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第1話 白い結婚燃ゆ
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小国の集まりの中で抜きん出て、近隣で1番の巨大帝国の皇太子殿下の横で、私はそっと息を吐く。
「姫、不安ですか?結婚は国同士の義務のようなものですが、わたしはあなたがいてくれてよかった」
驚くほど豊かな長い銀色のふわふわヘアをふわりと垂らした婚姻相手は、20歳のエリシオン皇太子殿下だ。ゆくゆくは帝国の帝王となる。その相手に選ばれたのが、行き遅れの私。
「そんな、殿下、勿体無いお言葉を」
帝国では神殿婚姻は2人だけで行い、子を成せば正式に帝国妃として帝国内にお披露目される。
小王国に生まれついたから聞かされていたことだ。どの国もそう。子を成さなければ、妃として認められない。
「今晩はわたしの寝室にいらしてください」
私は白いベールの中で俯いた。
殿下は帝国の次期皇帝だ。地位の身分差をはないが、何せ国力が違うのだ。逆らって、出自の王国に被害がーーと思うと怖かった。
で、でもーー
「そ、そんな、殿下。し、白い結婚のはずです。私はそんなことは……」
「神の信奉者が来ます。話はこの辺りで終わりましょう」
後ろに控えていた神殿長がゆっくりと歩み寄ってくる。この神殿には私と殿下と3人しかいない。
この銀髪の上背の高い美形の殿下の冴えた青い瞳は、私を静かに見下ろしてきた。
どうしよう……。
殿下との婚約を何回も破棄しようと努力した。でも、帝国は多額の持参金を含む用意までしてこられて、島国の小王国の王である父は『白い結婚』を条件に、渋々受け入れてしまった。
私は今、婚約破棄を出来なかった『行き遅れの贄姫』として、この大陸大国にいる。
ここ半月でバタバタと準備をし、殿下からの一枚の手紙を経て、私は間違いなく『白い結婚』として、帝国に嫁した。
この宮殿は豪華な修道院だと思えばいいからーーそのはずだった。
「で、殿下、お待ちください、その話は……」
遮られた、ああ、駄目だ。
「さあ、殿下、姫君、これ以上、神をお待たせするものではありません。皇太子殿下と姫殿下のご成婚を神は心より祝福しております。晴れ渡る空、輝く太陽、清らかな空気、全てが祝福です」
神官長の声がした。
ああ、私がもっと早くに動けていたら。修道院が難色を示していたのなら、別の国の修道院に潜り込んでいたら。
ピシャ……
神官長の手に持っていた聖杯の水が、神々の宿り木に浸されて、葉に滴る液体が下げた頭に掛かる。
「――――っ」
水……
「この聖水は神の慈愛の涙です。皇太子殿下、姫殿下、神はこの婚姻をお認めしてくださいました」
隣で皇太子殿下が頷いている。姫君から、姫殿下……アスター王国と切り離された。ロータス帝国の皇太子の『庇護下』に置かれて、子を成すまで軟禁される。
逆らうことが出来ない帝国内で、誰にも頼れない。
まさに人生の中で不幸のどん底ーー神の聖水なんて……どんな『お嬢様聖水』かな?かな!
……ん?おじょーさませいすい?ってなんだ?
私は気がつく。
私は『私ではない記憶』を持っている。
……ああ……そうか。私、なんだかよくわからないのだけど、別の世界にいるんだ。
ここは『私がいた世界とは違う』世界であり、私は小さな王国の末席に生まれ変わっていた。
今まで静かに『『姫君』として生きてきた私自身』と『前世の私』を思い出していく。
これは、まずい状況下だ。
この世界は、私の知らない世界だった。ありがたいことに、文明レベルはほぼ同じーーはず。少なくとも私のいた国では、魔石がエネルギー源と、魔石に魔法が塗布されていて、生活水準はまあまあだった。
私は……
私自身の置かれていた状況を思い出していく。
ハルシオン・アスター、島国小国の『姫』それが私の置かれていた地位と場所。
婚約者もいない19歳の行き遅れの私は、静かに生きていた。
弟が王位継承し王太子として公爵令嬢と婚約したので、私は王宮別邸に移り、さらに静かに暮らそうと話をしていた矢先に、お隣の巨大帝国よりの使者が来て、ゴリ押しの婚姻が降って湧いた。
弟と婚約者は小躍りした。目の上のたんこぶ、言うなれば小姑がいなくなるのだから。弟とは仲が良くなかったし、なにより私自身を嫌っている。
困っていたのは、私と母だけだった。嫌がる私に父は
「ロータス帝国からも、白い結婚を希望しているという。国同士のために生きるのも、王家王族の末席の務めだ」
と押し切った。
そんな夫になる人が、横で顔を上げる。寒い大帝国ロータス。その美丈夫な皇太子がエリファス・ロータス。
物語に転生するとか、悪役令嬢とかならまだしも、この状態は残酷すぎる。
ちょっと、神様的な人!何してくれるの?
