68 / 72
第二章
再会 前編
しおりを挟む
リーナが住んでいるだろう街へ到着した。
会えるわけでは無いけど、それでも同じ空の下にどこかにリーナが居ると思うだけで、胸が苦しいけど、それでも嬉しくなった。
私はリーナの現状は知らない。
知ろうとしなかった。
もう会う事も無いし、だから知りたくなかった。
知りたいと思えば、アンドリューはリーナと手紙のやり取りをしているし、アルの親戚の家に養女に行ったので、アルに連絡を取れば分かる。
でも…過去にするには、知らないほうが良いと思った。
到着し、滞在先は従姉弟のイヴォンヌの結婚相手の家なので、先ずは皆に合わせて行動をとる事にした。
数日は体調を整えるべく邸内でゆっくりし、到着した日から数えて5日目にささやかな夜会を開くとの事で、私も参加しなければいけない。
しかし適当に過ごしたら、こっそり部屋へ戻って良いと伯父がいうので、そうさせてもらうつもりだった。
イヴォンヌの結婚相手の家の関係者が殆どだと聞いていた。
始まって暫くは、そこを離れるわけにはいかないが、知っている人が居るわけでも無いし、新たな交流を求めるわけでもないので、会場の一番奥の、両家の親族が集まる場に、私も留まっていた。
するとこの国の第三王子がイヴォンヌの相手の友人だとかで、半ばお忍びでやってきたとの事だった。
まあ私には関係ないし、挨拶を交わすことも無いので、そこで他の従兄弟たちの会話に耳を傾けていた。
するとたまたまこちらを注視していたイヴォンヌが呼ばれ、振り返ろうと動いて出来た、ホンの隙間から見えた人物に、私の頭は真っ白になった。
周りの音も何も聞こえなくなり、彼女しか見えなかった。
彼女も私を見つめていた。
しかし次の瞬間、彼女が倒れると思った私は、無我夢中で彼女を抱き留めようと走り込んでいた。
私が彼女の下に滑り込み、彼女の身体が床に打ち付けられるのは回避できた。
私は彼女の身体を抱きしめられた喜びよりも、真っ白な顔に瞼を閉じたままの彼女が心配で、慌てて抱きしめたまま立ち上がり、伯父に相談した上でこの夜会の親族控室へ運んだ。
長椅子に彼女を寝かせるも、彼女は瞼を開く様子は無く、そっと彼女の名前を呼び掛けた。
「リーナ…リーナ…目を開けて?」
しかし彼女が瞼を開く様子は無く。
外が少し騒がしくなってきたと思ったら、この家の使用人が、この国の王子殿下と、リーナの両親を案内してきた。
両親と聞いて、あの身勝手な伯爵夫妻かと思ったら、別人だった。
アルの親戚の家へ養女に入ると聞いていたが…この二人がリーナの養父母なのか?
王子殿下が何故ここにきている?
そんな事を考えていると、伯父が最初に王子殿下やリーナの養父母に挨拶をし、そして私を呼び、紹介した。
王子殿下は、リーナの夜会のパートナーだった…。
リーナは、すっかり遠いところの人になったのだなと痛感した。
彼女はなかなか目を覚まさず、今夜はこのままイヴォンヌの結婚相手の邸に養母と一緒に泊まる事になった。
私たちは再び会場へ戻る事になり、部屋を出ようとしたところ、王子殿下に呼び止められた。
先ほど、リーナの養父母に紹介された際に、私がリーナと知り合いであることは説明されたが、それが良くないのだろうか?
王族のパートナーに他に親しい男がいるのは、外聞が悪い?
悪いかもしれない…。
もう一度、リーナと話がしたかったけど…叶わないだろうな…。
先に親族だけが会場へ戻り、私はしばらくそこへ留まる事になった。
「君はリーナとどのような関係なのかな?」
「…幼なじみのようなものです…元婚約者候補の一人でした。」
「それ以上に親しかったようにも見えるが?」
「二人でではありませんが、もう一人の婚約者候補の幼なじみと三人で良く一緒に過ごしておりましたから…。」
「もしかして君は、スチュアート家の?」
「…そうですが今回のイヴォンヌ嬢やこちらに来ている親戚とは、遠縁です。
私はたまたま留学していたので、同行させていただけたに過ぎません。」
スチュアート家の存在によって、従姉弟の結婚にケチが付いてはいけないと思い、我が家は親戚と言っても遠縁であることを申し上げ、暗につながりの強い家同士ではないとお伝えした。
しかし殿下の興味はそんな話では無かったようだ。
「それで?今回はその幼なじみ同士、旧友を温めるのかな?」
「…いえ…私はあくまでも親戚の婚礼のために参りましたので…。」
「そう…。しかし君のもう一人の幼なじみも今はまだこの国に居るのでは無かったかな?
