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出発
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あれからレイは、少しずつ元気になっていきました。
と言っても、食事は通常の食事がとれるようになったものの、食欲旺盛とは全く言えず。
そして会話も少ない。
話しかければ返事は返ってくるが、どこか虚ろ…。
そんな中、アルと私が受験のために、隣国へ向かう日が近付いてきました。
一週間を切ったその日、私はレイを散歩に誘いましたん。
「レイ!今日はお天気も良いし、庭を散歩して、庭でお茶にしない?」
「…リーナがそうしたいなら良いよ…。」
相変わらずどこか虚ろな瞳でレイは言った。
「アンドリュー様!お茶の支度をお願いできますか?それでアンドリュー様もお茶は一緒に如何ですか?」
レイと同じ部屋に滞在しているアンドリュー様にも声を掛けた。
庭を散歩し、歩いていても、レイの表情は虚ろで、どうしたらよいものか悩みました。
悩んでも答えは出ないし、そろそろ受験に頭を切り替えたいし…。
「ねぇ…レイは今後、どうしたいと思っている?」
取り敢えず聞いてみた…見ている限りでは、色々投げやりというか、どうでも良いって思っていそうというか、無気力状態に見えるのですが。
それでもこうしなくちゃいけないとか、こうすべきとか、そんなのを無視してレイがどうしたいのかを聞いてみたかったのです。
多分、レイのやりたいことと、やるべきこと、若しくは出来る事が、違うのだろうなと思うので。
そこを良くも悪くも何とかしないとって思うので。
「…逃げたい…。何かもう色々疲れてしまって…。」
「…そうだよねぇ…この状況から離れたいよね…。うぅぅぅ…どうしたら良いのかな…。」
前の世界だったらね…友達とパーッとカラオケにとか、遊園地の類へとか、騒いで発散とか出来たのですけどね。
「どこか…気分転換にどこかへ行ってみるのはどう?」
「どこか…でも何もする気力が湧かないんだよね…。」
寂しそうな笑顔で言われました。
結局、どうして良いかも全く考えつかず…。
その夜、受験のために隣国へ行くための打ち合わせで、マスターソン公爵と、アルがやってきました。
流石にレイも、公爵にお世話になっている自覚があるようで、暗い目をしながらも、一生懸命笑顔を作り、夕食は皆と一緒に取りました。
食事の後、居間で全員でコーヒーを頂きながら、受験の時の相談になりました。
「では私とアンドリューは下がらせていただきますね。」
そういうレイを、公爵様は引き止めました。
「いや、君たちにも話があるから、残ってくれないか?」
いよいよレイたちは侯爵家へ帰るのかな…と思いました。
何も出来なかったなと…。
「4日後の朝にはアルフレッドとマリーナ嬢には馬車で隣国へ出発してもらう。
現地に到着後、翌日1日で体調を整えて、更にその翌日に受験だ。
今回、滞在先は、私の妹であり、アルフレッドの叔母が嫁いでいるドナテッロ公爵家となる。
受験日も、ドナテッロ家の誰かが付き添ってくれることになっているから。」
「了解いたしました。父上。」
アルは大きく頷き、私も目を合わせた上で、頭を下げました。
「そしてレイモンド殿とアンドリュー殿だが…。」
「妹があれだけご迷惑をお掛けしたにも関わらず、今回まで滞在をさせていただきまして、本当にありがとうございました。
この御恩はいずれお返しできたらと思います。」
レイが公爵様に深く頭を下げ、隣にいたアンドリュー様もそれに倣って頭を下げました。
「そうだね…レイモンド殿にはいずれ、何らかがあると期待しているよ。
というわけで、4日後の朝、君たち二人もアルフレッドとマリーナ嬢とともに、隣国へ行ってもらうから。」
公爵様が、満面の笑みで告げました。
私たちは4人とも、意味が分からずに無言になりました。
「と言ってもアンドリュー殿はレイモンド殿の従者みたいなものだね。
レイモンド殿は、流石に今回、アルフレッドやマリーナ嬢とともに、隣国の学校を受験とはいかないが、折角なので、二人について行って、色々見てくるというのはどうかな?
二人が受験する学校を見に行くのも良いし、隣国の街でも何でも、興味がわくかもしれないものを、見て回っては?