白い結婚ならなんとかなる
そんな口約束みたいな契約に安心していた気の弱いハルシオン・アスターではない。あ、今のこの瞬間から、ハルシオン・ロータスだ。
なんとかして回避しないとーー
「姫、不安ですか?結婚は国同士の義務のようなものですが、わたしはあなたがいてくれてよかった」
驚くほど豊かな長い銀色のふわふわヘアをふわりと垂らした婚姻相手は、20歳のエリシオン皇太子殿下だ。ゆくゆくは帝国の帝王となる。その相手に選ばれたのが、行き遅れの私。
「そんな、殿下、勿体無いお言葉を」
帝国では神殿婚姻は2人だけで行い、子を成せば正式に帝国妃として帝国内にお披露目される。
小王国に生まれついたから聞かされていたことだ。どの国もそう。子を成さなければ、妃として認められない。
「今晩はわたしの寝室にいらしてください」
私は白いベールの中で俯いた。
殿下は帝国の次期皇帝だ。地位の身分差をはないが、何せ国力が違うのだ。逆らって、出自の王国に被害がーーと思うと怖かった。
で、でもーー
「そ、そんな、殿下。し、白い結婚のはずです。私はそんなことは……」
「神の信奉者が来ます。話はこの辺りで終わりましょう」
後ろに控えていた神殿長がゆっくりと歩み寄ってくる。この神殿には私と殿下と3人しかいない。
この銀髪の上背の高い美形の殿下の冴えた青い瞳は、私を静かに見下ろしてきた。
どうしよう……。
殿下との婚約を何回も破棄しようと努力した。でも、帝国は多額の持参金を含む用意までしてこられて、島国の小王国の王である父は『白い結婚』を条件に、渋々受け入れてしまった。
私は今、婚約破棄を出来なかった『行き遅れの贄姫』として、この大陸大国にいる。
ここ半月でバタバタと準備をし、殿下からの一枚の手紙を経て、私は間違いなく『白い結婚』として、帝国に嫁した。
この宮殿は豪華な修道院だと思えばいいからーーそのはずだった。
「で、殿下、お待ちください、その話は……」
遮られた、ああ、駄目だ。
「さあ、殿下、姫君、これ以上、神をお待たせするものではありません。皇太子殿下と姫殿下のご成婚を神は心より祝福しております。晴れ渡る空、輝く太陽、清らかな空気、全てが祝福です」
神官長の声がした。
ああ、私がもっと早くに動けていたら。修道院が難色を示していたのなら、別の国の修道院に潜り込んでいたら。
ピシャ……
神官長の手に持っていた聖杯の水が、神々の宿り木に浸されて、葉に滴る液体が下げた頭に掛かる。
「――――っ」
水……
「この聖水は神の慈愛の涙です。皇太子殿下、姫殿下、神はこの婚姻をお認めしてくださいました」
隣で皇太子殿下が頷いている。姫君から、姫殿下……アスター王国と切り離された。ロータス帝国の皇太子の『庇護下』に置かれて、子を成すまで軟禁される。
逆らうことが出来ない帝国内で、誰にも頼れない。
まさに人生の中で不幸のどん底ーー神の聖水なんて……どんな『お嬢様聖水』かな?かな!
……ん?おじょーさませいすい?ってなんだ?
私は気がつく。
私は『私ではない記憶』を持っている。
……ああ……そうか。私、なんだかよくわからないのだけど、別の世界にいるんだ。
ここは『私がいた世界とは違う』世界であり、私は小さな王国の末席に生まれ変わっていた。
今まで静かに『『姫君』として生きてきた私自身』と『前世の私』を思い出していく。
これは、まずい状況下だ。
この世界は、私の知らない世界だった。ありがたいことに、文明レベルはほぼ同じーーはず。少なくとも私のいた国では、魔石がエネルギー源と、魔石に魔法が塗布されていて、生活水準はまあまあだった。
私は……
私自身の置かれていた状況を思い出していく。
ハルシオン・アスター、島国小国の『姫』それが私の置かれていた地位と場所。
婚約者もいない19歳の行き遅れの私は、静かに生きていた。
弟が王位継承し王太子として公爵令嬢と婚約したので、私は王宮別邸に移り、さらに静かに暮らそうと話をしていた矢先に、お隣の巨大帝国よりの使者が来て、ゴリ押しの婚姻が降って湧いた。
弟と婚約者は小躍りした。目の上のたんこぶ、言うなれば小姑がいなくなるのだから。弟とは仲が良くなかったし、なにより私自身を嫌っている。
困っていたのは、私と母だけだった。嫌がる私に父は
「ロータス帝国からも、白い結婚を希望しているという。国同士のために生きるのも、王家王族の末席の務めだ」
と押し切った。
そんな夫になる人が、横で顔を上げる。寒い大帝国ロータス。その美丈夫な皇太子がエリファス・ロータス。
物語に転生するとか、悪役令嬢とかならまだしも、この状態は残酷すぎる。
ちょっと、神様的な人!何してくれるの?
白い結婚ならなんとかなる
そんな口約束みたいな契約に安心していた気の弱いハルシオン・アスターではない。あ、今のこの瞬間から、ハルシオン・ロータスだ。
なんとかして回避しないとーー
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