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第二章
幻影を追いかけて
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母の母国である隣国へ留学し、気が付けば3年の月日が過ぎていた。
その間、私は、何も考えず、唯々知識を得る事、勉強にばかり没頭した。
醜聞にまみれてしまったスチュアート家を、何とか次の代に繋げるには、社交ではダメだろう。
領地は農作物が良く育つ、肥沃な土地ではあるが、何かあったら他にこれといった収入源にも乏しい。
幸い、今までに大きな災害に遭ったことは無いが、この先も永遠にとは限らない。
農業を更に発展させるか、若しくは他にも何か産業を発展させるか…。
経済的に豊かな領地になれば、次の世代には白い目で見られる事も無くなるだろうから。
いずれにしても、とにかく知識が欲しい。
それに勉強に没頭している間は、何も考えずに済むから。
母の母国では、交友関係にも恵まれたと言っても良いと思う。
私は積極的に交友関係を広げようとはしなかったのだが、祖父母や母の兄弟、それに私の従兄弟にあたる者たちが、何かと私を連れ出そうとしてくれた。
と言っても私は、彼らに対して全く協力的ではなく、出来る限り、社交とは距離を取ろうとばかりしたのだが。
この国へも、我が家の醜聞は届いていたものの、我が国の社交界ほどには厳しい目は向けられなかった。
というよりも、寧ろ同情的な目の方が多かったように思う。
妹の起こした騒動により、犠牲になった兄弟という目で見られた。
ただ、面倒に思ったのは、母の実家も高位貴族であり、私の実家もそれでも侯爵家であることから、醜聞のある侯爵家だったら、チャンスかもしれないと、母の母国の子爵家やあまり裕福ではない伯爵家などから、やたらと接触を図られた。
母の実家が守ってくれたが、それでも学校等で良く声を掛けられ、正直言って煩わしかった。
しかしそれも終わり…私は、母の母国の学校の最終学年を終え、帰国する予定だ。
成績優秀なものは、そのまま王宮勤めになったり、研究施設へ入ったりするのだが、留学生の私は、王宮勤めは有り得ないし、そもそもそのつもりもない。
それに3年間、醜聞から守ってくれた家族のためにも、私は帰国し、今度は弟が自由になる番である。
帰国予定が一ヶ月後に迫ったある日、伯父に呼ばれた。
伯父が会議に使っている部屋へ行くと、祖父母と伯父夫妻、他にも他の叔父たちや、従兄弟たちの数人が集まっていた。
この度、従姉妹の一人が、外国へ輿入れする事が決まったらしい。
相手は遠く離れた国の公爵家だとかで、その国へ向かうのに、私の母国を通過するらしい。
そこで、折角だから、スチュアート家へも立寄りたいという意向で、私にも同行して欲しいとの事だった。
祖父母は長旅には耐えられないため、それでも生きているうちに会えるのはこれが最後かもということで、私の母国までは同行し、私の実家へ滞在し、そこで伯父たちが戻ってくるのを待ち、また帰国するつもりとか。
行先は更にその先の国で…リーナが養女に行った国だった。
伯父たちは、従姉妹とその兄、伯父夫妻、他の家の従兄弟数名、そしてスチュアート家から父の代理として私に同行して欲しいとの事だった。
そんな醜聞に塗れた我が家から、行ってしまって良いものかと尋ねたが、父だと多少の問題があるかもしれないが、私と弟には、悪評は無いから大丈夫と言われ、同行する事になった。
リーナが養女になるためにこの国へ来た時に、アルも一緒にこの国へ留学したが、今でも居るのだろうか…。
リーナはどうしているのだろうかと思うも、でもきっと、会うことは無いだろうなと思った。
それでもリーナが今でも暮らしているかもしれない街を、見てみたいという欲求にかられた。
その場へ行けば、リーナの幻影が見えるかもしれない。
僅かでも彼女の影でも見られたら…。
そんな事を考えている私は、つくづく女々しい男だなと思う。
あれから3年が経って、私ももうすぐ19歳だ。
彼女は出会ったときは10歳だったが、その後誕生日を迎えて11歳、3年が経ったから今は14歳。
社交界デビューが近いだろうな。
アルとの婚約話も白紙に返ったと聞いているが、他家の養女になって、もう婚約者でも出来ただろうか。
子どもだった彼女が、社交デビュー目前の少女になった姿を見たいと思う反面、隣に婚約者でも立っていたら、耐えられないとも思う。
まあでも本当に、会うことは無いだろうな…。