受験が終わった後も、アルフレッドとマリーナ嬢も、数日は滞在するから、受験の後は4人で見聞を広めてこれば良いだろう。
その後で4人一緒に帰ってこれば良い。」
「それは…父上は存じているのでしょうか?」
アンドリューが恐る恐る尋ねました。
「君については、レイモンド殿一人で行かせるのは不安だからと、アルフレッドやマリーナ嬢の不在時に、一緒に居られるようにという事になったのだが、レイモンド殿については、スチュアート侯爵も心配しておられて、相談されたのだよ。
隣国へ行く書類等は、君の父上が全て用意しているはずだから、明日、君たちは二人、一旦、家へ帰って、荷造りをしてくると良い。」
レイの顔と、アンドリュー様の顔が、見る見るうちに明るくなっていきました。
「まあこんな急では、流石に受験は、出来ないが、それでも色々な場を見てくることは出来るだろう。
そしてゆっくりこの先の事を考えれば良いさ…。」
公爵様は、手続き等の関係もあり、レイとアンドリュー様に伝えるのが、こんなギリギリになったと詫びました。
レイとアンドリュー様は、こんな機会が頂けただけ有難いと喜んでおりました。
その笑顔を見て公爵様は、ニヤリと笑って言いました。
「この貸しは高くつくよ?」
冗談めかしておっしゃったのに対し、レイは本当に心からの笑顔で答えました。
「このご恩は決して忘れませんし、必ず返します!」
勿論、これでレイの問題が解決したわけではありません。
それでもこれが立ち直る切っ掛けになればと、その場にいる誰もが思っていたと思います。
そしていよいよ隣国へ出発する日になりました。
隣国、アルバ皇国へは、馬車で国境まで丸一日、国境を越えてから皇都まで半日かかります。
なので私たちは、早朝まだ薄暗いうちに出て、夕方には国境を越え、完全に日が暮れる前に、アルバ側の国境の街へ到着するように予定しました。
馬車2台に、護衛の騎士が馬で4人付きました。うち一人は侍女兼護衛の女騎士マーサ。
それに馬車の御者を4名の12名…貴族としては、少ない人数での旅行でした。
お天気に恵まれ、順調に皇都の国境の街へ到着しました。
宿屋は手配済で、それほど大きくない宿屋のワンフロア貸し切りのはずでした。
が!ここでトラブルが。
私たちが宿屋の受け付けへ行くと、目の前に何事か宿屋の主人に食って掛かっている青年が。
「私たちはちゃんと一人部屋を二つ、予約してあったはずなのに、何で無いんだ!」
「お客さん、他の宿屋と間違えておりませんかね?そんな予約は入っていないのですが…。」
「そんなはずは無い!ではせめて一部屋だけでもなんとかならないか!」
「申し訳ないのですが、今夜は満室なんですよね…。」
「カーライル…仕方がない…他の宿屋をあたってみて、ダメなら今夜は野宿でも…。」
青年は従者のようで、後ろに控えていた少年が、疲れた顔で、青年を止めました。
野宿はねぇ…。
ちょっと見るに見かねてしまいました…。
「リーナ…何を考えている?」
アルが見透かしたように聞いてきました。
「一部屋くらいなら、私たちが予約している中で、何とかならないかなと思って…。」
「はぁ…君は本当にお人よしだよね…どうせ止めても聞かないんだろ?」
「…ごめんなさい…。」
「話に割り込んで済まないが…主人、私たちはワンフロア貸し切りにしているはずなのだが、ワンフロアにはどういった部屋割りで何部屋あるのかな?」
アルが聞いてくれました。
私たちが借りているフロアには8部屋、そのうちの4部屋は豪華ではないが、少し富裕層向けの少し広い部屋で、残りの4部屋は平民向けのまあ普通にベッドとサイドテーブル程度の部屋だとか。
「だったらマーサが嫌でなければ、私はマーサの部屋に泊めて頂いて、私の部屋をそちらのお二人にお譲りしては如何でしょう?」
「いやいや!何言ってんのリーナ!だったら俺の部屋を譲って、俺が護衛たちと一緒に部屋に寝るよ!」
アルが言い出しましたが、でも護衛の騎士さんたちは男性3人、アルが入ったら4人でむさ苦しいじゃない。
それなら私がマーサと一緒の部屋の方が、女二人の方が、はるかに健全だわ。
と話していると、先の青年が聞いてきました。
「あの…あなたたちの話を聞くに、私どもに部屋を一つ、融通してくれるという事でしょうか?」
「そのつもりです…。今。部屋割りを考えているので、少しだけお待ちくださいね!」
「あの!譲っていただけるのであれば、私たちは従者用の部屋で構わないのですが…。」
「…でも失礼ですが、そちら様は恐らく、どこかの国のそれなりの家の方とお見受けいたしました。
そんな方を従者用の部屋にというわけにはいかないですよね?」
結局、あれこれ揉めたものの、私がマーサとともに、マーサに割り振られていた部屋に泊まる事になりました。
「どうせ一晩だけのことですし、それに同じ部屋の方が、マーサも護衛がやりやすいですよね?
