
クーちゃんの声だ。
「わ、わたし、そんな、どうしてっ!」
まるでそんなつもりはなかった的な発言だ。起きないといけない。目を開くとおどおどと昨晩とは別人のように怯えて、座り込む殿下が、横座りをしている股間を直視する形となってしまった。
バスローブははだけたままだし、私の寝ていた場所の乾いた血を見つめている。
「……おはようございます。バスローブは閉じられたほうがよろしいかと」
今言える言葉はそれだけだ。
「どうして、私を襲ったのですか!」
ーーん?
バスローブをたくしあげた殿下は半泣きになりながら、怒りに満ちている。皇太子殿下を、皇太子妃である私が襲う?
「殿下、お待ち下さい!主様は決してっ」
なに、これは。
クーちゃんも困った顔をして、つい発言していた。発言許されてないのに。
「あああっ」
と突っ伏してしまう殿下を前にして、私も困る。
私が殿下を手篭めにした風ですか?この美男子高身長王族を、小柄な私が?私が手篭めにされた風アレンジだろーが!
さめざめと肩を震わせて泣き出した殿下を、どうしたら良いか分からず、私はふと殿下が両性であることを思い出した。
あ、そっか、殿下は両性だからか。
私はベッドの上で片膝をついて礼の姿勢を取る。
「この度は私が失礼をしました。殿下との間には何もありません。血も偽物です。私は私のこの身が暴かれるのが怖かった。殿下は両性具有でいらっしゃいますね」
怯えたように小さく頷く殿下に、私はバスローブの紐に手をやる。
「主様っ!それはーー」
「いいや、昨晩話すべきだったよ。クーちゃん、罪は私にある」
そして紐を解いた。
小柄な身体に乳房、そして股間には男性器がある。
殿下が息を呑む。
それから前世よろしく土下座をした。
「私は、生まれは男でした。しかし10を数える頃から胸が女のように膨らみ、今のような姿になりました。王位継承を剥奪され『王子』から『姫』として生かされました。殿下を謀るつもりはありませんでした。もしも許されるならばのであれば、咎は私だけにして、小国アスターおよび従者はお許しください」
無言になっていた殿下は、
「ーー知っていました」
と告げた。驚いて顔をあげると殿下が、すぐ近くにいた。
「あなたの国を調べて、あなたを見つけました。あなたもわたしのような両性だから、あなたに嫁していただきました」
殿下は自分の手を下腹に当ててて、
「ここに、赤ちゃんがいるのです」
と恥ずかしそうに呟いた。
★★
僕とクーちゃんは声にならない悲鳴を上げた。声を上げなかった私たちを褒めたい。
両性……男女を統合して完全体になった存在アンドロギュノス(両性具有)やギリシャ神話に出てくる両性具有の神、ヘルマプロディトスが有名だ。
殿下は間違いなく両性具有、私は単純に前世的には女性化乳房症だろう。医療水準は魔力を使った治癒により前世と変わらないが、その分知識はやや下なこの世界では、乳房が腫れる病気とは思われなかった。だから、面妖な面倒な『王子』は廃嫡された。
「それにしても驚きましたね。殿下のお言葉は」
朝の一件から、数時間。私たちはお咎めなく過ごしている。
殿下は朝の召替えを自分でして、朝食を取らずに朝議に向かわれた。私は皇太子妃の部屋に戻り、『姫』の服を着て、とりあえずぼんやりとしている。
朝食はオートミールとミルク、そして果物。これはこの世界で一般的な朝食だ。少しばかり食べてやめてしまうと、残りはその場でクーちゃんの胃袋に消えた。
「うん、昼ご招待くださるみたいだから、食後に話が聞けるかな」
皇太子殿下が両性具有なんて信じられない。
「アスター王宮でもひっそりと暮らしていた主様を調べ上げるなんて……」
私の席でぱくぱくもぐもぐしながらクーちゃんが食べ続けて、私はソファに移りお茶を飲んでいた。クーちゃんの食事は用意されているが、私が残しすぎたのだ。大量に残せば医者がやってくる。
「主様、どうかしましたか?」
「うん、まあ、分かっているんだよ、私は男なんだなあって」
ハルシオン・アスターとしての記憶はちゃんとある。私は間違いなくハルシオンだ。冷静に受け止められる。だが、前世で女であった分、胸はいいとしても、男性器に触れて用を足した瞬間、思わず声が出てしまった。
男女入れ替え漫画も読んだが、意外に早く馴染んでいたり、エロ系なら弄り倒したりと違う性に楽しんだり翻弄されていた。
私は全体に細身にでかい胸、男性器って違和感とたたかう羽目になっている。見慣れた身体に見慣れないブツ。旦那さんについていたあれがここにある。外性器って触れると滑らかで、ついつい触りたくなり、用を足した後も少し触れていたのは、ナイショの話だ。
それで睡眠薬入りワインを飲んだわけではない。目の前の殿下に対して、自分の考えを放棄しただけだ。ごめんね、クーちゃん。
朝の光が眩しいーー
「きゃ、いやぁーーー」
絹を引き裂くような男の低い悲鳴……朝からなんだ?