留学期間を終えて、もうすぐ帰国するとも聞いているが。
今日は来ていないようだけど…彼には会いに行くのかな?」
正直言って少しイライラした。
この王子殿下に、私たち三人の事は、関係ないのではないだろうか。
何故こんなあれこれ聞かれなくてはならないのだろう。
それでも相手が王族である以上は、イライラを顔に出さないようにしなくてはならないし、質問にも答えなくてはならないのだが。
それにしても…そうか…アルは今はまだこの国に居るのか。
そしてもうすぐ帰国という事は、私が帰国する前後にアルも帰ってくるという事か。
そう遠くない未来で、またアルと会える日が来ると良いな…。
この時はただ漠然と、そんな事を考えていた。
アルに意識を向けないと、私の意識は他へ行ってしまいそうだったので…。
会えるわけでは無いけど、それでも同じ空の下にどこかにリーナが居ると思うだけで、胸が苦しいけど、それでも嬉しくなった。
私はリーナの現状は知らない。
知ろうとしなかった。
もう会う事も無いし、だから知りたくなかった。
知りたいと思えば、アンドリューはリーナと手紙のやり取りをしているし、アルの親戚の家に養女に行ったので、アルに連絡を取れば分かる。
でも…過去にするには、知らないほうが良いと思った。
到着し、滞在先は従姉弟のイヴォンヌの結婚相手の家なので、先ずは皆に合わせて行動をとる事にした。
数日は体調を整えるべく邸内でゆっくりし、到着した日から数えて5日目にささやかな夜会を開くとの事で、私も参加しなければいけない。
しかし適当に過ごしたら、こっそり部屋へ戻って良いと伯父がいうので、そうさせてもらうつもりだった。
イヴォンヌの結婚相手の家の関係者が殆どだと聞いていた。
始まって暫くは、そこを離れるわけにはいかないが、知っている人が居るわけでも無いし、新たな交流を求めるわけでもないので、会場の一番奥の、両家の親族が集まる場に、私も留まっていた。
するとこの国の第三王子がイヴォンヌの相手の友人だとかで、半ばお忍びでやってきたとの事だった。
まあ私には関係ないし、挨拶を交わすことも無いので、そこで他の従兄弟たちの会話に耳を傾けていた。
するとたまたまこちらを注視していたイヴォンヌが呼ばれ、振り返ろうと動いて出来た、ホンの隙間から見えた人物に、私の頭は真っ白になった。
周りの音も何も聞こえなくなり、彼女しか見えなかった。
彼女も私を見つめていた。
しかし次の瞬間、彼女が倒れると思った私は、無我夢中で彼女を抱き留めようと走り込んでいた。
私が彼女の下に滑り込み、彼女の身体が床に打ち付けられるのは回避できた。
私は彼女の身体を抱きしめられた喜びよりも、真っ白な顔に瞼を閉じたままの彼女が心配で、慌てて抱きしめたまま立ち上がり、伯父に相談した上でこの夜会の親族控室へ運んだ。
長椅子に彼女を寝かせるも、彼女は瞼を開く様子は無く、そっと彼女の名前を呼び掛けた。
「リーナ…リーナ…目を開けて?」
しかし彼女が瞼を開く様子は無く。
外が少し騒がしくなってきたと思ったら、この家の使用人が、この国の王子殿下と、リーナの両親を案内してきた。
両親と聞いて、あの身勝手な伯爵夫妻かと思ったら、別人だった。
アルの親戚の家へ養女に入ると聞いていたが…この二人がリーナの養父母なのか?
王子殿下が何故ここにきている?
そんな事を考えていると、伯父が最初に王子殿下やリーナの養父母に挨拶をし、そして私を呼び、紹介した。
王子殿下は、リーナの夜会のパートナーだった…。
リーナは、すっかり遠いところの人になったのだなと痛感した。
彼女はなかなか目を覚まさず、今夜はこのままイヴォンヌの結婚相手の邸に養母と一緒に泊まる事になった。
私たちは再び会場へ戻る事になり、部屋を出ようとしたところ、王子殿下に呼び止められた。
先ほど、リーナの養父母に紹介された際に、私がリーナと知り合いであることは説明されたが、それが良くないのだろうか?
王族のパートナーに他に親しい男がいるのは、外聞が悪い?
悪いかもしれない…。
もう一度、リーナと話がしたかったけど…叶わないだろうな…。
先に親族だけが会場へ戻り、私はしばらくそこへ留まる事になった。
「君はリーナとどのような関係なのかな?」
「…幼なじみのようなものです…元婚約者候補の一人でした。」
「それ以上に親しかったようにも見えるが?」
「二人でではありませんが、もう一人の婚約者候補の幼なじみと三人で良く一緒に過ごしておりましたから…。」
「もしかして君は、スチュアート家の?」
「…そうですが今回のイヴォンヌ嬢やこちらに来ている親戚とは、遠縁です。
私はたまたま留学していたので、同行させていただけたに過ぎません。」
スチュアート家の存在によって、従姉弟の結婚にケチが付いてはいけないと思い、我が家は親戚と言っても遠縁であることを申し上げ、暗につながりの強い家同士ではないとお伝えした。
しかし殿下の興味はそんな話では無かったようだ。
「それで?今回はその幼なじみ同士、旧友を温めるのかな?」
「…いえ…私はあくまでも親戚の婚礼のために参りましたので…。」
「そう…。しかし君のもう一人の幼なじみも今はまだこの国に居るのでは無かったかな?