それにね、旅は道連れ世は情けって言うじゃないですか?」
「え?リーナ、それ、どこの言葉???」
「あ、ごめん、忘れて…。まあ先ずは無事に入国出来て良かったね!」
と言っても、食事は通常の食事がとれるようになったものの、食欲旺盛とは全く言えず。
そして会話も少ない。
話しかければ返事は返ってくるが、どこか虚ろ…。
そんな中、アルと私が受験のために、隣国へ向かう日が近付いてきました。
一週間を切ったその日、私はレイを散歩に誘いましたん。
「レイ!今日はお天気も良いし、庭を散歩して、庭でお茶にしない?」
「…リーナがそうしたいなら良いよ…。」
相変わらずどこか虚ろな瞳でレイは言った。
「アンドリュー様!お茶の支度をお願いできますか?それでアンドリュー様もお茶は一緒に如何ですか?」
レイと同じ部屋に滞在しているアンドリュー様にも声を掛けた。
庭を散歩し、歩いていても、レイの表情は虚ろで、どうしたらよいものか悩みました。
悩んでも答えは出ないし、そろそろ受験に頭を切り替えたいし…。
「ねぇ…レイは今後、どうしたいと思っている?」
取り敢えず聞いてみた…見ている限りでは、色々投げやりというか、どうでも良いって思っていそうというか、無気力状態に見えるのですが。
それでもこうしなくちゃいけないとか、こうすべきとか、そんなのを無視してレイがどうしたいのかを聞いてみたかったのです。
多分、レイのやりたいことと、やるべきこと、若しくは出来る事が、違うのだろうなと思うので。
そこを良くも悪くも何とかしないとって思うので。
「…逃げたい…。何かもう色々疲れてしまって…。」
「…そうだよねぇ…この状況から離れたいよね…。うぅぅぅ…どうしたら良いのかな…。」
前の世界だったらね…友達とパーッとカラオケにとか、遊園地の類へとか、騒いで発散とか出来たのですけどね。
「どこか…気分転換にどこかへ行ってみるのはどう?」
「どこか…でも何もする気力が湧かないんだよね…。」
寂しそうな笑顔で言われました。
結局、どうして良いかも全く考えつかず…。
その夜、受験のために隣国へ行くための打ち合わせで、マスターソン公爵と、アルがやってきました。
流石にレイも、公爵にお世話になっている自覚があるようで、暗い目をしながらも、一生懸命笑顔を作り、夕食は皆と一緒に取りました。
食事の後、居間で全員でコーヒーを頂きながら、受験の時の相談になりました。
「では私とアンドリューは下がらせていただきますね。」
そういうレイを、公爵様は引き止めました。
「いや、君たちにも話があるから、残ってくれないか?」
いよいよレイたちは侯爵家へ帰るのかな…と思いました。
何も出来なかったなと…。
「4日後の朝にはアルフレッドとマリーナ嬢には馬車で隣国へ出発してもらう。
現地に到着後、翌日1日で体調を整えて、更にその翌日に受験だ。
今回、滞在先は、私の妹であり、アルフレッドの叔母が嫁いでいるドナテッロ公爵家となる。
受験日も、ドナテッロ家の誰かが付き添ってくれることになっているから。」
「了解いたしました。父上。」
アルは大きく頷き、私も目を合わせた上で、頭を下げました。
「そしてレイモンド殿とアンドリュー殿だが…。」
「妹があれだけご迷惑をお掛けしたにも関わらず、今回まで滞在をさせていただきまして、本当にありがとうございました。
この御恩はいずれお返しできたらと思います。」
レイが公爵様に深く頭を下げ、隣にいたアンドリュー様もそれに倣って頭を下げました。
「そうだね…レイモンド殿にはいずれ、何らかがあると期待しているよ。
というわけで、4日後の朝、君たち二人もアルフレッドとマリーナ嬢とともに、隣国へ行ってもらうから。」
公爵様が、満面の笑みで告げました。
私たちは4人とも、意味が分からずに無言になりました。
「と言ってもアンドリュー殿はレイモンド殿の従者みたいなものだね。
レイモンド殿は、流石に今回、アルフレッドやマリーナ嬢とともに、隣国の学校を受験とはいかないが、折角なので、二人について行って、色々見てくるというのはどうかな?
二人が受験する学校を見に行くのも良いし、隣国の街でも何でも、興味がわくかもしれないものを、見て回っては?
