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俺の名前は
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男に案内されて家へ入ると、男は頭に被っていた笠を取ると壁に立て掛けた。
出会ったときには気付かなかったが男は褐色の肌をしていた。黒の長い髪は後で結んでおり、瞳は美しい空色をしていた。
“ただいま”
何故かそんなことを思ったが口には出さなかった。
「どうかしたか?」
ボーッと彼の方を見ていたら声をかけられた。
「すまないね。少しぼんやりしてしまってね………。」
「……いや、気にしていないが……………疲れているんじゃないか?」
そうかもしれない。私も歳だなあ。
そんなことを考えながら、靴を脱ぐ。
「私も君みたいに若かったらねえ。」
「?そういうものか?」
彼がきょとんとした顔で聞いてくるものだから面白くなって小さく笑ってしまった。
「???」
さらに不思議そうな目で見てくるものだから思わず彼の頭を撫でてしまった。目を見開いた彼はしばらく硬直していたが撫で続けていると目を細めて気持ち良さそうな表情になった。
「撫でられたのはじめてだ。」
「そうなのかい?」
「俺はずっとここで一人だからな。」
彼が少し寂しそうな顔になった。
「ご両親は………。」
「いない。いるはずがないんだ。」
これ以上は聞いてはいけないのかもしれないね。
「そうかい。」
彼のことを撫で続けているとここを撫でろと言わんばかりに手に頭を押し付けてくる。
………まるで猫みたいだな。
そう思いつつも口にはしなかった。
「でも、寂しくはない。ここには誰もいないがたくさんいるんだ。」
不思議な言葉だった。
“誰もいない”という言葉と“たくさんいる”という言葉は正反対の言葉だ。
「………もしかしたら、あんたにはわかるようになるかもしれないな。」
彼はそう言うと小さく笑った。
「あんたは面白そうだから教えてやる。俺の名前は古井誓。覚えておけ。」
出会ったときには気付かなかったが男は褐色の肌をしていた。黒の長い髪は後で結んでおり、瞳は美しい空色をしていた。
“ただいま”
何故かそんなことを思ったが口には出さなかった。
「どうかしたか?」
ボーッと彼の方を見ていたら声をかけられた。
「すまないね。少しぼんやりしてしまってね………。」
「……いや、気にしていないが……………疲れているんじゃないか?」
そうかもしれない。私も歳だなあ。
そんなことを考えながら、靴を脱ぐ。
「私も君みたいに若かったらねえ。」
「?そういうものか?」
彼がきょとんとした顔で聞いてくるものだから面白くなって小さく笑ってしまった。
「???」
さらに不思議そうな目で見てくるものだから思わず彼の頭を撫でてしまった。目を見開いた彼はしばらく硬直していたが撫で続けていると目を細めて気持ち良さそうな表情になった。
「撫でられたのはじめてだ。」
「そうなのかい?」
「俺はずっとここで一人だからな。」
彼が少し寂しそうな顔になった。
「ご両親は………。」
「いない。いるはずがないんだ。」
これ以上は聞いてはいけないのかもしれないね。
「そうかい。」
彼のことを撫で続けているとここを撫でろと言わんばかりに手に頭を押し付けてくる。
………まるで猫みたいだな。
そう思いつつも口にはしなかった。
「でも、寂しくはない。ここには誰もいないがたくさんいるんだ。」
不思議な言葉だった。
“誰もいない”という言葉と“たくさんいる”という言葉は正反対の言葉だ。
「………もしかしたら、あんたにはわかるようになるかもしれないな。」
彼はそう言うと小さく笑った。
「あんたは面白そうだから教えてやる。俺の名前は古井誓。覚えておけ。」
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