「で、殿下……お気を確かに」
クーちゃんの声だ。
「わ、わたし、そんな、どうしてっ!」
まるでそんなつもりはなかった的な発言だ。起きないといけない。目を開くとおどおどと昨晩とは別人のように怯えて、座り込む殿下が、横座りをしている股間を直視する形となってしまった。
バスローブははだけたままだし、私の寝ていた場所の乾いた血を見つめている。
「……おはようございます。バスローブは閉じられたほうがよろしいかと」
今言える言葉はそれだけだ。
「どうして、私を襲ったのですか!」
ーーん?
バスローブをたくしあげた殿下は半泣きになりながら、怒りに満ちている。皇太子殿下を、皇太子妃である私が襲う?
「殿下、お待ち下さい!主様は決してっ」
なに、これは。
クーちゃんも困った顔をして、つい発言していた。発言許されてないのに。
「あああっ」
と突っ伏してしまう殿下を前にして、私も困る。
私が殿下を手篭めにした風ですか?この美男子高身長王族を、小柄な私が?私が手篭めにされた風アレンジだろーが!
さめざめと肩を震わせて泣き出した殿下を、どうしたら良いか分からず、私はふと殿下が両性であることを思い出した。
あ、そっか、殿下は両性だからか。
私はベッドの上で片膝をついて礼の姿勢を取る。
「この度は私が失礼をしました。殿下との間には何もありません。血も偽物です。私は私のこの身が暴かれるのが怖かった。殿下は両性具有でいらっしゃいますね」
怯えたように小さく頷く殿下に、私はバスローブの紐に手をやる。
「主様っ!それはーー」
「いいや、昨晩話すべきだったよ。クーちゃん、罪は私にある」
そして紐を解いた。
小柄な身体に乳房、そして股間には男性器がある。
殿下が息を呑む。
それから前世よろしく土下座をした。
「私は、生まれは男でした。しかし10を数える頃から胸が女のように膨らみ、今のような姿になりました。王位継承を剥奪され『王子』から『姫』として生かされました。殿下を謀るつもりはありませんでした。もしも許されるならばのであれば、咎は私だけにして、小国アスターおよび従者はお許しください」
無言になっていた殿下は、
「ーー知っていました」
と告げた。驚いて顔をあげると殿下が、すぐ近くにいた。
「あなたの国を調べて、あなたを見つけました。あなたもわたしのような両性だから、あなたに嫁していただきました」
殿下は自分の手を下腹に当ててて、
「ここに、赤ちゃんがいるのです」
と恥ずかしそうに呟いた。
★★
僕とクーちゃんは声にならない悲鳴を上げた。声を上げなかった私たちを褒めたい。
両性……男女を統合して完全体になった存在アンドロギュノス(両性具有)やギリシャ神話に出てくる両性具有の神、ヘルマプロディトスが有名だ。
殿下は間違いなく両性具有、私は単純に前世的には女性化乳房症だろう。医療水準は魔力を使った治癒により前世と変わらないが、その分知識はやや下なこの世界では、乳房が腫れる病気とは思われなかった。だから、面妖な面倒な『王子』は廃嫡された。
「それにしても驚きましたね。殿下のお言葉は」
朝の一件から、数時間。私たちはお咎めなく過ごしている。
殿下は朝の召替えを自分でして、朝食を取らずに朝議に向かわれた。私は皇太子妃の部屋に戻り、『姫』の服を着て、とりあえずぼんやりとしている。
朝食はオートミールとミルク、そして果物。これはこの世界で一般的な朝食だ。少しばかり食べてやめてしまうと、残りはその場でクーちゃんの胃袋に消えた。
「うん、昼ご招待くださるみたいだから、食後に話が聞けるかな」
皇太子殿下が両性具有なんて信じられない。
「アスター王宮でもひっそりと暮らしていた主様を調べ上げるなんて……」
私の席でぱくぱくもぐもぐしながらクーちゃんが食べ続けて、私はソファに移りお茶を飲んでいた。クーちゃんの食事は用意されているが、私が残しすぎたのだ。大量に残せば医者がやってくる。
「主様、どうかしましたか?」
「うん、まあ、分かっているんだよ、私は男なんだなあって」
ハルシオン・アスターとしての記憶はちゃんとある。私は間違いなくハルシオンだ。冷静に受け止められる。だが、前世で女であった分、胸はいいとしても、男性器に触れて用を足した瞬間、思わず声が出てしまった。
男女入れ替え漫画も読んだが、意外に早く馴染んでいたり、エロ系なら弄り倒したりと違う性に楽しんだり翻弄されていた。
私は全体に細身にでかい胸、男性器って違和感とたたかう羽目になっている。見慣れた身体に見慣れないブツ。旦那さんについていたあれがここにある。外性器って触れると滑らかで、ついつい触りたくなり、用を足した後も少し触れていたのは、ナイショの話だ。
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