私は逃げます

恵葉

文字の大きさ
上 下
71 / 72
第二章

レイモンドの訪問 中編

しおりを挟む
私はそれほど飲んでいなかったし、ヒュー様も酔っているようには見えませんでしたが、ゆっくり庭を歩いて案内し、皆が飲んだくれている部屋からも離れているけど見える場所にあるベンチに座って、休むことにしました。

「あの…レイモンド様にまた会う機会を作ってくださって、ありがとうございました。
ヒュー様がレイモンド様をここへ連れてきてくれるって伺っていました。
多分…レイモンド様は一人は来てくれなかったでしょうから…。」

「まあ…僕も興味があったからね…純粋に単なる好奇心だけどね。」
冗談めかしてニヤリと笑いながら言いました。
「興味…ですか…。」
「レイモンドの妹がそこまで暴走するほどの相手って、どんなご令嬢なのかなとか、レイモンドがあそこまで人が変わったようになってしまうほどの影響を受けたご令嬢って、どんな子なのかなとか。」
「…私は…あまりご令嬢らしくない、寧ろ地味な人間だと思いますよ…。
そもそもそんなレイモンド様の婚約者候補になんて、恐れ多いと思っていましたし。
貴族の家に生まれたからには、政略結婚も仕方が無いって思っていましたけど、出来る事なら私は、自分の意志で、自分の能力を使って生きたいって思っているだけです。」
「でも貴族令嬢が、着飾る以外に、何が出来るの?」
何だ?!この人…何か見下されているような気がする…。
「着飾る以外にも出来る事はありますね。
少なくとも私は、自分で服やドレスは作れますし、料理もある程度は出来ます。
あ、私、庶民の生活の方が向いているのかもしれないですね?!」
心の中で、前世は庶民だしって呟いてみました。
「それで…ヒュー様は、何をお望みなのでしょう?」
何か一見、人当たりの良さそうなヒュー様でしたが、私と二人きり…と言っても近くに侍女はいるけど…になってから、どうもトゲを感じ、何か面倒くさくなってきてしまいました。
「…あのさ…レイモンドは君の事をもうすっかり諦めているけど、でも君のことを忘れたわけではないんだよ…。
ハッキリ言って見ていられないんだよね…。
レイモンドはあんなに落ち込んで日々を過ごしているのに、君はこちらの国で、殿下やアルフレッド殿にちやほやされて、何かイラっとするんだよね…。」

え!?私、何で良く知らない人に、こんなことを言われなくちゃいけないの?!
「…あの…レイモンドの事を心配するのは理解できます。
でもあなたは私の事を知っているわけではないですよね?
知っていただきたいとも思いませんけど、でもね、知りもしないで人を批判って、どうかと思いますよ。
正直言ってレイと再会出来たことについては感謝しておりますが、だからといってこんな失礼なお話にお付き合いする筋合いもありませんので、私はこれで失礼いたします。」

そう言って立ち上がり、そのまま邸の方へ戻りかけたが、皆が盛り上がっているところへ戻るのも嫌で、邸の玄関から中へは入らずに、反対側へ周って、邸の裏庭へ向かいました。
私の後を付いてきていた侍女には、玄関でそのまま邸へ戻ってもらいました。
少しだけ裏庭で一人にさせて欲しいとお願いし。

邸の裏の方へ行くと、ちょっとした林や、大きめの池があり、そちらにもベンチなどがあります。
そちらには犬もいて、夜になると、邸の周りに放たれますが、日中は裏庭のみに放たれております。
なので裏庭へ行く途中には、柵もあるのですが、柵を開けて私は入っていきました。
すると、私に懐いている大型犬のうちの一匹…シオンが走ってきました。
前世のシェパードに似た犬なのですが、とても賢くて、良く私と一緒に遊んでくれます。
私が落ち込んでいる時は、ベンチで足元に座り、ずっと寄り添ってくれます。
シオンに癒してもらおうと、ドレスが汚れるのも気にせずに、芝生の上に座って、シオンに抱きついていると、突然、シオンが反応しました。
レイモンドでした。
レイは私の隣に腰を下ろし、言いました。
「ヒューと何か話していると思って、見ていたら、リーナだけ立ち上がって邸の中へ戻るのかと思ったら、侍女だけ戻ってきたから、ヒューのところへ行くふりをして、こっちかなと思って来たんだ。」
レイもこの屋敷に滞在していたことがあるから、勝手知ったるですね…。
「ごめん…ヒューに何か言われた?」
「ううん…何でもない。」
「リーナは…私たちをあまり頼ってはくれないよね…。」
「…そうなのかな…。」
「うん…。いつも自分で何とかしようとするでしょ…。」
「でも結果、いつもレイやアルに助けられてばかりだったけどね…。」
「助けていた…うーん…ちょっと違うかな。
多分、アルもだけど、リーナに好きになって欲しかったんだよ。
リーナにこっちを見て欲しかったんだよ。
…アルの事は好き?」
「…元々はアルと私で、利害関係が一致して、婚約しようって言いだしていたんだよね…。
そこへレイが乱入して(笑)
私は幼かったし、アルの事もレイの事も、お兄さん的にしか見ていなかったかな…。
というよりも、愛とか恋とか全然!分からなかったかな。」
「今は?」
「難しいね…。アルの事は好きだけど、今でもお兄さん的な気持ちの方が強いかな。
まあアルも私の事は、それこそ弟くらいにしか思っていないと思うしね。
そういう意味では、レイの方が心に刺さったなぁ…。」
「最初はアルとの婚約が偽装だなんて思わなかったからね…そして気が付いた時には、すっかり君しか見えなくなってしまっていたし。」
「今は?私以外も見えるようになった?」
「…リーナは?私が他の女性と結婚して欲しい?」
「私は…どうであれ、レイに幸せになって欲しいし、笑っていて欲しい…。」
「…無理だよ…私の時は止まってしまったから。
それより私もリーナの笑顔が見たいんだけどな…。
君の笑顔が見られたら、私はそれで満足なんだけどな…」
寂しそうに微笑まれてしまいました。
「私は…レイの事、好きだけど…でも、どう好きなのか、分からない…。」
レイはいきなり芝生の上に横になった。
「ねえ…私はきっとこのまま、誰とも結婚しないから、最後にリーナとの思い出だけ欲しいな…。
それを胸に抱いて生きていくから…。
私にキスしてくれる?」
「え?!」
しおりを挟む
感想 69

あなたにおすすめの小説

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。

112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。  ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。  ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。 ※完結しました。ありがとうございました。

(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。 「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」 私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・ 異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。

強い祝福が原因だった

恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。 父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。 大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。 愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。 ※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。 ※なろうさんにも公開しています。

今更、いやですわ   【本編 完結しました】

朝山みどり
恋愛
執務室で凍え死んだわたしは、婚約解消された日に戻っていた。 悔しく惨めな記憶・・・二度目は利用されない。

婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた

ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。 マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。 義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。 二人の出会いが帝国の運命を変えていく。 ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。 2024/01/19 閑話リカルド少し加筆しました。

あの子を好きな旦那様

はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」  目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあります。

【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた

東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
 「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」  その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。    「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」  リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。  宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。  「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」  まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。  その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。  まただ……。  リシェンヌは絶望の中で思う。  彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。 ※全八話 一週間ほどで完結します。

処理中です...