受験が終わった後も、アルフレッドとマリーナ嬢も、数日は滞在するから、受験の後は4人で見聞を広めてこれば良いだろう。
その後で4人一緒に帰ってこれば良い。」
「それは…父上は存じているのでしょうか?」
アンドリューが恐る恐る尋ねました。
「君については、レイモンド殿一人で行かせるのは不安だからと、アルフレッドやマリーナ嬢の不在時に、一緒に居られるようにという事になったのだが、レイモンド殿については、スチュアート侯爵も心配しておられて、相談されたのだよ。
隣国へ行く書類等は、君の父上が全て用意しているはずだから、明日、君たちは二人、一旦、家へ帰って、荷造りをしてくると良い。」
レイの顔と、アンドリュー様の顔が、見る見るうちに明るくなっていきました。
「まあこんな急では、流石に受験は、出来ないが、それでも色々な場を見てくることは出来るだろう。
そしてゆっくりこの先の事を考えれば良いさ…。」
公爵様は、手続き等の関係もあり、レイとアンドリュー様に伝えるのが、こんなギリギリになったと詫びました。
レイとアンドリュー様は、こんな機会が頂けただけ有難いと喜んでおりました。
その笑顔を見て公爵様は、ニヤリと笑って言いました。
「この貸しは高くつくよ?」
冗談めかしておっしゃったのに対し、レイは本当に心からの笑顔で答えました。
「このご恩は決して忘れませんし、必ず返します!」
勿論、これでレイの問題が解決したわけではありません。
それでもこれが立ち直る切っ掛けになればと、その場にいる誰もが思っていたと思います。
そしていよいよ隣国へ出発する日になりました。
隣国、アルバ皇国へは、馬車で国境まで丸一日、国境を越えてから皇都まで半日かかります。
なので私たちは、早朝まだ薄暗いうちに出て、夕方には国境を越え、完全に日が暮れる前に、アルバ側の国境の街へ到着するように予定しました。
馬車2台に、護衛の騎士が馬で4人付きました。うち一人は侍女兼護衛の女騎士マーサ。
それに馬車の御者を4名の12名…貴族としては、少ない人数での旅行でした。
お天気に恵まれ、順調に皇都の国境の街へ到着しました。
宿屋は手配済で、それほど大きくない宿屋のワンフロア貸し切りのはずでした。
が!ここでトラブルが。
私たちが宿屋の受け付けへ行くと、目の前に何事か宿屋の主人に食って掛かっている青年が。
「私たちはちゃんと一人部屋を二つ、予約してあったはずなのに、何で無いんだ!」
「お客さん、他の宿屋と間違えておりませんかね?そんな予約は入っていないのですが…。」
「そんなはずは無い!ではせめて一部屋だけでもなんとかならないか!」
「申し訳ないのですが、今夜は満室なんですよね…。」
「カーライル…仕方がない…他の宿屋をあたってみて、ダメなら今夜は野宿でも…。」
青年は従者のようで、後ろに控えていた少年が、疲れた顔で、青年を止めました。
野宿はねぇ…。
ちょっと見るに見かねてしまいました…。
「リーナ…何を考えている?」
アルが見透かしたように聞いてきました。
「一部屋くらいなら、私たちが予約している中で、何とかならないかなと思って…。」
「はぁ…君は本当にお人よしだよね…どうせ止めても聞かないんだろ?」
「…ごめんなさい…。」
「話に割り込んで済まないが…主人、私たちはワンフロア貸し切りにしているはずなのだが、ワンフロアにはどういった部屋割りで何部屋あるのかな?」
アルが聞いてくれました。
私たちが借りているフロアには8部屋、そのうちの4部屋は豪華ではないが、少し富裕層向けの少し広い部屋で、残りの4部屋は平民向けのまあ普通にベッドとサイドテーブル程度の部屋だとか。
「だったらマーサが嫌でなければ、私はマーサの部屋に泊めて頂いて、私の部屋をそちらのお二人にお譲りしては如何でしょう?」
「いやいや!何言ってんのリーナ!だったら俺の部屋を譲って、俺が護衛たちと一緒に部屋に寝るよ!」
アルが言い出しましたが、でも護衛の騎士さんたちは男性3人、アルが入ったら4人でむさ苦しいじゃない。
それなら私がマーサと一緒の部屋の方が、女二人の方が、はるかに健全だわ。
と話していると、先の青年が聞いてきました。
「あの…あなたたちの話を聞くに、私どもに部屋を一つ、融通してくれるという事でしょうか?」
「そのつもりです…。今。部屋割りを考えているので、少しだけお待ちくださいね!」
「あの!譲っていただけるのであれば、私たちは従者用の部屋で構わないのですが…。」
「…でも失礼ですが、そちら様は恐らく、どこかの国のそれなりの家の方とお見受けいたしました。
そんな方を従者用の部屋にというわけにはいかないですよね?」
結局、あれこれ揉めたものの、私がマーサとともに、マーサに割り振られていた部屋に泊まる事になりました。
「どうせ一晩だけのことですし、それに同じ部屋の方が、マーサも護衛がやりやすいですよね?
それにね、旅は道連れ世は情けって言うじゃないですか?」
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