期待しないように、期待しないようにと自分に言い聞かせながら、帰国とその先の旅の準備を進めた。
本当に会う事は無いと思っていた…この時は。
その間、私は、何も考えず、唯々知識を得る事、勉強にばかり没頭した。
醜聞にまみれてしまったスチュアート家を、何とか次の代に繋げるには、社交ではダメだろう。
領地は農作物が良く育つ、肥沃な土地ではあるが、何かあったら他にこれといった収入源にも乏しい。
幸い、今までに大きな災害に遭ったことは無いが、この先も永遠にとは限らない。
農業を更に発展させるか、若しくは他にも何か産業を発展させるか…。
経済的に豊かな領地になれば、次の世代には白い目で見られる事も無くなるだろうから。
いずれにしても、とにかく知識が欲しい。
それに勉強に没頭している間は、何も考えずに済むから。
母の母国では、交友関係にも恵まれたと言っても良いと思う。
私は積極的に交友関係を広げようとはしなかったのだが、祖父母や母の兄弟、それに私の従兄弟にあたる者たちが、何かと私を連れ出そうとしてくれた。
と言っても私は、彼らに対して全く協力的ではなく、出来る限り、社交とは距離を取ろうとばかりしたのだが。
この国へも、我が家の醜聞は届いていたものの、我が国の社交界ほどには厳しい目は向けられなかった。
というよりも、寧ろ同情的な目の方が多かったように思う。
妹の起こした騒動により、犠牲になった兄弟という目で見られた。
ただ、面倒に思ったのは、母の実家も高位貴族であり、私の実家もそれでも侯爵家であることから、醜聞のある侯爵家だったら、チャンスかもしれないと、母の母国の子爵家やあまり裕福ではない伯爵家などから、やたらと接触を図られた。
母の実家が守ってくれたが、それでも学校等で良く声を掛けられ、正直言って煩わしかった。
しかしそれも終わり…私は、母の母国の学校の最終学年を終え、帰国する予定だ。
成績優秀なものは、そのまま王宮勤めになったり、研究施設へ入ったりするのだが、留学生の私は、王宮勤めは有り得ないし、そもそもそのつもりもない。
それに3年間、醜聞から守ってくれた家族のためにも、私は帰国し、今度は弟が自由になる番である。
帰国予定が一ヶ月後に迫ったある日、伯父に呼ばれた。
伯父が会議に使っている部屋へ行くと、祖父母と伯父夫妻、他にも他の叔父たちや、従兄弟たちの数人が集まっていた。
この度、従姉妹の一人が、外国へ輿入れする事が決まったらしい。
相手は遠く離れた国の公爵家だとかで、その国へ向かうのに、私の母国を通過するらしい。
そこで、折角だから、スチュアート家へも立寄りたいという意向で、私にも同行して欲しいとの事だった。
祖父母は長旅には耐えられないため、それでも生きているうちに会えるのはこれが最後かもということで、私の母国までは同行し、私の実家へ滞在し、そこで伯父たちが戻ってくるのを待ち、また帰国するつもりとか。
行先は更にその先の国で…リーナが養女に行った国だった。
伯父たちは、従姉妹とその兄、伯父夫妻、他の家の従兄弟数名、そしてスチュアート家から父の代理として私に同行して欲しいとの事だった。
そんな醜聞に塗れた我が家から、行ってしまって良いものかと尋ねたが、父だと多少の問題があるかもしれないが、私と弟には、悪評は無いから大丈夫と言われ、同行する事になった。
リーナが養女になるためにこの国へ来た時に、アルも一緒にこの国へ留学したが、今でも居るのだろうか…。
リーナはどうしているのだろうかと思うも、でもきっと、会うことは無いだろうなと思った。
それでもリーナが今でも暮らしているかもしれない街を、見てみたいという欲求にかられた。
その場へ行けば、リーナの幻影が見えるかもしれない。
僅かでも彼女の影でも見られたら…。
そんな事を考えている私は、つくづく女々しい男だなと思う。
あれから3年が経って、私ももうすぐ19歳だ。
彼女は出会ったときは10歳だったが、その後誕生日を迎えて11歳、3年が経ったから今は14歳。
社交界デビューが近いだろうな。
アルとの婚約話も白紙に返ったと聞いているが、他家の養女になって、もう婚約者でも出来ただろうか。
子どもだった彼女が、社交デビュー目前の少女になった姿を見たいと思う反面、隣に婚約者でも立っていたら、耐えられないとも思う。
まあでも本当に、会うことは無いだろうな…。
期待しないように、期待しないようにと自分に言い聞かせながら、帰国とその先の旅の準備を進めた。
本当に会う事は無いと思っていた…この時は。
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