上 下
14 / 16

14

しおりを挟む
結局、おっさんはそのまま出掛けていってしまったのでひとまず干してあった洗濯物を片付けてしまいましょうか。終わったら次は晩御飯作って仕舞わないとね。
乾いた洗濯物をベランダへ取りに行き床に一先ず置くとチャイムの音が聞こえた。


ピンポーン!

あれ?今日、誰か訪ねてくる予定だったかしら?

「はーい!ちょっと待って!」

不思議に思いつつも玄関の方へ向かい、慌てて玄関チェーンと鍵を開け玄関扉を開くとまさかの人物がいた。その人は革製の鞄を一つだけ持っており、片手を挙げて挨拶した。

「家庭訪問しに来た。」

「え゛っ!」

「…………ってのは冗談で、さっき言ってた翅の生えたおっさんの姿をした妖精のことを調べてみたら一冊だけあったから持ってきたぞ。」

しろちゃん先生はそう言って古そうな赤い紐で括られた高価そうな木箱を渡してきた。木箱を廊下に置くと赤い紐をゆっくりと外したら、その中には一冊の古い紐で綴じられた書物が一つ入っていた。

「え、わざわざ届けてくれたの?しろちゃん先生……ってこれ、絶対希少価値高いやつてしょ?こんなの私に渡して大丈夫なの?千切っちゃわないか心配だわ。」

「お前なら大丈夫だろう。几帳面だしな。……まあ、貴重なのは確かだから、この場で読んでもらうことにはなるがな。」

そう言って手袋を手渡してきたのですぐに受け取り手にはめた。

「お前が言っていた奴の事が書いてあるのは確か183ページだった筈だぞ。」

しろちゃん先生はそう言うといつの間にか先生も手袋をはめていたらしく、そのページを開いて指差した。指差した先には本物と似て非なる絵……正直、妖精というよりは妖怪にしか見えない絵とその解説が書いてあるようだが何が書いてあるのかさっぱり分からない……が書いてあった。

「…………しろちゃん先生。」

「ん?どうした?」

「ごめんなさいね、折角持ってきてくれたのに申し訳ないんだけどこれ、何が書いてあるのか読めないわ。」

昔の書物だからか筆で続け字で書かれたそれは私には難易度が高すぎた。絵もあるとはいえ、何が書いたあるのかさっぱり分からなかったのでしろちゃん先生にすぐに返却した。

「…………あ……そうだよな。確かに読みにくいわな。読んでやるよ。」

しろちゃん先生は眼鏡ケースを鞄から取り出し眼鏡をかけた。元ヤンと言わんばかりの先生はインテリ風に早変わりしたのがちょっとばかし面白かった。

「お願いするわ……先生眼鏡をかけるのね元ヤンからインテリに化けた!」

「……元ヤンは否定できねーけどこれでも学生時代成績優秀だったんだぞ。」

「え"っ!」

衝撃を受けたような顔をしていた私にデコピンを食らわせたしろちゃん先生は、書物を開いた。大人の色気すげぇと更に衝撃を受け硬直していたもののすぐに立ち直りルーズリーフを一枚棚から取り出した。しろちゃん先生に読んでもらいつつ内容を紙に書き出していきもう一度よく見てみる。


翅生えし者

老人の様な見た目に翅が生えているのが特徴。自らの事が見える者にのみ願い事を叶える存在。どんな願いでも叶えることが出来ると言われている。大きさは人間と同じ大きさで願い事を叶える事を強要すると臭い屁を出して逃げるという。翅生えし者は一生に叶えられる願いの数が決まっており、願いを叶えてもらえる側には代償は基本的にはないものの、ただ叶えてもらった後は翅生えし者の事を忘れるらしい。願いを叶える側は翅が少しずつ失われ、自分の叶えられる願いの数を全て叶えると消えてしまうのだという。その願いの重さによっては願いの叶えた数も1つ叶えても複数願いを叶えたのと同じ扱いになることもある。人間の願い事は重い願い事が多い為会っても叶える事は稀である。


「……そういうことだったのね。」

あの翅ありオッサンめ、一番重要なことを言ってないじゃない!後で問い詰めなくちゃね。

「ただいまぁ~オッサン帰ったぞぉ~!」

……あ、しまった(汗)。

「ん??」

しろちゃん先生は眉間に皺を寄せ私の方へ視線を向けた。その顔にはあの声の主は誰だと言わんばかりの表情が浮かんでいた。

あちゃ~、不味いわね。

玄関からふよふよ浮いたまま此方に風呂敷を抱えて戻ってきたおっさんを視界に入れて額に手を当てた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

お姉様といっしょ

菫川ヒイロ
ライト文芸
ここは、長い歴史のある由緒正しき学園 名のある家のご息女も通っている乙女の園 幼稚舎から大学までのエスカレーター式で ここで教育を受ければ、素晴らしき淑女の完成だ。 その教育の中には姉妹制度が導入されており 二人は姉妹になった。

三人の秘密の関係

M-kajii2020b
ライト文芸
絡まりすぎた赤い糸、三人の関係はその糸を解きほぐせるのか。

いろいろな作家の文体で書く

中七七三
ライト文芸
いろいろな、良く知られた物語や、なんかを有名な作家の文体で書くというもの。 文体模写という文芸のいちジャンルである「パスティーシュ」に挑戦してみました。 名手としては清水義範先生が有名ですね。

薔薇紳士の興じ事

世万江生紬
ライト文芸
ここは悩み事を抱える人だけが訪れることの出来る、古いけれど綺麗で落ち着く喫茶店『Rose』。この喫茶店の店主、薔薇紳士はお客様のお悩みを紳士に解決する――。

さざ波の向こう いつかの君へ

望月くらげ
ライト文芸
ある夏の日、14歳の菫は幼なじみの海里と行ったキャンプ場で崖から転落してしまう。そして目覚めると大正時代の小豆島へとタイムスリップしてしまっていた。 父親を自分のせいで亡くしてしまっていた菫は家族と上手くいってなく、このままこの時代から帰れなければいいのにと思いながら日々を過ごす。けれどそこで出会った伊織という青年の優しさに、菫のかたく閉ざされた心は少しずつ解きほぐされていった。父親への想い、残してきた母と妹への想いを抱えながらも、菫は伊織に轢かれていく。 次第にお互いを想い合い、そして気持ちを伝えた二人に待ち受けていたのは――。 これは時空を越えた、切ない青春ラブストーリー。 GW中は 7時30分・12時30分・16時30分・20時30分の1日4回更新です。 5月6日完結予定です。 どうぞよろしくお願いします。

俺がカノジョに寝取られた理由

下城米雪
ライト文芸
その夜、知らない男の上に半裸で跨る幼馴染の姿を見た俺は…… ※完結。予約投稿済。最終話は6月27日公開

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...