留学期間を終えて、もうすぐ帰国するとも聞いているが。
今日は来ていないようだけど…彼には会いに行くのかな?」
正直言って少しイライラした。
この王子殿下に、私たち三人の事は、関係ないのではないだろうか。
何故こんなあれこれ聞かれなくてはならないのだろう。
それでも相手が王族である以上は、イライラを顔に出さないようにしなくてはならないし、質問にも答えなくてはならないのだが。
それにしても…そうか…アルは今はまだこの国に居るのか。
そしてもうすぐ帰国という事は、私が帰国する前後にアルも帰ってくるという事か。
そう遠くない未来で、またアルと会える日が来ると良いな…。
この時はただ漠然と、そんな事を考えていた。
アルに意識を向けないと、私の意識は他へ行ってしまいそうだったので…。
461
お気に入りに追加
2,249
あなたにおすすめの小説
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
強い祝福が原因だった
棗
恋愛
大魔法使いと呼ばれる父と前公爵夫人である母の不貞により生まれた令嬢エイレーネー。
父を憎む義父や義父に同調する使用人達から冷遇されながらも、エイレーネーにしか姿が見えないうさぎのイヴのお陰で孤独にはならずに済んでいた。
大魔法使いを王国に留めておきたい王家の思惑により、王弟を父に持つソレイユ公爵家の公子ラウルと婚約関係にある。しかし、彼が愛情に満ち、優しく笑い合うのは義父の娘ガブリエルで。
愛される未来がないのなら、全てを捨てて実父の許へ行くと決意した。
※「殿下が好きなのは私だった」と同じ世界観となりますが此方の話を読まなくても大丈夫です。
※なろうさんにも公開しています。
【完】夫に売られて、売られた先の旦那様に溺愛されています。
112
恋愛
夫に売られた。他所に女を作り、売人から受け取った銀貨の入った小袋を懐に入れて、出ていった。呆気ない別れだった。
ローズ・クローは、元々公爵令嬢だった。夫、だった人物は男爵の三男。到底釣合うはずがなく、手に手を取って家を出た。いわゆる駆け落ち婚だった。
ローズは夫を信じ切っていた。金が尽き、宝石を差し出しても、夫は自分を愛していると信じて疑わなかった。
※完結しました。ありがとうございました。
【完結】何でも奪っていく妹が、どこまで奪っていくのか実験してみた
東堂大稀(旧:To-do)
恋愛
「リシェンヌとの婚約は破棄だ!」
その言葉が響いた瞬間、公爵令嬢リシェンヌと第三王子ヴィクトルとの十年続いた婚約が終わりを告げた。
「新たな婚約者は貴様の妹のロレッタだ!良いな!」
リシェンヌがめまいを覚える中、第三王子はさらに宣言する。
宣言する彼の横には、リシェンヌの二歳下の妹であるロレッタの嬉しそうな姿があった。
「お姉さま。私、ヴィクトル様のことが好きになってしまったの。ごめんなさいね」
まったく悪びれもしないロレッタの声がリシェンヌには呪いのように聞こえた。実の姉の婚約者を奪ったにもかかわらず、歪んだ喜びの表情を隠そうとしない。
その醜い笑みを、リシェンヌは呆然と見つめていた。
まただ……。
リシェンヌは絶望の中で思う。
彼女は妹が生まれた瞬間から、妹に奪われ続けてきたのだった……。
※全八話 一週間ほどで完結します。
あの子を好きな旦那様
はるきりょう
恋愛
「クレアが好きなんだ」
目の前の男がそう言うのをただ、黙って聞いていた。目の奥に、熱い何かがあるようで、真剣な想いであることはすぐにわかった。きっと、嬉しかったはずだ。その名前が、自分の名前だったら。そう思いながらローラ・グレイは小さく頷く。
※小説家になろうサイト様に掲載してあります。
婚約者に裏切られた女騎士は皇帝の側妃になれと命じられた
ミカン♬
恋愛
小国クライン国に帝国から<妖精姫>と名高いマリエッタ王女を側妃として差し出すよう命令が来た。
マリエッタ王女の侍女兼護衛のミーティアは嘆く王女の監視を命ぜられるが、ある日王女は失踪してしまった。
義兄と婚約者に裏切られたと知ったミーティアに「マリエッタとして帝国に嫁ぐように」と国王に命じられた。母を人質にされて仕方なく受け入れたミーティアを帝国のベルクール第二皇子が迎えに来た。
二人の出会いが帝国の運命を変えていく。
ふわっとした世界観です。サクッと終わります。他サイトにも投稿。完結後にリカルドとベルクールの閑話を入れました、宜しくお願いします。
2024/01/19
閑話リカルド少し加筆しました。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる